会計×AI

決算書の分析コメントをAIで自動作成|会計士の実務プロンプト

決算書(財務諸表)から「経営者・株主に向けた分析コメント」を起案する作業は、数値を読むこと自体より、何をどの順番で語るかの構成設計に時間がかかります。決算書の分析コメントをAIで自動作成するとは、貸借対照表(BS=Balance Sheet)・損益計算書(PL=Profit and Loss Statement)・キャッシュ・フロー計算書(CF=Cash Flow Statement)から計算した財務指標をAIに渡し、収益性・安全性・効率性の観点ごとにコメントの草案を出させ、人が事実確認して仕上げる進め方を指します。結論として、AIは「コメントのたたき台づくり」に強く、数値の正誤判断と最終責任は人が負うという役割分担が前提です。

この記事では、丸投げではなく「指標の前提を与えてコメント観点を指定する」具体プロンプトと、収益性・安全性・効率性ごとのコメント観点フレーム、そしてAIが数値を誤読したり粉飾的な言い回しをしたりしないためのチェック手順までを、実務目線でまとめます。

  • 決算書の分析コメントをAIで自動作成する基本フローと役割分担
  • BS・PL・CFの数値からコメントを起案させるコピペ用プロンプト
  • 収益性・安全性・効率性ごとの「コメント観点フレーム」
  • AIの数値誤読・誇張表現を防ぐファクトチェックの具体手順
  • 出力をうのみにしないための注意点と、公的データの参照先

決算書の分析コメントをAIで自動作成する基本の考え方

最初に押さえたいのは、AIに「決算書を分析して」と丸投げしても、実務で使えるコメントは出てこないという点です。AIは渡された数値とプロンプトの指示に沿って文章を組み立てるため、指標の計算前提・読者・コメントの観点を人が設計して初めて精度が上がります。現場で多いのは、出力された文章の体裁だけ整っていて、肝心の数値の出どころや計算が曖昧なまま提出してしまう失敗です。

AIが得意なこと・人がやるべきこと

分析コメント作成を工程に分解すると、AIに任せられる部分と人が担保すべき部分がはっきり分かれます。実務では、計算と一次確認は人が行い、文章構成と言い換えをAIに任せると安定します。下表は役割分担の目安です。

工程

主担当

理由

BS/PL/CFの数値入力・指標計算

人(または会計ソフト)

桁・符号の誤りは致命的。一次データの正確性は人が担保

指標の良し悪しの一次判断

業種・規模の前提が必要で、AIは前提を勝手に補完しがち

コメントの構成・言い回しの起案

AI

観点を指定すれば網羅的なたたき台を高速に生成できる

事実確認・最終承認

数値の誤読・誇張表現のチェックと責任は人が負う

「分析」と「コメント生成」は分けて考える

指標の計算そのものをAIにさせると、桁の取り違えや前期と当期の混同が起きやすくなります。実務では、指標は会計ソフトや表計算で確定させてからAIに渡し、AIには「確定済みの数値に対するコメント起案」だけを任せるのが安全です。月次ベースで決算数値を回す手順そのものは、ChatGPTで月次決算を効率化する具体プロンプト集で別途詳しく扱っているため、本記事では分析コメントの起案に絞って解説します。

コメント生成の前提となる財務指標を整理する

AIに渡す前に、コメントの土台となる指標を収益性・安全性・効率性の3観点で整理します。これは経営分析の基本的な切り口で、中小企業庁の中小企業実態基本調査でも自己資本比率などの財務指標が産業別・規模別に集計されており、自社の数値を比較する際の公的な参照先になります。

収益性・安全性・効率性の代表指標と計算式

まず代表的な指標と計算式を揃えておきます。AIに数値だけ渡すと指標名と式を取り違えることがあるため、プロンプト側に式も明記して渡すのがポイントです。下表は最低限おさえたい指標です。

観点

指標

計算式

主に見る財務諸表

収益性

売上高営業利益率

営業利益 ÷ 売上高 × 100

PL

収益性

自己資本利益率(ROE)

当期純利益 ÷ 自己資本 × 100

PL・BS

安全性

流動比率

流動資産 ÷ 流動負債 × 100

BS

安全性

自己資本比率

純資産 ÷ 総資本 × 100

BS

効率性

総資本回転率

売上高 ÷ 総資本(回)

