資金繰り表の作り方とAI活用|会計事務所の資金繰り予測を効率化【2026年版】
資金繰り表とは?会計事務所が顧問先支援で押さえる基本
資金繰り表とは、一定期間のすべての現金収入と現金支出を区分・科目ごとに集計し、手元資金の増減と過不足を「入出金ベース」で把握するための表です。損益計算書が「利益」を映すのに対し、資金繰り表は「実際のお金の動き」を映します。会計事務所が顧問先の経営助言(月次面談での経営アドバイス)を行ううえで、月次決算とセットで欠かせない基本ツールといえます。
この記事では、資金繰り表の作り方をエクセルの手順から解説し、資金繰り予測や改善提案にAI(人間の指示を受けて文章や計算を補助する仕組み)をどう使うかを、会計事務所目線で整理します。読み終える頃には、顧問先支援に使える資金繰り表づくりとAI活用の勘所が判断できるようになります。
この記事で分かること
- 資金繰り表・資金繰り予測・キャッシュフロー計算書の違い
- エクセルでの資金繰り表の作り方(区分と作成手順)
- 資金繰り予測や改善提案にAIを使う具体的な手順とプロンプト例
- 会計事務所がAIを使うときの検証・守秘義務上の注意点
資金繰り表・資金繰り予測・キャッシュフロー計算書の違い
似た言葉が並ぶため、顧問先にも混同されがちです。まず三者の役割を整理しておきましょう。資金繰り表は日々・月々の現金過不足を管理する実務ツール、資金繰り予測(資金繰り予定表)はその将来分を見込みで埋めたもの、キャッシュフロー計算書は決算で過去1期のお金の増減を3区分で開示する財務諸表、という位置づけです。
項目 | 主な目的 | 時間軸 | 作成のタイミング |
|---|---|---|---|
資金繰り表(実績) | 手元資金の過不足を管理する | 過去〜現在 | 月次・週次など随時 |
資金繰り予測(予定表) | 将来の資金ショートを事前に察知する | 将来(数か月〜1年先) | 月次見込みの更新時 |
キャッシュフロー計算書 | 1期間の現金増減を3区分で開示する | 過去1期 | 決算時 |
実務では、この3つを「同じもの」と考えないことが助言の質を分けます。資金繰り表と資金繰り予測は経営管理のための任意フォーマット、キャッシュフロー計算書は会計基準に沿った財務諸表という違いを、顧問先にも一言添えて説明すると誤解が減ります。
なぜ黒字でも資金がショートするのか
「利益が出ているのにお金が足りない」という相談は、顧問先から寄せられる典型的な悩みです。売上が計上された時点と、実際に代金が入金される時点にはズレがあり、売掛金の回収前に仕入代金や人件費の支払いが先行すれば、帳簿上は黒字でも手元資金は減っていきます。この状態が続き、現預金がマイナス(資金ショート)になって事業が続けられなくなることを、一般に「黒字倒産」と呼びます。
利益とキャッシュがズレる主な要因は、売掛金・買掛金の入出金タイミング、在庫への資金の固定、借入金の返済(返済額は費用にならないが現金は出ていく)、設備投資などです。損益だけを見ていると気づけないこの落とし穴を可視化するのが、資金繰り表の本質的な役割です。会計事務所が決算書の分析コメントをAIで自動作成する方法で過去の財務を語るのと並行して、将来のお金の流れまで示せると、顧問先からの信頼は一段と高まります。
資金繰り表の作り方(エクセル)|基本フォーマットと手順
結論から言えば、資金繰り表は「前月繰越 → 収入 → 支出 → 次月繰越」という一本の流れで組み立てれば、エクセルでも十分に実務水準のものが作れます。まずは区分の意味を押さえ、そのうえで手順に落とし込みましょう。
資金繰り表の3区分(経常収支・経常外収支・財務収支)
資金繰り表では、入出金を性質ごとに3つの区分に分けて整理するのが一般的です。区分を分けておくと、「本業でお金が回っているのか」「借入に頼って資金を保っているのか」が一目で判断できます。
区分 | 意味 | 主な項目の例 |
|---|---|---|
経常収支 | 本業で毎月経常的に発生する入出金 | 売上入金、仕入・外注の支払、人件費、家賃、諸経費 |
経常外収支 | 経常的でない臨時の入出金 | 固定資産の売却・購入、法人税等の支払、保険金など |
財務収支 | 資金調達と返済に関する入出金 | 借入金の入金、借入金の返済、増資 |
とくに注目したいのは経常収支です。ここが継続的にプラスであれば本業でお金を生めている状態、マイナスが続くなら借入で穴埋めしている可能性が高い、という読み方ができます。実務では、この区分ごとの色分けを顧問先にも共有すると、面談での話が具体的になります。
エクセルでの作成ステップ
エクセルでゼロから作る場合の基本手順は、次の順序で進めると迷いません。
