少額減価償却資産の特例とは|40万円未満を一括経費にする方法【2026年改正】
「このノートパソコン、1台38万円なんですが、今期の経費で落ちますか?」——期末が近づくと経理担当者が必ず一度は受ける質問です。10万円、20万円、30万円(そして今は40万円)と頭の中にいくつも線が引かれていて、毎回どれが正解か分からなくなる。しかも去年の資料を見ると金額が違っている。迷いの正体は、金額によって使える処理が4つに分かれていて、しかもその境界線が2026年に動いたことにあります。
少額減価償却資産の特例とは?40万円未満を全額その期の経費にできる制度
結論から書きます。中小企業者等の少額減価償却資産の取得価額の損金算入の特例(租税特別措置法67条の5)は、青色申告をしている中小企業者等が、取得価額40万円未満の減価償却資産を、事業に使い始めた期に全額経費(損金)にできる制度です。1年あたりの合計額は300万円が上限で、適用期限は令和11年3月31日までの取得分。個人事業主にも同内容の制度(措置法28条の2)があり、金額基準・上限・人数要件は法人版とそろっています。
減価償却の原則は、資産を使う期間にわたって少しずつ費用にすることです。この特例はそこに例外を作り、お金の動きと費用の計上タイミングを一致させます。期末の利益と納税額をコントロールしやすくなるのが実務上の最大のメリットです。
この記事で分かること
- 「少額資産」と呼ばれる3つの制度(10万円未満・20万円未満・40万円未満)の違いと、消耗品費との関係
- 2026年(令和8年)の改正で何が変わり、どの日を基準に判定するのか
- パソコン・応接セット・ソフトウェアなど、よくある資産の判定例
- 個人事業主の場合の青色申告決算書の書き方と、償却資産申告(固定資産税)での扱い
- 年300万円の上限の管理方法と、AIに聞くときの正しい使い方・そのまま使えるプロンプト
対象は青色申告の中小企業者等(従業員400人以下)
誰でも使えるわけではありません。青色申告書を提出していることが前提で、対象は中小企業者等に限られます。国税庁タックスアンサーNo.5408によれば、常時使用する従業員の数が400人以下の法人が対象で、国税庁が「特定法人」として列挙する法人(資本金1億円超の法人、相互会社、投資法人、特定目的会社など)は300人以下が要件です。個人事業主も400人以下が要件です(租税特別措置法施行令18条の5)。この人数基準は2026年の改正で動いた(改正前は500人以下)ため、前年の資料を流用すると金額ではなく要件のほうを取り違えます。
ここでいう「中小企業者」は、基本的に資本金1億円以下の法人です。ただし、資本金1億円超の大規模法人に発行済株式の2分の1以上を所有されている会社などは外れます。さらに、過去3年の平均所得が15億円を超える「適用除外事業者」や通算法人も対象外です(国税庁タックスアンサーNo.5432・No.5408)。グループ会社や所得規模の大きい会社は、金額判定より先にこちらを確認してください。
中小企業者等かどうかは「取得した日・使い始めた日」で見る
人数などの要件は、原則として資産を取得した日と事業に使い始めた日の現況で判定します。ただし、事業年度終了の日に従業員400人以下(特定法人は300人以下)であれば、その事業年度の中小企業者等に当たる期間に取得して使い始めた資産について特例を使える、とNo.5408に示されています。期中に人員が増減した会社は、取得日ごとの人数を記録に残しておくと安心です。
なお制度上は「使える」だけで「使わなければならない」わけではありません。赤字の期は通常の減価償却で来期以降に費用を残したほうが有利な場面もあり、現場では期末の利益見込みを見ながらどの資産を載せるか選ぶ運用が一般的です。
2026年の改正で何が変わった?30万円未満から40万円未満へ
令和8年度税制改正で、取得価額の基準・対象法人・適用期限の3点が同時に動きました。国税庁「令和8年度法人税関係法令の改正の概要」によれば、令和8年4月1日以後に取得等をする減価償却資産から次のように変わっています。
項目 | 改正前(令和8年3月31日までの取得等) | 改正後(令和8年4月1日以後の取得等) |
|---|---|---|
取得価額基準 | 30万円未満 | 40万円未満 |
対象法人(従業員数) | 500人以下 | 400人以下(特定法人は300人以下) |
適用期限 | 令和8年3月31日まで | 令和11年3月31日まで(3年延長) |
