抵当権抹消登記の必要書類と書き方|申請書の記載例と登録免許税【2026年】
住宅ローンの完済にともなう抵当権抹消登記は、司法書士事務所にとって件数が多く、しかも1件あたりの単価が低い定型業務です。だからこそ「金融機関から届いた書類を確認する」「申請書を組む」という下ごしらえの時間をどれだけ削れるかが、事務所の採算に直結します。
この記事では、法務局が公開している登記申請書の様式・記載例と、不動産登記法・不動産登記令・不動産登記規則・登録免許税法の条文に当たって、抵当権抹消登記の必要書類と書き方を整理します。申請書の欄ごとの記載例、金融機関から届く委任状の読み方、登録免許税の計算例までを実物ベースで示したうえで、生成AI(文章を作れるAI)に任せてよい作業と、司法書士が自分で判断すべき部分の線引きも示します。
この記事で分かること
- 金融機関から届く書類のうち、添付情報として何がどれに当たるか
- 登記申請書の各欄に何をどう書くか(法務局の記載例の欄ごとの写し取り方)
- 金融機関から届く委任状の記入例と、空欄が残っていたときの対処
- 登録免許税の計算を、土地建物・マンション・複数筆・20個超の4パターンで
- 商号変更・住所相違・登記識別情報の紛失という3つの詰まりどころの処理
- オンライン申請(特例方式)の手順と「受付日から2日以内」の縛り
- AIに任せてよい下ごしらえと、任せてはいけない最終判断の線引き
抵当権抹消登記の必要書類(金融機関から届く書類の読み替え)
抵当権抹消登記は、所有者を登記権利者、金融機関を登記義務者とする共同申請です(不動産登記法60条)。完済後に金融機関から封筒で届く書類は、登記実務の用語では次のように読み替えます。
集める書類4点と、自分で作る書類2点
法務局が公開している「抵当権の抹消の登記の申請に必要な書類とその入手先等」は、必要書類を金融機関から集める4点と申請人側で作成する2点に分けて整理しています。まずこの6点の枠に、届いた封筒の中身を当てはめていくのが最短です。
区分 | 書類 | 入手先・作成者 | 有効期限 | 実務上の確認点 |
|---|---|---|---|---|
集める | 登記識別情報 又は 登記済証 | 抵当権者である金融機関等 | なし | 登記済証は抵当権設定契約書に「登記済」の押印があるもの。原本提出 |
集める | 登記原因証明情報(解除証書・弁済証書等) | 抵当権者である金融機関等 | なし | 日付・不動産の表示の記載漏れがないか。空欄があれば金融機関へ差し戻す |
集める | 会社法人等番号 | 金融機関等の送付文書 又は 法務局 | なし | 申請書の義務者欄に金融機関名と併記する。12桁 |
集める | 代理権限証明情報(委任状) | 抵当権者である金融機関等 | なし | 日付・委任事項の記載漏れがないか。オンライン申請時は委任事項を要確認 |
作る | 登記申請書 | 所有者(または受任した司法書士) | — | 法務局はA4・左とじ・黒インクを求めている。鉛筆は不可 |
作る | 委任状(所有者から代理人へ) | 所有者と代理人 | — | 代理人申請の場合のみ。所有者本人が申請するときは不要 |
「有効期限なし」という点は覚えておくと説明が楽になります。完済から時間が経った書類でも、それ自体は失効しません。ただし法務局は「紛失・汚損しないよう、できるだけ速やかに申請することをおすすめします」と案内しています。放置している間に金融機関側の商号変更や合併が起きると、後述のとおり手間が増えるためです。
登記識別情報または登記済証
抵当権者である金融機関の登記識別情報(申請人が登記名義人本人であることを確認するための符号。運用上は12桁の英数字)、または旧制度下の登記済証の原本を提出します。書面申請で登記識別情報を記載した書面を提出する場合は、封筒に入れて封をし、封筒には抵当権者の名称と登記の目的、当該書面が在中する旨を明記します(不動産登記規則66条2項・3項)。
実務で取り違えやすいのが、返ってくるものと返ってこないものの区別です。
提出したもの | 提出の形 | 登記完了後 |
|---|---|---|
登記識別情報 | 符号を記載した書面(登記識別情報通知書のコピーでも可)を封筒に封入 | 返却されない |
登記済証(権利証) | 原本をそのまま提出 | 返却される |
法務局の案内は「登記識別情報を記載した書面については、登記が完了した後も返却されません」と明記しています。原本ではなくコピーを封入してよいのはこのためです。逆に登記済証は原本を出したうえで完了後に返してもらう扱いなので、顧客への返却物リストに載せておく必要があります。
登記原因証明情報(解除証書・弁済証書)
登記の原因となった事実と、それによって権利変動が生じたことを証する情報です(不動産登記令7条1項5号ロ、令別表26項ヘ)。抵当権抹消では、抵当権者が作成した解除証書や弁済証書がこれに当たります。届いていない場合は金融機関に問い合わせるほかありません。申請書の「原因」の日付は抵当権が消滅した日であり、通常は解除証書に記載された解除日がこれに当たります。
法務局の記載例は、登記原因証明情報そのものの書式例も載せています。金融機関から届いた書面がこの構成を満たしているかを見る「型」として使えます。
項目 | 記載内容 | 記載例 |
|---|---|---|
1(1)対象となる抵当権の登記 | 抹消する抵当権の受付年月日・受付番号 | 平成20年7月1日受付第1234号抵当権 |
1(2)当事者 | 権利者(甲)=所有者、義務者(乙)=金融機関の住所氏名 | 権利者(甲)法務太郎/義務者(乙)株式会社○○銀行 |
1(3)不動産 | 所在・地番・地目・地積(建物は家屋番号・種類・構造・床面積) | ○○市○○町一丁目5番 宅地 250・00平方メートル |
2 登記の原因となる事実又は法律行為 | いつ・誰が・どの抵当権を・どうしたか | 令和1年7月1日、乙は平成20年7月1日受付第1234号抵当権を解除しました |