- 期間の枠を作る:横方向に月(1月・2月……)、縦方向に「前月繰越/収入/支出/差引過不足/次月繰越」の項目を並べます。
- 前月繰越を入れる:期首月の先頭に、その時点の現預金残高を入力します。これがスタート地点です。
- 収入を入力する:現金売上・売掛金回収など、実際に入金される金額と時期で記載します。売上の「計上日」ではなく「入金日」で入れるのがポイントです。
- 支出を入力する:仕入・人件費・家賃・借入返済などを、実際に支払う時期で記載します。
- 次月繰越を計算する:「前月繰越+収入合計−支出合計」で月末残高を求め、その値を翌月の前月繰越へ引き継ぎます。
この「次月繰越を翌月の前月繰越につなぐ」連鎖こそが資金繰り表の心臓部です。数式でセルを参照させておけば、どこか1か月の数字を直すだけで先々の残高が自動更新され、資金ショートの月がひと目で分かるようになります。発生ベースではなく現預金ベースで入れる、という原則だけは崩さないようにしましょう。
公的機関・大手会計ソフトの無料テンプレート活用
ゼロから作るのが負担なら、一次情報として信頼できる無料テンプレートから始めるのが近道です。日本政策金融公庫の各種書式ダウンロードでは、資金繰り表の「簡易版」「詳細版」に加え、作成手順・記載例つきのエクセル様式が公開されています。融資審査の担当者が見慣れたフォーマットでもあるため、公庫への融資申込を見据える顧問先には特に有用です。
また、中小機構が運営するJ-Net21では資金繰り表の定義や作り方の考え方が、マネーフォワードの解説ページではエクセルでの作り方とテンプレートが整理されています。まず公的フォーマットで型を覚え、顧問先の業種特性に合わせて項目を足していくと、事務所標準の資金繰り表が作りやすくなります。
資金繰り予測にAIを使う|作成と将来予測の効率化
資金繰り表の型が固まったら、次は将来予測です。ここでAIを補助的に使うと、過去実績の整理や複数パターンの試算にかかる時間を圧縮できます。ただしAIはあくまで下書きと壁打ちの相手であり、最終的な数字の妥当性は人が判断する、という前提を最初に置いておきます。
AIの使いどころ
資金繰り予測でAIが効くのは、主に「整理」と「発想の補助」です。具体的には、過去実績の集計・要約、季節変動(繁忙期と閑散期の売上の波)の織り込み方の相談、そして「売上が10%落ちたら」「大口回収が1か月遅れたら」といった複数シナリオの叩き台づくりです。会計事務所のスタッフが手を動かす前の「考える下ごしらえ」を任せる、というイメージが実務に馴染みます。
資金繰り予測は月次データを起点にするため、ChatGPTで月次決算を効率化する具体プロンプトで月次を早く締める体制と組み合わせると、予測の鮮度も上がります。月次を土台に据えた業務全体の自動化を検討するなら、経理AIエージェントの仕組みと使いどころも参考になります。
実例プロンプト
AIに資金繰り予測の叩き台を相談するときは、前提条件を具体的に渡すほど精度が上がります。以下は、季節変動を織り込んだ予測の下書きを依頼するプロンプト例です(顧問先を特定できる情報は入れないこと)。
あなたは中小企業の資金繰りに詳しいアシスタントです。
以下の前提で、今後6か月の資金繰り予測表の下書きを作ってください。
【前提】
- 業種:小売業(12月が繁忙期で売上が平月の1.5倍)
- 期首の現預金残高:800万円
- 平月の売上入金:600万円/仕入・外注の支払:350万円
- 人件費:月150万円/その他固定費:月120万円
- 借入返済:月20万円
【依頼】
1. 経常収支・財務収支に分けて月次で並べる
2. 12月の繁忙期を織り込む
3. 現預金残高が最も薄くなる月を指摘する
4. 前提が不足していて確認すべき点があれば列挙する出力された表はそのまま使わず、必ずエクセルに転記して自分の数式で検算します。AIには「どの月が危ないか」「どこを確認すべきか」を洗い出させ、最終判断は人が行う、という役割分担が安全です。
エクセル×AIの勘所
エクセル操作そのものをAIに手伝ってもらう選択肢もあります。たとえばMicrosoftのCopilot in Excelは、公式ドキュメントによれば、セルに「=」を入力した際に周辺の見出しや表の文脈から数式の候補を提示したり、既存の数式が何をしているかを自然言語で説明したりする機能を備えています。「次月繰越の数式をどう組めばいいか」を相談する、といった使い方が現実的です。
汎用のチャットAIに数式を尋ねる場合も、「前月繰越+収入合計−支出合計を計算するSUM関数の式を教えて」のように目的を具体的に伝えると、実務で使える回答が得られます。ここでも、返ってきた数式は必ず自分のシートで動作確認してから採用するのが鉄則です。
