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会計事務所の顧問料 相場と値上げ交渉|単価を上げる4手順【2026年】

顧問料を上げたいが、いくらが適正なのか分からない。会計事務所の所長から最も多く聞くのがこの悩みです。ところが「会計事務所 顧問料 相場」で検索して出てくる料金表は、その多くが出典を示していません。相場表を根拠に値上げを切り出すと、顧問先に「うちは違う」と返された瞬間に話が止まります。

この記事の結論は明快です。顧問料の適正価格は、外部の相場表ではなく自事務所の時間単価から逆算して決める。そして値上げ交渉は、公正取引委員会と内閣官房が公表している「労務費の適切な転嫁のための価格交渉に関する指針」の考え方に沿って進める。この2つが、根拠を持って単価を上げるための最短ルートです。

この記事で分かること:

  • 顧問料相場の一次データがどこにあり、なぜ金額を断定できないのか
  • 自事務所の適正な顧問料を時間単価から算出する4ステップ
  • 公正取引委員会の指針を「受注者=会計事務所の側」から読み替えた交渉手順
  • 値上げを通しやすくするために、日々の業務で仕込んでおくこと
  • 単価を上げると同時に工数を落とし、利益率を二重に改善する方法

なお、顧問先へ実際に送る案内文の書き方は本記事では扱いません。文面が必要な方は顧問料値上げの案内文テンプレートと文例をまとめた記事を参照してください。本記事は、その文面を書く前に決めておくべき「いくらに、なぜするのか」を扱います。

顧問料相場の一次データはどこにあり、何が分からないのか

全国規模の調査は日本税理士会連合会の実態調査だけ

顧問料の水準を全国規模で継続的に調べている調査は、実質的に一つしかありません。日本税理士会連合会が実施している税理士実態調査です。直近は第7回税理士実態調査報告書で、令和6年4月に税理士会員・税理士法人会員を対象として実施され、回答数38,607件、回答率44.8%という規模の調査結果が令和7年2月に公表されています。

ただし重要な注意点があります。この報告書は日本税理士会連合会の内部資料として作成されたもので、複写・転載・配布が禁じられており、本文は会員専用ページからのダウンロードに限られています。つまり公開されたWeb記事が具体的な金額を引用して掲載していれば、その時点で出典の扱いに問題があるということです。逆に言えば、税理士登録をしている所長であれば、この一次データを自分で開いて確認できる立場にあります。相場を知りたいなら、まずここに当たるのが最も確実です。

Web上の「相場表」を根拠にできない3つの理由

検索上位に並ぶ料金表を鵜呑みにできない理由は、大きく3つあります。

第一に、出典が示されていないこと。「年商1,000万円未満なら月額○万円」といった表の多くは、その事務所自身の料金表か、書き手の体感を一般化したものです。第二に、サービス範囲が揃っていないこと。記帳代行を含むか、年末調整・法定調書まで見るか、月次訪問の頻度はどうか。同じ「月額3万円」でも中身が3倍違うことは珍しくありません。第三に、地域と時点が揃っていないこと。人件費水準も、直近の物価上昇の織り込み具合も、事務所ごとにまったく異なります。

結論として、外部の相場表は「自分の事務所が世間からどれくらいズレているか」を感覚的に確かめる参考にはなりますが、値上げの根拠資料には使えません。顧問先に提示した瞬間、出典を問われて終わります。

自事務所の適正な顧問料を算出する4ステップ

相場が使えないなら、自分で出すしかありません。難しい原価計算は不要で、事務所の決算書と勤務実態から4ステップで出せます。

STEP1:目標時間単価を決める

まず、事務所全体で「1時間いくら稼ぐ必要があるか」を出します。計算式はシンプルです。

目標時間単価 = (年間の必要経費 + 目標利益) ÷ 年間の稼働可能時間

年間の必要経費には、役員報酬・人件費・家賃・システム費・会費など、事務所を回すために必ず出ていく金額をすべて入れます。年間の稼働可能時間は、所長を含む全スタッフの年間労働時間から、内部会議・研修・移動・営業活動といった直接請求できない時間を差し引いた「顧問先に投入できる時間」です。実務では総労働時間の6割から7割程度に落ち着くことが多く、ここを実態より甘く見積もると、算出した単価がそのまま赤字ラインになります。

STEP2:顧問先ごとの実投入時間を測る

次に、顧問先1件あたりに年間何時間を投入しているかを測ります。理想は全スタッフの工数記録ですが、いきなり全件は続きません。まずは上位20件と、なんとなく赤字が疑わしい10件に絞り、3か月だけ記録するのが現実的です。記帳・巡回監査・決算申告・電話やチャットでの相談対応・年末調整と、業務区分ごとに分けて記録します。

