相続関係説明図をAIで作成|司法書士の戸籍読解・検証手順
相続登記の申請義務化を受けて、司法書士事務所では相続案件の件数が増え、相続関係説明図や法定相続情報一覧図を作る場面が確実に増えています。本記事は、戸籍情報から相続関係説明図のドラフトをAIで効率化する具体的な手順とプロンプトをまとめたものです。あわせて、戸籍という機微な個人情報をAIに入力するときの取扱い、そしてAIの出力を必ず原戸籍で検証すべき理由まで、実務に即して正直に解説します。
結論から言えば、AIは「相続人の洗い出しと関係図のたたき台づくり」を速くする道具として有効ですが、続柄や相続分の最終判断、原本との突合は司法書士自身が担うのが原則です。役割分担を最初に決めれば、作図の手戻りは大きく減らせます。
この記事で分かること
- 相続登記義務化(2024年4月施行)で相続関係説明図の作成需要がなぜ増えているか
- 相続関係説明図と法定相続情報一覧図の違いと、AIで効率化できる工程・できない工程
- 戸籍情報から関係図のドラフトを作る5ステップの手順
- そのまま使える実例プロンプト(相続人の洗い出し・関係図のテキスト化・チェックリスト生成)
- 戸籍の機微情報をAIに渡すときの取扱い注意と、原戸籍での検証フロー
なぜいま相続関係説明図のAI効率化なのか
相続関係説明図は、被相続人と相続人の関係を一枚に図示し、相続登記の申請時に戸籍謄本一式の原本還付を受けるために添付する書類です。作図そのものは難しくありませんが、前提となる戸籍の収集と読み解きに時間がかかります。ここがAI効率化の主戦場になります。
相続登記義務化で案件数が増えている
2024年(令和6年)4月1日から、相続登記の申請が義務化されました。法務省は、相続により不動産を取得した相続人は、所有権を取得したことを知った日から3年以内に相続登記を申請する義務を負い、正当な理由なく怠った場合は10万円以下の過料の対象となるとしています(法務省「相続登記の申請義務化について」)。施行前に発生していた相続も義務化の対象で、過去分には猶予期間が設けられています。
実務では、義務化を機に「とりあえず登記しておきたい」という相談が増え、一件ごとに相続関係説明図を整える機会が増えました。件数が増えるほど、定型的な作図と戸籍整理の時間をどう圧縮するかが事務所の生産性を左右します。
相続関係説明図と法定相続情報一覧図は別物
混同されやすいのが、相続関係説明図と法定相続情報一覧図です。後者は、戸除籍謄本等の束と相続関係を一覧にした図を登記所に提出し、登記官の確認を経て認証文付きの写しを無料で交付してもらう「法定相続情報証明制度」の成果物です。同制度は平成29年5月に創設され、預貯金の払戻しや相続税の申告など、さまざまな相続手続で戸籍の束の代わりに使えます(法務局「法定相続情報証明制度について」)。
両者は記載すべき情報が重なるため、AIで一度相続人と続柄を構造化しておけば、相続関係説明図と一覧図の両方のドラフトに転用できます。一覧図には法務局が定める様式と記載例があるので、ドラフトは様式に寄せて整えます(法務局「主な法定相続情報一覧図の様式及び記載例」)。
項目 | 相続関係説明図 | 法定相続情報一覧図 |
|---|---|---|
主な用途 | 相続登記の添付書類(戸籍原本還付のため) | 各種相続手続で戸籍束の代わりに使う公的証明 |
作成主体 | 申請人・司法書士が自由様式で作成 | 申出人が作成し、登記官が確認・認証 |
様式 | 法定の様式なし(実務上の慣行) | 法務局が様式・記載例を公開 |
交付物 | なし(自作書類) | 認証文付き写しを無料交付 |
AIで効率化できる工程 | 相続人の洗い出し・関係のテキスト化・たたき台作図 | 同左+様式への落とし込み |
AIで効率化できる工程・できない工程を見極める
AIを使う前に、作図の工程を「機械的に効率化してよい部分」と「司法書士の判断が必須の部分」に分けることが重要です。ここを曖昧にすると、AIの出力をそのまま信じて誤った相続人を載せる事故につながります。
効率化できる工程
戸籍から読み取った氏名・生年月日・続柄などの情報の整理と構造化、相続人候補の一次的な洗い出し、関係をテキストや簡易な図に起こすたたき台づくりは、AIが得意とする領域です。とくに、人手だと転記ミスが起きやすい日付や氏名の一覧化は、AIに表形式で整理させると見落としを発見しやすくなります。
