退職金の税金の計算方法|控除額・源泉徴収・住民税の早見表【2026年】
退職金を支払うとき、経理や会計事務所の担当者が最初にぶつかるのが「結局いくら源泉徴収すればいいのか」です。給与と同じ感覚で税額表を引いても答えは出ません。退職金は他の所得と分離して、退職所得控除 → 2分の1 → 専用の速算表、という独立した手順で計算するからです(所得税法30条・89条)。
さらに、同じ退職金でも「退職所得の受給に関する申告書」を受け取っているかどうかで源泉徴収税額が大きく変わり、住民税はその申告書の有無に関係なく同じ税額になります。ここを取り違えたまま支払ってしまうと、あとから本人に返金や追加徴収をお願いすることになります。
この記事では、支払う側(会社・会計事務所)の実務手順として、退職金の税金の計算方法を条文と国税庁の一次資料で確認しながら整理します。
この記事で分かること
- 退職金の税金を出す3ステップ(退職所得控除 → 2分の1 → 速算表)と、勤続年数の数え方
- 2分の1が使えない2パターン(短期退職手当等・特定役員退職手当等)の判定表
- 「退職所得の受給に関する申告書」の提出あり/なしで所得税・住民税がどう変わるか
- 住民税(市町村民税6%・道府県民税4%)の計算と端数処理、納入期限
- 令和8年(2026年)に実務が変わった3点(源泉徴収票の提出範囲・iDeCo一時金後の調整期間・特別徴収票)
- 4つの計算例(一般/申告書なし/特定役員/短期)と、AIに検算させるプロンプト
退職金の税金は3ステップで決まる
計算の型:収入金額 → 退職所得控除 → 2分の1 → 速算表
退職所得の金額は、所得税法30条2項で次のように定められています。
(退職手当等の収入金額 - 退職所得控除額)× 1/2 = 退職所得の金額
この「退職所得の金額」から1,000円未満を切り捨てたものが課税退職所得金額で、これを専用の速算表に当てはめると源泉徴収する所得税・復興特別所得税の額が出ます。手順は次の4段です。
- 勤続年数を数える(1年未満の端数は1年に切上げ/所得税法施行令69条2項)
- 勤続年数から退職所得控除額を出す(所得税法30条3項・6項)
- (収入金額 - 控除額)を2分の1にして1,000円未満切捨て=課税退職所得金額
- 速算表に当てはめ、×102.1%して1円未満切捨て=源泉徴収税額
所得税と住民税は別ルートで計算する
退職金にかかる税金は「所得税+復興特別所得税」と「住民税(市町村民税・道府県民税)」の2本立てです。課税標準(退職所得の金額)までは共通ですが、そこから先の計算ルールも端数処理も別物です。
項目 | 所得税・復興特別所得税 | 住民税(分離課税に係る所得割) |
|---|---|---|
根拠 | 所得税法30条・199条・201条 | 地方税法328条〜328条の6・50条の2〜50条の6 |
税率 | 速算表(5〜45%)× 102.1% | 市町村民税6%+道府県民税4%=10% |
申告書の有無 | 変わる(未提出なら一律20.42%) | 変わらない |
課税団体 | 国(支払者の納税地の所轄税務署) | 支払を受けるべき日の属する年の1月1日現在の住所地の市区町村・都道府県 |
納期 | 徴収した月の翌月10日まで | 徴収した月の翌月10日まで |
給与と違い、年末調整にも確定申告にも原則そのまま合流しない
退職所得は分離課税なので、月々の給与の源泉徴収とは切り離して計算し、年末調整でも合算しません。申告書の提出を受けていれば源泉徴収で課税関係が完結し、本人の確定申告も原則不要です(国税庁タックスアンサーNo.1420)。ここが給与の源泉徴収と最も違う点で、社内の給与計算ソフトに退職金を「賞与」として入れてしまう事故が起きやすい理由でもあります。給与側の帳票の作り方は源泉徴収票の書き方|欄別の記入例と令和8年分の変更点で別途整理しています。
ステップ1:退職所得控除額を勤続年数から出す
勤続年数の数え方(1年未満は切上げ)
