業務効率化

電子帳簿保存法をわかりやすく|経理の対応チェックリスト【2026年】

電子帳簿保存法は、3つの制度のうち「電子取引データ保存」だけが法人・個人事業者に対応が必要な義務で、残りの2つ(電子帳簿等保存・スキャナ保存)は希望者だけが使える任意の制度です。つまり経理担当者がまず判断すべきことは1つ、「メールやWebで受け取った請求書・領収書のデータを、法律のルールどおりに保存できているか」だけです。

この記事では、条文ではなく自社が何をすればいいのかを、国税庁の公表資料に沿って業務の言葉で整理します。専用システムを買わずに対応する方法から、間に合わないときの猶予措置まで、そのまま社内説明に使える形にしました。

この記事で分かること

  • 電子帳簿保存法の3つの制度のうち、対応が必要なのはどれか
  • 自社の取引が「電子取引」に当たるかの判定と、見落としやすいデータ
  • 電子取引データ保存の3つのルールと、専用システムなしで満たす方法
  • ルールに間に合わないときの猶予措置(事前の届出は不要)
  • 2026年時点で押さえておきたい新しい制度(デジタルシームレス保存・青色申告特別控除75万円)
  • 経理担当者向けの対応チェックリストと、よくある勘違い

電子帳簿保存法とは?義務なのは3つのうち1つだけ

電子帳簿保存法は、税法上保存が必要な「帳簿」や「領収書・請求書・決算書など(国税関係書類)」を、紙ではなく電子データで保存することに関するルールを定めた法律です。国税庁はこの制度を大きく3つの区分に分けて説明しています。

区分

対象

対応の要否

①電子帳簿等保存

会計ソフト等で作成した帳簿・書類

希望者のみ(任意)

②スキャナ保存

紙で受け取った請求書・領収書をスキャンしたデータ

希望者のみ(任意)

③電子取引データ保存

メールやWebで授受した請求書・領収書などのデータ

法人・個人事業者は対応が必要

①電子帳簿等保存 ─ 印刷しなくてよくなる制度

会計ソフトなどパソコンで作成した仕訳帳・総勘定元帳を、印刷せずにデータのまま保存してよい、という制度です。あくまで「してもよい」であって、紙で保存を続けても違反にはなりません。訂正・削除の履歴が残るなど一定の要件を満たすと「優良な電子帳簿」となり、過少申告加算税が原則10%から5%に軽減される優遇があります。

②スキャナ保存 ─ 紙の原本を捨てられる制度

取引先から紙で受け取った請求書や領収書をスキャンし、データで保存する制度です。これも任意で、使わない場合は紙のまま保管しておけば問題ありません。「スキャナ保存に対応していないと違法」という誤解が現場では非常に多いところです。

③電子取引データ保存 ─ ここだけが義務

取引に関して、書面でやり取りしていた場合に保存が必要な書類(注文書・契約書・送り状・領収書・見積書・請求書など)に相当するデータを受領または交付した場合、そのデータの電子保存が義務付けられています。紙に印刷して保存する代わりにする、という扱いは認められません(2023年12月31日までの経過的な取扱いは終了しています)。

自社は対応が必要?「電子取引」に当たるかを判定する

実務での第一歩は、要件を覚えることではなく自社にどんな電子取引があるかを洗い出すことです。国税庁は電子取引として、EDI取引、インターネット等による取引、電子メールで取引情報を授受する取引(添付ファイルを含む)、インターネット上のサイトを通じて取引情報を授受する取引を挙げています。

見落としやすい電子取引データ

請求書だけを気にしていると漏れます。国税庁のチェックシートは、次のようなものも電子取引に該当すると明示しています。

  • 取引先からメール・EDI・クラウドで受領した見積書・納品書・請求書
  • ECサイトで購入した商品の請求書・領収書(購入履歴画面からダウンロードするもの)
  • インターネット上でしか確認できないクレジットカードの利用明細
  • インターネット上でしか確認できないネットバンキングの取引明細
  • Web明細に切り替えた水道光熱費・通信費の明細

現場でつまずくのは、たいてい「経理部門を経由しないデータ」です。営業担当者の個人メールに届いた注文請書、現場担当者がECサイトで買った消耗品の領収書、総務が管理しているWeb明細。部署ごとに「誰が・どこで・どんなデータを受け取っているか」を1枚の表にするところから始めると、抜けが出にくくなります。

紙で受け取った書類は電子化しなくてよい

郵送やFAXで紙のまま届いた請求書は、電子取引ではありません。紙のままファイリングして保管すれば足ります。電子で受け取ったものは電子で、紙で受け取ったものは紙で。この原則を押さえておけば、保存方法の判断はほとんど迷いません。