末尾 | 権利変動が生じたことの確認文言と当事者の記名押印 | 上記の登記原因により抵当権が消滅したことに相違ありません |
解除証書・弁済証書・抵当権解除証書は何が違うのか
検索で「抵当権解除証書とは」がよく叩かれるとおり、ここは呼び名が乱立して分かりにくいところです。結論から言えば、これらはすべて登記原因証明情報という一つの箱に入る書類で、表題が金融機関ごとに違うだけです。法務局の案内も「『解除証書』や『弁済証書』といった内容で、抵当権者である金融機関等から送付されます」と、名称を並列で挙げるにとどめています。
表題の例 | 典型的な原因欄の書き方 | 意味するところ |
|---|---|---|
解除証書/抵当権解除証書 | 令和○年○月○日解除 | 債務完済にともない、抵当権設定契約を解除した |
弁済証書 | 令和○年○月○日弁済 | 被担保債権が弁済によって消滅した |
放棄証書 | 令和○年○月○日放棄 | 抵当権者が抵当権を放棄した |
登記原因証明情報(表題そのまま) | 書面の記載どおり | 金融機関が登記実務の用語をそのまま表題にしている |
大切なのは表題ではなく、書面に記載された原因と日付を、そのまま申請書の「原因」欄へ写し取ることです。解除証書が届いているのに申請書へ「弁済」と書けば、申請情報の内容が登記原因証明情報の内容と合致しないことになり、不動産登記法25条8号の却下事由に触れます。ここは書面の文字を目で追って写す作業であり、記憶で書いてはいけない箇所です。
会社法人等番号と代理権限証明情報
ここは前提を取り違えやすいところです。不動産登記令7条1項1号イは、申請人が法人であるときは会社法人等番号を提供するのを原則としています。作成後3か月以内の登記事項証明書(代表者の資格を証するものなど)を提供する場合に会社法人等番号の提供が不要になる、というのが不動産登記規則36条1項・2項の建て付けで、順序は逆です。法務局の記載例でも、義務者欄に会社法人等番号を括弧書きし、添付情報欄には「会社法人等番号」と記載する形が標準として示されています。
代理権限証明情報は委任状です。金融機関が所有者に申請を委任する場合は金融機関から委任状が送られてきますが、司法書士が受任する場合は権利者・義務者の双方から委任状を受け取ります。
会社法人等番号を使うか、登記事項証明書を付けるか
どちらでも申請は通りますが、実務では次のように使い分けます。
状況 | 選ぶもの | 添付情報欄の記載 | 理由 |
|---|---|---|---|
登記記録上の金融機関名・本店と、届いた書類の記載が一致 | 会社法人等番号 | 会社法人等番号 | 証明書の取得コスト・3か月の期限管理が不要 |
商号変更・本店移転があり記載が食い違う | 会社法人等番号 | 会社法人等番号 | 番号を提供すれば履歴事項証明書・閉鎖事項証明書の添付は不要 |
閉鎖事項証明書に現在と異なる会社法人等番号が記載されている | 登記事項証明書 | 登記事項証明書 | この場合は番号での省略ができない |
金融機関が会社法人等番号を持たない法人(一部の組合等) | 代表者の資格を証する情報 | 代表者の資格を証する情報 | 令7条1項1号ロの扱いになる |
登記事項証明書を付ける場合は作成後3か月以内という期限があります(規則36条2項)。受任から申請までに間が空きそうな案件では、期限管理が要らない会社法人等番号を選ぶほうが事故が減ります。
登記申請書の書き方(法務局の公式様式に沿って)
法務局は不動産登記の申請書様式についてのページで、「3-1 抵当権抹消登記申請書」として様式と記載例を一太郎・Word・PDFの3形式で公開しています。様式は令和元年5月10日更新、記載例は令和6年3月29日更新で、さらに通常の土地建物用と敷地権付き区分建物用の2種類に分かれています。マンション案件で土地建物用の記載例を写すと不動産の表示欄が合わなくなるので、最初にどちらを開くかを決めてください。
申請書の全体像(欄の並びと記載内容)
抵当権抹消の申請書は、上から順に次の欄が並びます。記載例(土地建物用)の値をそのまま並べたのが下の表です。実際の案件では右端の「どこから写すか」の列だけを見て、原本から機械的に転記していく形になります。
欄 | 記載内容 | 記載例の値 | どこから写すか |
|---|---|---|---|
(最上部の余白) | 受付シールを貼るスペース。何も書かない | — | — |
表題 | 登 記 申 請 書 | 登記申請書 | 様式のまま |
登記の目的 | 抵当権抹消(順位番号後記のとおり) | 抵当権抹消(順位番号後記のとおり) | 様式のまま。順位番号は不動産の表示欄末尾へ |
原因 | 抵当権が消滅した日+原因 | 令和1年7月1日解除 | 解除証書・弁済証書 |
権利者 | 現在の所有者の住所・氏名(共有なら全員) | ○○郡○○町○○34番地 法務太郎 | 登記事項証明書(甲区) |
義務者 | 金融機関の住所・名称・会社法人等番号・代表者氏名 | ○○市○○町二丁目12番地 株式会社○○銀行(会社法人等番号 1234-56-789012)代表取締役 ○○○○ | 登記事項証明書(乙区)+金融機関の送付書類 |
添付情報 | 提供する情報の名称を列挙 | 登記識別情報(又は登記済証)/登記原因証明情報/会社法人等番号/代理権限証明情報 | 実際に付ける書類に合わせる |
登記識別情報を提供できない理由 | 該当するときのみチェック | □不通知 □失効 □失念 □管理支障 □取引円滑障害 □その他 | 提供できる場合は空欄 |
申請年月日・申請先 | 申請日と管轄の法務局名 | 令和1年7月1日申請 ○○法務局○○支局 | 法務局「管轄のご案内」 |
申請人兼義務者代理人 | 金融機関から委任を受けた所有者の住所・氏名+押印 | ○○郡○○町○○34番地 法務太郎 印 | 権利者欄と一致させる |
連絡先の電話番号 | 平日日中に通じる番号。携帯可 | 00-0000-0000 | — |
登録免許税 | 不動産の個数×1,000円 | 金2,000円 | 不動産の個数を数えて計算 |