勤続年数は、原則としてその支払者のもとで退職の日まで引き続き勤務した期間の年数で、1年未満の端数は1年に切り上げます(所得税法施行令69条2項)。10年2か月なら11年、10年1日でも11年です。切り捨てではないので、この1日で控除額が40万円動きます。
国税庁タックスアンサーNo.2732は、勤続期間に含める/含めない期間を次のように整理しています。
含める期間 | 含めない期間 |
|---|---|
長期の欠勤・病気休職の期間 | 日額表丙欄の適用を受けていた期間 |
過去に同一の支払者のもとで勤務した期間 | 他の支払者のもとで勤務するために休職した期間 |
退職給与規程などの明らかな定めにより、退職金の計算の基礎に含まれる他社・前職の期間 | その支払者から前に支払を受けた退職金の計算の基礎となった期間の末日以前の期間 |
実務でいちばん照会が多いのは3行目です。「前職の期間を通算して退職金を計算している」なら勤続年数にも含めますが、規程に定めがなく運用で上乗せしているだけなら含めません。ここは退職金規程の条文を現物で確認するのが唯一の確かめ方です。
控除額の2本の算式と、80万円の下限
勤続年数(=A) | 退職所得控除額 |
|---|---|
20年以下 | 40万円 × A(80万円に満たない場合は80万円) |
20年超 | 800万円 + 70万円 ×(A - 20年) |
下限80万円は所得税法30条6項2号、20年超の算式は同条3項2号です。勤続1年でも控除額は80万円になるため、退職金が80万円以下なら課税退職所得金額はゼロで源泉徴収も不要になります。よく出る年数を早見表にすると次のとおりです。
勤続年数 | 退職所得控除額 | この額までなら課税ゼロ |
|---|---|---|
1年 | 80万円 | 80万円 |
5年 | 200万円 | 200万円 |
10年 | 400万円 | 400万円 |
15年 | 600万円 | 600万円 |
20年 | 800万円 | 800万円 |
25年 | 1,150万円 | 1,150万円 |
30年 | 1,500万円 | 1,500万円 |
35年 | 1,850万円 | 1,850万円 |
38年 | 2,060万円 | 2,060万円 |
40年 | 2,200万円 | 2,200万円 |
障害退職は100万円加算
在職中に障害者に該当することとなり、その日以後ほとんど勤務せずに退職した場合は、控除額に100万円を加算します(所得税法30条6項3号、同法施行令71条)。加算は下限80万円の判定をしたあとに行うので、勤続1年の障害退職なら80万円+100万円=180万円です。この事実は「退職所得の受給に関する申告書」のC欄に本人が記載して申告するもので、支払者が勝手に判断して適用するものではありません。
過去に退職金・iDeCo一時金を受け取っている場合の調整
同じ勤続期間について二重に控除を受けられないよう、過去の退職金と勤続期間が重複していると控除額が減額されます(所得税法30条6項1号、同法施行令70条)。対象になるのは次の3パターンです。
ケース | さかのぼる期間 |
|---|---|
前に退職金を受け取っている(一般) | 前年以前4年内 |
確定拠出年金(企業型DC・iDeCo)の老齢一時金を令和8年1月1日以後に受け取っており、その後に退職金を受け取る | 前年以前9年内 |
退職金を受け取ったあとに確定拠出年金の老齢一時金を受け取る | 前年以前19年内 |
2段目は令和8年(2026年)から動き出した新しいルールです。所得税法施行令70条1項2号ロで「その年の前年以前九年内に……(令和八年一月一日以後に支払を受けたものに限り)」と明記されており、いわゆる「iDeCoを先に受け取ってから退職金を受け取る5年ルール」が実質10年ルールに変わりました。60歳でiDeCoを一時金で受け取り、65歳で会社を退職するプランは、令和8年1月1日以後の受給分から控除が重複調整の対象になります。顧問先の役員・従業員から相談を受ける可能性が高い論点です。
ステップ2:課税退職所得金額を出す(2分の1が使えない2パターン)
