会計×AI

少額減価償却資産の特例とは|40万円未満を一括経費にする方法【2026年改正】

「このノートパソコン、1台38万円なんですが、今期の経費で落ちますか?」——期末が近づくと経理担当者が必ず一度は受ける質問です。10万円、20万円、30万円(そして今は40万円)と頭の中にいくつも線が引かれていて、毎回どれが正解か分からなくなる。しかも去年の資料を見ると金額が違っている。迷いの正体は、金額によって使える処理が4つに分かれていて、しかもその境界線が2026年に動いたことにあります。

少額減価償却資産の特例とは?40万円未満を全額その期の経費にできる制度

結論から書きます。中小企業者等の少額減価償却資産の取得価額の損金算入の特例(租税特別措置法67条の5)は、青色申告をしている中小企業者等が、取得価額40万円未満の減価償却資産を、事業に使い始めた期に全額経費(損金)にできる制度です。1年あたりの合計額は300万円が上限で、適用期限は令和11年3月31日までの取得分。個人事業主にも同内容の制度(措置法28条の2)があり、条件は法人版とそろっています。

減価償却の原則は、資産を使う期間にわたって少しずつ費用にすることです。この特例はそこに例外を作り、お金の動きと費用の計上タイミングを一致させます。期末の利益と納税額をコントロールしやすくなるのが実務上の最大のメリットです。

  • 2026年(令和8年)の改正で何が変わり、どの日を基準に判定するのか
  • 10万円・20万円・40万円の線引きと、4つの経費化ルートの違い
  • 年300万円の上限を期中でどう管理するか
  • 法人税では全額落ちても償却資産税(固定資産税)は残る、という落とし穴
  • 金額基準をAIに聞くときの正しい使い方と、そのまま使えるプロンプト

対象は青色申告の中小企業者等(従業員400人以下)

誰でも使えるわけではありません。青色申告書を提出していることが前提で、対象は中小企業者等に限られます。常時使用する従業員の数が400人以下の法人(特定法人に該当する場合は300人以下)が対象で、個人事業主も同じく400人以下が要件です。この人数基準も2026年の改正で動いた(改正前は500人以下)ため、前年の資料を流用すると金額ではなく要件のほうを取り違えます。

なお制度上は「使える」だけで「使わなければならない」わけではありません。赤字の期は通常の減価償却で来期以降に費用を残したほうが有利な場面もあり、現場では期末の利益見込みを見ながらどの資産を載せるか選ぶ運用が一般的です。

2026年の改正で何が変わった?30万円未満から40万円未満へ

令和8年度税制改正で、取得価額の基準・対象法人・適用期限の3点が同時に動きました。国税庁「令和8年度法人税関係法令の改正の概要」によれば、令和8年4月1日以後に取得等をする減価償却資産から次のように変わっています。

項目

改正前(令和8年3月31日までの取得等)

改正後(令和8年4月1日以後の取得等)

取得価額基準

30万円未満

40万円未満

対象法人(従業員数)

500人以下(特定法人は300人以下)

400人以下(特定法人は300人以下)

適用期限

令和8年3月31日まで

令和11年3月31日まで(3年延長)

年間の合計上限

300万円

300万円(据え置き)

判定は決算期ではなく「取得等をした日」

改正資料には「取得等をする日で、取得価額基準及び対象法人について判定」と明記されています。事業年度単位ではありません。そのため3月決算以外の法人では、同じ事業年度に2つの基準が混在します。12月決算の会社なら、令和8年1月〜3月に買った35万円のパソコンは対象外(当時は30万円未満が基準)、4月以降に買った同じパソコンは対象、と分かれます。この期は固定資産の登録簿に「取得日」列を入れ、3月31日で線を引いて集計できる状態にしておくのが安全です。なお年300万円の枠は事業年度単位で見るため、基準が違っても枠は共通です。

10万円・20万円・40万円の線引き|4つの経費化ルートを1枚の表で

迷いの根本は、金額によって使える処理が4つあることです。しかも根拠条文も、経費になるタイミングも、償却資産税の扱いも違います。

取得価額

使える処理

損金算入のタイミング

償却資産税(固定資産税)

主な要件

10万円未満

少額の減価償却資産(法人税法施行令133条)

事業供用した期に全額

課税対象外

損金経理。使用可能期間1年未満のものも同じ扱い

20万円未満

一括償却資産(法人税法施行令133条の2)

3年間で均等に(一括償却対象額×事業年度の月数÷36)

