会計×AI

公認会計士の仕事はAIでなくなる?監査の独占業務から見た答え【2026】

「公認会計士の仕事はAIでなくなる」「会計士の仕事はAIに取られる」という見出しを、ここ数年で何度も目にした方は多いはずです。日本公認会計士協会(JICPA)自身も、公式サイトの特集ページで「公認会計士の仕事がAIにとって代わられるといった内容の報道がされています。それは事実なのか」という問いを正面から立てています。

結論から書きます。公認会計士の仕事はなくなりません。ただし「担当する範囲」は確実に動きます。そしてその境界線を決めているのは、AIの性能ではなく制度です。監査という業務は、法律によって公認会計士と監査法人だけに認められた領域であり、監査意見の形成と監査報告書への署名は、AIに渡せる形になっていません。

この記事では、不安を煽って終わらせず、条文と基準という一次情報で「どこまでAIに動かされ、どこから先は動かないのか」を線引きします。

この記事で分かること

  • 「公認会計士の仕事はAIでなくなる」説が、どこまで正しくどこから誤りなのか
  • 監査が公認会計士の独占業務である法的根拠(根拠条文は多くの記事が取り違えています)
  • 「AIに取られる」のは具体的にどの作業で、どこから先は取られないのか
  • 監査意見と署名がAIに置き換わらない、制度上の理由
  • JICPAが公表した研究文書が整理する「AIに代替できる領域/代替が困難な領域」
  • 仕事の消滅より先に来る、見落とされがちな本当のリスク
  • 監査だけでなく、税務・第2条第2項業務・保証業務・サステナビリティ保証・組織内会計士まで含めた業務領域別の代替可否
  • IAASB・米国PCAOBという海外の基準設定主体・規制当局が、AIをどう位置づけているか
  • 公認会計士試験の出題範囲にAI・ITが入るのかどうか(当局の公表資料で確認)
  • 今日から着手できる、実務レベルの備え5つ

なぜ「なくなる」と言われるのか──不安の出どころを分解する

検索上位に並ぶのは、根拠を示さない記事が多い

「公認会計士 AI 仕事なくなる」で検索すると、上位に並ぶのは転職メディアや求人サイトの記事が中心です。実務では、こうした記事の多くが条文にも監査基準にも触れずに結論だけを述べていることが不安を長引かせる原因になっています。「代替される割合は◯割」といった数字が出典なしで流通していることもあります。出典が確認できない数値は、判断材料にしないほうが安全です。

不安を解消する近道は、賛否の意見を読み比べることではなく、制度がどこに壁を置いているかを自分で確認することです。壁の位置が分かれば、動く部分と動かない部分が切り分けられます。

実際にAIが入り込んでいる領域は、すでに具体的

一方で、AIが監査実務に入ってきているのは事実です。JICPAのテクノロジー委員会が2024年8月13日に公表したテクノロジー委員会研究文書第11号「監査におけるAIの利用に関する研究文書」は、想定されるAI監査ツールを次のように整理しています。

分類

ツールの例

主なフェーズ

データの分析

企業の理解及びリスク評価分析

監査計画

データの分析

開示データを用いた不正リスク評価(スコアリング)

監査計画

データの分析

業務プロセスデータを利用した可視化及び異常取引検知

内部統制の評価

データの分析

分析的手続の高度化/取引データを利用した異常取引検知

実証手続

自動化

証憑突合の自動化(OCRとの組合せ)

内部統制の評価・実証手続

自動化

確認の自動化(残高確認の回答と帳簿の自動照合)

実証手続

自動化

開示検証の自動化(前期数値のトレース、本表と注記の整合性)

実証手続

生成AIについても同研究文書は、「監査業務においては、その全てが監査に関する専門的な技術や判断を伴って実施されるものではなく、生成AIによって文書のドラフトを作成し、その後監査人が監査調書として仕上げるといった利用が想定される」と述べ、監査基準や会計基準の該当箇所を提示させる使い方が「既に監査現場での導入が開始又は検討されている」としています。

つまり、手続・証拠の整理・分析の層では、AIは確かに仕事を取りに来ています。調書ドラフトの具体的な作り方は監査調書作成をAIで効率化する実務手順で、往査時の質問対応は監査の質問への回答をAIで下書きする例文集で扱っています。法人という組織単位でどこまで導入が進んでいるかは、監査法人のAI活用事例を当局の公表資料で整理した記事にまとめています。

「AIに取られる」の中身は3つに分かれる

検索窓に「公認会計士 AI に取られる」と入れるとき、頭にあるのは職業単位の漠然とした不安だと思います。ただ公表資料を読むかぎり、取られるものは3つに分かれ、それぞれ答えが違います。

  • 取られるもの=定型作業:サンプル抽出、証憑の機械的な突合、残高確認の照合、議事録や調書の下書き。公認会計士・監査審査会の令和8年版モニタリングレポートも、これらは「AIによる代替が進み、作業時間の削減が図られている」と明記しています。
  • 取られないもの=判断と責任:監査証拠の十分性・適切性の評価、監査意見の形成、監査報告書への署名。次章で条文を確認しますが、ここを人に固定しているのはAIの性能ではなく公認会計士法と内閣府令です。
  • 実際に取られつつあるもの=経験値:判断力を養う入口の下積み作業が先に自動化されます。JICPAの研究文書が懸念しているのはこの点で、本記事で最も重い論点です。

つまり「AIに取られるか」は、職業単位ではイエスともノーとも答えられません。作業は取られ、判断は取られず、経験は取られかけている——この3層に分けた瞬間に、次に打つ手が具体的になります。以下では、この3層を条文・監査基準・当局資料の順に1つずつ裏づけていきます。

制度の壁:監査意見と署名は公認会計士本人にしか出せない

ここからが本題です。監査という業務がどう守られているのかを、条文で確認します。

公認会計士の業務を定めるのは公認会計士法第2条

公認会計士法(昭和23年法律第103号)第2条第1項は、公認会計士の業務をこう定めています。

公認会計士は、他人の求めに応じ報酬を得て、財務書類の監査又は証明をすることを業とする。

そして同条第2項は、第1項の業務のほか「公認会計士の名称を用いて、他人の求めに応じ報酬を得て、財務書類の調製をし、財務に関する調査若しくは立案をし、又は財務に関する相談に応ずることを業とすることができる」と定めています。ただし書きで「他の法律においてその業務を行うことが制限されている事項については、この限りでない」とされている点も見落とせません(税務相談などは税理士法の制限を受けます)。実務ではこの第1項と第2項の性質の違いが決定的に重要です。