一般/短期/特定役員の判定表
「2分の1課税」は退職所得の最大の優遇ですが、勤続年数が短いと制限されます。まずどの区分に当たるかを判定します。
区分 | 判定 | 課税退職所得金額 |
|---|---|---|
特定役員退職手当等 | 役員等としての勤続年数が5年以下 | 収入金額 - 退職所得控除額(2分の1なし) |
短期退職手当等 | 役員等以外として計算した勤続年数が5年以下(特定役員に該当しないもの) | 控除後300万円以下:×1/2 |
一般退職手当等 | 上記のいずれにも該当しない | (収入金額 - 退職所得控除額)× 1/2 |
「役員等」は法人税法上の役員のほか、国会議員・地方議会議員・国家公務員・地方公務員を含みます(所得税法30条5項)。役員等勤続年数の1年未満の端数も1年に切り上げます。短期退職手当等は令和4年1月1日以後に支払うべき退職手当等から適用されています(国税庁タックスアンサーNo.2740)。
迷いやすい線引き
- 使用人期間を含めて役員退職金を払う場合:特定役員退職手当等になるのは「役員等勤続年数に対応する部分」です。使用人期間分と役員期間分の双方がある場合は区分計算が必要で、同じ年に一般退職手当等と特定役員退職手当等がある場合の計算は国税庁タックスアンサーNo.2741の方法によります。
- 使用人から役員になって通算5年以下:役員等としての年数が5年以下でも、短期勤続年数の判定では役員として勤務した期間も含めて数えます(No.2732)。
- 執行役員・顧問・相談役:法人税法上の「みなし役員」に当たるかで判定が変わります。登記簿だけで判断しないでください。
1,000円未満は切り捨てる
課税退職所得金額に1,000円未満の端数があるときは切り捨てます。たとえば退職所得の金額が1,804,300円なら1,804,000円で速算表に当てはめます。
ここまでが「税額を出す前の下ごしらえ」です。ここを間違えると、以降の計算をどれだけ丁寧にやっても答えは合いません。
ステップ3:速算表で源泉徴収税額を出す
退職所得の源泉徴収税額の速算表
所得税法89条1項の税率表に、復興特別所得税2.1%を上乗せ(=102.1%)した形が国税庁の「退職所得の源泉徴収税額の速算表」です。
課税退職所得金額(A) | 所得税率(B) | 控除額(C) | 税額={(A)×(B)-(C)}×102.1% |
|---|---|---|---|
195万円以下 | 5% | 0円 | (A)×5%×102.1% |
195万円超 330万円以下 | 10% | 97,500円 | {(A)×10%-97,500円}×102.1% |
330万円超 695万円以下 | 20% | 427,500円 | {(A)×20%-427,500円}×102.1% |
695万円超 900万円以下 | 23% | 636,000円 | {(A)×23%-636,000円}×102.1% |
900万円超 1,800万円以下 | 33% | 1,536,000円 | {(A)×33%-1,536,000円}×102.1% |
1,800万円超 4,000万円以下 | 40% | 2,796,000円 | {(A)×40%-2,796,000円}×102.1% |
4,000万円超 | 45% | 4,796,000円 | {(A)×45%-4,796,000円}×102.1% |
求めた税額に1円未満の端数があるときは切り捨てます。
計算例A:勤続10年2か月・退職金800万円(一般・申告書あり)
- 勤続年数:10年2か月 → 11年
- 退職所得控除額:40万円 × 11年 = 440万円
- 課税退職所得金額:(800万円 - 440万円)× 1/2 = 180万円
- 所得税・復興特別所得税:180万円 × 5% × 102.1% = 91,890円
- 住民税:市町村民税 180万円×6%=108,000円/道府県民税 180万円×4%=72,000円 → 合計 180,000円