年間の合計上限 | 300万円 | 300万円(据え置き) |
あわせて、中小企業経営強化税制(措置法42条の12の4)の工具・器具備品の取得価額要件も、令和8年4月1日以後の取得等から30万円以上が40万円以上に引き上げられました。40万円という線は、少額の特例の「上限」であると同時に、設備投資の優遇税制の「下限」にもなっています。
判定は決算期ではなく「取得等をした日」
改正資料には「取得等をする日で、取得価額基準及び対象法人について判定」と明記されています。事業年度単位ではありません。そのため3月決算以外の法人では、同じ事業年度に2つの基準が混在します。12月決算の会社なら、令和8年1月〜3月に買った35万円のパソコンは対象外(当時は30万円未満が基準)、4月以降に買った同じパソコンは対象、と分かれます。この期は固定資産の登録簿に「取得日」列を入れ、3月31日で線を引いて集計できる状態にしておくのが安全です。なお年300万円の枠は事業年度単位で見るため、基準が違っても枠は共通です。
少額資産とは?10万円・20万円・40万円の3制度と線引き
「少額資産」は法令上の1つの用語ではなく、金額の小さい減価償却資産を早く費用にできる3つの制度をまとめた実務上の呼び方です。迷いの根本は、金額によって使える処理が4つあり、根拠条文も、経費になるタイミングも、償却資産税の扱いも違うことにあります。
少額減価償却資産(10万円未満)とは
法人税法施行令133条の「少額の減価償却資産」は、取得価額が10万円未満のもの、または使用可能期間が1年未満のものです。事業に使い始めた期に全額を損金経理すれば、その期の損金になります。青色申告である必要はなく、年間の上限もありません。国税庁タックスアンサーNo.5403によれば、「使用可能期間1年未満」は法定耐用年数ではなく、その業種で一般的に消耗品と認識され、実際の使用状況からみて1年未満で使い切るものを指します。
一括償却資産(20万円未満)との違い
取得価額20万円未満の資産は、「一括償却資産」として3年間で均等に費用にする方法も選べます(法人税法施行令133条の2)。法人は「対象額×その事業年度の月数÷36」、個人は毎年3分の1ずつです。青色申告は不要で、年間の上限もありません。
特例(40万円未満)との一番の違いは、費用になるスピードと償却資産税の扱いです。特例はその期に全額を落とせますが、償却資産税の課税対象に残り、年300万円の枠も使います。一括償却資産は3年かかる代わりに、償却資産税の対象外で、枠も消費しません。
消耗品費との違いと勘定科目の付け方
「国税庁のページで、10万円未満なら消耗品費でよいと書いてあるか」という質問もよく受けます。税務上の要件は事業に使い始めた期に損金経理していることで、勘定科目の名前までは決められていません。実務では10万円未満の備品は「消耗品費」「事務用品費」などで処理するのが一般的です。
注意したいのは、特例(10万円以上40万円未満)を使う資産まで「消耗品費」に混ぜてしまうことです。特例を使った資産は、明細書(別表十六(七))への記載と償却資産申告が必要になります。「少額減価償却資産(特例)」のような補助科目を分けておくと、決算と1月の償却資産申告で拾い漏れがなくなります。科目選びに迷う場面全般は勘定科目の逆引き早見表(費目別の判定一覧)も参考になります。
4つの経費化ルートを1枚の表で
取得価額 | 使える処理 | 損金算入のタイミング | 償却資産税(固定資産税) | 主な要件 |
|---|---|---|---|---|
10万円未満 | 少額の減価償却資産(法人税法施行令133条) | 事業供用した期に全額 | 課税対象外 | 損金経理。使用可能期間1年未満のものも同じ扱い |
20万円未満 | 一括償却資産(法人税法施行令133条の2) | 3年間で均等に(一括償却対象額×事業年度の月数÷36) | 課税対象外 | 青色申告は不要。年間の合計上限なし |
40万円未満 | 中小企業者等の少額減価償却資産の特例(措置法67条の5) | 事業供用した期に全額 | 課税対象 | 青色申告・中小企業者等・年300万円上限・別表十六(七)の添付 |
40万円以上 | 通常の減価償却 | 耐用年数にわたって毎期 | 課税対象 | — |