独占の根拠は第2条第1項ではなく、第47条の2

ここは多くの解説記事が取り違えている点です。第2条第1項は「業務の定義」であって、それ自体が他人を排除する規定ではありません。独占を成立させているのは第47条の2です。

公認会計士又は監査法人でない者は、法律に定のある場合を除くほか、他人の求めに応じ報酬を得て第二条第一項に規定する業務を営んではならない。

あわせて第48条が「公認会計士でない者は、公認会計士の名称又は公認会計士と誤認させるような名称を使用してはならない」と定め、名称独占を規定しています。第2条第1項の監査・証明は業務独占、第48条は名称独占という二層構造になっており、第2条第2項の調製・調査・立案・相談は業務独占ではありません。

この構造から導かれる帰結は明快です。AIがどれだけ高精度になっても、AIやAIベンダーが報酬を得て財務書類の監査・証明を業として営むことは、第47条の2が正面から禁じています。技術の問題ではなく、法の問題として閉じているのです。

禁止は理念ではなく、罰則付きで書かれている

第47条の2は努力目標ではありません。同法第50条は、公認会計士となる資格を有しない者が第47条の2の規定に違反した場合、当該違反行為をした者を「二年以下の拘禁刑又は二百万円以下の罰金に処する」と定めています(資格を有する者が違反した場合は第54条第2号により百万円以下の過料)。AIサービスが報酬を得て財務書類の監査・証明を業として提供すれば、罰則の対象になるのは提供した側です。

さらに、監査法人という組織形態を取っても執行主体は人のままです。第34条の10の2第1項は、監査法人が行う第2条第1項の業務について「公認会計士である社員のみが業務を執行する権利を有し、義務を負う」と定めています。法人であっても監査を執行できるのは自然人である公認会計士に限られる、という設計です。

監査報告書には「人の署名」が要る

さらに具体的な壁が、財務諸表等の監査証明に関する内閣府令(昭和32年大蔵省令第12号)にあります。同府令第3条第1項は、監査証明は「財務諸表等の監査を実施した公認会計士又は監査法人が作成する監査報告書」により行うと定めています。

そして第4条第1項は、監査報告書について「公認会計士又は監査法人の代表者が作成の年月日を付して署名しなければならない」と規定し、監査法人が作成する場合は代表者に加えて業務執行社員も署名しなければならないとしています。電磁的記録の場合も、第3条第2項が「作成者の署名に代わる措置として、作成者による電子署名」を要求しています。

署名は、責任の所在を人に紐づける仕組みです。AIが下書きを書いても、署名欄に名前が入るのは公認会計士本人であり、その一点で責任構造は動きません。

意見形成の前提にある「職業的懐疑心」

同府令第3条第4項は、企業会計審議会が公表した監査基準・中間監査基準・監査に関する品質管理基準・期中レビュー基準・監査における不正リスク対応基準を「一般に公正妥当と認められる監査に関する基準」に該当するものとしています。つまり企業会計審議会の監査基準は、府令を通じて法的な位置づけを持っています。

その監査基準は「第一 監査の目的」で、監査の目的を「監査人が自ら入手した監査証拠に基づいて判断した結果を意見として表明することにある」と定義しています。「自ら入手した監査証拠に基づいて判断した結果」という文言が、意見表明を監査人の行為として固定しています。

加えて「第二 一般基準」の3は「監査人は、職業的専門家としての正当な注意を払い、懐疑心を保持して監査を行わなければならない」と定め、「第三 実施基準 一 基本原則」の5は「監査人は、職業的専門家としての懐疑心をもって、不正及び誤謬により財務諸表に重要な虚偽の表示がもたらされる可能性に関して評価を行い」と求めています。

さらに「第四 報告基準 一 基本原則」の4は、「監査人は、重要な監査手続を実施できなかったことにより、自己の意見を形成するに足る基礎を得られないときは、意見を表明してはならない」と定めます。意見を出さない判断もまた、監査人にしかできません。

整理すると、線引きはこうなります。

内容

AIの関与

手続・証拠の収集と整理

証憑突合、確認、データ分析、調書ドラフト

関与が拡大中

証拠の十分性・適切性の評価

職業的懐疑心の発揮、リスク評価の結論づけ

監査人の判断(補助にとどまる)

意見の形成と表明

無限定適正意見等の決定、意見不表明の判断

監査人のみ

監査報告書への署名

代表者・業務執行社員の署名/電子署名

不可(人に帰属)

AIが代替できるのは手続、できないのは判断──JICPAの整理

JICPAの研究文書第11号は、この線引きを実務の言葉でも裏づけています。

「責任は軽減されない」という一線

同研究文書は、AIの利用領域が今後拡大するとしたうえで、こう明記しています。

監査人は表明した監査意見に単独で責任を負うものであるため、たとえAIや専門家の業務を利用した場合でも、監査人の責任は軽減されるものではない

AIを使っても責任は薄まらない。この一文が、「AIに任せれば楽になる」という期待と「AIに奪われる」という不安の両方を、同時に打ち消しています。

代替が困難な領域として挙げられているもの

研究文書は「AIによる代替困難な領域」を独立した節で扱い、技術的限界から生じる代替困難性として次の2点を挙げます。

  • AIの信頼性とブラックボックス問題:「信頼性を保証できる範囲でしかAIを利用することはできない」とし、証憑突合のような二者択一の判断なら監査人が根拠を説明できるが、「より複合的な、又は複雑な判断になると、AIがどのような根拠に基づいて判断しているかを監査人が判断理解できない可能性が高い」と指摘しています。説明可能なAI(XAI)が進展しても「AIによる判断結果を最終的に評価する責任が監査人にあり続けることに変わりはない」としています。
  • コミュニケーション能力:監査で行われるコミュニケーションの多くは「対話を通じて監査証拠を入手していくプロセスそのもの」であり、「対話の中で、声音や表情、目の動きなど言語以外の様々な要素から、監査人は何らかの心証を得ている」と述べています。

もうひとつ、実務家として見逃せない指摘があります。研究文書は「証憑突合はAIの代替可能性が高い」という表現の曖昧さを問題にしています。証憑突合を「取引先、日付、金額が帳簿と証憑で一致していることを確認する作業」と定義すればAIに代替させられるが、証憑の出所が被監査会社か第三者か、既存情報との整合性はどうかといった複合的な要因まで含めて定義するなら「その全てをAIが代替することは容易ではないかもしれない」というのです。

ここは、不安を測るうえで実務的にいちばん役に立つ視点です。「その業務がAIに奪われるか」は、その業務をどう定義しているかで答えが変わります。粗く定義するほど代替可能に見え、実際の判断内容まで書き出すほど代替できない部分が残る。自分の担当業務を一度、手順レベルで書き出してみると、不安の輪郭が具体的になります。

