設立登記申請書の書き方|株式会社の添付書類一覧と登録免許税【2026年】
結論から書きます。定款の認証まで終わっていれば、残る作業は「申請書を法務局の記載例どおりに組み立てる」「案件の類型に応じた添付書面をそろえる」「登録免許税を計算して納付する」の3つだけです。申請書自体は定型で、迷いが生じるのはほぼ添付書面と税額の場合分けです。
この記事で分かることは次のとおりです。
- 設立登記申請書に何をどの順番で書くか(法務局の記載例1-1の並び)
- 発起設立か募集設立か、取締役会の有無で変わる添付書面(比較表)
- 申請期限「2週間以内」の起算日(会社法911条)
- 登録免許税の計算と、租税特別措置法80条3項による軽減
- 法務省が公表している「実際に多い補正内容」と潰し方
- AIに下書きさせてよい範囲と、有資格者が通すべき4ステップの検証
設立登記申請書とは|定款認証が終わったあとに何をするのか
設立登記申請書は、会社の成立そのものを発生させる書面です。登記所に出して受け付けられた瞬間に法人格が生まれるため、日付・金額・氏名の一文字の食い違いが補正につながります。本記事は定款の作成と公証人の認証が済んだ段階から出発し、定款の記載事項そのものは扱いません。定款の中身から固めたい場合は定款をAIで作成する方法と会社設立の記載事項を先に読んでください。
会社の成立日は登記の申請日(会社法49条)
会社法49条は「株式会社は、その本店の所在地において設立の登記をすることによって成立する」と定めています。成立日は登記完了日ではなく、申請を受け付けた日です。完了まで数日かかっても、登記簿上の成立日は申請日になります。
「期初に合わせたい」という要望は申請日で実現できます。ただし閉庁日は受付されず、郵送は登記所に届いてからの受付になるため、日付を確定させたい案件は持参かオンライン申請が安全です。
申請期限は「調査終了日か発起人が定めた日のいずれか遅い日から2週間以内」
発起設立の期限は会社法911条1項です。設立時取締役等の調査(会社法46条1項)が終了した日と、発起人が定めた日のいずれか遅い日から2週間以内。同46条1項の調査事項は、現物出資財産等の定款価額の相当性、会社法33条10項3号の証明の相当性、出資の履行が完了していること、設立手続が法令・定款に違反していないこと、の4点です。
募集設立は会社法911条2項が別の起算日を定め、創立総会の終結の日、84条の種類創立総会の決議日、97条の創立総会決議日から2週間経過日、100条1項の種類創立総会決議日から2週間経過日、101条1項の種類創立総会決議日のうちいずれか遅い日から2週間以内となります。設立時取締役等が会社法93条により調査し創立総会へ報告する工程が挟まります。
提出先は本店所在地の管轄登記所・申請人は会社を代表すべき者
設立の登記は商業登記法47条1項により会社を代表すべき者の申請によります。司法書士が受任する場合は商業登記法18条の委任状を添付します。管轄は本店所在地を管轄する登記所で、同じ市内でも支局・出張所で分かれる地域があるため初回案件では必ず確認します。申請方式は書面(持参・郵送)またはオンライン(商業登記法17条1項、商業登記規則101条1項)です。
設立登記申請書の書き方|法務局の記載例を項目ごとに読む
記載事項は商業登記法17条2項に列挙されています。(1)申請人の商号及び本店並びに代表者の氏名及び住所 (2)代理人の氏名及び住所 (3)登記の事由 (4)登記すべき事項 (5)官庁の許可を要するときは許可書の到達年月日 (6)登録免許税の額(課税標準金額があるときはその金額) (7)申請の年月日 (8)登記所の表示、の8項目です。
株式会社設立登記申請書
フリガナ ○○ショウジ
1.商 号 ○○商事株式会社
1.本 店 ○県○市○町○丁目○番○号