司法書士の判断が必須の工程
一方で、数次相続・代襲相続・養子・廃除・相続放棄などが絡む相続分や続柄の最終判断、戸籍の改製・転籍をまたいだ連続性の確認、そして出力が原本と一致しているかの突合は、司法書士が責任を持って行う工程です。AIは戸籍画像の文字を読み違えることがあり、古い手書き戸籍ではとくに精度が落ちます。最終的に作成した書類が真実かつ適法であることを担保するのは専門職の責務であり、ここはAIに委ねられません。
実務では、AIの出力を「相続人候補リストの仮説」として扱い、必ず原戸籍に立ち返って一人ずつ潰し込むのが安全です。AIが見落とした前婚の子や認知された子が後から判明すると、図の作り直しだけでなく登記のやり直しにもなりかねません。
戸籍情報からドラフトを作る5ステップ
ここからは、汎用の生成AIアシスタントを使って相続関係説明図のドラフトを作る具体的な流れを示します。前提として、後述する戸籍の取扱い注意を必ず守ってください。
ステップ1:戸籍情報を匿名化・構造化して入力する
戸籍の画像をそのままアップロードするのではなく、必要な事実だけを抜き出してテキスト化します。氏名はイニシャルや仮名に置き換え、本籍地の番地など特定につながる情報は省きます。AIには「被相続人A、その配偶者B、子C・D」のように関係と日付の骨格だけを渡すと、機微情報の流出リスクを抑えながら作図の論理を組み立てられます。
ステップ2:相続人を洗い出させる
整理した事実をもとに、法定相続人の候補と法定相続分をAIに列挙させます。このとき「根拠となる続柄も併記して」と指示すると、後の検証がしやすくなります。出力はあくまで候補であり、確定ではない点を意識します。
ステップ3:関係図のテキスト版を生成させる
洗い出した相続人をもとに、関係図のテキスト構造(被相続人を中心に、配偶者・子・孫の枝分かれ)を作らせます。テキストで構造を固めてから作図ソフトに転記すると、図形ツール上で考えるより速く、修正も容易です。
ステップ4:法定相続情報一覧図の様式に寄せる
同じ相続人データを使い、法務局の様式に沿った一覧図のドラフトも生成します。様式の記載例を参照しながら、被相続人の最後の住所・出生年月日・死亡年月日、相続人の住所・続柄といった必須項目の抜けをAIにチェックさせます。
ステップ5:原戸籍と突合してAIの誤りを潰す
最後に、AIの出力を出生から死亡までの連続した戸籍と一件ずつ突合します。改製原戸籍・除籍・転籍をまたいで相続人に漏れがないか、AIが読み違えた氏名や日付がないかを確認します。この検証工程を省くと、効率化どころか重大な誤りを量産する結果になります。
登記申請書そのもののドラフト自動化に関心がある場合は、司法書士の登記業務にAIを組み込む手順もあわせて参考にしてください。相続「税」の申告をAIで効率化したい場合は、税理士視点でまとめた相続税申告のAI活用ガイドが役立ちます。本記事は司法書士の相続関係説明図に絞って掘り下げます。
そのまま使える実例プロンプト
以下は、匿名化済みの戸籍事実を入力する前提のプロンプト例です。実際の案件では、氏名を仮名に置き換えた事実関係を「入力情報」の部分に貼り付けて使います。
相続人を洗い出すプロンプト
あなたは日本の相続手続に詳しいアシスタントです。
以下の匿名化済みの事実関係から、法定相続人の候補と法定相続分を一覧にしてください。
各相続人について、被相続人との続柄と、その続柄を導いた根拠(どの事実から判断したか)を併記してください。
判断に必要な情報が不足している場合は、確認すべき事項として明示してください。
# 入力情報
- 被相続人A:生年月日/死亡年月日
- 配偶者B:生年月日(存命)
- 子C・D:生年月日
(必要に応じて追記)関係図のテキスト版を作るプロンプト
上記の相続人一覧をもとに、相続関係説明図のテキスト構造を作成してください。
被相続人を中心に、配偶者・子・孫の枝分かれが分かる階層形式で出力してください。
各人に氏名(仮名)・続柄・生年月日・(必要なら死亡年月日)を付してください。
法定相続分も各相続人の行に併記してください。抜け漏れチェックリストを作るプロンプト