不動産の表示 | 登記記録どおりの表示+(順位番号○番) | 不動産番号1234567890123/所在・地番・地目・地積/(順位番号 3番) | 登記事項証明書 |
司法書士が代理人として申請する場合は、「申請人兼義務者代理人」欄が「代理人」欄になり、権利者・義務者の双方から受け取った委任状を代理権限証明情報として添付します。記載例が「申請人兼義務者代理人」になっているのは、金融機関から所有者への委任状が届き、所有者が自分で申請するという一番多いパターンを想定しているためです。
登記の目的と原因
「登記の目的」欄は、抹消する抵当権が乙区の何番かを示す必要があります。記載例では「抵当権抹消(順位番号後記のとおり)」と書き、不動産の表示欄の各不動産の末尾に「(順位番号3番)」のように順位番号を添える形をとっています。順位番号は登記識別情報通知書や登記事項証明書で必ず確認します。
法務省民事局の案内は、これとは別に受付年月日・受付番号で特定する書き方も認めています。
書き方 | 登記の目的欄 | 不動産の表示欄 |
|---|---|---|
順位番号方式(記載例の標準) | 抵当権抹消(順位番号後記のとおり) | 各不動産の末尾に「(順位番号 3番)」を記載 |
受付番号方式 | 抵当権抹消(抹消する抵当権の登記 平成○○年○月○日受付第○○○号) | 順位番号の記載は不要 |
共同担保で不動産ごとに順位番号が違うときは、順位番号方式のほうが対応関係が明快です。逆に不動産の数が多く、順位番号がすべて同じなら受付番号方式のほうが転記ミスが減ります。どちらでも通るので、事務所として型を決めておくとチェックが速くなります。
「原因」欄には、抵当権が消滅した日と原因を書きます。完済により設定契約が解除された場合は「令和◯年◯月◯日解除」、弁済によるものは「令和◯年◯月◯日弁済」です。ここは解除証書・弁済証書の文言に合わせます。
権利者・義務者と不動産の表示
権利者欄には現在の所有者の住所・氏名を書きますが、これは登記記録上の表示と一致している必要があります。一致しない場合は、先に住所変更・氏名変更の登記を入れなければなりません。夫婦共有など所有者が複数いるときは、共有者全員を権利者として記載します。義務者欄には金融機関の住所・名称・会社法人等番号・代表者氏名を記載します。
不動産の表示は登記記録どおりに正確に書きます。不動産番号(一筆の土地または一個の建物ごとに付された13桁の番号)を記載すれば、土地の所在・地番・地目・地積、建物の所在・家屋番号・種類・構造・床面積の記載を省略できます。不動産番号の記載自体は任意なので、分からなければ書かずに表示を全部書けば足ります。
敷地権付き区分建物の場合は、記載する項目が入れ替わります。
区分 | 記載する項目 |
|---|---|
一棟の建物の表示 | 所在/建物の名称 |
専有部分の建物の表示 | 家屋番号/建物の名称/種類/構造/床面積 |
敷地権の表示 | 符号/所在及び地番/地目/地積/敷地権の種類/敷地権の割合 |
申請書が複数枚になる場合は、つづり目に契印が必要です。申請人が2人以上いるときは、そのうち1人が契印すれば足ります。
添付情報欄の4行をどう書き分けるか
添付情報欄は、記載例では次の4つが並びます。ところが実際の案件では、届いた書類に応じて書き分けが必要です。ここは補正の元になりやすいので、ケース別に整理しておきます。
ケース | 添付情報欄の記載 | 注意点 |
|---|---|---|
登記識別情報が届いた(標準) | 登記識別情報/登記原因証明情報/会社法人等番号/代理権限証明情報 | 「登記識別情報(又は登記済証)」ではなく、実際に届いたほうを書く |
登記済証が届いた | 登記済証/登記原因証明情報/会社法人等番号/代理権限証明情報 | 抵当権設定契約書に「登記済」の押印があるもの |
登記識別情報も登記済証も提供できない | 登記原因証明情報/会社法人等番号/代理権限証明情報 | 「登記識別情報(又は登記済証)」の行を書かない。あわせて理由欄にチェック |
金融機関の登記事項証明書を付ける | 登記識別情報/登記原因証明情報/登記事項証明書/代理権限証明情報 | 「会社法人等番号」ではなく「登記事項証明書」と書く |
所有者本人が申請し、代理人がいない | 登記識別情報/登記原因証明情報/会社法人等番号 | 金融機関からの委任状がある場合はやはり代理権限証明情報が必要 |
法務局の記載例(注9)は、登記識別情報を提供できない場合について「様式の添付情報欄には、『登記識別情報(又は登記済証)』を書かないでください」と明示しています。様式をそのまま印刷すると4行が印字されているので、消し忘れが起きやすい箇所です。
押印・契印・収入印紙貼付台紙
書面申請では、紙の組み方まで決まりがあります。法務省民事局の案内が示している手順は次のとおりです。
- 申請書はA4の用紙(縦置き・横書き、片面印刷、上質紙等の丈夫な紙)を使う。裏面は使わない
- 文字はパソコン入力か黒インク・黒ボールペン。摩擦などで消えるペンと鉛筆は不可
- 申請人(代理人)の氏名の後に押印する。所有者本人の申請なら認印で可
- 申請書と収入印紙貼付台紙を重ねて、左側の余白に2か所ホチキス留めする
- 申請書と台紙の間、および申請書が複数枚のときは各用紙のつづり目に契印する
- 収入印紙は台紙に貼る。収入印紙そのものに割印・消印はしない
- 添付書面は「申請書+台紙」の後ろにクリップ留めなどでまとめる
- 郵送するときは封筒の表面に「不動産登記申請書在中」と書き、書留郵便で送る
通常の完済案件では、義務者(金融機関)の印鑑証明書は不要です。不動産登記規則47条3号ハが印鑑証明書を要求するのは、所有権以外の権利の登記名義人が登記識別情報を提供せずに登記義務者として申請する場合であり、登記識別情報が届いていれば同号に当たらず、規則48条5号により添付が不要になるためです。また法人の代表者が記名押印し、会社法人等番号を申請情報の内容とした場合も規則48条1号で不要になります。逆に言えば、登記識別情報を提供できない案件では金融機関の印鑑証明書が要るということです。法務局の記載例が委任状の押印欄に「(注9の場合は印鑑証明書と同じ印)」と注記しているのは、この場面を指しています。所有権移転登記の感覚で一律に印鑑証明書を集めようとすると無駄が出ますが、識別情報が欠けている案件では逆に集め忘れが起きます。