課税対象外

青色申告は不要。年間の合計上限なし

40万円未満

中小企業者等の少額減価償却資産の特例(措置法67条の5)

事業供用した期に全額

課税対象

青色申告・中小企業者等・年300万円上限・別表十六(七)の添付

40万円以上

通常の減価償却

耐用年数にわたって毎期

課税対象

10万円未満と一括償却資産が償却資産税の対象外になるのは、地方税法施行令49条が課税対象から外す資産を法人税法施行令133条1項・133条の2第1項(個人は所得税法施行令138条1項・139条1項)の適用を受けたものに限っているからです。措置法67条の5を使った資産はこの列挙に入っていません。

迷ったときの判断フロー

  1. 取得価額を確定する(付随費用を含め、自社の消費税の経理方式に合わせて税込/税抜どちらで判定するかを決める)
  2. 貸付けの用に供する資産か確認する。主要な事業として行う貸付け以外は、10万円未満・一括償却・特例のいずれも使えない
  3. 10万円未満、または使用可能期間1年未満なら、迷わず全額費用処理
  4. 10万円以上20万円未満なら、一括償却資産(3年均等)と特例のどちらが有利かを比較する
  5. 20万円以上40万円未満なら、特例の要件(青色・中小企業者等・300万円枠の残り)を確認して使う
  6. 40万円以上なら通常の減価償却。特別償却や税額控除の対象にならないかを別途検討する

20万円未満は「特例」と「3年均等」のどちらが得か

ここが実務の腕の見せどころです。18万円の資産なら、特例を使えば今期に全額落ちますが、償却資産税の対象になり300万円枠も消費します。一括償却資産にすれば今期の損金は3分の1ですが、償却資産税の対象外になり、300万円枠も減りません。枠に余裕がなく償却資産の申告事務も減らしたい会社なら、20万円未満は一括償却資産に寄せて枠を20万円以上40万円未満の資産に温存する。今期の利益を確実に圧縮したい局面なら特例を優先する。枠と税目をセットで見て選ぶのが正しい向き合い方です。資産の分類がそもそも曖昧なら、勘定科目に迷う9つのペアの判定基準もあわせて整理しておくと登録簿の精度が上がります。

特例を使うための要件と手続き|青色申告・年300万円・別表十六(七)

年300万円の上限と、事業年度が1年未満の場合

特例を適用できる取得価額の合計額は、1事業年度あたり300万円が上限です。超える部分は通常の減価償却か一括償却資産で処理します。事業年度が1年に満たない場合は、300万円を12で割って事業年度の月数を掛けた金額が上限になるため、設立初年度や決算期変更をした期は枠が小さくなります。また、租税特別措置法施行令39条の28第1項の人数要件に加え、適用除外事業者に該当する場合もこの特例は使えません。所得の規模が一定を超える法人が該当しうるので、グループで所得規模が大きい会社は金額判定より先にここを確認してください。

対象にならない資産と、重複適用の禁止

同施行令39条の28第2項により、法人税法施行令133条(10万円未満)や133条の2(一括償却資産)の適用を受ける資産は、この特例の対象になりません。同じ資産に両方は使えないということです。もう1つ見落とされやすいのが貸付け(主要な事業として行われるものを除く)の用に供した資産の除外で、節税目的で少額資産を買って他社に貸し付ける使い方は封じられています。これは10万円未満の少額資産や一括償却資産でも同じです。さらに、措置法上の特別償却・税額控除・圧縮記帳との重複適用もできないため、設備投資の税制優遇を検討しているならどちらに載せるかを先に決める必要があります。

手続きは「損金経理」+「別表十六(七)の添付」

要件は2つです。帳簿上、費用として処理すること(損金経理)と、確定申告書等に「少額減価償却資産の取得価額に関する明細書(別表十六(七))」を添付すること。この明細書がないと、金額も要件も満たしているのに適用が認められません。実務では期中に「消耗品費」で処理した資産を決算時に洗い出す流れになるため、10万円以上の消耗品費を月次で抽出しておくと決算時に慌てずに済みます。

