法務×AI

相続財産目録(遺産目録)の作り方|AIで作成する手順とひな形・記載例【2026年】

財産目録(遺産目録)は、被相続人が遺した財産と負債を一つの一覧にまとめた「相続財産の棚卸し表」です。遺産分割協議・相続税申告・相続登記のいずれの場面でも、まず「何が・どこに・いくらあるか」を確定させる出発点になります。本記事は、AIツールに不慣れな司法書士・行政書士や相続実務の担当者に向けて、財産目録の位置づけと作成義務の正確な区別、記載すべき財産の種類、5ステップの作り方、そのまま使えるひな形と記載例、そして残高証明や登記簿・名寄帳からの転記・整形をAIで時短する実務手順までを、一次情報にもとづいて整理します。

財産目録(遺産目録)とは、相続開始時点の被相続人の財産(プラスの財産)と負債(マイナスの財産)を、種類・内容・評価額・確認資料とともに一覧化した文書です。法律で定められた書式はありませんが、財産を確実に特定できるよう記載します。

  • 財産目録の相続実務での位置づけと、他の相続書類との役割の違い
  • 通常の遺産分割と限定承認で異なる「作成義務」の正確な区別
  • 不動産・預貯金・有価証券・生命保険・負債など記載すべき財産の種類(一覧表つき)
  • 資料収集から共有までの作り方5ステップと、実務での落とし穴
  • そのまま使えるひな形・記載例と、AIで転記・整形を時短する手順・守秘の勘所

財産目録(遺産目録)とは|相続実務での位置づけ

財産目録の定義と役割

財産目録は、ある一時点(多くは相続開始日)の相続財産を、種類・数量・所在・評価額に整理してまとめた一覧表です。プラスの財産だけでなく、借入や未払金といったマイナスの財産(負債)も含めて洗い出す点が肝心です。決まった様式はなく、Excelやワードで作成して差し支えありません。重要なのは、第三者が見ても財産を一意に特定できる粒度で記載することです。

遺産分割協議・相続税申告・相続登記での使われ方

財産目録は、相続手続きの土台として複数の場面で使われます。遺産分割協議では、相続人全員が「分ける対象の全体像」を共有するための資料になります。相続税申告では、国税庁の案内するとおり課税対象となる全ての財産を把握する必要があり、その棚卸しの下敷きになります。相続登記では、対象不動産を正確に特定するための情報源になります。いずれも、財産目録がなければ次の一手に進めません。

相続関係説明図・遺産分割協議書との違い

財産目録は「相続財産の棚卸し一覧」という役割に特化した文書です。誰が相続人かを図で示す相続関係説明図の作り方や、財産をどう分けるかの合意を記す遺産分割協議書の書き方とは、そもそも答える問いが違います。整理すると、相続関係説明図は「誰が相続人か」、財産目録は「何がいくらあるか」、遺産分割協議書は「どう分けるか」、そして相続税申告は「いくら課税されるか」を扱います。財産目録はこの一連の起点であり、後続の各書類の精度を左右します。

財産目録の作成は義務?|通常の相続と限定承認の違い

通常の遺産分割では法律上の作成義務は必ずしもない(実務上は必須)

通常の遺産分割において、財産目録の作成そのものを一律に義務づける規定はありません。とはいえ、これは「作らなくてよい」という意味ではありません。前述のとおり遺産分割協議・相続税申告・相続登記のいずれにも財産の確定が不可欠であり、実務上は事実上の必須書類と考えるのが安全です。財産目録がないまま協議を進めると、後日の財産の漏れや評価の食い違いで協議のやり直しが生じかねません。

限定承認では民法924条により財産目録の作成・家庭裁判所への提出が必要

一方、限定承認を選ぶ場合は法律上の義務が明確です。民法924条は、限定承認をしようとするときは民法915条1項の期間内に、相続財産の目録を作成して家庭裁判所に提出し、限定承認をする旨を申述しなければならないと定めています。相続人が複数いるときは、原則として共同相続人全員が共同して申述する必要があります。ここでの財産目録は任意の整理表ではなく、裁判所へ提出する正式な手続書類である点に注意してください。

相続放棄・限定承認の熟慮期間(民法915条・原則3か月)

限定承認や相続放棄には期限があります。民法915条1項は、相続人は自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内に、単純承認・限定承認・放棄のいずれかを選ばなければならないと定めます。これを熟慮期間といいます。この3か月の中で財産と負債を調べ、限定承認なら財産目録まで整える必要があるため、実務では初動のスピードが決定的です。調査に時間を要する場合は、家庭裁判所に対する熟慮期間の伸長の申立てという選択肢もあります。曖昧なまま3か月を過ぎると単純承認とみなされ得るため、期限管理を徹底しましょう。