登録免許税の計算
登録免許税法別表第一の一(十五)は、登記の抹消について「不動産の個数 一個につき千円」と定め、備考の括弧書きで「同一の申請書により二十個を超える不動産について登記の抹消を受ける場合には、申請件数一件につき二万円」としています。課税標準は価額ではなく個数なので、不動産の評価額を調べる必要はありません。
なお法務局の解説資料や記載例の注記では、この上限を「20個以上の場合は20,000円」と表記しています。20個ちょうどなら1,000円×20個で結果は同額になるため実務上の差は生じませんが、条文の文言は「二十個を超える」である点は押さえておくとよいでしょう。税額が3万円以下であれば収入印紙で納付できます(登録免許税法上、原則は現金納付+領収証書の貼付です)。
登録免許税の計算例(4パターン)
「不動産1個につき1,000円」は単純に見えて、何を1個と数えるかでつまずきます。法務局の資料に沿った4パターンを並べます。
パターン | 数え方 | 個数 | 登録免許税 |
|---|---|---|---|
一戸建て(土地1筆+建物1棟) | 土地1個+建物1個 | 2個 | 2,000円 |
マンション(専有部分1+敷地権の目的たる土地1筆) | 建物1個+土地1個 | 2個 | 2,000円 |
マンション(敷地権の目的たる土地が3筆) | 建物1個+土地3個 | 4個 | 4,000円 |
共同担保で不動産が25個 | 20個を超えるため申請件数で計算 | — | 20,000円 |
マンションの数え方は、法務省民事局の案内(マンション編)が明示しています。「この記載例では、建物1物件(301号室の建物)と土地(敷地権)1物件(地番:23番の土地)の合計2物件ですので、2,000円となります。マンションによっては、土地(敷地権)が複数物件となっている場合がありますが、その場合は、その土地(敷地権)の個数に応じて、1,000円が加算されることになります」というのがそのままの記述です。敷地権の目的である土地が複数筆に分かれているマンションは珍しくないので、登記事項証明書の敷地権の表示欄で符号がいくつあるかを必ず数えてください。ここを1筆と思い込むと、印紙が不足して補正になります。
土地が複数筆ある一戸建て(例:私道持分を別筆で持っている)も同様です。私道が2筆あれば、土地3個+建物1個で4,000円になります。見積り段階でこの数え漏れがあると、顧客への追加請求という一番説明しにくい事態になります。
委任状の記入例と「暗号化に関する件」
抵当権抹消の書類のなかで、いちばん問い合わせが多いのに解説が薄いのが委任状です。金融機関から届く委任状は抵当権者(義務者)が所有者(権利者)に登記申請を委任するためのもので、所有者が司法書士に依頼するときの委任状とは別物です。ここを混同すると、必要な委任状が1通足りないまま申請してしまいます。
法務局の記載例が示す委任状の中身
法務局の記載例(抵当権抹消)の4ページ目には「委任状の例」が載っています。構成は次のとおりです。
ブロック | 記載内容 | 記載例 |
|---|---|---|
表題 | 委 任 状 | 委任状 |
受任者 | 誰に委任するか(所有者の住所・氏名) | 私は、○○郡○○町○○34番地 法務太郎 に、次の権限を委任します |
委任事項1 | 申請書の作成と、添付書面とともに管轄登記所へ提出すること | 下記の登記に関し、登記申請書を作成すること及び当該登記の申請に必要な書面と共に登記申請書を管轄登記所に提出すること |
委任事項2 | 登記完了証の受領 | 登記が完了した後に通知される登記完了証を受領すること |
委任事項3 | 取下げ・補正 | 登記の申請に不備がある場合に、当該登記の申請を取下げ、又は補正をすること |
委任事項4 | 登録免許税の還付金の受領 | 登記に係る登録免許税の還付金を受領すること |
委任事項5 | 包括条項 | 上記1から4までのほか、下記の登記の申請に関し必要な一切の権限 |
日付・委任者 | 作成日と金融機関の住所・名称・代表者+押印 | 令和1年7月1日/○○市○○町二丁目12番地 株式会社○○銀行 代表取締役 ○○○○ 印 |
「記」以下 | 登記の目的・原因・権利者・義務者・不動産の表示(順位番号を含む) | 申請書と同じ内容を再掲 |
実務で見落とされがちなのが委任事項3と4です。取下げ・補正の権限がない委任状だと、法務局から補正の連絡が来たときに所有者側で対応できず、金融機関に委任状を出し直してもらうことになります。還付金受領の権限も、印紙を貼りすぎたときに効いてきます。届いた委任状にこの2項目があるかは、受け取った日にチェックしておきたいところです。
また記載例には「(注9の場合は印鑑証明書と同じ印)」という注記があります。これは登記識別情報を提供できず、公証人の認証(不動産登記法23条4項2号)などの手当てをするケースを指しています。通常の完済案件では、金融機関の代表者印が押されていれば足り、印鑑証明書は不要です。
空欄で届いた委任状に何を書き足すか
金融機関から届く委任状は、受任者欄と日付欄が空欄で送られてくることが少なくありません。誰が申請するか(所有者本人か、司法書士か)が金融機関側で分からないためです。空欄の扱いは次のように整理します。
欄 | 空欄で届いたときの扱い | 根拠・注意 |
|---|---|---|
受任者(住所・氏名) | 実際に申請する人の住所・氏名を記入する | 登記事項証明書の所有者表示と一致させる |
委任状の日付 | 金融機関に確認する | 法務局は「日付等の記載漏れがないか確認をお願いします」と案内。原則として作成者側で埋めてもらう |
不動産の表示 | 金融機関に確認する | 登記原因証明情報と同様、作成者が書くべき部分 |