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AIでなくなる仕事となくならない仕事──監査の工程単位で切り分ける

「会計士のなくなる仕事は何か」を職業という単位で考えると、答えは出ません。監査は数十の手続の集合体で、AIが入る工程と入らない工程が同じ現場に混在しているからです。ここでは公表資料に書かれている範囲で、工程の名前レベルまで下ろして並べます。

すでにAIへ移りつつある工程

公認会計士・監査審査会が2026年7月に公表した令和8年版モニタリングレポートは、監査現場の実態をこう記述しています。

AIの導入が進展する中、監査サンプルの抽出や帳票の突合せといったデータ加工を要する作業、議事録や監査調書の下書きの作成等、若手会計士が従来担ってきた定型的な業務については、AIによる代替が進み、作業時間の削減が図られている

JICPAの研究文書第11号とあわせると、実際に置き換えが進んでいる工程は次のあたりです。いずれも「答えが一意に決まる作業」か「後から人が仕上げる前提の下書き」である点が共通しています。

  • 母集団からのサンプル抽出(サンプリング=全件を調べる代わりに一部を抜き出して確かめる手続)
  • 証憑突合のうち、取引先・日付・金額が帳簿と一致しているかの機械的な照合(OCRとの組み合わせ)
  • 残高確認の回答と帳簿の自動照合。大手監査法人では確認状の発送・回収そのものを、判断を要しない作業を集約したデリバリーセンターへ移す動きも進んでいます
  • 分析的手続の高度化と、全件データからの異常仕訳・異常取引の検知
  • 開示検証(前期数値のトレース、本表と注記の整合性チェック)
  • 議事録・監査調書のドラフト作成、監査基準・会計基準の該当箇所の抽出

AIに渡らない工程

一方で、次の工程は制度上あるいは実務の性質上、人から離れません。前半で見たとおり、意見形成と署名は公認会計士法と内閣府令が人に固定していますが、それ以外にも渡せない工程があります。

  • 実査・立会(現物や実地棚卸を自分の目で確かめる手続)。物理的に現場へ行く行為そのものが監査証拠になります
  • 経営者・監査役等・現場担当者とのコミュニケーション。研究文書第11号は、監査上の対話は「対話を通じて監査証拠を入手していくプロセスそのもの」であり、声音や表情など言語以外の要素から心証を得ていると指摘しています
  • 不正リスクの評価と結論づけ、継続企業の前提に関する評価
  • 監査証拠の十分性・適切性の評価(集めた証拠で足りるかの判断)
  • 監査意見の形成と、意見を表明しないという判断
  • 監査報告書への署名と、法人内の審査

いちばん多いのは「AIが下書きし、人が仕上げる」グレーゾーン

実務で扱う工程の多くは、この2つのどちらでもなく中間にあります。研究文書第11号も生成AIについて「文書のドラフトを作成し、その後監査人が監査調書として仕上げるといった利用が想定される」としており、完全代替ではなく分業を前提にしています。

この分業を成立させるために、令和8年版モニタリングレポートはAI活用の課題として次の5点を挙げています。どれも「人が仕上げる側で必ず見なければならない箇所」を示したチェックリストとして読めます。

  • データの正確性・適時性・網羅性:インプットが欠ければ誤った出力が生まれる
  • 判断過程のブラックボックス化:深層学習では出力の根拠となる判断過程を説明することが困難になる
  • アルゴリズムバイアス:アルゴリズムや学習データの偏りが出力に出る
  • データの機密性:法人外部のAIを使う場合に内部の機密情報が流出する可能性がある
  • ハルシネーション:もっともらしい出力に誤った内容や不適切な論理が混ざる

同レポートは続けて、AIの利用度を高める監査法人に所属する公認会計士には「AIのアウトプットを鵜呑みにしない」ための一定の知識が要るとしています。つまり奪われるかどうかの分かれ目は、その工程が定型かどうかではなく、出力を検証する側に自分が立てているかです。

業務領域別に見る、AIで代替される部分とされない部分

ここまでは監査を工程単位で分解してきましたが、公認会計士の仕事は監査だけではありません。「AIに取られるか」の答えは、どの領域の話をしているかで大きく変わります。結論を先に書くと、制度で守られている監査ほどAIの侵食は表層で止まり、業務独占のない領域ほどAIとも非会計士とも正面から競合します。ここを混ぜて語ると、不安の大きさを読み違えます。

業務領域

AIへ移りつつある部分

AIに渡らない部分

守っている制度

監査・証明(公認会計士法第2条第1項)

サンプル抽出、機械的な証憑突合、残高確認の照合、分析的手続、開示検証、調書ドラフト

証拠の十分性・適切性の評価、実査・立会、経営者等との対話、監査意見の形成、報告書への署名

公認会計士法第47条の2(業務独占・罰則あり)/監査証明府令第4条(署名)

税務(税理士登録後)

申告書の一次チェック、税制の条文検索、顧問先向け説明文の下書き

税務判断の最終決定、税務代理、顧問先への回答の責任

税理士法第52条(税理士以外は税理士業務を行えない)

財務書類の調製・調査・立案・相談(同法第2条第2項)

資料整理、数値の集計・可視化、レポートの構成案・初稿、リサーチ

前提条件の設定、シナリオの妥当性判断、経営者への説明と合意形成

業務独占なし(AI・非会計士とも直接競合する領域)

保証業務(監査・レビュー以外)

証拠の収集・整理、手続実施結果の記録、基準の該当箇所の抽出

保証の結論の形成、リスク評価、独立性の判断

JICPA保証業務実務指針3000(実務上の枠組み)

合意された手続業務(AUP)

手続そのものの自動化余地が大きい(実施結果の報告が成果物)

手続の設計と依頼者との合意、報告内容の正確性の担保

JICPA専門業務実務指針4400(保証の結論を表明しない業務)

サステナビリティ情報の保証

データ収集・集計、開示案の初稿、GHG算定の下ごしらえ

保証の結論、重要性の判断、基準適合性の評価

制度設計中。監査法人の独占ではない(登録制の予定)

組織内会計士(事業会社・行政機関)

決算作業、資料作成、社内向けQ&Aの下書き

会計方針の決定、監査法人・当局との折衝、経営への説明責任

制度上の独占はなし(専門性そのものが参入障壁)

監査:制度が壁になっているので、AIは「深く」ではなく「広く」入る

監査領域では、AIは手続の効率を上げる方向にしか入れません。前章までに確認したとおり、意見形成と署名は公認会計士法と内閣府令が人に固定しているからです。その結果として起きるのは「監査の仕事が消える」ではなく「1件あたりの手続時間が減り、同じ人数で見られる範囲が広がる」という変化です。監査法人がどこまで実装しているかは、監査法人のAI活用事例を当局の公表資料で整理した記事で確認できます。