1.登記の事由 令和○年○月○日発起設立の手続終了
1.登記すべき事項 別紙のとおり
1.課税標準金額 金1,000万円
1.登録免許税 金15万円
1.添付書類 …
上記のとおり、登記の申請をします。
令和○年○月○日
○県○市○町○丁目○番○号
申請人 ○○商事株式会社
○県○市○町○丁目○番○号
代表取締役 ○○○○ ㊞
(代理人の場合)上記代理人 ○○○○ ㊞ 連絡先の電話番号
○○法務局 ○○支局・出張所 御中フリガナ・商号・本店
フリガナは会社の種類を表す部分(「株式会社」)を除き片仮名・左詰めで書き、空白は削除します。国税庁の法人番号公表サイトで公表されますが登記事項証明書には表示されません。商号は定款と完全一致させます。法務省の補正事例には商号欄に「株式会社」の文字が入っていない誤りが挙がっています。本店は定款および本店所在場所を決議した書面と一字一句そろえます。
登記の事由・登記すべき事項
登記の事由は「令和○年○月○日発起設立の手続終了」とし、日付は前述の起算日を用います。登記すべき事項は「別紙のとおり」でも申請書に直接記載してもかまいません。会社法911条3項の主なものは、目的、商号、本店及び支店の所在場所、資本金の額、発行可能株式総数、発行する株式の内容、発行済株式の総数並びにその種類及び種類ごとの数、取締役の氏名、代表取締役の氏名及び住所、取締役会設置会社である旨、監査役設置会社である旨及び監査役の氏名、公告方法の定めなどです。電子公告を定めた場合は具体的なウェブページのURLも登記事項になります。
「商号」「本店」「公告をする方法」「目的」
「発行可能株式総数」
「発行済株式の総数並びに種類及び数」
「資本金の額」
「株式の譲渡制限に関する規定」
「役員に関する事項」…「資格」取締役/「氏名」
「資格」代表取締役/「住所」/「氏名」
「監査役の監査の範囲に関する事項」
「取締役会設置会社に関する事項」
「監査役設置会社に関する事項」
「登記記録に関する事項」設立代表取締役だけは住所も登記事項である点が取り違えの多いところです。
課税標準金額・登録免許税額
課税標準金額には資本金の額、登録免許税にはそこから計算した税額を書きます。書面申請では収入印紙を申請書の余白または収入印紙貼付台紙に貼り、割印はせず台紙の右側に寄せて貼ります。
添付書類の表示・申請人・押印と契印
添付書類欄には添付する書面の名称と通数を列挙します。ここに書いた書面が欠ければ商業登記法24条7号に該当し得ます。押印は、代表者本人の申請なら登記所提出印、代理人申請なら代理人の認印を押し、設立時代表取締役の押印は不要です。申請書(収入印紙貼付台紙を含む)が2枚以上なら各ページのつづり目に契印が必要で、申請書に押した印鑑と同一の印鑑を使います。訂正は二重線と押印で「何字削除何字加入」と記載し、修正液や塗りつぶしは不可。原本還付を受ける書面は、コピーに「原本に相違ありません。」と記載して記名し原本とともに提出します。
会社設立 登記の必要書類一覧|発起設立・募集設立と取締役会の有無で変わる添付書類
添付書面は商業登記法47条2項に列挙されています。定款、募集設立での引受けの申込みまたは61条の契約を証する書面、会社法28条各号の記載があるときの検査役等の調査報告書、検査役の報告に関する裁判の謄本、払込みがあったことを証する書面、株主名簿管理人の契約書面、設立時代表取締役の選定に関する書面、創立総会・種類創立総会の議事録、就任承諾書などです。実務の類型ごとに並べ替えると次のようになります。
添付書面 | 発起設立・取締役会設置 | 発起設立・非設置 | 募集設立 | 根拠・注意点 |
|---|---|---|---|---|
定款(認証済み) | 必要 | 必要 | 必要 | 47条2項1号。未認証が補正事例に挙がる |