もっとも、紙とデータが混在すると探すのに時間がかかるため、任意のスキャナ保存を使って紙も含めて一元化する事務所・企業も増えています。文書の電子化を全体設計から進めたい場合は、ペーパーレス化のはじめ方と文書スキャン・電子化の実務で手順を整理しています。

電子取引データ保存の3つのルール

国税庁は原則的な保存ルールを3つに整理しています。難しい用語が並びますが、要するに「勝手に書き換えられない」「すぐ見られる」「すぐ探せる」の3点です。

ルール1:改ざん防止の措置をとる

次の4つのうち、いずれか1つを行えば足ります。

  1. タイムスタンプが付与されたデータを受領する
  2. 受領したデータにタイムスタンプを付与する
  3. 訂正・削除の履歴が残るシステム等でデータを授受・保存する
  4. 改ざん防止のための事務処理規程を策定し、運用し、備え付ける

予算がない場合の現実解は4番です。国税庁のサイトには事務処理規程のサンプルが掲載されており、自社名や部署名を書き換えて運用すれば、専用システムを導入しなくても要件を満たせます。規程を「作って置いておくだけ」で終わらせず、誰がデータを保存し、訂正が必要になったときどう申請するかを実際に回すことが前提です。

ルール2:ディスプレイ・プリンタを備え付ける

保存したデータを画面で見られ、印刷できる状態にしておく、という要件です。性能や設置台数は要件になっていません。スマートフォンだけで取引していてパソコンやプリンタを持っていない場合でも、近隣の有料プリンタ等で速やかに出力できれば要件を満たすものとして取り扱われます。

ルール3:日付・金額・取引先で検索できる

「取引年月日」「取引金額」「取引先」の3項目で検索できる必要があります。ここで多くの担当者が「検索システムが必要だ」と身構えますが、国税庁はお金をかけない方法を2つ例示しています

  • 索引簿方式:表計算ソフトで「連番・日付・金額・取引先・備考」の一覧表を作り、その索引簿からデータを探せるようにする
  • ファイル名方式:日付・金額・取引先の順に規則性をもったファイル名を付けたデータを、特定のフォルダに集約する(例:20260331_110000_霞商店.pdf

加えて、「日付または金額での範囲指定検索・2つの要素を組み合わせた検索ができること」か「税務調査等の際にデータのダウンロードの求めに応じられること」のいずれかが必要です。ExcelとフォルダだけでもExcelの絞り込みで対応できるため、まずは索引簿方式で運用を始めて、件数が増えてから証憑管理ソフトを検討する順序が現実的です。

売上5,000万円以下なら検索要件は不要になる

次のいずれかに該当し、かつ税務調査等の際にデータのダウンロードの求めに応じられるようにしていれば、検索要件そのものを満たす必要はありません

  • 基準期間(2年(期)前)の売上高が5,000万円以下であること
  • データを出力した書面を、取引年月日および取引先ごとに整理された状態で提示・提出できるようにしていること

中小企業や個人事業者の多くはここに当てはまります。自社の売上規模を確認せずに検索システムの検討から入ってしまうケースが少なくないので、判定の順番を「売上規模の確認 → 必要な要件の特定 → 手段の選択」にするだけで、手戻りを大きく減らせます。

ルールに間に合わないときの猶予措置

原則的な保存ルールへの対応が間に合わない場合でも、次の2つを両方満たすときは、電子取引データを保存しておくだけで足ります。

  1. 原則的な保存ルールに従って保存できなかったことについて、所轄税務署長が相当の理由があると認める場合
  2. 税務調査の際に、データのダウンロードの求めと、データをプリントアウトした書面の提示・提出の求めに、それぞれ応じられるようにしている場合

実務上ポイントになるのは2つあります。1つは、事前の届出が不要であること。もう1つは、「人手不足」「システム整備の資金不足」「システム整備が間に合わない」といった事情も相当の理由として認められると国税庁が明示していることです。

ただし、これはデータを消してよいという措置ではありません。猶予措置を使う場合でも、受け取ったデータそのものは残しておく必要があり、かつ調査のときに紙で出せる状態にしておく必要があります。「対応できていないから、とりあえずメールを削除しないでおく」という運用は、実は猶予措置の要件を半分しか満たしていない状態です。

2026年対応チェックリスト(経理担当者版)

自社の状況を上から順に確認してください。国税庁が公表している「電子取引データ保存要件チェックシート」の判定の流れを、経理の作業単位に置き換えたものです。

No.