手取りは 800万円 - 91,890円 - 180,000円 = 7,728,110円。800万円の退職金に対する税負担は合計271,890円(約3.4%)で、同額を給与で払った場合と比べると圧倒的に軽いことが分かります。
計算例B:勤続29年2か月・退職金2,300万円(一般・申告書あり)
- 勤続年数:29年2か月 → 30年
- 退職所得控除額:800万円 + 70万円 ×(30年-20年)= 1,500万円
- 課税退職所得金額:(2,300万円 - 1,500万円)× 1/2 = 400万円
- 所得税・復興特別所得税:(400万円×20% - 427,500円)× 102.1% = 380,322.5円 → 380,322円(1円未満切捨て)
- 住民税:240,000円 + 160,000円 = 400,000円
計算例C:申告書の提出を受けていない場合(退職金800万円)
「退職所得の受給に関する申告書」の提出がないと、勤続年数がどれだけ長くても退職所得控除も2分の1も使えません。
- 所得税・復興特別所得税:800万円 × 20.42% = 1,633,600円
- 住民税:計算例Aと同じ 180,000円(申告書の有無で変わらない)
計算例Aとの所得税の差は1,541,710円。1枚の紙の有無でこれだけ動きます。多く引かれた分は本人が確定申告をすれば戻りますが、「なぜこんなに引かれたのか」という問い合わせが事務所に来るのは支払った直後です。
計算例D:役員等勤続年数3年・役員退職金600万円(特定役員)
- 退職所得控除額:40万円 × 3年 = 120万円
- 課税退職所得金額:600万円 - 120万円 = 480万円(2分の1なし)
- 所得税・復興特別所得税:(480万円×20% - 427,500円)× 102.1% = 543,682.5円 → 543,682円
- 住民税:288,000円 + 192,000円 = 480,000円
仮に2分の1が使えたとすると所得税は145,492円なので、約39.8万円の差になります。短期間で役員を退任する前提の退職金設計では、この差が意思決定を左右します。
計算例E:使用人・勤続4年・退職金800万円(短期退職手当等)
- 退職所得控除額:40万円 × 4年 = 160万円
- 控除後:800万円 - 160万円 = 640万円 > 300万円 → 300万円超の部分は2分の1なし
- 課税退職所得金額:150万円 + {800万円 -(300万円+160万円)} = 490万円
- 所得税・復興特別所得税:(490万円×20% - 427,500円)× 102.1% = 564,102.5円 → 564,102円
- 住民税:294,000円 + 196,000円 = 490,000円
控除後の全額に2分の1が使えた場合の所得税は227,172円なので、こちらも約33.7万円の差です。短期退職手当等は「300万円までは従来どおり、超えた部分だけ制限」という段階構造なので、控除後が300万円以下なら計算は一般退職手当等と同じになります。
ここまでの判定と計算を、顧問先ごとに毎回手で追うのは現実的ではありません。士業AIの税務AIは、国税庁の公表資料を参照しながら勤続年数の切上げ・区分判定・速算表の適用を一気通貫でたどり直せるので、担当者が出した数字の二重チェック役として使えます。
「退職所得の受給に関する申告書」で何が変わるか
提出があれば速算表、なければ一律20.42%
この申告書は所得税法203条1項に定められた法定の申告で、退職手当等の支払を受ける居住者は支払を受ける時までに提出しなければなりません。提出がない場合、支払者は所得税法201条3項により支払金額の20%(復興特別所得税を含めて20.42%)を源泉徴収します。
住民税は申告書の有無で変わらない
実務で誤解が多いのがここです。地方税法328条の6第2項は、退職所得申告書の提出がない場合でも「その支払う退職手当等の金額について第328条の2及び第328条の3の規定を適用して計算した税額」と定めており、退職所得控除も2分の1も通常どおり適用されます。所得税だけがペナルティ的に重くなる、と覚えてください。