第2条第2項業務(調製・調査・立案・相談):ここがいちばんAIの影響を受ける

意外に思われるかもしれませんが、AIの影響がもっとも直接的に出るのは監査ではなく、公認会計士法第2条第2項の業務です。理由は単純で、この領域には業務独占がないからです。財務書類の調製、財務に関する調査・立案・相談は、公認会計士でなくても提供できます。つまり競争相手はAIだけでなく、AIを使いこなす非会計士のプレイヤーでもあります。

裏を返せば、この領域はAIを使う側に回ったときのレバレッジが最も大きい領域でもあります。資料整理と初稿作成をAIに寄せた分だけ、前提条件の設定と経営者への説明に時間を配分できるからです。実務の入口としては、月次決算を5営業日に早期化するAI活用ワークフロー決算書の分析コメントをAIで作成する実務プロンプトがそのまま使えます。

保証業務とAUP:「保証を出すか出さないか」でAIの入り方が変わる

監査・レビュー以外の保証業務については、JICPAが保証業務実務指針3000「監査及びレビュー業務以外の保証業務に関する実務指針」(2017年12月公表、2026年3月18日最終改正)で枠組みを定めています。3000番台には受託業務の内部統制(3402)やプロフォーマ財務情報(3420)に加えて、ブロックチェーン受託業務(3701)や情報セキュリティのTrust(3702)といった技術領域の保証まで揃っています。新しい技術に信頼性を付与する実務指針が先に用意されている、という事実は「AIに仕事を奪われる職業」のイメージとかなり違います。

一方、合意された手続業務(AUP)は性質が異なります。専門業務実務指針4400「合意された手続業務に関する実務指針」は第8項で「合意された手続業務は、監査業務、レビュー業務又は監査及びレビュー業務以外の保証業務ではない。合意された手続業務では、いかなる場合でも、業務実施者が意見又は保証の結論を表明することを目的として、証拠を入手することはない」と明記しています。結論を出さず、合意した手続を実施してその結果を報告する業務なので、手続自体の自動化余地は監査より大きくなります。ここでAIが効くのは省力化であって、価値の源泉は「どの手続を合意するか」の設計側に移ります。

サステナビリティ保証:領域は増えるが、公認会計士の独占ではない

「AIで仕事が減る」議論の反証としてよく挙がるのがサステナビリティ情報の保証です。実際、制度は具体的に動いています。金融審議会「サステナビリティ情報の開示と保証のあり方に関するワーキング・グループ」が2026年1月8日に公表した報告は、SSBJ基準の適用開始を時価総額3兆円以上の企業で2027年3月期とし、第三者保証の導入時期を「それぞれ、SSBJ基準の適用開始時期の翌期」(3兆円以上は2028年3月期、3兆円未満1兆円以上は2029年3月期)としています。JICPAも2026年3月18日にサステナビリティ保証業務実務指針5000を公表し、2027年4月1日以後開始する期間を対象とする保証業務から適用するとしています。

ただし、ここは正確に読む必要があります。同報告は「こうした保証を実施できる者が監査法人であるかどうかにかかわらず保証業務実施者とすることを制度設計の基本的な考え方とする」とし、登録制のもとで監査法人以外の者も登録可能な制度とすることを打ち出しています。つまりサステナビリティ保証は「AIに奪われた分を自動的に埋めてくれる公認会計士の指定席」ではなく、実力で取りにいく市場です。この違いを曖昧にしたまま将来を楽観すると、判断を誤ります。

組織内会計士:人数は増え続けている

監査法人の外へ出る選択肢も広がっています。JICPAの組織内会計士ネットワークの会員数は3,121名(2025年12月末時点)で、うち正会員2,545名の勤務先内訳は上場会社1,240名、非上場会社1,019名、官公庁44名、非営利法人33名、教育機関36名、その他173名です。※これは任意登録のネットワーク会員数であり、組織内会計士の総数を示す公式統計ではない点に注意してください。

公認会計士・監査審査会の令和8年版モニタリングレポートも、「生成AIやデータ分析等のデジタル分野やサステナビリティ情報に係る分野は、公認会計士に幅広い成長機会を提供する分野であり、監査業務や保証業務の魅力向上につながるものと期待される」と記述しています。当局の公表資料が想定しているのは、業務の縮小ではなく領域の拡張です。

海外の基準設定主体・規制当局はAIをどう扱っているか

「日本は遅れているだけで、海外ではAIが監査意見まで出しているのでは」という不安を持つ方もいます。結論として、そうした事実は確認できません。国際的な基準設定主体も米国の監査監督当局も、AIを「監査人の判断を置き換えるもの」としては扱っていません。一次資料で確認します。

IAASB:「AIは監査人の知識と職業的判断の代替ではない」

国際監査・保証基準審議会(IAASB)は、ISA 315(2019年改訂)に関する自動化ツール・技法(ATT)の使用に関する非権威的サポート資料(FAQ)(2020年11月)で、自動化ツール・技法の定義に人工知能と機械学習を明示的に含めたうえで、こう述べています。

As powerful as these tools may be, they are not a substitute for the auditor’s knowledge and professional judgment.(これらのツールがどれほど強力であっても、監査人の知識と職業的判断の代替にはならない)

同FAQはあわせて「監査人は手作業でもATTでも監査手続を設計・実施でき、どちらの技法も有効であり得る。使用するツールや技法にかかわらず、監査人はISAを遵守することが求められる」としています。日本のJICPA研究文書第11号が「AIを利用しても監査人の責任は軽減されない」としているのと、同じ結論です。国内基準の独自事情ではなく、国際的に共通した線引きだと分かります。

IAASBは技術利用を「妨げる」のではなく「促進する」側に立っている

もうひとつ押さえておきたいのは、基準側がAIにブレーキをかけているわけではないという点です。IAASBは2024年9月にテクノロジー・ポジション(The IAASB’s Technology Position)を公表し、8つの行動を掲げています。その中には「基準にある実在の、あるいは認識上の障壁を除去する(Remove Barriers in the Standards, Real or Perceived)」が含まれ、IAASB自身が「新規・改訂基準の開発を通じて、業務および品質管理システムにおける技術の適切な利用を積極的に促進し、適切な場合には奨励することにコミットしている」と述べています。ギャップ分析の対象基準として、ISQM 1、ISA 200、ISA 220(改訂)、ISA 330、ISA 500 が挙げられています。同時に「業務目的の達成に技術の利用が常に必要とは限らない」とも明記しており、小規模事務所に技術導入を強制する設計にはなっていません