順位番号 | 金融機関に確認する | 抹消対象の特定に関わるため、こちらで補うべきではない |
登記の目的・原因 | 金融機関に確認する | 申請書の原因欄と食い違うと却下事由になる |
法務局の「不動産登記申請書提出前のチェックリスト」も、この点を独立の項目として立てています。「抵当権抹消等の登記の際に、銀行等から交付される登記原因証明情報(解除証書等)や委任状等に空白部分がないか確認をしてください。記載漏れがある場合は、その書類を作成した銀行等に訂正を依頼し、それが完了してから申請書を提出してください」という文言です。受任者欄以外の空欄は、こちらで埋めずに差し戻すというのが公式の立て付けだと読めます。
委任状そのものの一般的な書き方や、登記以外の場面での類型別の記載例は委任状の書き方と類型別の記載例で整理しています。抵当権抹消の委任状もこの型の一つとして押さえておくと、他の登記に横展開しやすくなります。
司法書士が受任する場合は委任状が2通
司法書士が代理人として申請するときは、権利者・義務者の双方から委任状を受け取ります。金融機関から届く委任状が「金融機関→所有者」宛てになっている場合、そのままでは司法書士の代理権を証明できません。処理は2通りです。
- 金融機関に司法書士宛ての委任状を出し直してもらう:受任者欄を司法書士にした委任状を再発行してもらう。もっとも確実
- 所有者から司法書士への復代理の委任状を作る:金融機関→所有者の委任状に復代理の委任事項が含まれているかを確認したうえで、所有者→司法書士の委任状を追加する
金融機関によって発行の運用が違うため、事務所側で「この銀行はこの様式」という台帳を持っておくと問い合わせが減ります。書類の名称(解除証書か弁済証書か)、委任状の受任者欄が空欄かどうか、後述する暗号化の委任事項があるかどうかの3点を、金融機関ごとに記録しておくのが実務的です。
オンライン申請では「登記識別情報の暗号化に関する件」が要る
ここが最も見落とされやすい論点です。法務局のオンライン申請案内は、次のように明記しています。
抵当権者の委任状に「登記識別情報の暗号化に関する件」の委任事項がない場合には、オンライン申請はできませんので、この場合には、抵当権者にお問合せいただくか、書面申請により申請していただく必要があります。
オンライン申請では、登記識別情報を電子的に送信するために暗号化の処理が入ります。その処理を代理人が行う権限が委任状に書かれていないと、そもそも申請が組めません。つまりオンラインで処理するかどうかは、届いた委任状の委任事項を見た時点で決まっているということです。事務所としてオンライン申請を標準にするなら、書類が届いた日に委任状の委任事項を確認し、暗号化条項がなければその場で金融機関に再発行を依頼する、という順序にしておくと手戻りがありません。
実務でつまずくケースと処理の型
金融機関が商号変更・合併・本店移転している
設定から完済まで10年、20年と経っていれば、抵当権者の名称や本店が登記記録と食い違っているのが普通です。この場合、通常なら変更の経過が分かる履歴事項証明書や閉鎖事項証明書を添付しますが、会社法人等番号を記載すればこれらの添付は不要とされています。ただし、閉鎖事項証明書に現在とは異なる会社法人等番号が記載されている場合は省略できません。
合併があったときは、抵当権を承継した存続会社が義務者になります。合併による包括承継なので抵当権移転登記を経る必要はなく、存続会社が直接、抹消の登記義務者として申請できます。ただし義務者欄には存続会社の現在の名称・本店・会社法人等番号を書き、登記記録上の消滅会社との連続性は会社法人等番号または登記事項証明書で示すことになります。
所有者の住所・氏名が登記記録と違う
引っ越しや婚姻による氏名変更を登記に反映していないケースです。前述のとおり事前に変更登記が必要で、抵当権抹消と同時に申請する場合も別件扱いとなり、その分の登録免許税(不動産1個につき1,000円)がかかります。顧客が「抹消だけのつもり」でいると費用の説明でもめやすいため、受任時の登記事項証明書チェックで先に洗い出しておきたい論点です。
この論点は制度側でも重くなりました。令和8年(2026年)4月1日から、不動産の所有者は住所や氏名・名称の変更日から2年以内に変更登記をすることが義務付けられています(不動産登記法76条の5)。法務局は「登記されている住所・氏名に変更があった方へ」のページでこれを案内し、あわせて登記官が職権で変更登記をする仕組み(法76条の6、いわゆるスマート変更登記の申出)も設けられました。抵当権抹消の相談で住所相違が見つかったときは、抹消の前提としての変更登記という説明だけでなく、そもそも申請義務がある登記だという説明を添えるほうが顧客の納得を得やすくなります。役員変更のように会社側の登記が絡む場面については、役員変更登記の必要書類と記載例もあわせて確認してください。
登記識別情報を提供できない
金融機関側で登記識別情報を紛失・失効しているケースです。不動産登記法22条ただし書により提供できない場合、条文の建て付けは「原則として事前通知、一定の要件を満たせば事前通知を適用しない」という形になっています。
- 事前通知(法23条1項・原則):登記官が登記義務者へ通知し、申出を待つ。期間は不動産登記規則70条8項により通知を発送した日から2週間(義務者が外国に住所を有する場合は4週間)
- 資格者代理人による本人確認情報(法23条4項1号・事前通知の適用除外):面談の日時・場所・状況、面識の有無と経緯、確認書類の内容などを規則72条の定めに従って作成し、登記官が内容を相当と認めること
- 公証人の認証(法23条4項2号・事前通知の適用除外):申請情報または委任状について公証人の認証を受け、登記官が内容を相当と認めること
義務者が法人(金融機関)の場合、事前通知は規則70条1項2号により書留郵便等で送付されます。代表者の住所宛てに送る場合は本人限定受取郵便になります。金融機関宛てに書留で届いた通知を、社内でどの部署が処理するかによって、2週間の期間内に申出が返ってくるかどうかが変わります。期間内に申出がないと不動産登記法25条10号により却下されるため、事前通知を選ぶなら金融機関側の担当部署と期限を先に握っておくのが安全です。