提出先は税務署ではなく支払者(原則として支払者が保管)
条文上は「支払者を経由して所轄税務署長に提出」ですが、国税庁の手続案内(A2-29)では税務署長から特に提出を求められた場合以外は税務署へ提出する必要はなく、支払者が保管すると明記されています。実務上は退職金の支払台帳と一緒にファイルしておけば足ります。なお、令和8年1月1日以後用の新しい様式が国税庁サイトで公開されています。
提出漏れに気づいたときのリカバリ
- 支払前に気づいた:本人に提出してもらい、通常の計算で源泉徴収する。
- 支払後に気づいた:20.42%で納付済みなら、本人が確定申告をして精算します(No.1420)。支払者側で遡って計算し直すことはできません。
- その年に他社からも退職金を受け取っている:申告書に「支払済みの他の退職手当等」を記載し、その源泉徴収票を添付してもらいます(所得税法203条1項2号・同柱書)。記載がないまま計算すると控除額を二重に使ってしまいます。
電子提出も可能です。支払者が所定の3要件(提供を適正に受ける措置・提供者を特定する措置・表示や書面出力の措置)を満たしていれば、書面に代えて電磁的方法で記載事項を提供できます(所得税法203条4項)。
住民税(退職所得の分離課税)の実務
税率と課税団体
退職所得に係る住民税は、他の所得と区分して支払の際に特別徴収します(地方税法328条・328条の4)。税率は市町村民税6%(同法328条の3)、道府県民税4%(同法50条の4)の合計10%で、課税するのは退職手当等の支払を受けるべき日の属する年の1月1日現在の住所地の市区町村です(同法328条)。年の途中で引っ越していても、1月1日時点の住所で判断します。
端数処理の順序
- 退職所得の金額の1,000円未満を切り捨てる(地方税法20条の4の2第1項)
- 市町村民税額(×6%)・道府県民税額(×4%)をそれぞれ計算する
- それぞれの税額の100円未満を切り捨てる(同条3項)
合計額に対して一度だけ100円未満を切り捨てるのではなく、市町村民税と道府県民税を別々に丸める点に注意してください。総務省の「平成25年1月1日以降の退職所得に対する住民税の特別徴収について」に計算の流れと早見表が掲載されています。
10%の税額控除は平成25年に廃止済み
平成24年12月31日以前は、算出した住民税額から10%相当を控除する仕組みがありました。これは平成25年1月1日以後に支払われる退職手当等から廃止されています。古い手計算のExcelシートやマクロにこの控除が残っているケースを実務でまだ見かけるので、退職金の支払が久しぶりの顧問先では計算シートの中身を必ず確認してください。
納入期限と納期の特例
徴収した住民税は、徴収の日の属する月の翌月10日までに納入申告書を添えて市町村に納入します(地方税法328条の5第2項)。所得税側も翌月10日が原則ですが、納期の特例の承認を受けている事務所等では、退職手当等も給与等と同じく特例の対象になります(所得税法216条)。住民税についても同法328条の5第3項が321条の5の2を準用しており、特例の対象です。納付書の書き方は源泉所得税の納付書の書き方|欄ごとの記入と納期の特例で整理しています。
令和8年(2026年)に変わった実務ポイント
退職所得の源泉徴収票の税務署提出範囲が「全員」に拡大
これが2026年でいちばん見落とされやすい変更です。従来、税務署と市区町村に提出が必要なのは受給者が法人の役員である場合に限られていましたが、令和8年1月1日以後に支払うべき退職手当等については、支払ったすべての人について提出しなければなりません(国税庁タックスアンサーNo.7421)。
提出期限は退職後1か月以内(その年中の退職者分をまとめて翌年1月31日までに提出しても差し支えありません)。従業員の退職金しか払っていない顧問先も、今年から法定調書の提出義務者になります。
特別徴収票の市区町村への提出は当分の間省略可