発起人全員の同意書 | 場合により | 場合により | 場合により | 割当株式数・払込金額・発行可能株式総数・資本金及び資本準備金の額が定款にないとき(会社法32条1項) |
設立時取締役等の就任承諾書 | 必要 | 必要 | 必要 | 47条2項10号。監査役分も |
設立時代表取締役の就任承諾書・選定書面 | 必要 | 選定した場合 | 選定した場合 | 47条2項7号・10号 |
調査報告書及び附属書類 | 検査役の調査を受けた場合 | 検査役の調査を受けた場合 | 検査役の調査を受けた場合 | 47条2項3号 |
払込みがあったことを証する書面 | 必要 | 必要 | 払込金保管証明書 | 募集設立は会社法64条1項(47条2項5号) |
創立総会・種類創立総会の議事録 | 不要 | 不要 | 必要 | 47条2項9号 |
引受けの申込みを証する書面 | 不要 | 不要 | 必要 | 47条2項2号 |
印鑑証明書(市町村長作成) | 設立時代表取締役の分 | 設立時取締役全員の分 | 取締役会設置なら設立時代表取締役、非設置なら設立時取締役全員 | 商業登記規則61条4項・5項。基準は取締役会の有無であり、発起設立か募集設立かでは変わらない |
本人確認証明書 | 印鑑証明書を添付しない者 | 印鑑証明書を添付しない者 | 印鑑証明書を添付しない者 | 商業登記規則61条7項 |
資本金の額の計上を証する書面 | 金銭出資のみなら不要 | 金銭出資のみなら不要 | 金銭出資のみなら不要 | 現物出資を含む場合のみ検討 |
委任状 | 代理人申請の場合 | 代理人申請の場合 | 代理人申請の場合 | 商業登記法18条 |
印鑑届書 | 書面申請では必要 | 書面申請では必要 | 書面申請では必要 | 商業登記規則9条1項・5項。オンライン申請では任意 |
印鑑証明書は誰の分が要るか(商業登記規則61条4項・5項)
就任承諾書の印鑑につき市町村長作成の印鑑証明書が必要な範囲は機関設計で変わります。取締役会非設置会社では設立時取締役全員、取締役会設置会社では設立時代表取締役のみ(指名委員会等設置会社は設立時代表執行役)です。取締役3名の非設置会社なら3通、同じ3名で取締役会を置けば1通という差になります。
なお印鑑届書には市区町村長作成の3か月以内の印鑑証明書等を添付しますが、設立登記と同時に印鑑を提出する場合は、就任承諾書用の印鑑証明書を印鑑届書用として援用できます。依頼者に二重取得させないよう注意してください。
本人確認証明書が要る人・要らない人(商業登記規則61条7項)
本人確認証明書は、設立時取締役・設立時監査役等のうち印鑑証明書を添付しない者について必要です。印鑑証明書を出す人に重ねて用意する必要はありません。使えるのは住民票記載事項証明書や運転免許証のコピーなどで、運転免許証は裏面もコピーし、本人が原本と相違ない旨を記載して記名します。取締役5名の取締役会設置会社なら、印鑑証明書1通と本人確認証明書4通という構成です。
払込みを証する書面の作り方と「残高だけでは不可」
会社法34条1項により発起人は引受け後遅滞なく全額を払い込み、同条2項により発起人が定めた銀行等の払込みの取扱いの場所で行います。発起設立での添付書面は、払込金受入証明書か、設立時代表取締役が作成した「払込みを受けたことを証明する旨を記載した書面」に預金通帳の写しまたは取引明細表を合てつしたものです。通帳の写しは口座名義人が分かる表紙と、入金が記録された該当ページが必要です。ネットバンキングの取引画面PDFも使えますが、払込先金融機関名・口座名義人名・振込日・振込金額の記載が要ります。