監査証拠の定義そのものを見直す議論が進んでいる(ただし未確定)

2026年8月5日、IAASBはISA 330・ISA 500・ISA 520の改訂案を公開草案として公表しました(コメント期限は2026年12月15日)。改訂案には「今日のデジタル環境を反映した監査証拠の定義の改訂」と「監査証拠として利用する情報の関連性・信頼性を評価する要求事項の強化」が含まれ、背景として事業・財務報告・監査における技術利用の拡大と、監査全体を通じた職業的懐疑心の適用強化が挙げられています。

ここは書き方に注意が必要な箇所です。ISA 500(改訂)はまだ公開草案の段階であり、確定した基準ではありません。「監査証拠の定義が変わった」と断定している解説を見かけたら、公表日と文書の種別(公開草案か最終基準か)を確認してください。AIの話題は、確定していない議論が確定事項として流通しやすい領域です。

米国PCAOB:生成AIの利用は「事務・リサーチ中心」で、監査人の責任は移らない

米国の公開会社会計監視委員会(PCAOB)のスタッフは2024年7月、監査および財務報告における生成AIの統合に関するアウトリーチ活動のスタッフ・アップデート(Spotlight)を公表しました。発行会社の時価総額の過半を監査する監査法人群への聞き取りに基づく内容で、要点は次のとおりです。

  • 監査における生成AIの利用は初期段階だが急速に進化しており、現時点では主に事務的活動とリサーチに集中している
  • 監査法人各社は、生成AIは監査や財務報告において人間を補完するが置き換えるものではないと見ており、「生成AI搭載ツールを使用した業務チームのメンバーは、依然としてその作業結果と文書化に責任を負う」と述べている
  • 生成AIの支援を受けた作業をレビューする上位者には、生成AIを使わない場合と同じ水準の注意が期待される
  • 生成AIの出力は「ハルシネーション」や偏りを含み得るため、常に信頼できるとは限らない
  • データプライバシー等の懸念から、監査・証明手続における生成AIの使用を現時点で認めていない監査法人もある
  • 各社は、PCAOBの監査基準が生成AIの開発・利用の妨げになっているとは現時点で見ていない

この文書は表紙で「PCAOBスタッフの見解であり、必ずしも理事会の見解ではない。規則・方針・理事会声明ではない」と明記しています。「PCAOBがAI監査を規制した」ではなく「PCAOBスタッフの聞き取り調査でこう観察された」と読むのが正確です。

いま国際的に議論されているのは「禁止」ではなく「一貫性」

IAASBは2026年2月、2025年後半に開催したテクノロジーと品質管理に関するラウンドテーブルの結果を公表しました。6大陸から240名超の監査人・規制当局・基準設定主体・技術専門家が参加し、「監査・保証におけるAIの利用が急速に拡大している今、ステークホルダーはグローバルな一貫性と実務的な明確さが重要だと明確に述べた」と整理されています。参加者の総意として、既存の品質管理基準(ISQM 1、ISA 220(改訂))が技術関連リスクを管理するための強固な基盤を提供しているという点が確認されました。

つまり国際的な論点は「AIを使ってよいか」ではなく、「使ったことをどう品質管理の枠組みに乗せるか」に移っています。これは日本の令和8年版モニタリングレポートが「AI等による重要な意思決定のチェックポイントに監査責任者を関与させることで、人間主導の監査を確実に担保していく必要がある」としているのと同じ方向です。海外が先に人間の判断を捨てている、という事実は確認できませんでした。

見落とされがちな本当のリスク:消滅ではなく「育ち方」の変化

下積み作業がAIに移ると、何が起きるか

研究文書は、理化学研究所の研究報告書「AI等のテクノロジーの進化が公認会計士業務に及ぼす影響」を引きながら、監査チームの「主査」と「補助者」の業務を「AIによる代替可能性」と「昇進への重要度」の2軸で分析した結果に触れています。そこで示されたのは、補助者においては、AIによる代替可能性が高いとみられる証憑突合の業務が、人事評価上も一定程度重要であるという結果でした。

研究文書はこれを受けて、「AIに代替可能な『下積み作業』であっても、専門家としての経験を積み、十分な判断力を備えるために必要なのではないか」と述べています。

つまり本当のリスクは、公認会計士という職業が消えることではありません。判断力を養う入口の作業が先に自動化され、判断できる人がどう育つのかという問題が先に来る、ということです。これは若手ほど直視すべき論点で、「AIに仕事を取られる」より「AIに経験値を取られる」と言い換えたほうが実態に近いと考えられます。

基準が追いついていないことによる、二重手続の負担

もうひとつ現場で効いてくるのが、基準側の未整備です。研究文書は、現行の監査基準等においてAI監査ツールを活用した場合の取扱いが明確に定められていないため、「AI監査ツールを活用しながらも、監査人は監査基準等の要求事項を満たすために従来からの手続も並行して実施する必要が生じ、かえって効率的な監査の実施を阻害してしまう可能性がある」と指摘しています。監査基準報告書315が「自動化されたツール」に言及しているものの限定的で、生成AIに必ずしも触れたものになっていないことにも触れています。

制度側も動き始めています。JICPAは2026年3月18日に法規・制度委員会研究報告第1号「監査及びレビュー等の契約書の作成例」の改正を承認し、AI(生成AIを含む)を利用したアプリケーションやツールが財務諸表等や内部統制報告書に直接・間接に重要な影響を及ぼす可能性を踏まえて、委嘱者の責任に関するAI条項の解説と文例を追加しました。被監査会社側のAI利用を契約段階で扱うという発想であり、監査人が向き合う対象が「自分が使うAI」から「相手が使っているAI」へ広がりつつあることを示しています。

年収・キャリアはAIでどうなるのか──公的データで確認できる範囲

「会計士は年収が下がるのか」「これから目指して大丈夫か」という不安は、AIの議論と必ずセットで出てきます。ここは推測が混ざりやすい領域なので、公的統計で確認できることと、確認できなかったことを分けて書きます。

いま確認できる年収の水準

厚生労働省の令和7年賃金構造基本統計調査は、職種小分類として「公認会計士,税理士」という区分を持っています。同調査の職種別データ(企業規模計10人以上・産業計)の実数値は次のとおりです。

区分

平均年齢

きまって支給する現金給与額(月)

年間賞与その他特別給与額

男女計

42.2歳

571.3千円

1,252.5千円

41.5歳

597.7千円

1,338.7千円

44.0歳

492.8千円

996.2千円

読むときの注意が3つあります。第一に、この区分は公認会計士と税理士を合算したもので、公認会計士だけを切り出した数値ではありません。第二に、調査は年収そのものを公表していません。月額(きまって支給する現金給与額)と年間賞与を別に示すだけなので、男女計を単純に12倍して賞与を足した約810万円という数字は本記事による概算であり、公表値ではありません。第三に、月額は調査対象月の実額なので、繁忙期の残業の乗り方によって前後します。元データはe-Statの職種別第1表(Excel)で確認できます。