10万円未満と一括償却資産が償却資産税の対象外になるのは、地方税法施行令49条が課税対象から外す資産を法人税法施行令133条1項・133条の2第1項(個人は所得税法施行令138条1項・139条1項)の適用を受けたものに限っているからです。措置法67条の5を使った資産はこの列挙に入っていません。詳しくは後述の「償却資産申告での扱い」で整理します。
迷ったときの判断フロー
- 取得価額を確定する(付随費用を含め、自社の消費税の経理方式に合わせて税込/税抜どちらで判定するかを決める)
- 貸付けの用に供する資産か確認する。主要な事業として行う貸付け以外は、10万円未満・一括償却・特例のいずれも使えない
- 10万円未満、または使用可能期間1年未満なら、迷わず全額費用処理
- 10万円以上20万円未満なら、一括償却資産(3年均等)と特例のどちらが有利かを比較する
- 20万円以上40万円未満なら、特例の要件(青色・中小企業者等・300万円枠の残り)を確認して使う
- 40万円以上なら通常の減価償却。中小企業経営強化税制などの特別償却・税額控除の対象にならないかを別途検討する
20万円未満は「特例」と「3年均等」のどちらが得か
ここが実務の腕の見せどころです。18万円の資産なら、特例を使えば今期に全額落ちますが、償却資産税の対象になり300万円枠も消費します。一括償却資産にすれば今期の損金は3分の1ですが、償却資産税の対象外になり、300万円枠も減りません。枠に余裕がなく償却資産の申告事務も減らしたい会社なら、20万円未満は一括償却資産に寄せて枠を20万円以上40万円未満の資産に温存する。今期の利益を確実に圧縮したい局面なら特例を優先する。枠と税目をセットで見て選ぶのが正しい向き合い方です。
具体例:パソコン・応接セット・ソフトウェアの判定例
判定でつまずくのは、金額そのものより「どの単位で」「何を含めて」数えるかです。国税庁のタックスアンサー(No.5403・No.5408・No.5400)の考え方に沿って、よくある資産を当てはめると次のようになります。いずれも令和8年4月1日以後に取得し、法人が中小企業者等に当たる前提です。
資産 | 判定に使う金額 | 使える処理 | 判定のポイント |
|---|---|---|---|
ノートパソコン 本体38万円(税抜) | 税抜経理なら38万円/税込経理なら41万8千円 | 税抜経理:特例/税込経理:通常の減価償却 | 消費税の経理方式で結論が逆になる |
社員用スマートフォン 1台9万円×5台 | 1台ごとに9万円 | 10万円未満の少額減価償却資産 | 通常1台単位で取引されるため1台ごとに判定 |
応接セット テーブル15万円+椅子4脚(1脚6万円) | 1組で39万円 | 特例 | テーブルと椅子は1組で判定。椅子を1脚ずつ10万円未満とは扱えない |
事務所のカーテン 1部屋3枚(1枚4万円) | 部屋ごとに12万円 | 一括償却資産または特例 | カーテンは部屋単位で判定 |
パッケージソフトウェア 25万円 | 25万円 | 特例 | ソフトウェアなど無形の減価償却資産も対象 |
中古の複合機 30万円 | 30万円 | 特例 | 中古資産も対象 |
業務用機器 本体37万円+据付費4万円 | 41万円 | 通常の減価償却 | 事業に使うために直接かかった費用は取得価額に含める |
他社に貸し出す目的のプロジェクター 15万円(貸付けが主要事業でない会社) | 15万円 | 通常の減価償却 | 主要な事業でない貸付け用の資産は3制度とも対象外 |
表の「特例」は、年300万円の枠が残っていることが前提です。枠を超える分は一括償却資産(20万円未満の場合)か通常の減価償却になります。なお、所有権移転外リース取引で借手が取得したとされる資産も特例の対象になる、とNo.5408に示されています。
特例を使うための要件と手続き|青色申告・年300万円・別表十六(七)
年300万円の上限と、事業年度が1年未満の場合
特例を適用できる取得価額の合計額は、1事業年度あたり300万円が上限です。超える部分は通常の減価償却か一括償却資産で処理します。事業年度が1年に満たない場合は、300万円を12で割って事業年度の月数を掛けた金額が上限になるため、設立初年度や決算期変更をした期は枠が小さくなります(月数は暦に従って数え、1か月未満の端数は1か月とします)。
対象にならない資産と、重複適用の禁止