最大の落とし穴が残高の扱いです。通帳上「入金」「振込入金」などにより口座に金員が払い込まれたことが明らかである必要があり、発起人が一定の残高を有しているだけで入金の記録がないものは、払込みがあったことを証する書面として取り扱われません。「もともと個人口座に500万円あるのでそれを資本金に」という依頼者には、いったん出金して入金し直すか他口座から振り込むよう案内します。口座名義人は原則として設立中の会社を代表する発起人の名義です。募集設立では会社法64条1項の払込金保管証明書が必要で、金融機関の発行に日数を要するため逆算が欠かせません。
資本金の額の計上に関する証明書が不要になる場合
「資本金の額が会社法及び会社計算規則に従って計上されたことを証する書面」は、設立に際して出資される財産が金銭のみである場合は添付を要しません。現金出資だけの案件で毎回作成しているとすれば工数の無駄で、検討が必要なのは現物出資が含まれる案件だけです。
また株主リストは商業登記規則61条3項により登記すべき事項につき株主総会または種類株主総会の決議を要する場合の書面なので、株主総会決議がない発起設立の設立登記では通常不要です。株主リストが問題になるのは主に設立後の変更登記で、その書類は役員変更登記の必要書類と書き方で整理しています。
なお会社の成立後は、代表者の電子証明書による証明、印鑑カードの発行請求、実質的支配者リストの保管および写しの交付の申出ができます。金融機関の口座開設や許認可申請の日程が決まっている案件では、登記完了後にどの証明書を何通取るかまで含めて受任時に確認しておくと、依頼者とのやり取りが一度で済みます。
設立登記の登録免許税|計算方法と特定創業支援等事業による軽減
会社の種類 | 税率 | 最低額(申請1件につき) | 軽減適用時 |
|---|---|---|---|
株式会社 | 資本金の額×1000分の7 | 15万円 | 1000分の3.5・最低7万5千円 |
合同会社 | 資本金の額×1000分の7 | 6万円 | 1000分の3.5・最低3万円 |
合名会社・合資会社 | 定額 | 6万円 | 対象外 |
資本金別の計算例と端数処理
資本金100万円の株式会社は、100万円×1000分の7=7,000円。15万円に満たないので納付額は15万円です。資本金1,000万円でも7万円にしかならず、やはり15万円。記載例1-1が資本金1,000万円で登録免許税15万円としているのはこのためです。
税率計算が最低額を上回るのは資本金が約2,143万円を超えてからで、資本金3,000万円なら21万円を納付します。端数は100円未満切捨てなので、資本金2,222万円なら15万5,540円→15万5,500円です。合同会社は最低額6万円のため、資本金100万円なら6万円、1,000万円でも7万円と負担が軽く、会社形態を検討中の依頼者への説明材料になります。
合名会社・合資会社は資本金の額にかかわらず申請1件につき6万円の定額です。なお登録免許税の最低額は「申請1件につき」の定めなので、依頼者への見積りもこの単位で組み立てます。
特定創業支援等事業による軽減(租税特別措置法80条3項)
租税特別措置法80条3項は、産業競争力強化法128条2項の認定創業支援等事業計画の認定を受けた市町村(特別区を含む)の区域内で、その計画に記載された特定創業支援等事業による支援を受けて株式会社または合同会社を設立した場合の軽減を定めます。適用は令和9年3月31日までに登記を受けるものに限られます。
税率は1000分の3.5、最低額は株式会社7万5千円・合同会社3万円です。資本金100万円の株式会社なら通常15万円が7万5千円になります。適用には市区町村発行の証明書の添付が必要ですが、証明書の名称・様式は自治体ごとに異なり、発行までの日数も違います。設立予定地の自治体の案内を必ず直接確認してください。
オンライン申請とQRコード付き書面申請|印鑑届出の任意化と24時間以内処理