一方で、令和8年1月1日以後に支払うべき退職手当等に係る特別徴収票(市区町村提出分)は、当分の間、提出を省略できるとされています(同No.7421)。「税務署へは全員分を出す、市区町村へは出さなくてよい」という非対称な形になっているので、帳票の運用フローを組み直すときに取り違えないでください。本人への交付は従来どおり退職後1か月以内に全員に必要です(所得税法226条2項)。
iDeCo・企業型DCの一時金を受け取ったあとの退職金は「9年内」で調整
前述のとおり、令和8年1月1日以後に確定拠出年金の老齢一時金を受け取った人が、その後に退職金を受け取る場合、控除額の調整でさかのぼる期間が前年以前4年内から前年以前9年内に延びました(所得税法施行令70条1項2号ロ)。退職金の受け取り順序を設計していた顧問先には、早めに情報提供しておきたい改正です。
令和9年からの防衛特別所得税(合計税率は変わらない)
令和8年度税制改正で防衛特別所得税が創設され、令和9年(2027年)1月1日以後に徴収する分から、源泉徴収税額に1%の防衛特別所得税が上乗せされます(防衛財確法5条の26第2項)。同時に復興特別所得税の税率が2.1%から1.1%に引き下げられ、課税期間が令和29年分まで延長されます(復興財確法13条、同法9条)。
合計は1.1%+1.0%=2.1%で変わらないため、×102.1%という計算式も20.42%という税率も据え置きです。国税庁も「改正前後で源泉徴収税額の計算方法に変更は生じません」と明記しています(No.1420)。ニュースの見出しだけを見て「来年から退職金の源泉徴収が増える」と顧問先に説明してしまわないよう注意してください。制度改正の追い方そのものは税法改正の調べ方をAIで最新化|古い税率回答を防ぐ手順で扱っています。
判断に迷うケースの整理
死亡退職金は所得税ではなく相続税
死亡退職により支払う退職手当等で相続税の課税対象になるものは、所得税の課税対象にならないため源泉徴収は不要です(No.2732)。この場合は退職所得の源泉徴収票ではなく、相続税法上の「退職手当金等受給者別支払調書」を提出します(No.7421)。相続人が受け取る死亡退職金には「500万円×法定相続人の数」の非課税枠があります(No.4117)。相続税の課税ラインは相続税はいくらからかかる?基礎控除の計算と申告要否の判断で詳しく整理しています。
注意したいのは「死亡後3年以内に支給が確定したもの」が相続税の対象という線引きです。3年経過後に支給が確定した退職金は、受け取った遺族の一時所得になります。
解雇予告手当・未払賃金の立替払
労働基準法20条の解雇予告手当と、賃金の支払の確保等に関する法律7条により退職した労働者が弁済を受ける未払賃金は、いずれも退職所得に該当します(No.1420)。解雇予告手当を「給与」として処理して源泉徴収してしまう誤りが典型的なミスです。
そのほか
- 同じ年に2か所以上から退職金:勤続期間の重複を調整して控除額を計算します(No.2735)。あとから支払う側は、先に支払われた退職金の源泉徴収票の添付を必ず受けてください。
- 退職金の分割支給:最初に支払を受けるべき日の属する年の収入金額として計算します(所得税法施行令77条)。
- 常時2人以下の家事使用人のみに給与を払う者:退職手当等の源泉徴収義務がありません(所得税法200条)。
- 功労金・慰労金:退職に基因して支払われるものは名目にかかわらず退職手当等に含めます(No.2732)。
AIに「検算」させる:そのまま使えるプロンプト
退職金の計算は、手順そのものは単純でも、勤続年数の切上げ・区分判定・端数処理という「小さな分岐」が多く、桁の大きさに対してミスの発見が遅れがちです。AIは最初の答えを出させる道具としてではなく、人が出した答えを別ルートで再現させる検算役として使うのが実務的です。
プロンプト1:源泉徴収税額の検算
あなたは日本の源泉所得税の実務担当です。
次の前提で、退職手当等に係る源泉徴収税額(所得税・復興特別所得税)と