資金繰り改善提案をAIで壁打ちする|MAS・財務コンサルの付加価値
資金繰り表と予測ができれば、次は「どう改善するか」という提案です。ここは会計事務所のMAS(経営助言サービス)や財務コンサルティングとしての付加価値が最も出る領域であり、AIは提案の切り口出しと文書化の相棒になります。
改善の打ち手を整理する
資金繰り改善の打ち手は、一般論として次のような方向で整理できます。どれが顧問先に適するかは実態次第ですが、選択肢を体系的に持っておくと面談での提案がぶれません。
- 回収サイトの短縮:売掛金の回収条件を見直し、入金を早める。
- 支払サイトの調整:仕入・外注の支払条件を無理のない範囲で見直す。
- 在庫の適正化:過剰在庫に固定された資金を減らす。
- 借入の組み替え:返済負担の平準化や借換えを金融機関と相談する。
これらはいずれも相手(取引先・金融機関)のある話であり、顧問先の関係性を踏まえた慎重な提案が求められます。打ち手の効果を資金繰り表に反映して「実行するとどの月がどう改善するか」まで示せると、助言の説得力が大きく変わります。
AIで顧問先向け提案書ドラフトを作る流れ
改善の方向性が固まったら、AIに提案書のドラフトを作らせると清書の時間を短縮できます。おおまかな流れは、(1)資金繰り表から読み取った課題を箇条書きで整理、(2)採用する打ち手と根拠をAIに渡して提案書の構成案を出させる、(3)出てきた文章を事務所の言葉と実際の数字で修正、という3ステップです。AIには文章の骨組みと表現を任せ、数値と最終的な判断は必ず担当者が担う、という切り分けを守ります。税務面も絡む財務コンサルの一環として取り組むなら、税理士向けの活用とあわせて検討するのも一案です。
会計事務所がAIを使うときの注意点(検証と守秘義務)
AIは強力ですが、会計事務所が使ううえでは越えてはいけない一線があります。効率化の話の前に、この2点を事務所のルールとして固めておくことを強くお勧めします。
数値は必ず人が検算する
生成AIには、もっともらしい誤った内容を出力する「ハルシネーション(もっともらしい虚偽)」があります。資金繰りの数字は経営判断や融資に直結するため、AIが出した合計・差引・繰越の計算は、そのまま信用せず必ずエクセルの数式や電卓で検算してください。AIは「下書きと気づきの提供者」、正しさの担保は人、という役割分担を崩さないことが、実務では何より重要です。
顧問先データの取り扱い(守秘義務)
もう一つが守秘義務です。顧問先の実名・具体的な財務数値・取引先名などを外部のAIサービスへ安易に入力することは、情報漏えいのリスクを伴います。利用するサービスの入力データの取り扱い方針を確認し、必要に応じて数字を仮の値に置き換える、社名を伏せるといった配慮をしたうえで使うのが安全です。事務所としてAI利用のガイドラインを明文化しておくと、スタッフ全員が同じ基準で運用できます。
まとめ|資金繰り表とAIで顧問先の財務支援を強くする
資金繰り表は、「前月繰越→収入→支出→次月繰越」という流れと3区分さえ押さえれば、エクセルでも実務水準で作れます。そこにAIを重ねると、過去実績の整理、季節変動を織り込んだ将来予測、複数シナリオの試算、そして改善提案書のドラフトづくりまでを効率化できます。大切なのは、AIを下書きと壁打ちの相手にとどめ、数値の検算と最終判断は人が担い、顧問先データの守秘義務を守ること。この線引きさえ守れば、資金繰り支援は会計事務所の付加価値を確実に押し上げます。資金繰り予測や財務分析での使いどころは会計事務所向けの士業AI活用ページでも紹介しています。士業AIのようなツールを、まずは自事務所の資金繰り業務の一部から試してみてください。
よくある質問(FAQ)
Q. 資金繰り表と資金繰り予定表(資金繰り予測)は何が違いますか?
A. 資金繰り表は実績を中心に手元資金の過不足を管理する表で、資金繰り予定表(予測)はその将来分を見込みで埋めたものです。実務では実績と予定を1枚に並べ、予定と実績のズレを毎月確認する使い方が一般的です。
Q. AIに顧問先のデータを入力してもよいですか?
A. 実名や具体的な財務数値をそのまま外部AIに入力するのは、守秘義務の観点から慎重であるべきです。利用サービスのデータ取り扱い方針を確認し、社名を伏せる・数字を仮値に置き換えるなどの配慮をしたうえで使うことをお勧めします。事務所内でAI利用ルールを定めておくと安心です。
Q. エクセルとAIだけで資金繰り予測はできますか?
A. できます。エクセルで実績の資金繰り表を作り、AIには前提条件を渡してシナリオの叩き台や気づきを出させ、最終的な数字は自分の数式で検算する、という組み合わせが現実的です。AIは作業の下ごしらえ、正しさの確認は人、と役割を分けるのがコツです。