登記すべき事項のオンライン提出(電子署名不要・送信だけでは受付にならない)
「登記・供託オンライン申請システムによる登記事項の提出」は、書面申請をする場合に登記すべき事項だけを事前にオンライン送信する方式です。法務局は「QRコード(二次元バーコード)付き書面申請」として案内し、株式会社設立(発起設立・取締役会設置/非設置)の申請情報作成例を公開しています。
利点は3つ。無料の申請用総合ソフトで申請書を作成できること、受付番号・補正・手続終了のお知らせをオンラインで受けられること、電子署名及び電子証明書を添付する必要がないことです。流れは事前準備→登記事項提出書の作成・送信→印刷して申請書を作成し、添付書類とともに登記所へ提出で、送信しただけでは受付になりません。ここを誤解すると約束した成立日を落とします。登記すべき事項は電磁的記録媒体(CD-R等)で提出することもできます。
印鑑の提出は任意になったが、書面申請では従来どおり必要
令和3年2月15日施行の商業登記規則改正でオンライン申請の場合は印鑑の提出が任意になり、商業登記法20条は削除されています。ただし書面申請では、申請書に登記所へ提出している印鑑を押印する必要があるため、従来どおり印鑑届書の提出が必要です(商業登記規則9条1項・5項)。印鑑届書には会社代表者の個人印も押印します。
オンライン申請でも、登記所発行の印鑑証明書が必要などの理由があれば印鑑を提出でき、印鑑届書は別途持参・郵送するか登記申請と併せてオンライン提出します。ただしオンラインでの印鑑提出は登記申請と同時のときのみで、単独提出はできません。「あとから印鑑だけ出す」ができない制約は方式選択時に織り込みます。
完全オンライン申請の「24時間以内処理」の3条件
条件は3つです。すべての添付書面を電子署名付きの電磁的記録としてオンライン送信していること、登録免許税を収入印紙ではなく電子納付していること、補正がないこと。1つでも欠ければ対象外です。登記所は1日を「午前(8時30分〜正午)」「午後(1)(正午〜15時)」「午後(2)(15時〜17時15分)」の3区分で処理し、申請件数の多い時期を除き受付時点から原則24時間以内に完了します。令和3年2月15日からはオンラインによる定款認証と設立登記申請の同時申請も可能です。
方式の選び分けは単純です。電子証明書がそろい急ぎの案件なら完全オンライン、電子証明書の準備が間に合わない案件ならQRコード付き書面申請、添付書面の運用に不安がある初回管轄なら持参による書面申請、が基本線になります。設立登記の申請は、デジタル庁の法人設立ワンストップサービスから行うこともできます。
補正・却下を防ぐ実務チェックと、AIの使いどころ
法務省は、オンラインによる設立登記申請で実際に多かった補正内容を公表しています。申請前のチェックリストとしてそのまま使えます。
- 商号に会社種別が入っていない。申請用総合ソフトの「会社種別」欄とは別に、商号欄にも「株式会社」の文字が必要(会社法6条)
- 本店の所在地が、本店所在場所を決議した書面(発起人の過半数の一致を証する書面)の記録と一致しない
- 公告方法が定款の記載と一致しない。電子公告ならウェブページのURLも登記事項
- 定款が公証人の認証を受けていない(会社法30条1項。合同会社の定款は認証不要)
- 払込みがあったことを証する書面が添付されていない、または残高だけで入金の記録がない
- 添付書面情報に電子署名が付与されていない、使用できない電子証明書で署名している(商業登記規則102条5項)
- 印鑑提出「有」を選んだのに印鑑届書情報がない、専用様式でない、原寸大でないスキャン