資格者代理人による本人確認情報は、規則72条2項が確認書類を3つの類型に分けています。運転免許証・個人番号カード・旅券等・在留カード等なら1点、健康保険の資格確認書や介護保険被保険者証などなら2点、後者1点+官公庁発行書類1点でも可、という組み合わせです。法人が申請人の場合は代表者またはこれに代わるべき者について確認します。
申請書には登記識別情報を提供できない理由のチェック欄(不通知・失効・失念・管理支障・取引円滑障害・その他)があり、この場合は添付情報欄に「登記識別情報(又は登記済証)」と書かない点に注意が必要です。
解除証書・委任状に空欄や日付漏れがある
法務局のチェックリストが独立項目を立てているとおり、金融機関から届く書類の記載漏れは頻出します。よくあるのは次のパターンです。
漏れている箇所 | 影響 | 対処 |
|---|---|---|
解除証書の解除日 | 申請書の「原因」欄の日付が確定できない | 金融機関に訂正・補記を依頼。こちらで推定して書かない |
解除証書の不動産の表示 | どの不動産の抵当権が消滅したか特定できない | 同上 |
委任状の日付 | 代理権の発生時期が不明 | 同上 |
委任状の受任者欄 | 誰に委任したか不明 | 実際に申請する人を記入(ここだけは補える) |
受付年月日・受付番号の誤記 | 抹消対象の抵当権が特定できない | 登記事項証明書と突合し、相違があれば金融機関へ差し戻す |
「訂正が完了してから申請書を提出してください」というのが法務局の案内です。空欄のまま出して補正で直すより、提出前に金融機関へ戻したほうが結局は早く終わります。
抵当権者が個人・保証会社・すでに移転している
抵当権者が金融機関ではないケースもあります。処理の考え方は次のとおりです。
- 抵当権者が個人:義務者欄は個人の住所・氏名。会社法人等番号の欄はなく、代理権限証明情報(委任状)と登記識別情報が必要になります
- 保証会社が代位弁済している:登記記録上、抵当権が保証会社へ移転している場合があります。移転の登記が入っていれば現在の登記名義人である保証会社が義務者です。移転登記が未了なら、抹消の前提として移転登記が必要になることがあります
- 抵当権者が解散している:清算人の所在が判明すれば清算人と共同申請、判明しなければ不動産登記法70条の2の単独申請を検討します
- 権利が人の死亡・法人の解散によって消滅する旨が登記されている:不動産登記法69条により、登記権利者が単独で抹消を申請できます
いずれも登記事項証明書の乙区を先に読めば判別できます。受任時に乙区の履歴(設定・移転・変更)を通しで確認するのが、この手の見落としを防ぐ唯一の方法です。
書面申請とオンライン申請、長期間放置された抵当権
オンライン申請の可否
抵当権抹消は登記・供託オンライン申請システムから申請できます。登記識別情報は、書面で通知を受けたものでも符号を電子的に送信して提供できます(不動産登記規則66条1項1号)。一方、旧制度下の登記済証(権利証)は原本の提出が避けられないため、その案件では申請情報だけをオンラインで送り、書面の添付情報を別途持参・郵送する特例方式になります。
法務局の案内は、オンラインで完結できない典型例として次を挙げています。
- 登記原因証明情報(解除証書・弁済証書)が押印のある書面で作成されている
- 委任状が押印のある書面で作成されている
- 登記済証を提出する必要がある
金融機関が電子署名付きの電子文書で書類を発行する例はまだ多くないため、実務上はほぼ特例方式になります。加えて、前述のとおり委任状に「登記識別情報の暗号化に関する件」の委任事項がなければオンライン申請自体ができません。どちらの方式を採るかは事務所の処理量と管轄庁との距離、そして届いた委任状の内容で決まるので、一律の正解はありません。
特例方式の手順と「受付日から2日以内」
書面の添付情報を後から出す特例方式は、不動産登記令附則5条1項が根拠です。法務局が案内している手順は次の順序になります。
- 事前準備:電子証明書(個人ならマイナンバーカードの電子証明書とICカードリーダライタ)を用意し、登記・供託オンライン申請システムで申請者情報を登録、申請用総合ソフトをインストールする
- 申請情報の作成:申請用総合ソフトで申請情報を作り、各添付情報について書面提出によるか否かの別も申請情報の内容とする(不動産登記規則附則21条1項)
- 電子署名と送信:申請情報に電子署名を付与して送信する。登記識別情報を提供する場合は申請情報と併せて送信する
- 登録免許税の納付:申請用総合ソフトからインターネットバンキング等で電子納付する。収入印紙等による納付も可能
- 書面の提出:「書面により提出した添付情報の内訳表」を印刷し、添付情報の原本とともに登記所へ持参または書留郵便等で送付する
- 補正対応・完了:補正のお知らせが届いたら速やかに対応し、完了後は登記完了証(電子公文書)をダウンロードする
この方式で最も事故になりやすいのが期限です。不動産登記規則附則21条2項は「当該書面は、申請の受付の日から二日以内に提出するものとする」と定め、法務局の案内も「オンライン申請の受付の日から2日以内(初日、休日等を除く)に法務局に到達する必要があります」と念を押しています。発送日ではなく到達日で数える点が重要で、遠方の管轄庁へ普通に郵送すると間に合わないことがあります。送付するときは書留郵便または引受け・配達の記録を行う信書便を使い、封筒の表面に令附則5条1項により提出する書面が在中する旨を明記します(規則附則21条4項・5項)。
原本還付と登記完了証の受け取り
解除証書や弁済証書を顧客に返す必要がある案件では、原本還付を請求します(不動産登記規則55条1項)。手順は簡単で、還付を受けたい書面のコピーを作り、そのコピーに「原本に相違ありません」と記載して申請人または代理人が署名(記名)押印し、原本と一緒に提出するだけです。複数枚にわたるときは各用紙のつづり目に契印します。別途、還付請求書を作る必要はありません。