なお、公認会計士単独の平均年収を示す公的統計は、今回確認した範囲では見つけられませんでした。転職メディアが出す「公認会計士の平均年収」は独自集計であることが多く、公的統計と同じ精度では扱えません。

「AIで年収が下がる」は、公表資料からは確認できませんでした

むしろ公表されているのは逆向きの動きです。令和8年版モニタリングレポートは、大手監査法人が若手会計士の定着を図るため「キャリアパスの柔軟化、パートナーへの昇進期間の短縮、退職者の監査業務への復帰を含む多彩なキャリア採用の実施、給与水準の引上げといった人事施策を講じてきている」とし、その結果として「近年では大手監査法人において、マネージャー層やスタッフ層の離職率が低下傾向にある」と記述しています。

AIの導入によって公認会計士の報酬水準が下がったことを示す公的なデータは、現時点では確認できませんでした。将来を断定する材料も同様にありません。年収を語る記事を読むときは、出典が公的統計なのか独自集計なのかをまず見てください。

AIが実際に変えているのは「下積みの長さ」

同レポートは、AIによる定型業務の代替によって「いわゆる下積み期間が短縮され、公認会計士は、AIによる作業結果をいかに判断・活用するかといった、より高度な業務に多くの時間を割くことが可能となっている」とし、大手監査法人が「AIが自律的に作業を行うエージェントAIを監査システムに導入し始めて」いることにも触れています。

ここは読み方に注意が要ります。前節で見たJICPAの研究文書は、下積み作業が判断力を養うために必要ではないかと懸念を示していました。監督当局側のレポートは、下積みが短縮されて本質的な業務に早期から携われるという肯定的な整理をしています。同じ現象を、リスクとして見るか機会として見るかで公表資料の評価が分かれているのが2026年時点の実態です。どちらが正しいと断定できる材料はありません。

実務的な含意ははっきりしています。下積みが短くなる分、判断の練習を意識的に取りに行く必要がある、ということです。AIが出した結果に対して「なぜこの結論になるのか」「この証拠で足りるのか」を毎回言語化する習慣が、そのまま経験値の代替になります。

人数の動きは「なくなる職業」の形をしていない

職業が消えつつあるなら、人数は減るはずです。実際の数字は逆を示しています。

  • 公認会計士登録者数は平成25年3月末の24,964人から令和8年3月末の37,715人へ増加(増加率51.1%)。一方で監査法人所属者数は12,799人から14,915人(増加率16.5%)にとどまり、会計士は増えているが監査法人の外へ広がっていることが分かります(令和8年版モニタリングレポート)
  • JICPAの「組織内会計士ネットワーク」で、監査法人・税理士法人等を除く会社・その他法人・行政機関に勤務する登録者は平成28年末の1,377人から令和7年末の2,545人へ、9年で約1.8倍
  • 日本公認会計士協会の会員数等調によれば、2026年7月31日現在の公認会計士は38,264人、準会員を含む総計は46,328人
  • 令和7年公認会計士試験の出願者数は22,056人(前年21,573人)、最終合格者数は1,636人(前年比33人増)、最終合格率7.4%、合格者の平均年齢は24.6歳

受験者も合格者も減っていません。むしろ当局側が課題として挙げているのは、監査法人に人が集まりにくいという人手不足の側です。AIに仕事を奪われる前提の議論と、公表資料が示す実態にはかなりの距離があります。

公認会計士試験はAIでどう変わるのか──「これから目指すのは不利か」への答え

受験生・受験を検討している方にとって、いちばん切実なのはここだと思います。これも推測ではなく、公認会計士・監査審査会(CPAAOB)の公表資料で確認します。

現行の出題範囲には、ITもAIも項目として入っていない

意外に思われるかもしれませんが、令和9年公認会計士試験の出題範囲の要旨(令和8年6月19日公表)を通読しても、「情報技術」「IT」「AI」といった語は出題項目として見当たりません。監査論の出題項目は「財務情報等に係る保証業務(保証業務の意義/保証業務の要素)」で終わっており、IT監査・IT統制を独立した項目として掲げてはいません。経営学にも技術経営(MOT)はありますが、ITやデータ分析の項目はありません。AIが実務を変えつつある一方で、試験の出題範囲はまだ追いついていない、というのが2026年時点の事実です。

ただし当局は「ITの出題を検討する必要がある」と明記している

CPAAOBが令和7年6月12日に公表した「公認会計士試験のバランス調整について」は、次のように述べています。

監査の実務において、監査手続でのITの活用が進んでいるほか、被監査会社での業務のDX化が進む中でIT統制への理解がこれまで以上に求められるようになるなど、公認会計士の業務とITの関わりが増えている。…公認会計士試験においても、公認会計士の業務との関係でITの活用に関する出題について検討する必要がある

同資料は前提として「新試験導入から約20年が経過する中で、監査の品質管理の強化が求められると同時に、監査業務におけるITの活用やサステナビリティ情報の開示・保証の導入に向けた動きが見られるなど、公認会計士を取り巻く状況が変化しており、それに伴い、公認会計士や公認会計士試験の合格者に求められる知識や能力も拡大していると考えられる」とし、選択科目についても「監査業務においてITやデータの活用が進む中で統計学の知識も重要となっている」と触れています。出題範囲に入っていないのは「不要だから」ではなく「検討中だから」という位置づけです。

関連する動きとして、CPAAOBは令和7年12月16日に公認会計士試験における英語による出題を公表し、令和9年第Ⅰ回短答式試験から英語による出題を行うとしています。試験制度自体は、AIやグローバル化を織り込む方向で動いています。

受験者数は減っていない(令和8年の公式数値)

「AIで食えなくなるなら受験者は減るはず」という仮説も、数字で確認できます。CPAAOBが令和8年7月3日に公表した令和8年公認会計士試験の受験状況によれば、出願者数(名寄せ後)は22,657人で、令和7年の22,056人、令和6年の21,573人から3年連続で増えています。短答式合格者は2,520人(第Ⅰ回1,525人・第Ⅱ回995人)、論文式試験の受験予定者は5,057人でした。※令和8年の最終合格発表は令和8年11月予定のため、本記事の執筆時点では最終合格者数・合格率は公表されていません。