大半が定款や決議書面との突合を怠ったことによる不一致で、新しい論点ではありません。裏返せば機械的な突合で潰せる誤りです。却下事由は商業登記法24条に1号から15号まであり、設立登記で関係が深いのは7号「申請書に必要な書面を添付しないとき」、8号「申請書・添付書面の記載が登記簿等と合致しないとき」、15号「登録免許税を納付しないとき」。ただし補正することができるものは、登記官が定めた相当の期間内に補正すれば却下されません。とはいえ補正のたびに連絡と再提出が発生し、成立日を動かさざるを得ない場合もあります。
補正の連絡は、書面申請なら登記所からの電話、オンライン申請なら申請用総合ソフトのお知らせで届きます。オンライン申請では処理状況を画面で追えるため、依頼者への進捗連絡がしやすいという利点もあります。
AIに任せてよい範囲と、任せてはいけない範囲
AIが得意なのは定型書面のドラフト作成と突合・抜け漏れチェックです。任せてはいけないのは法令解釈の最終判断と、書面の完成・提出の責任です。
理由は法律上も明確です。司法書士法3条1項は、一 登記または供託に関する手続について代理すること、二 法務局または地方法務局に提出し、または提供する書類もしくは電磁的記録を作成すること、三 審査請求手続の代理、四 裁判所・検察庁提出書類等の作成、五 前各号の事務について相談に応ずること、を司法書士の業務とし、同法73条1項は司法書士会に入会している司法書士または司法書士法人でない者はこれらの業務を行ってはならないと定めています(他の法律に別段の定めがある場合を除く)。
したがってAIツールは、司法書士でない者による業務代行ではなく司法書士自身が使う下書き・チェックの道具と位置づけるのが正しい整理です。AIが登記手続を代理したり書類を業として作成したりするわけではなく、書面の内容確定・申請・依頼者への説明の責任はすべて有資格者が負います。この線引きを共有しないまま導入すると確認工程が曖昧になり、かえって事故の確率が上がります。事務所全体への組み込み方は司法書士の登記業務にAIを組み込む方法、ツールの選定基準は司法書士のAIツール比較と選び方で整理しています。
士業AIの法務AI(司法書士・弁護士向け)は、契約書レビュー・登記書類のドラフト作成・条文リサーチを想定し、e-Gov法令データなどの公的情報を参照する設計です。汎用AIでも申請書の骨組みは書けますが、条文の版が古い、根拠が示されないという弱点が残ります。業務特化型なら根拠の提示とフォーマットの安定という点で扱いやすくなります。無料で利用を開始でき、クレジットカードは不要でメール登録のみです。
そのまま使えるプロンプト例
「プロンプト」とはAIに出す指示文のことです。指示が曖昧だと出力も曖昧になるため、案件条件を変数として明示します。【商号】のような角括弧部分を実際の案件情報に置き換えて使ってください。
【プロンプト1:申請書ドラフト】
あなたは商業登記の書面作成を補助するアシスタントです。
以下の案件条件で、株式会社設立登記申請書の下書きを作成してください。
・商号:【商号】/本店:【本店所在場所】
・機関設計:【取締役会設置/非設置】/設立方法:【発起設立/募集設立】
・資本金の額:【資本金の額】
・設立時取締役:【氏名を列挙】/設立時代表取締役:【氏名】
・調査終了日または発起人が定めた日:【日付】/管轄登記所:【登記所名】
条件:
1. 項目の並びは「フリガナ/商号/本店/登記の事由/登記すべき事項/
課税標準金額/登録免許税/添付書類/申請年月日/申請人/代理人/
登記所の表示」の順にすること。
2. フリガナは会社の種類を表す部分を除き、片仮名・左詰め・空白なしで書く。
3. 判断できない箇所は勝手に補わず、【要確認:理由】と明示する。
4. 確認が必要な箇所を末尾に列挙する。うまくいかない例と直し方:条件を与えず「設立登記申請書を作って」とだけ指示すると、実在しない様式番号や条文が混ざったそれらしい文書が返ります。これがハルシネーション(AIがもっともらしい誤りを生成する現象)です。「判断できない箇所は補わず【要確認】と書く」と明示すると、AIが埋めた箇所と埋めなかった箇所が区別でき、確認すべき場所が可視化されます。