租税特別措置法施行令39条の28第2項により、法人税法施行令133条(10万円未満)や133条の2(一括償却資産)の適用を受ける資産は、この特例の対象になりません。同じ資産に両方は使えないということです。もう1つ見落とされやすいのが貸付け(主要な事業として行われるものを除く)の用に供した資産の除外で、節税目的で少額資産を買って他社に貸し付ける使い方は封じられています。これは10万円未満の少額資産や一括償却資産でも同じです。さらに、措置法上の特別償却・税額控除・圧縮記帳との重複適用もできないため、設備投資の税制優遇を検討しているならどちらに載せるかを先に決める必要があります。
手続きは「損金経理」+「別表十六(七)の添付」
要件は2つです。帳簿上、費用として処理すること(損金経理)と、確定申告書等に「少額減価償却資産の取得価額に関する明細書(別表十六(七))」を添付すること。この明細書がないと、金額も要件も満たしているのに適用が認められません。実務では期中に「消耗品費」で処理した資産を決算時に洗い出す流れになるため、10万円以上の消耗品費を月次で抽出しておくと決算時に慌てずに済みます。決算整理の全体の流れは決算整理仕訳の一覧と期末チェック表で確認できます。
個人事業主の場合|青色申告決算書への書き方
個人事業主にも同じ内容の特例があります(租税特別措置法28条の2)。国税庁タックスアンサーNo.2100によれば、一定の要件を満たす青色申告者が令和11年3月31日までに取得した10万円以上40万円未満の減価償却資産(令和8年3月31日までの取得分は30万円未満)が対象で、年300万円が上限です。開業した年や廃業した年は、300万円を12で割り、業務を営んでいた月数を掛けた金額が上限になります。
項目 | 個人事業主(措置法28条の2) | 法人(措置法67条の5) |
|---|---|---|
申告の種類 | 青色申告のみ(白色申告は不可) | 青色申告のみ |
人数要件 | 常時使用する従業員400人以下 | 400人以下(特定法人は300人以下) |
上限額が月割りになる場合 | 開業・廃業した年 | 事業年度が1年未満の場合 |
書類 | 青色申告決算書の「減価償却費の計算」欄に記載 | 別表十六(七)を添付 |
青色申告決算書の「減価償却費の計算」欄に書く
特例を使った資産は、青色申告決算書の「減価償却費の計算」欄に1件ずつ記載し、摘要欄に特例を使った旨(「措置法28の2」)を示します。国税庁の確定申告書等作成コーナーでは、「減価償却資産の種類等」で「中小企業者の特例対象資産」を選ぶと摘要欄に「措置法28の2」と自動表示され、1件ずつ入力する仕組みのため、明細書を別に用意する必要はないと案内されています。
令和8年分の申告は「取得日」で30万円と40万円を分ける
個人は暦年で所得を計算するため、令和9年に提出する令和8年分の申告では、1月〜3月に取得した資産は30万円未満、4月以降に取得した資産は40万円未満で判定します。作成コーナーのよくある質問も年分ごとに作られており、令和7年分のページは30万円未満で説明されています。ページの年分と自分が申告する年分が合っているかを確かめてから読むのが安全です。なお、10万円未満の少額資産と一括償却資産(個人は3年間で毎年3分の1ずつ)は白色申告でも使えます。個人事業主の節税策全体は個人事業主の節税10選(効果額と要件の一覧)で比較しています。
償却資産申告での扱い|特例を使った資産は固定資産税の対象に残る
最も事故が多いのがこれです。地方税法施行令49条が償却資産の課税対象から除外しているのは、法人税法施行令133条1項(10万円未満)と133条の2第1項(一括償却資産)、個人の場合は所得税法施行令138条1項・139条1項の適用を受けた資産に限られます。措置法67条の5・28条の2の特例を使った資産は、この除外に含まれていません。法人税の計算上は全額損金になっていても、償却資産の申告書には載せる必要があります。「今期に全部経費にしたのだから資産じゃない」という感覚で申告から漏らすと、後で追徴の対象になります。
法人税・所得税での処理 | 償却資産申告 |
|---|---|
10万円未満を全額費用処理 | 申告不要 |
10万円未満だが資産に計上して減価償却 | 申告対象(除外は全額を費用処理した場合に限られる) |
20万円未満を一括償却資産として処理 | 申告不要 |
40万円未満を特例で全額費用処理 | 申告対象 |
通常の減価償却 | 申告対象 |