CPAAOBの令和7年度版年次報告も「監査業務におけるテクノロジー・AIの活用が急速に進展し、監査手法が高度化・多様化してきている」と記述したうえで、公認会計士の登録者数が「約1万6千人(平成18年3月末)から約3万6千人(令和7年3月末)へと2倍以上に増加」した一方、監査法人に所属する公認会計士の数は最近10年程度で概ね横ばいだとしています。減っているのは受験者ではなく、監査法人に残る人の比率のほうです。

受験生・若手が今から差をつけられるところ

試験の出題範囲にITが入っていないということは、試験勉強だけでは身につかない領域が実務で先に求められるということでもあります。合格後に差がつくのは、次のような部分です。

  • データの正確性・網羅性を自分の手続として確認できるか(既存の監査の基本動作をAI活用に適用するだけです)
  • AIの出力を一次資料に突き合わせ、確認した資料名と日付を調書に残す手順を型にできるか
  • 統計・データ分析の基礎(バランス調整でも重要性が指摘されています)
  • 英語(令和9年第Ⅰ回短答式から出題。国際基準の一次資料を自分で読めることが実務でも効きます)

試験制度が変わるのを待つ必要はありません。在学中・受験期からAIを「答えを出してもらう道具」ではなく「下書きを検証する練習台」として使っておくと、入所後の立ち上がりが変わります。

今日から取れる備え──抽象論ではなく実務レベルで

1. AIに任せる業務を「定義」してから任せる

研究文書が指摘するとおり、代替可能性の議論は業務定義の粒度で結論が変わります。「証憑突合をAIにやらせる」ではなく、「取引先・日付・金額の3項目一致確認をAIに、証憑の出所と既存情報との整合性判断は自分に」と分解して割り当てます。この分解表を作るだけで、AI導入の議論が精神論から抜け出します。

2. インプットデータの信頼性を、自分の手続として評価する

研究文書は今後の会計士に求められるスキルとして「データの信頼性の評価」を挙げ、「監査人が基本動作として実施しているデータの正確性・網羅性の確認といった手続が、AI活用においても求められる」としています。AIに渡す前のデータについて、出所・期間・欠損・重複を確認した記録を残す。これは新しいスキルではなく、既存スキルの適用先を広げる作業です。

3. 出力を「監査証拠」に変える一手間を型にする

生成AIの出力はそのままでは監査証拠になりません。研究文書も「AIの出力結果を鵜呑みにせず『十分かつ適切な監査証拠が得られているか』という観点で監査人が吟味・判断することが不可欠である」と述べ、ハルシネーションへの対応の必要性に触れています。実務では、AI出力を必ず一次資料に突き合わせ、確認した資料名と日付を調書に残すという手順を型として固定するのが最も確実です。基準や会計処理の根拠をAIに提示させた場合は、提示された基準番号を原典で開いて確認するところまでを一続きの手順にします。

4. 監査以外の領域=第2条第2項業務とAI保証を視野に入れる

公認会計士法第2条第2項の業務(財務書類の調製、財務に関する調査・立案・相談)は業務独占ではありませんが、公認会計士の専門性が効く領域です。月次・決算周りの提供価値を上げたい場合は、月次決算を5営業日に早期化するAI活用ワークフロー決算書の分析コメントをAIで作成する実務プロンプト内部統制3点セットをAIで下書きする手順が具体的な出発点になります。

さらに研究文書は「AIに関連する保証」という新領域を提示し、公認会計士・監査法人が独立性と専門性の2点から貢献できると述べています。AIに関連する内部統制の有効性や、予測精度・公平性に関する指標が保証対象になり得るとし、「長年、情報に信頼性を付与する役割を担ってきた公認会計士は、AIに関連する保証の分野においてもその役割を担っていくことが考えられる」としています。仕事が減る話ではなく、保証対象が広がる話がすでに公式文書に書かれている、ということです。

5. 事務所の情報管理ルールを、使い始める前に決める

被監査会社から入手したデータをAIに投入する場面では、機密性と個人情報保護の観点から高度なデータ管理が求められます。ツール選定より先に「どのデータをどのツールに入れてよいか」の線引きを文書化するほうが、後戻りが少なくなります。判断基準は会計事務所のセキュリティ×AIの選び方士業事務所の情報漏洩対策7手順にまとめています。

他士業でも同じ構造が起きている

「制度が守っている領域と、AIが入る領域が別の層にある」という構造は、公認会計士に限りません。税理士の仕事はAIに奪われるのかを検証した記事社労士はAIでなくなるのかを整理した記事でも、同じ論点を職種ごとの根拠法に沿って扱っています。読み比べると、自分の職種の壁がどこにあるかがより立体的に見えてきます。

公認会計士と税理士の違い──守られ方も、AIの当たり方も違う

AIの影響を調べていると、公認会計士と税理士の違いが分からなくなる場面があります。どちらも会計・税務を扱いますが、根拠法も独占の作られ方も別物で、その違いがそのままAIの当たり方の違いになります。

根拠法と独占業務の違い

項目

公認会計士

税理士

根拠法

公認会計士法(昭和23年法律第103号)

税理士法(昭和26年法律第237号)

中心となる業務

財務書類の監査又は証明(第2条第1項)

税務代理・税務書類の作成・税務相談(第2条第1項)

誰のために働くか

財務諸表の利用者(投資家等)。被監査会社から独立した立場

依頼者(納税者)。依頼者の側に立つ

業務独占の規定

第47条の2(公認会計士・監査法人以外は業として営めない)

第52条(税理士・税理士法人以外は税理士業務を行ってはならない)

名称独占の規定

第48条

第53条

構造は似ています。どちらも「業務独占+名称独占」の二層で守られており、AIやAIベンダーが報酬を得てその業務を営むことは法律が正面から禁じています。違うのは立場です。監査は独立した第三者として意見を出す仕事で、税務は依頼者の側に立って代理する仕事です。この立場の違いが、AIに任せられる範囲の違いを生みます。

公認会計士は税理士になれるが、研修の修了が要る

税理士法第3条第1項第4号は、公認会計士を税理士となる資格を有する者として挙げています。ただし同条第3項が、対象となる公認会計士を「公認会計士法第16条第1項に規定する実務補習団体等が実施する研修のうち、財務省令で定める税法に関する研修を修了した公認会計士」に限定しています。つまり資格を持っているだけで自動的に税理士業務ができるわけではなく、税法に関する所定の研修の修了が前提です。「会計士は税理士も兼ねられる」と一言で語られがちな部分ですが、条文上は条件付きです。