ただし還付できない書面もあります。規則55条1項ただし書は、印鑑証明書と当該申請のためにのみ作成された委任状その他の書面を除外しています。抵当権抹消の委任状は原則としてこれに当たるため、返ってこないものとして顧客に説明しておくのが無難です。還付を受ける書面は、申請人の申出により送付の方法で返してもらうこともできます(規則55条6項〜8項。書留郵便等の料金分の郵便切手が必要)。
登記完了後は登記完了証が交付されます。窓口で受け取る場合は申請書に押印したものと同じ印鑑を持参し、郵送で受け取る場合は宛名を書いた返信用封筒と書留郵便料分の切手を申請時に一緒に提出します。オンライン申請なら電子公文書としてダウンロードできます。抵当権抹消では申請人が新たに登記名義人になるわけではないので、登記識別情報は通知されません(不動産登記法21条は「申請人自らが登記名義人となる場合」の通知を定めています)。完了書類は登記完了証と、還付を請求した原本だけだと顧客に先に伝えておくと、「権利証は来ないのか」という問い合わせが減ります。
休眠担保権の特則
明治・大正期の抵当権が残っている土地では、共同申請の相手方が見つからないことがあります。不動産登記法70条4項は、共同して抹消を申請すべき者の所在が知れないこと(同条1項)を前提に、次の2つの単独申請を認めています。
根拠 | 要件 | 提供する情報(不動産登記令別表26項) |
|---|---|---|
法70条4項前段 | 被担保債権が消滅したことを証する情報を提供したとき | 債権証書、被担保債権と最後の2年分の利息その他の定期金の完全な弁済があったことを証する情報/相手方の所在が知れないことを証する情報 |
法70条4項後段 | 弁済期から20年経過し、その経過後に元本・利息・損害金の全額に相当する金銭を供託したとき | 弁済期を証する情報/供託したことを証する情報/相手方の所在が知れないことを証する情報 |
法70条の2 | 相手方の法人が解散し、法70条2項の方法で調査してもなお清算人の所在が判明せず、弁済期から30年かつ解散の日から30年を経過したとき | 弁済期を証する情報/解散の日を証する情報/清算人の所在が判明しないことを証する情報 |
また、非訟事件手続法99条の公示催告を申し立て、106条1項の除権決定を得た場合は、法70条3項により登記権利者が単独で抹消を申請できます。いずれも要件の立証が重く、通常の完済案件とは別物として見積もる必要があります。とくに「所在が知れないことを証する情報」は、調査の記録を積み上げる作業になるため、見積り段階で工数を分けて説明しておくべき論点です。
提出前チェックリスト
法務局は「不動産登記申請書提出前のチェックリスト」を公開しています。抵当権抹消に効く項目だけを抜き出すと次のようになります。事務所の内部チェック表として、そのまま流用できます。
- 提出先は不動産の所在地を管轄する法務局か
- 原因の日付と文言が、解除証書・弁済証書の記載と一致しているか
- 申請人(および代理人)の住所・氏名が権利者欄の表示と一致し、氏名の後に押印したか
- 連絡先の電話番号を記載したか(平日8時30分〜17時15分に確実に連絡がとれる番号)
- 不動産の個数を数え直し、登録免許税額を記載したか
- 不動産の表示が登記事項証明書と一致し、順位番号を添えたか
- 収入印紙を台紙に貼付し、割印をしていないか。申請書と台紙のホチキス留めと契印をしたか
- 添付書類を原本で添付し、返却が必要なものは原本還付の手続をしたか
- 銀行等が作成した登記原因証明情報・委任状に空白部分がないか。空白があれば作成した銀行等に訂正を依頼し、完了してから提出したか
- 登記完了書類を郵送で受け取る場合、返信用封筒と書留郵便料分の切手を同封したか
AIに任せてよい下ごしらえと、任せてはいけない判断
抵当権抹消は判断の幅が狭く手順が定型的なので、生成AIの下ごしらえが効きやすい業務です。登記業務へのAI組み込みの考え方をこの手続きに落とすと、次のように分かれます。
任せてよい3つの作業
- 書類の突合チェック:登記事項証明書の記載と、金融機関から届いた解除証書・委任状の名称・住所・受付年月日・受付番号を並べて食い違いを指摘させる
- 不足書類の洗い出し:ケース(商号変更あり/識別情報なし/所有者住所相違)を伝え、追加で必要になる書面を列挙させる
- 顧客への説明文の下書き:費用の内訳や追加手続きが必要な理由を、専門用語を避けた文章に直させる
抵当権抹消で実際に使えるプロンプト2本
プロンプトの型は司法書士のChatGPTプロンプト集で扱っている「役割・入力・出力形式・チェック観点」の4点構成がそのまま使えます。抵当権抹消に当てはめると、次のようになります。
【役割】あなたは司法書士事務所の補助者です。
【入力】以下の2つのテキストを比較してください。
(A) 登記事項証明書 乙区の記載(受付年月日・受付番号・抵当権者の名称と本店)
(B) 金融機関から届いた解除証書・委任状の記載
【出力形式】次の3列の表。項目/(A)の記載/(B)の記載/一致・不一致
【チェック観点】
- 抵当権者の名称・本店が一致しているか
- 受付年月日・受付番号が一致しているか
- 不動産の表示(所在・地番・家屋番号)が一致しているか
- 日付・順位番号に空欄がないか
不一致や空欄があれば、その行の末尾に「要確認」と付けてください。
判断が付かない場合は推測せず「判断不可」と書いてください。もう1本は、費用と追加手続きの説明文を作らせるものです。
【役割】あなたは司法書士事務所の補助者です。
【入力】土地2筆・建物1棟/所有者の住所が登記記録と相違/抵当権者に合併あり
【出力形式】顧客向けメール本文(400字以内・専門用語を使わない)
【チェック観点】追加手続きが必要な理由を1文で。費用は「登録免許税」と「報酬」を分ける。