財産目録に記載すべき財産の種類

財産目録では、プラス・マイナスの双方を漏れなく拾います。財産区分ごとに、記載する項目と、それを裏づける確認資料をセットで押さえるのが実務のコツです。

財産区分

主な記載項目

確認に使う資料

不動産(土地)

所在・地番・地目・地積・評価額

登記事項証明書(登記簿)・名寄帳・固定資産評価証明書

不動産(建物)

所在・家屋番号・種類・構造・床面積・評価額

登記事項証明書・名寄帳・固定資産評価証明書

預貯金

金融機関名・支店・種別・口座番号・残高(基準日)

残高証明書・通帳

有価証券

銘柄・数量・評価額・預け先(証券会社)

取引残高報告書・残高証明書

生命保険金

保険会社・証券番号・受取人・保険金額

保険証券・支払通知書

その他動産・債権

自動車・貴金属・貸付金など/内容・評価額

車検証・契約書・領収書

負債(債務)

借入先・残債・未払金の内容・金額(基準日)

借入残高証明書・請求書・契約書

不動産・預貯金・有価証券の押さえどころ

不動産は、名寄帳で被相続人名義の物件を市区町村単位で洗い出し、登記事項証明書で所在・地番・地積などを正確に転記します。共有持分や私道、未登記建物の見落としに注意します。預貯金は、金融機関ごとに基準日を統一した残高証明書を取得し、口座単位で残高を記載します。有価証券は証券会社の取引残高報告書で銘柄と数量を確認します。

生命保険金(みなし相続財産)の扱いに注意

生命保険金は取り扱いが分かれます。受取人が指定された死亡保険金は、一般に受取人固有の財産とされ、遺産分割の対象には含めないのが原則的な整理です。他方で相続税では、被相続人が保険料を負担していた死亡保険金は「みなし相続財産」として課税対象になり、相続人が受け取る場合は「500万円×法定相続人の数」の非課税限度額が適用されます。つまり民法上の分割対象と、相続税の課税対象がずれるため、財産目録では備考欄で位置づけを明示し、個別事情は税理士・専門家に確認するのが安全です。

財産目録の作り方|5ステップ

ステップ1:資料収集

戸籍で相続人を確定しつつ、名寄帳・登記事項証明書・残高証明書・取引残高報告書・保険証券・借入残高証明書などを集めます。落とし穴は、通帳の履歴だけで完結させてしまうこと。引き落としや振込先から、把握していなかった保険・ローン・証券口座が判明することが多く、履歴の精読が漏れ防止につながります。

ステップ2:財産の洗い出し

集めた資料をプラス・マイナスに分けて棚卸しします。落とし穴は負債の軽視です。借入だけでなく、未払の医療費・税金・公共料金なども負債に含めます。限定承認や相続放棄を検討する局面では、この洗い出しの精度が判断そのものを左右します。

ステップ3:評価額の把握

評価は「基準日」をそろえるのが鉄則です。預貯金は基準日残高、不動産は固定資産評価額などを用いますが、目的(遺産分割か相続税か)で採用する評価が変わり得ます。落とし穴は、目録内で基準日や評価方法が混在すること。用途を意識し、評価の前提を備考に残します。

ステップ4:一覧化(ひな形へ転記)

洗い出した情報をひな形へ転記し、財産区分ごとに並べます。この工程は、残高証明や登記簿からの機械的な書き写しが中心で、最も時間がかかるわりに判断を要しません。だからこそ、後述するAIによる転記・整形の効果が最も出るステップです。

ステップ5:相続人での共有・更新

完成した目録を相続人間で共有し、認識を合わせます。新たな財産や負債が判明したら随時更新し、版管理を明確にします。財産が確定したら、遺産分割協議書の書き方相続登記の申請書の作成など、次の書類へ橋渡しします。

AIで財産目録づくりを効率化する|残高証明・登記簿・名寄帳からの転記と整形

転記・表整形・チェックにAIを使う具体像

財産目録の作成負荷の大半は、残高証明・登記事項証明書・名寄帳・保険の支払通知書といった資料から、数字や所在を目録の型へ書き写す単純作業に集中しています。ここは生成AIが得意とする領域です。たとえば、資料に記載された項目を財産区分・記載項目・評価額の表形式へ整形させる、複数口座の残高を基準日ごとに集計して合計を出す、記載項目の抜け(地番や口座番号の欠落)を洗い出させる、といった使い方で下書きを一気に立ち上げられます。日本語の業務文書に強いAIであれば、事務所の言葉づかいに沿った体裁で出力させることも可能です。