ここで多くの事務所が驚くのが、請求していない相談対応の時間です。チャットや電話での「ちょっと聞きたいんだけど」が、年間で数十時間積み上がっている顧問先は確実に存在します。

STEP3:実質時間単価で顧問先を4象限に並べる

年間報酬(月額顧問料×12+決算料+スポット報酬)を年間投入時間で割ると、顧問先ごとの実質時間単価が出ます。これをSTEP1の目標時間単価と比べ、次のように整理します。

実質時間単価

顧問先の状態

取るべき対応

目標の120%以上

優良。事務所を支えている

据え置き。関係維持を最優先

目標の80〜120%

妥当だが余裕はない

物価・人件費上昇分のみ改定

目標の50〜80%

実質的な値引き状態

値上げ交渉、またはサービス範囲の再定義

目標の50%未満

受けるほど赤字

大幅改定を前提に協議。応じられない場合は契約の見直しも視野に

この表を作ると、値上げすべき相手が具体的に決まります。全顧問先に一律○%ではなく、赤字先から順に手を付けるほうが、事務所の利益への効きも、交渉の納得感も高くなります。

STEP4:値上げ幅と着地点を決める

目標時間単価に実投入時間を掛けた金額が、その顧問先の「あるべき年間報酬」です。ただし現行報酬の2倍を一度に提示しても通りません。実務では1回の改定幅を15〜20%程度に抑え、2〜3年かけて着地させる設計にし、その代わり「今回は○%、来期に再度協議」と最初から伝えるほうが結果的に通ります。値上げ幅の根拠と、値上げ後にどこまでやるのかを1枚にまとめておくと、交渉が段違いに楽になります。

値上げ交渉の進め方 ─ 公正取引委員会の指針を受注者側から読む

ここからが本題の交渉です。会計事務所は顧問先に対して「受注者」の立場にあります。そして受注者が価格転嫁をどう申し入れるべきかについては、内閣官房と公正取引委員会が労務費の適切な転嫁のための価格交渉に関する指針という公的な行動指針を公表しています(令和5年11月公表、令和7年12月改正)。

この指針は発注者・受注者双方が採るべき行動を12の行動指針として整理したもので、税務顧問契約そのものが法の適用対象になるとは限りません。しかし「価格交渉とはこう進めるものだ」という公的な共通言語として使える点に価値があります。以下、指針が受注者側に求める行動と、発注者・受注者の双方に求める行動のうち、会計事務所の実務で効く4点を読み替えます。

根拠は「公表資料」で用意する

指針は、受注者が価格交渉で用いる根拠資料として、最低賃金の上昇率や春季労使交渉の妥結額・上昇率といった公表資料を使うよう求めています。裏を返せば、公表資料に基づく要請額は発注者側が尊重すべきものとして位置づけられているということです。

会計事務所が使える公表資料は明確です。厚生労働省の地域別最低賃金の全国一覧と、総務省統計局の消費者物価指数です。たとえば2025年基準の消費者物価指数(全国)は2026年7月分で総合指数が前年同月比1.9%の上昇、生鮮食品を除く総合が1.8%の上昇となっています。自事務所の事情ではなく、こうした誰でも確認できる数字を出発点に置くのが、指針の示す作法です。

タイミングは「年1回の定期協議」に載せる

指針は、価格交渉を1年に1回や半年に1回といった定期的なタイミングで行うことを求め、協議せずに長年価格を据え置くこと自体が問題になり得ると明記しています。これは会計事務所にとって強い後押しです。「10年据え置いてきたので言い出しにくい」のではなく、「10年協議していないこと自体が正常ではない」という整理になるからです。

実務としては、決算報告の場か、期首の年間スケジュール共有の場に「報酬の年次見直し」を固定議題として組み込むのが最も自然です。これを顧問契約書のひな形と必須条項をまとめた記事のとおり契約書に「報酬は年1回協議のうえ改定できる」と明記しておけば、毎年の切り出しが事務手続きになります。

相手の提示を待たず、自分から希望額を出す

指針が受注者に求めている行動のひとつが、発注者から価格を提示されるのを待たず、受注者側から希望する価格を提示することです。会計事務所は「顧問先の反応を見てから」と考えがちですが、これは逆効果です。先に金額を出さなければ、交渉は必ず相手の予算枠の中で行われます。STEP4で作った「あるべき年間報酬」と、そこに至る段階的な着地点を、こちらから先に提示してください。