経理が実際につまずく5つの落とし穴

(a) 法人税では全額落ちても、償却資産税(固定資産税)は残る

最も事故が多いのがこれです。地方税法施行令49条が償却資産の課税対象から除外しているのは、法人税法施行令133条1項(10万円未満)と133条の2第1項(一括償却資産)、個人の場合は所得税法施行令138条1項・139条1項の適用を受けた資産に限られます。措置法67条の5の特例を使った資産は、この除外に含まれていません。法人税の計算上は全額損金になっていても、償却資産の申告書には載せる必要があります。「今期に全部経費にしたのだから資産じゃない」という感覚で申告から漏らすと、後で追徴の対象になります。地方税法施行令の条文を一度自分の目で確認しておくことをおすすめします。

(b) 取得価額の判定単位を間違える

40万円未満かどうかは、レシートの合計額ではなく「通常1単位として取引されるその単位ごと」に判定します。国税庁のタックスアンサーNo.5403では、応接セットはテーブルと椅子で1組、カーテンは1つの部屋ごとにその部屋の全体で判定する、と例示されています。椅子1脚ずつに分けて10万円未満に収める処理は通りません。

さらに、引取運賃・据付費・試運転費など事業に使い始めるために直接かかった費用は取得価額に含めます。本体38万円でも据付費が3万円あれば41万円となり特例は使えません。消費税の経理方式も判定額を左右し、税抜経理なら税抜金額、税込経理なら税込金額で判定します。同じ38万円の資産でも、税込経理の会社では41万8千円となって40万円を超えるという逆転が起きます。

(c) 年300万円の枠を期末になってから数える

300万円は思っているより早く埋まります。1台30万円のパソコンなら10台で満枠です。期末にまとめて設備を入れ替える会社では、12月までに枠を使い切っていて3月の購入分が特例に載らない、という事態がよく起きます。

対策はシンプルで、枠の消化状況を月次で更新することです。固定資産の登録簿に「特例適用フラグ」と「累計額」の列を持たせ、月次決算のたびに残枠を確認します。残枠が少なくなってきたら、20万円未満の資産を一括償却資産に回して枠を温存する判断ができます。期末3ヶ月前からの動き方は決算対策チェックリストで期末3ヶ月前から打てる手にまとめています。

(d) いったん資産計上したら、翌期に費用処理してもダメ

この特例は、事業に使い始めた事業年度に損金経理することが条件です。No.5403の注記でも、いったん資産に計上したものはその後の事業年度で費用処理しても損金にならない旨が示されています。「今期は赤字だから資産に上げておいて来期に落とそう」は通りません。適用するかどうかは、その資産を使い始めた期に決め切る必要があると理解してください。

(e) 公式の解説ページが改正前のまま、ということが起きる

これは制度そのものではなく、情報の落とし穴です。国税庁のタックスアンサーは各ページ冒頭に「令和◯年◯月◯日現在法令等」という基準日が記載されています。この基準日は改正と同時に更新されるとは限らず、改正直後は前年の基準日のまま残っていることがあります

実際、この記事の執筆時点(2026年8月)でも、少額減価償却資産の特例を扱うNo.5408は「令和7年4月1日現在法令等」の表示で、本文は30万円未満・令和8年3月31日まで・従業員500人以下という改正前の内容のままです。ページが間違っているのではなく、その基準日時点の内容を正しく示しているだけです。

そこで実務作法として2つを習慣にしてください。タックスアンサーを見たら必ず冒頭の「現在法令等」の日付を確認すること。そして直近の改正が絡む論点では、国税庁「令和8年度法人税関係法令の改正の概要」のような改正資料と、e-Govの現行条文にあたること。改正情報の追い方そのものは税法改正の調べ方をAIで最新化する手順で詳しく扱っています。

AIに「いくらまで経費?」と聞くときの注意点と、正しい使い方

AIに断定させてはいけない3つ

「少額減価償却資産の特例はいくらまで?」とAIに聞くと、多くの場合「30万円未満」と返ってきます。学習データの大半が改正前の記事だからです。同じ理由で、適用期限を「令和8年3月31日まで」、従業員要件を「500人以下」と答えることもあります。金額基準・適用期限・人数要件の3つは、AIの回答をそのまま使わない。これを社内ルールにしてください。逆にいえば、それ以外の部分ではAIは十分に役立ちます。

AIが得意なのは「判断の下ごしらえ」

AIに向いているのは答えを出すことではなく、判断に必要な材料を整えることです。資産一覧から枠の消化状況を集計する、確認事項を洗い出す、説明文を下書きする。この3つはそのまま時短になります。

