士業AIが目指すこと — 開発の裏側と、これからの話
士業AIを触ってくださっている方、少しでも知ってくださっている方。
まず、ありがとうございます。
士業AIの開発チーム代表をしています。
普段はなかなかこういう場でお話しする機会がないのですが、今回は少しだけ裏側の話をさせてください。
士業AIがどうやって生まれたのか。
なぜこういう設計になっているのか。
そしてこれから、どこに向かおうとしているのか。
開発中、無料版を使ってくださった方の中に「有料にしてもいいから、正式版をお待ちしています」と言ってくださった方がいました。
正直、開発中は心が折れそうになる瞬間もあったのですが、この言葉にどれほど助けられたか分かりません。
一方で、無料版では開発コストを抑える中でバグもあり、ご迷惑をおかけした方もおられたと思います。
この場を借りて、お詫びさせてください。
少し長い記事になりますが、お付き合いいただけたら嬉しいです。
きっかけは、ひとつのセミナーでした
士業AIの原点は、実はサービスを作ろうとしたところじゃないんです。
もっと前の話——代表税理士の、ある体験がきっかけでした。
ある日、うちの代表税理士が、税理士協会のセミナーに参加したんです。
テーマは「生成AIの活用」。先生方に向けて、AIを業務にどう取り入れるかを伝えるセミナーでした。
もともと会計出身だった代表は、そこでかなりの衝撃を受けたそうです。
「税理士業界って、こんなに積極的に新しいツールをキャッチアップしているのか」
AIがまだ世間で話題になり始めたくらいの頃に、もう業界全体で発信がされていた。
そのスピード感と、先生方の学ぶ姿勢に、純粋に驚いたと言っていました。
会計畑からやってきた代表にとって、税理士業界のこの積極性は想像以上だったようです。
「うちの事務所も、もっと本気でAIに取り組まないといけない」
——この思いから、社内のエンジニアチームをさらに強化して、AI活用に本腰を入れることになりました。
私たちのチームのこと
少し自己紹介をさせてください。
私たちは、税理士事務所・会計事務所のグループ会社の中にいるエンジニアチームです。
もともとは社内システムの管理とか、IT面での業務効率化が仕事でした。
Excelの関数の使い方を教えるところから、ITサービスの導入支援まで、わりと幅広くやっています。
AIが急速に進化していく中で、「これを業務にどう活かすか」という取り組みを始めて——
実は、士業AIを外に出す前から(そして今も)、ファイルのAI処理やOCR、社内ナレッジの検索など、いろんな社内AIツールを作って運用しています。
全部お見せしたいくらい自慢のツールばかりなんですが、さすがに企業秘密もあるので、ここでは割愛します。
ただ、その中のひとつから、大きな転機が生まれました。
「AIはすごい。でも、参考文献を出してくれない」
代表自身もそうですが、うちの事務所の先生方は、AIの使い方がかなりお上手です。
代表はもともとAIにとても関心が強く、自分でもかなり使い込んでいるタイプ。
エンジニアの自分から見ても、そう思います。
そんな先生方が、あるときこう言ったんです。
「AIはすごいし、調べ方もほんとに変わった。すごく有用だ。
でも、とにかく参考文献を出してくれない。
これ、どこの情報なの? っていうのを、専門家としてすぐに確認したいんだよね」
先生方にとっては、AIの回答そのものを鵜呑みにすることはありえない。
根拠の出どころをすぐに確認して、自分の目で検証する。それが専門家としての仕事だからです。
さらに、こんな声も出ました。
「しかも、たまに参考文献が出てきても、ブログとか出所不明のやつが混ざってくる。
いつの情報かもわからないものを、専門家として簡単に鵜呑みにはできない。
信頼できる情報を足してほしいんじゃなくて、信頼できない情報源を排除してほしいんだ。」
この「排除してほしい」という視点は、私たちエンジニアにとって大きな気づきでした。
情報を「足す」のではなく「削る」。
一次情報にすぐアクセスして自分で確認できる手段がほしい——。
この声が、士業AIの一番最初のスタートでした。
最初は完全に、社内ツールだった
ここが意外に思われるかもしれませんが、最初から外に出すつもりは、本当に、一切なかったんです。
純粋に「先生方の調べ物をもっと楽にしたい」。
ただそれだけの目的で、社内用のAIチャットボットを作ろうとしただけでした。
サービスとして世に出すなんて、誰一人考えていなかった。
もちろん、開発前にいろんなツールも試しました。
NotebookLMとか、使ったことある方もいると思います。
ちょっと意地悪な見方をすれば「NotebookLMでよくない?何が違うの?」と思う方もいるかもしれません。