交渉記録を残す

指針は、価格交渉の記録を作成し双方で保管することを求めています。会計事務所の実務では、協議した日・提示した金額と根拠・顧問先の反応・次回協議の時期をメールで送っておくだけで十分です。合意に至らなかった場合でも記録が残っていれば、翌年の交渉は「前回の続き」から始められます。

値上げを通しやすくする「見えている仕事」の作り方

やっている仕事の8割は顧問先に見えていない

値上げが通らない事務所に共通するのは、金額の問題ではなく提供している価値が相手に見えていないことです。試算表の精度を保つためのチェック、税制改正への追随、期中の税額シミュレーション。どれも工数を食う仕事ですが、顧問先の目に触れるのは月次の数字と年に一度の申告書だけ、というケースが多数派です。

対策はシンプルで、月次報告の場で「今月やったこと」を明示的に伝えることです。月次報告資料の作り方をまとめた記事のように報告フォーマットを整えておけば、値上げを切り出す前の数か月で「この事務所は仕事をしている」という認識が積み上がります。交渉はその上に立って初めて成立します。

単価を上げるなら、サービスの中身も再定義する

値上げの通し方としてもう一つ有効なのが、単なる金額改定ではなく提供範囲の再設計としてパッケージし直す方法です。従来の顧問業務に、資金繰り予測の月次提供、補助金情報の定期案内、電子帳簿保存法対応の点検といった項目を明示的に加え、新しい料金表として提示します。「値上げ」ではなく「プラン変更」として提示できるため、心理的な抵抗が下がります。

副次的な効果もあります。追加項目を明文化すると、これまで無償で引き受けていた作業のうち何が有償かが自分たちの中でも整理され、STEP2で見つかった「請求していない相談対応の時間」に線を引けるようになります。

単価を上げると同時に、工数を落とす

利益率は「単価×工数」の両輪で決まる

値上げは利益改善に最も効きますが、すべての顧問先で通るわけではありません。優良先は据え置き、赤字先は2〜3年かかる。その間の利益を作るのが投入工数の削減です。実質時間単価は「年間報酬÷年間投入時間」ですから、分母を減らしても同じだけ改善します。

工数削減の主戦場は、記帳・証憑整理・定型的な文書作成といった、専門的判断をほとんど伴わない作業です。ここは近年のAIで最も効果が出やすい領域でもあります。記帳代行の工数をAIで減らす手順を解説した記事で扱っているように、OCRと自動仕訳の組み合わせだけでも入力工程は目に見えて軽くなります。

AIは「単価を上げるために工数を落とす道具」

AIの導入を「流行っているから」と考えると続きません。ここまで見てきた枠組みで言えば、AIの役割は目標時間単価に届いていない顧問先の投入時間を削り、実質時間単価を目標水準まで引き上げることです。目的が数字で定義されていれば、どの業務にAIを入れるべきかも自ずと決まります。

士業AI は、税務・会計・法務それぞれの実務文脈に合わせてチューニングしたAIチャットを、税理士・会計事務所向けに提供しているサービスです。申告書のセルフチェック、税法調査の下調べ、顧問先向け文書のドラフト作成といった、時間は食うが判断の中核ではない工程を短縮する用途に向いています。詳しい機能は税理士・会計事務所向けの機能紹介ページにまとめています。

国税庁等の公的情報を参照する税務特化AI のデモです。

よくある質問

値上げすると顧問先が離れませんか

離れる先はあります。ただし4象限で整理すると、離れやすいのは実質時間単価が低い先、つまり受けているほど事務所の利益を削っていた先であることがほとんどです。上位2象限の顧問先は、根拠を示した段階的な改定であれば大半が応じます。まず優良先で通してから赤字先に進むと、精神的にも進めやすくなります。

何%上げるのが妥当ですか

一律の正解はありません。物価上昇分の転嫁だけであれば消費者物価指数の上昇率が最低ラインの根拠になりますし、実質時間単価が目標の半分しかない顧問先であれば、それでは何も解決しません。%から決めるのではなく、STEP3で出した実質時間単価から逆算するのが順序です。

全顧問先に一斉にやるべきですか

一斉改定は楽ですが、赤字先ほど改定率が足りず、優良先に不要な離反リスクを与えがちです。実務では、赤字先から順に個別交渉し、物価転嫁分の一律改定は別枠で年1回行う二層構成が扱いやすい形です。

まとめ

顧問料の値上げは相場表を探す作業ではありません。目標時間単価を出し、顧問先ごとの実質時間単価を測り、公的な指針に沿った手順で協議のテーブルに載せる。この順序を踏めば、値上げは「お願い」ではなく「合理的な提案」になります。交渉と並行して工数を落としておけば、通らなかった顧問先でも利益率は改善します。まずは上位20件の実質時間単価を出すところから始めてください。

参考文献

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