プロンプト1:300万円枠の消化状況を集計する

あなたは【会社名】の経理担当を補助するアシスタントです。
以下は【事業年度】に取得した固定資産の一覧です(取得日/資産名/取得価額/付随費用/事業供用日)。

【ここに資産一覧を貼り付け】

次の形式で整理してください。
1. 取得価額(付随費用込み)を計算し、金額帯(10万円未満/10万円以上20万円未満/20万円以上40万円未満/40万円以上)で分類
2. 20万円以上40万円未満のものについて、取得日順に累計額を出し、300万円に達する資産を明示
3. 累計が300万円を超える資産を「枠外」として別に列挙
4. 判定に必要な情報が足りない資産(事業供用日が空欄など)を最後にまとめる

金額の基準そのものは私が別途確認します。集計と分類だけ行ってください。

うまくいかない例:資産名だけ貼って「特例が使えるか判定して」と頼むと、AIが独自に金額基準を持ち出して誤った結論を出します。直し方は基準を人間が持ち、AIには集計と分類だけを任せると明示すること。最後の一文がその役割を果たします。

プロンプト2:判定に必要な確認事項を洗い出す

【資産名】(取得価額【金額】円、取得日【日付】)について、
少額減価償却資産の特例を適用してよいか判断するために、
私が社内・顧問税理士に確認すべき事項を、質問文の形で箇条書きにしてください。

観点として、取得価額の判定単位、付随費用の有無、消費税の経理方式、
事業供用日、貸付用かどうか、他の特別償却・税額控除との重複、
償却資産税の申告要否、を必ず含めてください。

結論(適用可否)は書かないでください。確認事項の洗い出しだけをお願いします。

うまくいかない例:観点を指定せずに「確認事項を出して」と頼むと一般論の羅列になります。直し方は観点を先に列挙して渡すこと。観点リストは自社の過去の指摘事項から育てると精度が上がります。

プロンプト3:顧問先・上司への説明文を下書きする

以下の事実関係をもとに、【宛先】向けの説明メールを300字程度で下書きしてください。

・対象資産:【資産名】、取得価額【金額】円、取得日【日付】
・処理方針:【少額減価償却資産の特例を適用/一括償却資産として処理】
・理由:【300万円枠の残り/償却資産税の負担/今期の利益見込み】
・注意点として伝えること:【償却資産税の申告対象に残ること 等】

専門用語は使わず、経理以外の人にも分かる言葉に置き換えてください。
金額や日付は私が入力したものだけを使い、補足の数字を追加しないでください。

うまくいかない例:事実関係を渡さずに「特例の説明文を作って」と頼むと、それらしい数字が勝手に入ります。直し方は使ってよい数字を渡し、それ以外を足さないよう明示すること。最後の一文がハルシネーション対策になります。プロンプトの型を増やしたい方は経理のChatGPTプロンプト集(仕訳の時短例10選)が参考になります。

整理すると、制度の金額・期限・要件は一次情報にあたる。集計・洗い出し・文章化はAIに任せる。この線引きを守るだけで、AIは十分に戦力になります。

ASBJ等の公的情報を参照する会計特化AI のデモです。

士業AI は、この線引きを前提に設計した業務特化のAIチャットです。会計・税務の実務でよく使う指示があらかじめ用意されており、経理スタッフ向けの士業AIでは資産一覧の集計や確認事項の洗い出しといった「下ごしらえ」から始められます。プロンプトをゼロから書き起こす必要がないため、AIに慣れていない担当者でも初日から手を動かせます。ただしどのツールを使う場合でも、数値と期限は一次情報にあたるという原則は変わりません。

まとめ

少額減価償却資産の特例は、令和8年4月1日以後の取得分から40万円未満に拡大し、適用期限も令和11年3月31日まで延びました。同時に対象法人が従業員400人以下に絞られています。判定は決算期ではなく取得等をした日で行うため、期をまたぐ会社では1つの事業年度に2つの基準が混在します。

実務では、10万円未満・20万円未満(一括償却資産)・40万円未満(特例)・それ以上という4ルートを、金額と枠と償却資産税の3点セットで見比べるのが正解です。とくに特例を使った資産は償却資産税の課税対象に残ること、年300万円の枠は期中から管理しないと期末に足りなくなることの2つは今日から仕組みに落としてください。そして金額・期限・要件だけは、改正資料と条文で自分の目で確認する。この一手間が事故を防ぐ最後の砦になります。

参考文献

FREE TRIAL

士業AIで業務を効率化しませんか?

税務・会計・法務の専門業務を AI がアシスト。 まずは無料でお試しいただけます。

無料で試す

クレジットカード不要・数分で開始