償却資産の申告は、毎年1月1日現在の資産について1月31日までに資産の所在地の市町村へ行います(地方税法383条)。課税標準額の合計が150万円未満なら原則として固定資産税はかかりません(同法351条)。免税点に近い場合の申告の要否は、資産の所在地の市町村の案内で確認してください。申告書と種類別明細書の具体的な書き方は償却資産申告書の書き方と種類別明細書の記入例で欄ごとに整理しています。地方税法施行令の条文も一度自分の目で確認しておくことをおすすめします。
経理が実際につまずく4つの落とし穴
(a) 取得価額の判定単位を間違える
40万円未満かどうかは、レシートの合計額ではなく「通常1単位として取引されるその単位ごと」に判定します。国税庁のタックスアンサーNo.5403では、応接セットはテーブルと椅子で1組、カーテンは1つの部屋ごとにその部屋の全体で判定する、と例示されています。椅子1脚ずつに分けて10万円未満に収める処理は通りません。
さらに、引取運賃・据付費・試運転費など事業に使い始めるために直接かかった費用は取得価額に含めます(No.5400)。本体38万円でも据付費が3万円あれば41万円となり特例は使えません。消費税の経理方式も判定額を左右し、税抜経理なら税抜金額、税込経理なら税込金額で判定します。同じ38万円の資産でも、税込経理の会社では41万8千円となって40万円を超えるという逆転が起きます。
(b) 年300万円の枠を期末になってから数える
300万円は思っているより早く埋まります。1台30万円のパソコンなら10台で満枠です。期末にまとめて設備を入れ替える会社では、12月までに枠を使い切っていて3月の購入分が特例に載らない、という事態がよく起きます。
対策はシンプルで、枠の消化状況を月次で更新することです。固定資産の登録簿に「特例適用フラグ」と「累計額」の列を持たせ、月次決算のたびに残枠を確認します。登録簿の列の作り方は固定資産台帳テンプレートの作り方(Excel数式つき)が使えます。残枠が少なくなってきたら、20万円未満の資産を一括償却資産に回して枠を温存する判断ができます。期末3ヶ月前からの動き方は決算対策チェックリストで期末3ヶ月前から打てる手にまとめています。
(c) いったん資産計上したら、翌期に費用処理してもダメ
この特例は、事業に使い始めた事業年度に損金経理することが条件です。No.5403の注記でも、いったん資産に計上したものはその後の事業年度で費用処理しても損金にならない旨が示されています。「今期は赤字だから資産に上げておいて来期に落とそう」は通りません。適用するかどうかは、その資産を使い始めた期に決め切る必要があると理解してください。
(d) 公式の解説ページが改正前のまま、ということが起きる
これは制度そのものではなく、情報の落とし穴です。国税庁のタックスアンサーは各ページ冒頭に「令和◯年◯月◯日現在法令等」という基準日が記載されています。この基準日は改正と同時に更新されるとは限らず、改正直後は前年の基準日のまま残っていることがあります。
実際、この記事の初回執筆時点(2026年8月)では、少額減価償却資産の特例を扱うNo.5408は「令和7年4月1日現在法令等」の表示で、本文は30万円未満・令和8年3月31日まで・従業員500人以下という改正前の内容でした。2026年10月に再確認すると「令和8年4月1日現在法令等」に更新され、40万円未満・令和11年3月31日まで・400人以下に改められています。どちらの時点でも、ページはその基準日時点の内容を正しく示していただけです。
そこで実務作法として2つを習慣にしてください。タックスアンサーを見たら必ず冒頭の「現在法令等」の日付を確認すること。そして直近の改正が絡む論点では、国税庁「令和8年度法人税関係法令の改正の概要」のような改正資料と、e-Govの現行条文にあたること。改正情報の追い方そのものは税法改正の調べ方をAIで最新化する手順で詳しく扱っています。
AIに「いくらまで経費?」と聞くときの注意点と、正しい使い方
AIに断定させてはいけない3つ
「少額減価償却資産の特例はいくらまで?」とAIに聞くと、「30万円未満」と返ってくることがあります。改正前の情報をもとに答えてしまうからです。同じ理由で、適用期限を「令和8年3月31日まで」、従業員要件を「500人以下」と答えることもあります。金額基準・適用期限・人数要件の3つは、AIの回答をそのまま使わない。これを社内ルールにしてください。逆にいえば、それ以外の部分ではAIは十分に役立ちます。
AIが得意なのは「判断の下ごしらえ」
AIに向いているのは答えを出すことではなく、判断に必要な材料を整えることです。資産一覧から枠の消化状況を集計する、確認事項を洗い出す、説明文を下書きする。この3つはそのまま時短になります。