正直に言うと、私たちも最初はNotebookLMとかでいけるんじゃないかとテストしていました。
でも、使っていくうちにいくつか壁にぶつかりました。
- 国税庁の情報を全部入れる、ASBJの基準を全部入れる——その網羅性を維持するのが難しい
- 法改正があったときに、最新の情報に自動で追従する仕組みがない
- 無料モデルの制約もあって、AI自体の回答精度にも限界を感じる場面がある
「もっとできるはず」——そう思って、自分たちでゼロから作ることにしました。
「めちゃくちゃいい。ただ、全然違う。」
最初のバージョンを先生方に見てもらったとき。
返ってきた感想が、面白いくらい真逆の2つでした。
「めちゃくちゃいい」
論点の整理ができる。調べ物の確認が速い。これはすごくいい。
「ただ、参考文献の絞りが全然足りない」
もっと絞っていい。ほんとに、もっと絞っていい。
正直、驚きました。
これでもかなり絞ったつもりだったんですよ。
開発側としては「ここまで絞れば十分だろう」と思っていた。
でも先生方から見ると「全然足りない」。
「会計なら、本当にASBJだけでいい」
「税務なら、国税庁だけでいい」
「変に余計な情報が入ってくるほうが、むしろ困るんだ」
この言葉は衝撃でした。
私たちの「絞った」と先生方の「絞った」は、まるでレベルが違ったんです。
これを受けて、参考文献を公的機関の一次情報だけに徹底的に絞り込んで、ゼロから作り直しました。
そうしたら——
開発者の自分たちが見ても、先生方が見ても、ちょっと驚くレベルの回答が出てきたんです。
物は試しに、国家試験を受けさせてみた
あまりに手応えが良かったので、「じゃあ本当にどのくらいの実力なのか」と——
税理士試験や公認会計士試験の問題を解かせてみました。
結果を見て、正直こう思いました。
「……なんかすごいもの作ってしまったかもしれない」
開発チーム全員がそう思った瞬間でした。
なぜ「すごい」のか——技術的な話を少しだけ
あとから振り返ると、私たちがやっていたことは、AI技術の世界でもかなり理にかなったアプローチでした。
少し専門用語が出てきますが、士業AIの本質がわかる話なのでお付き合いください。
AIの弱点「ハルシネーション」
AIに詳しい方なら聞いたことがあるかもしれません。
ハルシネーション——AIが、事実と違う内容をもっともらしく言い切ってしまう現象です。
そもそもAIって、大量のテキストから「次にどの単語が来そうか」を確率的に予測しているだけなんです。
正確さよりも「自然な文章を作ること」に最適化されているので、知らないことを聞かれても、なんとなく補完して答えてしまう。
つまり、「正解」を求める士業の世界とは、本来かなり相性が悪いんですよね。
それを解決する「RAG」という手法
ハルシネーションが起きる主な原因は、こんな感じです。
- 学習データにない情報を聞かれた
- 古い情報しか持っていない
- そもそも間違った情報を学習してしまっている
で、この対策として注目されているのが RAG(Retrieval-Augmented Generation:検索拡張生成) という手法です。
難しい名前ですが、やっていることはシンプル。
「AIが回答を作る前に、信頼できる外部資料を検索して、その内容を踏まえて答えさせる」
士業AIがやっていることは、まさにこれです。
- 参考文献を信頼できる一次情報だけに絞る(余計な情報を入れない)
- 質問に応じて、リアルタイムで公的機関のデータを取りに行く
この2つの合わせ技で、AIの回答精度を大幅に引き上げています。
結果として、士業という限られた分野ではありますが、ChatGPTやGeminiといった汎用AIに匹敵する——むしろ、士業分野では凌駕する結果が出ました。
余談:実はエンジニアも同じことをやっている
ちなみに、エンジニアの世界でもAIは毎日のように使っています。
システムの仕様書を読ませてコードを書いてもらったり、APIのドキュメントを参照させて質問したり。
これ、やっていることは「エンジニア版・士業AI」なんですよね。
エンジニアにとって参照すべきドキュメントが明確に決まっているように、
士業の先生方にとっても、参照すべき情報源はかなり明確に決まっている。
税務なら国税庁。会計ならASBJ。法務なら法令データベース。
そう考えると、士業とAIは——最初は相性が悪いと思っていたのに——実はめちゃくちゃ相性がいいことに気づきました。
「参照すべき情報源が明確に定まっている専門職」は、AIの力を最も正しく引き出せる職種なんです。
「これ、外に出してみないか」
社内ツールとしてすごくいい結果が出て、ある日こんな話が出ました。
「これ、社内だけで使っているのもったいなくない?