守秘義務と検証は必ずセットで

効率化の前提として、守秘義務と検証を絶対に外してはいけません。第一に、確認資料に写り込んだ氏名・口座番号・残高といった生の個人情報を、そのまま外部のAIサービスへ貼り付けない配慮が必要です。個人情報保護委員会は2023年6月2日に生成AIサービスの利用に関する注意喚起を公表しており、入力した情報が機械学習に利用される可能性や利用目的、出力の正確性を確認するよう促しています。実務では、依頼者を特定しない形に加工して使う、学習に利用されない設定・契約のサービスを選ぶ、といった運用を徹底します。第二に、AIの出力は必ず原資料と一つずつ突合して検証します。生成AIは事実と異なる内容をもっともらしく出力する(ハルシネーション)ことがあるため、地番・口座番号・残高・評価額はすべて原本で裏取りするまで確定としないのが鉄則です。AIは下書きを速く作る道具であり、正確性を担保するのはあくまで専門家の目である、という順序を崩さないことが肝要です。なお、税額そのものの計算は財産目録とはレイヤーが異なるため、詳しくは相続税申告のAI活用もあわせて参照してください。

財産目録のひな形・記載例

実際に使える財産目録の骨子を示します。冒頭に「被相続人【被相続人名】/作成日【 年 月 日】/基準日【 年 月 日】」を明記し、続けて財産区分ごとに行を並べます。プレースホルダは【 】で示しているので、案件に合わせて置き換えてください。

区分

財産の表示(記載例)

評価額(円)

備考

土地

所在【○○市○○町】 地番【○番○】 地目【宅地】 地積【○○.○○㎡】

【     】

固定資産評価額・基準日

建物

所在【○○市○○町○番地】 家屋番号【○番○】 種類【居宅】 床面積【○○.○○㎡】

【     】

固定資産評価額

預貯金

【○○銀行○○支店】 普通預金 口座番号【○○○○○○○】

【     】

残高証明書・基準日残高

有価証券

【○○株式会社】 株式【○○株】(【○○証券】口座)

【     】

取引残高報告書・基準日評価

生命保険金

【○○生命】 証券番号【○○○○】 受取人【○○】 保険金額【   円】

【     】

みなし相続財産(税務上)・分割対象外が原則

負債

【○○銀行】 住宅ローン残債

△【    】

借入残高証明書・基準日残高

限定承認で家庭裁判所に提出する財産目録は、裁判所が案内する様式・記載要領に沿う必要があるため、通常の遺産分割用の目録とは分けて準備すると混乱を避けられます。

財産目録づくりの注意点|よくある失敗

財産の漏れ(ネット銀行・暗号資産・貸金庫)

通帳や郵送物が届かないネット銀行・ネット証券、暗号資産、貸金庫の中身は見落としやすい代表格です。メールやスマートフォンのアプリ、定期的な引き落とし・入金の相手先から手がかりをたどります。デジタル資産は存在自体に気づきにくいため、ヒアリング項目に必ず加えます。

負債の見落とし・名義預金・評価基準日

連帯保証債務や事業性の借入は、書面が手元にないと把握が遅れます。また、名義は家族でも実質は被相続人の資金である「名義預金」は、相続税の場面で問題になりやすい論点です。評価基準日の不統一も、後の紛争や申告の齟齬の火種になります。判断に迷う項目は、備考に事情を残したうえで税理士・弁護士など専門家に確認します。

限定承認の期限管理とAI利用時の守秘

限定承認・相続放棄は熟慮期間(原則3か月)という明確な期限があるため、初回相談の時点で期限を逆算した工程管理を組みます。あわせて、AIで作業を効率化する場合は、生の個人情報を外部サービスへ渡さない配慮と、出力を原資料で検証する運用を最後まで崩さないことが、専門家としての守秘義務と品質の両立につながります。

まとめ

財産目録(遺産目録)は、相続財産の棚卸し一覧という文書であり、誰が相続人かを示す相続関係説明図、どう分けるかを定める遺産分割協議書、いくら課税されるかを扱う相続税申告とは役割が異なります。通常の遺産分割では法律上の作成義務は必ずしもありませんが実務上は必須であり、限定承認では民法924条により財産目録を作成して家庭裁判所へ提出する義務がある——この区別を正確に押さえることが第一歩です。記載すべき財産を区分ごとに漏れなく拾い、基準日をそろえて評価し、ひな形へ一覧化する。この転記・整形の重い工程はAIで時短しつつ、守秘への配慮と原資料との突合検証は決して省かない。そうすれば、自事務所の言葉でひな形に沿った財産目録を、速く、正確に仕上げられます。

参考文献

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