プロンプト1:300万円枠の消化状況を集計する
あなたは【会社名】の経理担当を補助するアシスタントです。
以下は【事業年度】に取得した固定資産の一覧です(取得日/資産名/取得価額/付随費用/事業供用日)。
【ここに資産一覧を貼り付け】
次の形式で整理してください。
1. 取得価額(付随費用込み)を計算し、金額帯(10万円未満/10万円以上20万円未満/20万円以上40万円未満/40万円以上)で分類
2. 20万円以上40万円未満のものについて、取得日順に累計額を出し、300万円に達する資産を明示
3. 累計が300万円を超える資産を「枠外」として別に列挙
4. 判定に必要な情報が足りない資産(事業供用日が空欄など)を最後にまとめる
金額の基準そのものは私が別途確認します。集計と分類だけ行ってください。うまくいかない例:資産名だけ貼って「特例が使えるか判定して」と頼むと、AIが独自に金額基準を持ち出して誤った結論を出します。直し方は基準を人間が持ち、AIには集計と分類だけを任せると明示すること。最後の一文がその役割を果たします。
プロンプト2:判定に必要な確認事項を洗い出す
【資産名】(取得価額【金額】円、取得日【日付】)について、
少額減価償却資産の特例を適用してよいか判断するために、
私が社内・顧問税理士に確認すべき事項を、質問文の形で箇条書きにしてください。
観点として、取得価額の判定単位、付随費用の有無、消費税の経理方式、
事業供用日、貸付用かどうか、他の特別償却・税額控除との重複、
償却資産税の申告要否、を必ず含めてください。
結論(適用可否)は書かないでください。確認事項の洗い出しだけをお願いします。うまくいかない例:観点を指定せずに「確認事項を出して」と頼むと一般論の羅列になります。直し方は観点を先に列挙して渡すこと。観点リストは自社の過去の指摘事項から育てると精度が上がります。
プロンプト3:顧問先・上司への説明文を下書きする
以下の事実関係をもとに、【宛先】向けの説明メールを300字程度で下書きしてください。
・対象資産:【資産名】、取得価額【金額】円、取得日【日付】
・処理方針:【少額減価償却資産の特例を適用/一括償却資産として処理】
・理由:【300万円枠の残り/償却資産税の負担/今期の利益見込み】
・注意点として伝えること:【償却資産税の申告対象に残ること 等】
専門用語は使わず、経理以外の人にも分かる言葉に置き換えてください。
金額や日付は私が入力したものだけを使い、補足の数字を追加しないでください。うまくいかない例:事実関係を渡さずに「特例の説明文を作って」と頼むと、それらしい数字が勝手に入ります。直し方は使ってよい数字を渡し、それ以外を足さないよう明示すること。最後の一文がハルシネーション対策になります。
プロンプト4:消耗品費の中から特例の候補を拾い出す
以下は【期間】の「消耗品費」「事務用品費」の仕訳一覧です(日付/摘要/金額/取引先)。
【ここに仕訳一覧を貼り付け】
次の作業をしてください。
1. 1件の金額が10万円以上のものを抜き出す
2. 同じ日・同じ取引先で、組み合わせて使う物(机と椅子、本体と周辺機器など)を「同一単位の可能性あり」として並べる
3. 資産として登録簿・償却資産申告に載せる必要がありそうなものに印を付ける
適用可否の結論は書かず、私が確認すべき候補の一覧として出してください。うまくいかない例:「10万円以上を抜き出して」だけで頼むと、1点ずつは10万円未満でも1組で判定すべき物を見落とします。直し方は「組み合わせて使う物」を並べる手順を指示に入れること。仕訳まわりのプロンプトを増やしたい方は経理のChatGPTプロンプト集(仕訳の時短例10選)が参考になります。
整理すると、制度の金額・期限・要件は一次情報にあたる。集計・洗い出し・文章化はAIに任せる。この線引きを守るだけで、AIは十分に戦力になります。
士業AI は、この線引きを前提に設計した業務特化のAIチャットです。会計・税務の実務でよく使う指示があらかじめ用意されており、経理スタッフ向けの士業AIでは資産一覧の集計や確認事項の洗い出しといった「下ごしらえ」から始められます。顧問先の固定資産を多く扱う会計事務所の方は、税理士向けの士業AIで改正資料の確認や顧問先への説明文づくりにも使えます。ただしどのツールを使う場合でも、数値と期限は一次情報にあたるという原則は変わりません。
よくある質問(FAQ)