外に出してみないか」
正直なところ、エンジニアチームとしてはかなり躊躇しました。
社内ツールと外向けサービスって、求められるレベルがまるで違うんです。
でも、代表税理士がこう言ったんです。
「税理士業界に入ってからずっと感じているのは、横のつながりの強さ。
先生方同士の助け合いがすごいし、いろんな会社がいいサービスを提供している。
AIのこの過渡期に、一つの士業事務所のAI利用として何かしら発信できるんじゃないか。
まずは無料でいいから出してみよう」
この「横のつながり」「助け合い」という言葉が、私たちエンジニアにとってはとても印象的でした。
自分たちが作ったものが、少しでもその助け合いの一部になれるなら——
こうして、士業AIは無料版として世に出ることになりました。
無料提供の裏側——正直な話
あまり知られていないと思いますが、無料で提供していても運用コストは無料じゃないんですよね。
皆さんにたくさん使っていただけたのは本当にありがたかったんですが、正直、かなりの費用がかかっていました。
なるべく無料で続けられるようにサーバーも最小限に抑えて運用していたので、バグが出る可能性もある前提で提供していた部分があります。
言い訳にはしませんが、ご不便をおかけした方には改めてお詫びします。
どうにかこうにか仕組みを工夫して、実費はかかるけど許容範囲に抑えて、無料提供を続けてきました。
無料版から使ってくださっていた方、本当にありがとうございます。
……だから有料版を買ってください、ということではありませんが、ご検討の一つに入れてくださるととても嬉しく思います。
——といった冗談はさておき。
事務所としてのお客様対応も同時並行で進めながら、少しずつ少しずつ正式版に向けた開発を積み重ねてきました。
やっと届けられる「本気のサービス」
無料版を通じて、皆さんからたくさんのご意見をいただきました。
やっと正式版を出すことができました。
正式版で目指したのは、大きく4つ。
何を変えた? | 具体的には |
|---|---|
無料版で「ほしかった」の実現 | 連続質問、Plusモード、メール返信AI……「これができたらいいのに」を形にした |
ちゃんと安定して動く | エラーやバグに悩まされない環境 |
回答品質の底上げ | AIモデルの強化、参照情報量の最適化 |
これからの土台づくり | 今後の新機能や新AIに対応できるよう、設計ごとリニューアル |
もともと無料版でも自信を持って出していたんですが、正式版は——
手前味噌ですが、本当に胸を張れるものに仕上がったと思っています。
土台ができたことで、ここからのアップデートは今まで以上に速くなります。
で、結局——AIは士業の仕事を奪うのか?