具体的な金額は空欄(〇〇円)にして、こちらで埋められるようにする。2本目で金額を空欄にさせているのがポイントです。文章の骨格だけをAIに作らせ、数字は人が埋めるという分担にすると、説明文の作成時間だけが削れて誤りは混入しません。
相続案件での使い方は相続関係説明図をAIで作成する手順や相続登記の申請書作成の実務が参考になります。戸籍の束から一覧図を作る法定相続情報一覧図の作り方も、突合作業という点では抵当権抹消と同じ構造です。
商業登記でも組み立て方は同じで、設立登記申請書の書き方と添付書類の場合分けでは、法務局の記載例に沿った項目ごとの書き方と、法務省が公表する補正事例まで整理しています。
任せてはいけない最終判断
順位番号の特定、登録免許税額の確定、事前通知か本人確認情報かの選択、休眠担保権の要件充足の判断は、いずれもAIに委ねてはいけません。理由は単純で、これらは登記記録の原本と条文に当たらなければ確定しないからです。AIの回答は学習時点の情報にもとづく確率的な出力であり、順位番号や個数のような案件固有の数値を正しく持っているとは限りません。
とくに敷地権の目的である土地の筆数は要注意です。「マンションだから2個」と一般論で答えるAIは珍しくありませんが、実際の筆数は登記事項証明書の敷地権の表示欄を見ないと分かりません。ここを人が数えるという工程は、どれだけAIを入れても省けません。
実務では「AIに一覧表を作らせ、司法書士が登記事項証明書と1行ずつ突き合わせる」という順序が安全です。AIが作った表が間違っていても、突合の工程で必ず捕まります。逆に、AIに最終値を出させて人がそれを追認する運用にすると、誤りが素通りします。ツール選定の観点は司法書士のAIツール比較、事務所への定着方法は司法書士事務所のAI導入事例にまとめています。AIに登記の可否そのものを判断させることの是非は、弁護士法72条とAIの線引きで整理した「一般的な情報提供にとどまるか、個別事件の法律判断に踏み込むか」という基準がそのまま参考になります。
なお、顧客の氏名・住所や不動産の所在を汎用AIに入力する運用には守秘義務の検討が必要です。入力範囲の切り分けは士業事務所の情報漏洩対策を確認してください。条文の所在から確認したい場面では、e-Gov法令データなどの公的情報だけを参照する法務特化AI「士業AI【法務】」のように、参照範囲を公的情報に限定した設計のツールを使うと、条文名から根拠に戻る作業を短縮できます。
抵当権抹消登記のよくある質問
登録免許税は上限いくらですか
同一の申請書で20個を超える不動産について登記の抹消を受ける場合は、申請件数1件につき20,000円です(登録免許税法別表第一の一(十五)の備考)。19個までは個数×1,000円なので19,000円、20個なら20,000円、21個以上でも20,000円になります。
権利証(登記済証)を紛失していても抹消できますか
紛失しているのが所有者側であれば問題ありません。抵当権抹消で提供するのは抵当権者である金融機関の登記識別情報または登記済証だからです。金融機関側が紛失している場合は、事前通知・資格者代理人による本人確認情報・公証人の認証のいずれかで処理します。
印鑑証明書は必要ですか
登記識別情報が届いている通常の完済案件では不要です(不動産登記規則47条3号ハに当たらないため、規則48条5号により添付不要)。ただし登記識別情報を提供できない案件では、義務者である金融機関の印鑑証明書が必要になります。所有者側の印鑑証明書は、いずれの場合も不要です。
土地と建物を別々に申請したほうが安くなりますか
なりません。登録免許税は不動産の個数で計算するため、1件で2個を申請しても2件に分けて1個ずつ申請しても、合計は2,000円で同じです。むしろ申請件数が増えると手間が増えるだけなので、同一の管轄・同一の抵当権であれば1件にまとめます。
まとめ
抵当権抹消登記は、必要書類が集める4点・作る2点に収まり、様式も記載例も法務局が公開している定型業務です。詰まるのは書類そのものではなく、商号変更・住所相違・登記識別情報の欠落という「経年による食い違い」と、不動産の個数の数え方、そして委任状の委任事項に集中します。ここを受任時に洗い出せるかどうかが処理速度を決めます。
手が止まりやすい3か所をもう一度挙げておきます。第一に、敷地権の目的である土地の筆数を登記事項証明書で数えること。第二に、届いた委任状に取下げ・補正の権限と、オンライン申請をするなら「登記識別情報の暗号化に関する件」があるかを確認すること。第三に、解除証書と委任状の空欄は自分で埋めず金融機関に差し戻すこと。この3つを受任日のチェック項目にするだけで、補正の大半は消えます。
AIは、その洗い出しと突合、顧客説明の下書きという前工程で確実に効きます。一方で順位番号や税額といった案件固有の数値は必ず原本で確定させてください。司法書士業務全体でのAIの位置づけは司法書士・弁護士のためのAI活用ガイドで整理しています。
参考文献
- 法務局「不動産登記の申請書様式について」
- 法務局「抵当権抹消登記申請書 様式」(PDF)
- 法務局「抵当権抹消登記申請書 記載例」(PDF)
- 法務局「抵当権抹消登記申請書 記載例(敷地権付き区分建物の場合)」(PDF)
- 法務局「住宅ローン等を完済した方へ(抵当権の登記の抹消手続のご案内)」
- 法務省民事局「抵当権の登記の抹消手続のご案内(一戸建て編)」(PDF)
- 法務省民事局「抵当権の登記の抹消手続のご案内(マンション編)」(PDF)
- 法務局「抵当権の抹消の登記の申請に必要な書類とその入手先等」(PDF)
- 法務局「住宅ローン等を完済した(抵当権抹消の登記をオンライン申請したい方)」
- 法務局「登録免許税の計算」(PDF)
- 法務局「不動産登記申請書提出前のチェックリスト」(PDF)
- 法務局「登記されている住所・氏名に変更があった方へ(住所変更登記・氏名変更登記の申請手続のご案内)」
- e-Gov法令検索「不動産登記法」
- e-Gov法令検索「不動産登記令」
- e-Gov法令検索「不動産登記規則」
- e-Gov法令検索「登録免許税法」
- 登記・供託オンライン申請システム