【プロンプト2:添付書面の抜け漏れチェックリスト】
次の案件条件で株式会社の設立登記を申請します。
添付書面のチェックリストを表形式で作成してください。
・設立方法:【発起設立/募集設立】
・機関設計:【取締役会設置/非設置】【監査役の有無】
・出資の内容:【金銭のみ/現物出資を含む】
・申請方式:【書面/QRコード付き書面/完全オンライン】
・代理人の有無:【あり/なし】
列は「書面名/必要・不要/通数/誰から取得するか/確認ポイント」。
印鑑証明書と本人確認証明書は、誰の分が必要かを人ごとに1行ずつ書くこと。
根拠が不確かな項目には「要根拠確認」と付けること。うまくいかない例と直し方:「必要書類を教えて」だけでは一般論の箇条書きが返り、自分の案件で何通要るのかが分かりません。人ごとに1行ずつ書かせると、印鑑証明書1通・本人確認証明書4通といった実数まで落ち、依頼者への取得依頼メールへそのまま転用できます。
【プロンプト3:補正リスクの洗い出し】
以下は作成済みの設立登記申請書と添付書面の記載内容です。
法務省が公表している設立登記の主な補正内容に照らし、
補正になりそうな箇所を指摘してください。
・申請書の記載:【申請書のテキストを貼付】
・定款の該当箇所:【商号・本店・目的・公告方法・発行可能株式総数】
・発起人の一致を証する書面:【本店所在場所を貼付】
・払込みを証する書面:【通帳の記載内容を文章で説明】
観点:
1. 商号欄に会社種別の文字が入っているか
2. 本店の表記が定款・決議書面と完全に一致しているか
3. 公告方法が定款と一致しているか(電子公告ならURLの登記要否)
4. 払込みが「入金」として記録されているか(残高のみでないか)
出力は「指摘箇所/どう食い違っているか/確認すべき書面」の3列で。うまくいかない例と直し方:「間違いを探して」だけではAIは文章表現の指摘に流れます。観点を番号付きで列挙し、突合すべき原文を一緒に貼ることで、表記ゆれの検出という得意分野に作業を寄せられます。原文を貼らずに聞くとAIは記憶で補完し、指摘の信頼度が下がります。
AIの出力を検証する手順
AIの下書きはそのまま提出できるものではありません。次の4ステップを必ず通してください。
- 法務局の記載例PDFと項目単位で突合する。記載例1-1の並びを1行ずつ照合し、項目の欠落や余計な追加がないか確認します。全体を眺めて「それらしい」と判断しないことです。
- 条文はe-Govで原文を確認する。示された条番号を鵜呑みにせず原文に当たります。商業登記法20条のように削除された条文もあり、古い情報を学習したAIが引用してくる可能性があります。
- 金額は自分で再計算する。登録免許税は税率計算と最低額の比較、端数処理、軽減の適用可否と判断が3段階あります。課税標準金額と税額の両方が申請書に正しく反映されているかも確かめます。
- 管轄登記所に事前相談する。取扱いに幅のある論点、現物出資を含む案件、募集設立の案件では申請前に相談します。初めて扱う管轄では運用が想定と違うことがあります。
この4ステップを省くと、補正で戻ったときに原因の切り分けができません。AIは作業時間を圧縮する道具であって、確認工程を省略する道具ではないという前提を事務所内で明文化しておくことをおすすめします。ドラフトが30分から5分になっても、突合と検算の時間は変えない。この配分ができている事務所ほど導入効果が安定します。
なお、本記事の条文・金額・運用はすべて公的情報に基づいていますが制度は変わります。実際の案件では必ず管轄の法務局と法務省・国税庁の公式ページで最新の内容を確認してください。