Q. 39万円のパソコンは一括で経費にできますか?
令和8年4月1日以後に取得し、青色申告の中小企業者等で、年300万円の枠が残っていれば、特例で全額をその期の経費にできます。ただし、税込経理の会社では消費税込みの金額で判定するため、税抜39万円なら税込42万9千円となり対象外です。設定費などの付随費用を含めた金額で判定する点にも注意してください。
Q. 令和8年3月に買って4月から使い始めた資産は、30万円と40万円のどちらで判定しますか?
改正資料では「取得等をする日」で判定するとされているため、3月に取得した資産は改正前の30万円未満で判定します。使い始めた日ではなく取得した日が基準です。なお、特例を使えるのは事業に使い始めた期なので、決算をまたぐ場合は使い始めた期で処理します。
Q. 10万円未満の備品を資産に計上して減価償却しています。償却資産税はかかりますか?
課税対象になります。償却資産税の対象から外れるのは、10万円未満の資産について取得価額を全額費用処理した場合(法人税法施行令133条の適用を受けた場合)に限られるためです。資産に計上して耐用年数で償却しているものは、償却資産申告に載せる必要があります。
Q. ソフトウェアや中古品も特例の対象ですか?
対象です。国税庁タックスアンサーNo.5408では、器具備品や機械装置のような有形の資産のほか、ソフトウェア・特許権・商標権などの無形の資産、中古資産、所有権移転外リース取引で取得したとされる資産も対象になると示されています。
Q. 白色申告の個人事業主でも使えますか?
40万円未満の特例は青色申告者だけが対象です。白色申告でも、10万円未満の少額資産の全額経費化と、20万円未満の一括償却資産(3年間で毎年3分の1ずつ)は使えます。
Q. 赤字の期でも特例を使うべきですか?
使うかどうかは選べます。赤字の期に全額を費用にしても税額は減らないため、通常の減価償却で翌期以降に費用を残したほうが有利な場合があります。ただし、いったん資産に計上した資産を翌期に特例で一括費用にすることはできないので、使い始めた期に決める必要があります。
まとめ
少額減価償却資産の特例は、令和8年4月1日以後の取得分から40万円未満に拡大し、適用期限も令和11年3月31日まで延びました。同時に対象法人が従業員400人以下に絞られています。判定は決算期ではなく取得等をした日で行うため、期をまたぐ会社や令和8年分の個人事業主では、1つの期間に2つの基準が混在します。
実務では、10万円未満・20万円未満(一括償却資産)・40万円未満(特例)・それ以上という4ルートを、金額と枠と償却資産税の3点セットで見比べるのが正解です。とくに特例を使った資産は償却資産税の課税対象に残ること、年300万円の枠は期中から管理しないと期末に足りなくなることの2つは今日から仕組みに落としてください。そして金額・期限・要件だけは、改正資料と条文で自分の目で確認する。この一手間が事故を防ぐ最後の砦になります。
参考文献
- 国税庁「令和8年度法人税関係法令の改正の概要」4 主な中小企業税制の見直し(PDF)
- 国税庁 タックスアンサー No.5408 中小企業者等の少額減価償却資産の取得価額の損金算入の特例(2026年10月確認時点で「令和8年4月1日現在法令等」)
- 国税庁 タックスアンサー No.5403 少額の減価償却資産になるかどうかの判定の例示
- 国税庁 タックスアンサー No.5400 減価償却資産の取得価額に含めないことができる付随費用
- 国税庁 タックスアンサー No.5432 措置法上の中小法人及び中小企業者
- 国税庁 タックスアンサー No.2100 減価償却のあらまし(所得税)
- 国税庁 確定申告書等作成コーナー「中小企業者の少額減価償却資産の取得価額の必要経費算入の特例制度とは」(令和7年分)
- 財務省「令和8年度税制改正の大綱」
- e-Gov法令検索 租税特別措置法
- e-Gov法令検索 法人税法施行令
- e-Gov法令検索 地方税法施行令
- e-Gov法令検索 地方税法