作成した関係図について、原戸籍と突合する際のチェックリストを作ってください。
特に、前婚の子・認知された子・養子・代襲相続・数次相続・相続放棄など、
見落としやすい論点を網羅し、それぞれ「どの戸籍のどこを確認すべきか」を併記してください。これらのプロンプトは、契約書レビューや条文リサーチも含めた法務AIの活用全体像を整理した司法書士・弁護士のためのAI活用ガイドの考え方を、相続関係説明図に特化させたものです。プロンプトは「根拠を併記させる」「不足情報を明示させる」の2点を入れるだけで、検証のしやすさが大きく変わります。
戸籍の機微情報をAIに渡すときの取扱い注意
戸籍には、出生・婚姻・離婚・認知・養子縁組など、極めて機微な個人情報が含まれます。司法書士は守秘義務を負う立場であり、AIの利用が情報漏えいの経路になってはいけません。ここは効率化以前の大前提です。
原則は「匿名化」と「最小限の入力」
前述のとおり、氏名は仮名化し、本籍地や住所の詳細は省いて、作図の論理に必要な続柄と日付の骨格だけを渡すのが基本です。実在の個人を特定できる情報を入力しなければ、万一ログが残っても被害を最小化できます。便利だからといって戸籍画像を丸ごとアップロードするのは避けるべきです。
入力データの学習利用とログ保存を確認する
利用するAIサービスが、入力データを学習に使わない設定になっているか、ログの保存期間や保存場所はどうかを事前に確認します。事務所として使う場合は、業務利用に適した契約形態・プランを選び、無料の一般向けサービスに機微情報を入れない運用ルールを定めることが望ましいです。法務AIの選び方やセキュリティの考え方は、守秘義務と両立するAIの選び方の観点が司法書士事務所にも応用できます。
ハルシネーションを前提に運用する
生成AIは、もっともらしい誤りを出力することがあります。存在しない相続人を作り出したり、相続分を誤って計算したりする可能性は常にあります。だからこそ、AIの出力は仮説であって結論ではないという前提で扱い、原戸籍との突合を省略しないことが、効率化を事故に変えないための分かれ目です。
士業AIで相続関係説明図のドラフトを効率化する
「士業AI」は、司法書士・弁護士をはじめとする士業の業務文書に特化した日本語AIです。登記書類のドラフト作成や条文リサーチ、契約書レビューに強く、相続関係説明図や法定相続情報一覧図のたたき台づくりにも活用できます。専門用語や実務フォーマットを踏まえた出力が得られるため、一般的なチャットAIより手戻りが少ないのが特徴です。
クレジットカードは不要で、メール登録のみで数分から利用を開始できます。まずは匿名化した一件で、相続人の洗い出しと関係図のテキスト化を試し、自事務所の作図フローにどう組み込めるかを確かめてみてください。なお、出力はあくまでドラフトであり、最終的な続柄・相続分の判断と原戸籍での検証は、これまでどおり司法書士が担う前提で運用します。
よくある質問(FAQ)
AIが作った相続関係説明図をそのまま法務局に提出してよいですか?
そのままの提出は避けてください。AIの出力はドラフトであり、相続人の確定・続柄・相続分の判断、原戸籍との突合は司法書士が責任を持って行う必要があります。AIが氏名や日付を読み違えたり、相続人を見落としたりする可能性があるためです。
戸籍の画像をAIにアップロードしても大丈夫ですか?
原則として避け、必要な事実だけを匿名化・テキスト化して入力することを推奨します。戸籍は機微な個人情報を含むため、入力データが学習に使われない設定か、ログの保存方針はどうかを事前に確認し、業務利用に適したサービスを選ぶことが重要です。
相続関係説明図と法定相続情報一覧図はどちらをAIで作ればよいですか?
相続人と続柄を一度AIで構造化しておけば、両方のドラフトに転用できます。法定相続情報一覧図は法務局が様式と記載例を公開しているため、ドラフトはその様式に寄せて整え、必須項目の抜けをAIにチェックさせると効率的です。
相続人申告登記とは何ですか?
3年以内に遺産分割がまとまらないなどの事情がある場合に、「自分が相続人の一人である」と法務局に申し出ることで、当面の相続登記申請義務を果たしたとみなされる簡易な手続です。ただし最終的には正式な相続登記が必要です(法務省「相続登記の申請義務化に関するQ&A」)。