確認すること

できていない場合の打ち手

1

部署ごとの電子取引データを棚卸しした(メール添付・EC・Web明細を含む)

受領経路の一覧表を作る

2

受け取ったデータを消さずに保存する場所を決めている

共有フォルダに年度別の保存先を作る

3

改ざん防止の措置を1つ選んでいる

事務処理規程を策定・運用する

4

データを画面表示・印刷できる

閲覧用PCと出力手段を確保する

5

基準期間の売上高が5,000万円以下かを確認した

該当すれば検索要件は不要

6

該当しない場合、日付・金額・取引先で検索できる

索引簿またはファイル名ルールを導入する

7

1〜6が難しい場合、猶予措置の2要件を満たしている

データ保存+書面出力の体制を整える

8

担当者が代わっても回る手順書がある

保存ルールを1枚にまとめて共有する

1〜6がすべてできていれば原則的な保存要件を満たしています。どこかで止まっても、7を満たしていれば猶予措置の対象です。止まった行を顧問税理士に伝えるだけで相談が具体的になるので、チェック結果はそのまま共有してかまいません。顧問税理士が顧問先の保存要件をどう点検しているかは、税理士向けに保存要件を整理した電子帳簿保存法2026の対応チェックで確認できます。役割分担を先に把握しておくと、二重に手を動かさずに済みます。

2026年に押さえておきたい新しい動き

電子帳簿保存法は毎年のように見直されています。2026年6月に国税庁が公表したパンフレットでは、次の内容が案内されています。

デジタルシームレス保存という新しい制度

「請求書等の電子取引データを自動で保存し、帳簿に自動連携する仕組み」を指す制度です。国税庁長官が定める基準に適合するシステムを使い、改ざん防止の確保・記帳の適正性確保・電子帳簿との相互関連性確保という要件を満たして送受信・保存を行うと、その電子取引データに関連する仮装・隠蔽行為について重加算税の10%加重の適用対象から除外されます。適用は令和9年1月1日以後に法定申告期限が到来する国税からです。

青色申告特別控除が65万円から75万円へ

個人事業者については、「優良な電子帳簿」または「デジタルシームレス保存」の要件を満たしたうえで電子申告することで、青色申告特別控除が75万円になります(令和9年分以後の所得税について適用)。すでに優良な電子帳簿で65万円の適用を受けている場合は、改めて届出書を提出しなくても75万円の適用を受けられるとされています。

優遇を受けるには「あらかじめ」の届出が必要

これらの優遇措置は自動では適用されません。適用を受ける年分(事業年度)の法定申告期限までに届出書の提出が必要です。義務である電子取引データ保存とは別の話なので、混同しないよう社内では分けて説明することをおすすめします。

よくある勘違い

Q. PDFで届いた請求書は、印刷して紙で保存すればいい?

いいえ。電子で受け取った取引情報は、電子データのまま保存する必要があります。印刷した紙を併せて保管するのは自由ですが、データを削除してしまうと保存義務を満たしません

Q. 取引情報がメール本文に書かれている場合は?

金額や取引年月日といった取引情報が本文に記載されているなら、その内容も保存の対象です。添付ファイルの有無ではなく、取引情報が含まれているかどうかで判断します。

Q. 紙の領収書をスキャンしないと違反になる?

なりません。スキャナ保存は希望者のみが使う任意の制度です。紙のまま保管していても問題ありません。

Q. 対応していないと、すぐに青色申告が取り消される?

保存要件を満たさない状態が是正されないままであれば、青色申告の承認取消しの対象になり得ます。ただし猶予措置がある以上、まずデータを消さずに残し、調査時に出せる状態にしておくことが最優先です。個別の判断は必ず顧問税理士に確認してください。

制度の調べ物にAIを使うときの注意点

電子帳簿保存法のように改正が重なる制度は、生成AIが古い情報のまま答えることが少なくありません。実際、青色申告特別控除の金額のように、直近の改正で数字が変わったばかりの論点は、学習時点の古い数値が返ってくる典型例です。

制度の調べ物では、期限・金額・要件の3つはAIの答えをそのまま使わないのが鉄則です。AIには「社内説明用に噛み砕く」「規程の下書きを作る」「取引先への案内文を書く」といった作業を任せ、数値と期限は国税庁の資料で必ず裏取りする。この分担にすれば、AIの速さと制度対応の正確さを両立できます。

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まとめ

電子帳簿保存法で本当に対応が必要なのは「電子取引データ保存」だけです。やるべきことは、①電子で受け取った取引データを洗い出す、②消さずに保存する場所を決める、③改ざん防止の措置を1つ選ぶ、④売上5,000万円以下かを確認して検索要件の要否を判定する、の4ステップに集約できます。

それも難しければ猶予措置があり、事前の届出も不要です。「完璧に対応する」ことより「データを消さない」ことのほうが優先度が高いと理解しておけば、判断を大きく誤ることはありません。インボイス制度と併せて保存ルールを整理したい場合は、インボイス制度の2026年最新対応と経過措置も参考にしてください。

参考文献

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