住民税(市町村民税・道府県民税)を計算してください。
【前提】
・支払日:2026年【 】月【 】日
・退職者区分:使用人 / 役員(いずれか)
・勤続期間:【 】年【 】か月(役員等としての期間:【 】年【 】か月)
・退職手当等の支給額:【 】円
・退職所得の受給に関する申告書:提出あり / 提出なし
・障害退職:該当する / 該当しない
・同年中の他の退職手当等:あり(金額【 】円)/ なし
・前年以前の退職金・確定拠出年金一時金の受給:あり(受給年【 】年・金額【 】円)/ なし
【出力の条件】
1. 次の順に「途中の数字」を必ず全部書くこと
(1) 勤続年数(1年未満の端数処理の結果も明記)
(2) 退職所得控除額(用いた算式と、80万円下限・100万円加算の適否)
(3) 一般退職手当等 / 短期退職手当等 / 特定役員退職手当等 の区分と判定理由
(4) 課税退職所得金額(1,000円未満切捨て後)
(5) 速算表のどの行を使ったか(税率と控除額)
(6) 所得税・復興特別所得税(1円未満切捨て後)
(7) 市町村民税6%・道府県民税4%(それぞれ100円未満切捨て後)
2. 各ステップで根拠となる条文番号または国税庁タックスアンサーの番号を書くこと
3. 前提から判断できない点があれば、計算せずに質問すること
4. 最後に「この計算が誤りになりうる前提」を3つ挙げることプロンプト2:自分の計算とAIの計算を突き合わせる
次は当方で計算した退職金の源泉徴収税額です。
あなたは独立に同じ前提から計算し直し、結果を突き合わせてください。
【当方の計算】
勤続年数:【 】年
退職所得控除額:【 】円
課税退職所得金額:【 】円
所得税・復興特別所得税:【 】円
市町村民税:【 】円 道府県民税:【 】円
【前提】(プロンプト1と同じ項目を貼る)
【出力】
・一致した項目/不一致の項目を表で示す
・不一致がある場合、「どのステップで差が生まれたか」を1つに特定する
・当方の計算が正しい可能性も検討し、どちらが正しいか断定できない場合はそう書くうまくいかない例 → 直し方
うまくいかない例 | 何が起きるか | 直し方 |
|---|---|---|
「勤続10年で退職金800万円の税金は?」とだけ聞く | 役員か使用人かが不明なまま一般退職手当等で計算され、特定役員・短期の判定が飛ばされる | 役員等としての期間を別建てで必ず与える |
「答えだけ教えて」と指示する | 途中式が出ないので、どこで間違えたか検証できない | 「(1)〜(7)の途中の数字を全部書く」と出力形式を固定する |
住民税を聞かずに所得税だけ検算する | 申告書未提出時に住民税まで20.42%で計算していた誤りを見逃す | 所得税と住民税を必ず同時に出させる |
年を指定しない | 復興特別所得税・防衛特別所得税の扱いが年で変わるため、古い前提で答えが返る | 支払日を年月日で明示する |
過去の退職金・iDeCoの受給歴を伝えない | 控除額の重複調整(4年内・9年内・19年内)が丸ごと抜ける | 「受給歴なし」も含めて必ず明示する |
AIに任せてはいけない線引き
- 役員かどうかの事実認定:登記・職務内容・報酬体系から判断すべきもので、AIに「役員に当たりますか」と聞いて終わりにはできません。
- 退職金規程の解釈:勤続期間の通算の可否は規程の文言次第です。規程を読み込ませたうえで「条文のどこを根拠にそう判断したか」を必ず出させ、人が現物と照合します。
- 最新の数値・期限:税率や提出範囲は改正で動きます。AIが出した数字は、国税庁タックスアンサーやe-Gov法令検索の条文で必ず当たり直してください。
士業AIの税務AIは、国税庁など公的情報を参照しながら回答を組み立てるよう設計しており、上記のような検算・二重チェックの用途に向いています。税理士・会計事務所向けの活用範囲は税理士向けAI(税務AI)のページにまとめています。無料登録で試せるので、まずは手元の1件を突き合わせてみてください。
よくある質問
退職金にはいくらまで税金がかからない?