AIの当たり方が違う理由

監査の側は、前半で見たとおり意見形成と署名という一点で人に固定されています。AIがどれだけ手続を担っても、最後に「適正である」と述べる主体は動きません。

税務の側は少し様相が違います。申告書の作成や相談の下書きは、AIが関与しやすい形をしています。しかし税務代理・税務書類の作成・税務相談を報酬を得て業として行うことは税理士法第52条が制限しており、AIが顧問先に直接答えて完結する形は制度上成立しません。加えて税務は法令改正の頻度が高く、AIが古い税率や廃止された特例を答えるリスクが監査より大きいという実務上の違いもあります。

職種ごとの詳細は、税理士の仕事はAIに奪われるのかを検証した記事税理士のためのAI活用完全ガイドで扱っています。会計事務所で税務も担当している方は、あわせて読むと自分の担当業務ごとの線引きがしやすくなります。

よくある質問

「公認会計士の仕事はAIに取られる」という言い方は正しいですか

作業単位では正しく、職業単位では正しくありません。サンプル抽出・機械的な証憑突合・残高確認の照合・調書や議事録の下書きはAIへ移りつつあります(令和8年版モニタリングレポート)。一方で監査意見の形成と監査報告書への署名は、公認会計士法と財務諸表等の監査証明に関する内閣府令が人に固定しており、AIが主体になる形は制度上ありません。実務で先に効いてくるのは「仕事を取られる」よりも「判断を練習する機会を取られる」という変化です。

AIが監査意見を出すことは、将来的にもあり得ませんか

現行制度のもとでは、監査証明は公認会計士または監査法人が作成する監査報告書によって行われ、その報告書には代表者(監査法人の場合は業務執行社員も)の署名が求められます。制度が変わらない限り、AIが監査意見の主体になることはありません。制度改正の議論は将来あり得ますが、現時点で確定した予定として語れる材料はないため、時期を断定する情報には注意してください。

AIを使ったら、監査の責任は軽くなりますか

軽くなりません。JICPAの研究文書は「監査人は表明した監査意見に単独で責任を負うものであるため、たとえAIや専門家の業務を利用した場合でも、監査人の責任は軽減されるものではない」と明記しています。

これから公認会計士を目指すのは不利ですか

研究文書は「AIの導入により会計士が不要になることはないが、AIの活用を通じて会計士も進化する必要がある」としています。ただし前述のとおり、判断力を養う入口の作業が自動化されやすいという構造はあるため、AIリテラシー、データの信頼性評価、専門家との協業といったスキルを早い段階から意識するかどうかで差がつく可能性はあります。

中小監査事務所でもAIは使えますか

研究文書はAI監査ツールの開発が大手監査法人中心である現状に触れ、中小監査事務所における対応を課題として独立に扱っています。監査特化のAIツールの導入が難しくても、生成AIによる文書ドラフト作成のように「監査手続や判断そのものではなく、補助的な利用」であれば導入可能な領域は広いと同研究文書は述べています。まずは判断を伴わない領域から始めるのが現実的です。

海外ではAIによる監査の自動化がもっと進んでいるのではありませんか

公表されている一次資料からは確認できません。IAASBはISA 315関連のFAQで「これらのツールがどれほど強力であっても、監査人の知識と職業的判断の代替にはならない」と明記しており、PCAOBスタッフの2024年7月のSpotlightも、監査における生成AIの利用は初期段階で主に事務的活動とリサーチに集中していると報告しています。データプライバシー等の懸念から、監査手続での生成AI利用を認めていない監査法人があることも記載されています。

公認会計士試験にAIやITの問題は出ますか

令和9年試験の出題範囲の要旨を確認した限り、ITやAIは出題項目として掲げられていません。ただし公認会計士・監査審査会は「公認会計士試験においても、公認会計士の業務との関係でITの活用に関する出題について検討する必要がある」と明記しており、今後変わる可能性はあります。直近の確定した変更としては、令和9年第Ⅰ回短答式試験からの英語による出題があります。

まとめ:壁の位置を知れば、不安は計画に変わる

「公認会計士の仕事はAIでなくなる」という問いへの答えを、もう一度整理します。

  • 監査・証明は公認会計士法第2条第1項が定める業務で、第47条の2により公認会計士・監査法人以外は業として営めません(第48条は名称独占)
  • 監査証明は監査報告書によって行われ、府令により人の署名が要求されます
  • 監査基準は監査の目的を「監査人が自ら入手した監査証拠に基づいて判断した結果を意見として表明すること」と定め、職業的懐疑心の保持を求めています
  • AIが伸ばせるのは手続・証拠の整理・分析の層。意見形成と署名の層は制度上動きません
  • むしろ実務上の課題は、判断力を養う入口の作業が先に自動化されることと、基準側の未整備による二重手続です
  • 工程単位で見ると、サンプル抽出・機械的な突合・残高確認の照合・調書ドラフトはAIへ、実査・立会・対話・結論づけ・署名は人に残ります
  • 年収については、公認会計士単独の公的統計は確認できませんでした。AIで報酬が下がったことを示す公的データも確認できず、公表資料はむしろ大手監査法人の給与水準引上げと離職率の低下傾向を記述しています
  • 業務領域別に見ると、AIの影響が最も直接的に出るのは監査ではなく、業務独占のない第2条第2項業務(調製・調査・立案・相談)です
  • IAASBは「AIは監査人の知識と職業的判断の代替にはならない」と明記し、PCAOBスタッフの調査でも生成AIの利用は事務・リサーチ中心と報告されています
  • 公認会計士試験の出題範囲にITやAIはまだ入っていませんが、当局は出題の検討が必要と明記しており、出願者数は3年連続で増加しています

やるべきことは、AIを避けることでも怖がることでもなく、任せる範囲を自分で定義し、出力を検証する手順を型にすることです。それができている会計士から順に、AIは脅威ではなく戦力になります。

士業AI は、会計・税務・法務といった士業の業務文書に合わせてチューニングした日本語特化のAIチャットサービスです。会計AI は仕訳支援・月次決算・財務分析の補助を、業務効率化AI は文書要約や議事録といった共通業務を担います。クレジットカード不要・メール登録のみで、数分で試せます。公認会計士・監査法人向けの機能と使いどころは公認会計士向けのサービスページにまとめています。

ASBJ等の公的情報を参照する会計特化AI のデモです。

まずは手元の一手続をAIに任せてみて、「どこまでが下書きで、どこからが自分の判断か」の線を実際に引いてみてください。その線引きの感覚こそが、これからの公認会計士にとっての実力になります。

参考文献

※ 本記事で引用した公認会計士法(昭和23年法律第103号)、税理士法(昭和26年法律第237号)および財務諸表等の監査証明に関する内閣府令(昭和32年大蔵省令第12号)の条文は、e-Gov法令検索の法令APIから条文本文を取得して照合しています。条文は改正されることがあるため、実務判断の際は必ず最新の法令原文をご確認ください。

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