PL・BS

効率性

売上債権回転期間

売上債権 ÷ 売上高 × 365(日)

PL・BS

業種比較の前提を一緒に渡す

同じ自己資本比率でも、業種によって標準的な水準は大きく異なります。AIは前提がないと「一般的に良好」といった根拠の薄い表現を返しがちです。実務では、自社の業種に近い区分の数値を中小企業実態基本調査などで確認し、「同業の中央値はおおむね○%」という比較軸をプロンプトに添えて渡すと、コメントの説得力が上がります。出典のない平均値を本文に書かせないことが、誤りを防ぐうえで重要です。

コメント観点フレーム ─ 何を語らせるかを先に決める

AIに自由にコメントさせると、当たり障りのない要約に終始しがちです。あらかじめ観点フレームを用意し、各指標で「現状・要因・読者への示唆」の3点を語らせると、読み手にとって意味のあるコメントになります。下表は観点ごとの起案フレームです。

観点別コメントフレーム

観点

語らせる内容

読者への示唆の例

収益性

利益率の前期比と水準。改善・悪化の要因仮説

本業の稼ぐ力が維持・改善しているか

安全性

短期支払能力(流動比率)と資本構成(自己資本比率)

急な資金繰り悪化に耐えられるか

効率性

資産や売上債権の回転。滞留の兆候

運転資金が過大に寝ていないか

キャッシュ

営業CFの符号と利益との整合

利益が現金として残っているか

経営者向けと株主向けで語り口を分ける

同じ数値でも、読者が変われば強調すべき点が変わります。経営者向けなら「次の一手」につながる改善示唆を、株主向けなら「持続性と還元余力」を前面に出すのが実務的です。AIには読者属性を必ず指定し、専門用語の使用レベルまで指示すると仕上がりが安定します。コメントは断定を避け、要因部分は「仮説」「可能性」と明示させると、後工程での検証がしやすくなります。

コピペで使える分析コメント生成プロンプト

ここからは実際に使えるプロンプトを示します。いずれも確定済みの数値を貼り付ける前提で、AIに指標を計算させない設計にしています。数値はダミーなので、自社の確定値に置き換えてください。

基本プロンプト(経営者向けサマリー)

あなたは財務分析の補助をするアシスタントです。以下の確定済み財務数値をもとに、経営者向けの分析コメントを作成してください。数値の再計算や推測での補完は行わず、与えた数値のみを根拠にしてください。

【前提】業種:卸売業/決算期:2026年3月期/読者:自社経営者

【数値(前期→当期)】売上高 800→860百万円/営業利益 24→20百万円/流動資産 300/流動負債 220/純資産 250/総資本 600

【出力指示】収益性・安全性・効率性の3観点で、各観点につき「現状」「考えられる要因(仮説と明記)」「経営者への示唆」を2〜3文で。最後に注意が必要な点を箇条書きで。推測した箇所には必ず「(仮説)」と付記してください。

指標の式を明示する厳密版プロンプト

AIの指標誤読を防ぐには、計算式と算出済みの値を両方渡し、AIには判断と文章化だけをさせます。次のように式と結果をセットで渡すと、AIが勝手に別の式で再計算するのを抑えられます。

以下はすでに算出済みの財務指標です。あなたは再計算せず、この値を所与としてコメントしてください。
- 売上高営業利益率 = 営業利益 ÷ 売上高 × 100 = 2.3%(前期 3.0%)
- 流動比率 = 流動資産 ÷ 流動負債 × 100 = 136%
- 自己資本比率 = 純資産 ÷ 総資本 × 100 = 41.7%

制約:
1. 上記以外の数値を新たに作らない
2. 業種平均は「不明」とし、断定しない
3. 良い点と懸念点を必ず両方挙げる
4. 1文ごとに根拠とした指標名を括弧で示す

このように制約条件を箇条書きで与えると、根拠の薄い一般論や存在しない数値の混入を大きく減らせます。会計AIで仕訳・月次・財務分析の補助まで一貫して試したい場合は、士業AIの会計AIで同様のプロンプトをそのまま検証できます。