ちょっと大きな話をさせてください。
「AIが士業を脅かす」「相性が悪い」——こういう話、よく聞きますよね。
実は私たち自身も、最初は「士業とAIは相性が悪いんじゃないか」と思っていた部分があります。
正解を求める士業の世界に、確率で答えを出すAI。たしかに矛盾して見える。
AIで仕事がなくなる業種は多い。正直なところ。
率直に言って、AIに仕事を持っていかれる業種は多いと思います。
農業のように身体を使う仕事は残るかもしれませんが、知識労働は広範囲で影響を受ける。
実は一番わかりやすい例って、エンジニアなんですよね。
私たち自身、正直ヒヤヒヤしながら仕事をしています。
でも、士業事務所は違うと思っています。
なぜなら、資格制度という強力な防壁があるからです。
法律相談も税務相談も申告の代理も、資格がなければやってはいけないと法律で決まっている。
数百年後はわかりませんが、私たちが生きているこの時代に、「AIが資格者の代わりになっていい」という法改正が起きる可能性は、ほぼないと考えています。
たとえば、AIが「高確率で手術が成功します」と言ったとして——
お医者さんの代わりに、AIに治療してほしいと思う人がどれだけいるでしょうか。
確定申告も、申告書の作成も、同じだと思うんです。
大事な場面では、やっぱり資格を持った先生に頼みたい。
自分自身、一個人として、そう思っています。
AIは「新しいExcel」だと思っている
私たちは、AIを士業にとっての「新しいツール」だと捉えています。
そろばん、電卓、Excel、PC——時代ごとに新しいツールが出てきて、先生方はそれを使いこなして、より高度なサービスを提供してきました。
お客様に質問されて、そろばんを叩いて、Excelで計算して、高度な回答を導き出す。
でも、今さら「それExcelがすごいだけでしょ」って言うお客様、いないですよね。
AIも同じことだと思っています。
最新のツールを適切に使って、より早く、より高品質に。
そして空いた時間で、よりお客様に寄り添える時間を提供する。
それがAI時代の士業事務所の姿なんじゃないかと思っています。
士業AIは、先生方が使うから「すごい」
ここで正直なことを言わせてください。
士業AIって、私たちエンジニアが使っても、本当の良さは引き出せないんです。
なぜかというと、一次情報が出ても、それが正しいかどうか判断する力が私たちにはないから。
回答の正確性を検証できるのは、その分野の専門知識を持った先生方だけなんです。
士業AIは、先生方が使うからこそ本領発揮するツール。
「税理士AI」でも「会計士AI」でもなく、「士業AI」という名前にしたのも、
対外的に「士業の働き方を変える」と謳っているのも、
このツールを本質的に使いこなせるのは資格を持つ先生方だと確信しているからです。
これから、どこを目指すか
AIの進化って、本当に秒読みのスピードです。
私たちエンジニアでさえ追いつけないくらい、毎日新しいものが出てきます。
だからこそ、こう思っています。
「士業AIを使っていれば、AIの最新にはちゃんと追いつける」
——そういうサービスにしたい。
事務所にAI専門のエンジニアがいなくても大丈夫。
私たちが最新の技術をキャッチアップして、本当に使えるものだけを選んで、
士業事務所にとって使いやすい形に落とし込んで届ける。
正式版で土台ができたので、ここからのアップデートはどんどん速くなります。
それが、士業AIの役割だと思っています。
具体的にやっていくこと
やること | どういうこと? |
|---|---|
新しいAIの追加 | 汎用なんでもAI、メール返信AIに続いて、事務所の「かゆいところに手が届く」AIを開発 |
既存AIの品質強化 | 税務・会計・法務の回答精度をさらに上げる新モード・新機能の追加 |
AI情報の発信 | 最新のAI動向や、実務に活きるノウハウ・コラムの紹介。「魔法のようなAIコンサル」ではなく、地に足のついた実践的な情報を |
とにかくアップデート | 頻繁に、速く。止まらないサービスに |
近日中にも、けっこう便利なAIの追加を予定しています。ぜひ楽しみにしていてください。
ChatGPTやGeminiを「やめて」とは言いません
ここは誤解のないようにお伝えしたいんですが——
ChatGPTやGeminiをやめて士業AIだけ使ってくれ、とはまったく思っていません。
汎用AIと並行して使いながらも、
士業事務所にとって「これは本当に必要だ」と思ってもらえるサービスであり続けたい。
「士業AIを使っていれば、事務所としてAIに乗り遅れることはない。
必要なAIは、これで十分だ。」
そう言っていただけるものを、ずっと作り続けたいと思っています。
最後に、皆さんにお願いしたいこと
「うちにはエンジニアがいないから……」と思っている事務所の方。
まったく問題ありません。
「私たちエンジニアに依頼すればいいや」——そのくらいの気持ちで大丈夫です。
「こんな機能がほしい」「ここが使いにくい」「こういうことできたらいいのに」
そういうアイデアや改善のご希望を、士業AIのアップデートという形で叶えていきます。
どんな些細なことでも構いません。
お問い合わせ から、気軽に教えてください。
有料プランをご検討いただけるのはもちろんすごく嬉しいですが、
まずは無料プランで十分に使い倒していただいて大丈夫です。
アップデートを楽しみにしていてくれるだけで、開発チームにとっては最高の励みになります。
さいごに
士業が作る、士業のためのAI。
どこよりも早く、どこよりも適切に、どこよりも嘘なく——
AIを士業の実務に落とし込めるサービスを、これからも届け続けます。
長々と読んでいただき、ありがとうございました。
これからもどうぞよろしくお願いします。
士業AI 開発チーム 代表