ASBJ等の公的情報を参照する会計特化AI のデモです。

AIの誤読・誇張を防ぐファクトチェック手順

AIが生成したコメントは、必ず人が検証してから提出します。日本公認会計士協会のテクノロジー委員会研究文書第11号「監査におけるAIの利用に関する研究文書」でも、AIの活用に際して人による適切なレビューと判断が前提とされており、出力の無批判な受け入れは避けるべきとされています。金融分野でも、金融庁のAIディスカッションペーパー(2026年3月)でAI利活用の論点整理が進められており、誤りや誇張を人が確認する姿勢は実務でも欠かせません。

数値の突合チェックリスト

コメント中の数値が、元の決算書および確定した指標と一致しているかを機械的に突合します。実務では、次の項目を1つずつ確認すると見落としを防げます。

  1. コメントに登場する金額・比率が、渡した確定値と完全一致しているか
  2. 前期と当期、増加と減少を取り違えていないか
  3. 計算していないはずの指標を勝手に作っていないか
  4. 「業界平均」「一般的に」など出典のない比較を入れていないか
  5. 断定表現が、根拠のある事実と仮説とで区別されているか

誇張・粉飾的な言い回しを書き換える

AIは読みやすさを優先するあまり、「過去最高」「盤石」など実態以上に強い表現を選ぶことがあります。こうした言葉は、外部開示に使えば誤解を招きかねません。実務では、定性的な強い形容詞を、数値の事実ベースの表現に書き換えるのが基本です。例えば「収益性は盤石」ではなく「営業利益率は前期から低下したが黒字を維持」と、事実と方向感に直します。監査の現場でのAI活用の考え方は、監査調書作成をAIで効率化する記事でも整理しています。

出力をうのみにしないための注意点

AIは便利な反面、もっともらしい誤りを自信ありげに出力します。最終的な分析コメントの正しさは、ツールではなく作成者が担保するという原則を崩さないことが大切です。

ハルシネーションと前提の入れ忘れ

AIが事実でない内容を生成する現象(ハルシネーション)は、財務分析でも起こります。特に、業界平均や過年度の数値を渡し忘れると、AIは欠けた部分を「それらしい値」で埋めてしまうことがあります。これを防ぐには、渡していない情報は「不明」と書かせる指示を毎回入れることが有効です。生成AIの仕組み上、出力は確率的に「ありそうな文章」を作るものだと理解しておくと、過信を避けられます。

機密情報の取り扱い

未公表の決算数値は重要な内部情報です。利用するAIサービスが入力データを学習に使わない設定か、契約・規約上の取り扱いはどうかを必ず確認してください。実務では、社外公開前の数値を扱う際は、利用規約とデータの保存・学習ポリシーを事前に確認したうえで使うのが前提になります。AIサービス全体の選び方や会計業務での活用の全体像は、公認会計士・会計事務所のためのAI活用入門にまとめています。

士業AIで決算書の分析コメントを起案する

士業AIの会計AIは、仕訳支援・月次決算・財務分析の補助に対応した、日本語と業務文書に強い会計士特化のAIです。本記事のプロンプトをそのまま貼り付けて、確定済みの数値から収益性・安全性・効率性のコメント草案を起案させ、人が事実確認して仕上げる、という使い方ができます。クレジットカード不要・メール登録のみで無料で始められるため、まずは手元の決算数値で出力品質を試してみてください。

よくある質問(FAQ)

決算書の分析コメントをAIに完全自動で任せても大丈夫ですか

完全な自動化は推奨しません。AIはコメントのたたき台づくりには有効ですが、数値の誤読や誇張表現が混じることがあります。日本公認会計士協会の研究文書でも人によるレビューが前提とされており、最終的な事実確認と承認は必ず人が行ってください。

指標の計算もAIに任せてよいですか

桁の取り違えや前期・当期の混同が起きやすいため、指標の計算は会計ソフトや表計算で確定させ、AIには確定値に対するコメント起案だけを任せる方が安全です。プロンプトに計算式と算出済みの値の両方を渡すと、AIによる勝手な再計算を防げます。

業種平均と比較したコメントを作れますか

作れますが、平均値はAIに推測させず、中小企業実態基本調査など公的なデータで確認した数値をプロンプトに添えて渡してください。出典のない平均値をAIに生成させると、誤った比較になるおそれがあります。

未公表の決算数値を入力しても問題ありませんか

未公表の決算数値は重要な内部情報のため、利用するAIサービスが入力を学習に使わない設定か、規約上の取り扱いを必ず事前に確認してください。確認のうえで利用すれば、社外開示前のコメント起案にも活用できます。

参考文献

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