退職所得控除額までです。勤続20年以下なら40万円×勤続年数(最低80万円)、20年超なら800万円+70万円×(勤続年数-20年)。勤続30年なら1,500万円までは所得税も住民税もかかりません。
退職金の税金は確定申告が必要?
「退職所得の受給に関する申告書」を提出していれば、源泉徴収で課税関係が完結するため原則不要です。ただし医療費控除や寄附金控除などで確定申告書を提出する場合は、退職所得の金額も記載する必要があります(No.1420)。
申告書を出さずに20.42%引かれた。取り戻せる?
本人が確定申告をすれば精算されます。支払者側で遡って計算をやり直すことはできません。
勤続年数に1日でも端数があれば1年増える?
はい。1年未満の端数は1年に切り上げます(所得税法施行令69条2項)。20年と1日なら21年として計算し、控除額は800万円+70万円=870万円になります。
退職所得に社会保険料はかかる?
退職金は労働の対償として経常的に支払われる報酬ではないため、健康保険・厚生年金保険の標準報酬月額や賞与額の計算の基礎にはなりません。ただし、退職後の任意継続や国民健康保険料には住民税の所得割の計算方法が関わる場面があるので、自治体の判定基準を確認してください。
まとめ
- 退職金の税金は「勤続年数 → 退職所得控除額 → 2分の1 → 速算表 ×102.1%」の4段で決まる
- 勤続年数の1年未満は切上げ。1日で控除額が40万円(20年超なら70万円)動く
- 役員等5年以下は2分の1なし、使用人5年以下は控除後300万円超部分が2分の1なし
- 「退職所得の受給に関する申告書」がないと所得税は一律20.42%。住民税は変わらない
- 住民税は10%(市町村民税6%+道府県民税4%)。1,000円未満切捨て → 税額はそれぞれ100円未満切捨て
- 令和8年から、退職所得の源泉徴収票の税務署提出範囲が全員に拡大(特別徴収票の市区町村提出は当分の間省略可)
- 令和8年1月1日以後にDC老齢一時金を受け取った場合、その後の退職金の控除調整は前年以前9年内
- 令和9年から防衛特別所得税1%が上乗せされるが、復興特別所得税が1.1%に下がるため合計税率と計算式は据え置き
退職金の支払は顧問先1社あたり年に数件あるかないかで、担当者が手順を思い出しながら計算することになりがちです。だからこそ、計算そのものより「前提の聞き漏らし」で事故が起きます。この記事の手順書とプロンプトを、支払前のチェックリストとして使ってください。
参考文献
- 国税庁 タックスアンサー No.1420 退職金を受け取ったとき(退職所得)
- 国税庁 タックスアンサー No.2732 退職手当等に対する源泉徴収
- 国税庁 別紙 退職所得の源泉徴収税額の速算表
- 国税庁 タックスアンサー No.2737 役員等の勤続年数が5年以下の者に対する退職手当等(特定役員退職手当等)
- 国税庁 タックスアンサー No.2740 勤続年数が5年以下の者に対する退職手当等(短期退職手当等)(令和4年1月1日以後)
- 国税庁 タックスアンサー No.2741 同じ年に一般退職手当等のほか、短期退職手当等や特定役員退職手当等がある場合
- 国税庁 タックスアンサー No.2735 同じ年に2か所以上から退職手当等が支払われるとき
- 国税庁 タックスアンサー No.7421 「退職所得の源泉徴収票」の提出範囲と提出枚数等
- 国税庁 タックスアンサー No.4117 相続税の課税対象になる死亡退職金
- 国税庁 A2-29 退職所得の受給に関する申告(退職所得申告)
- 総務省 平成25年1月1日以降の退職所得に対する住民税の特別徴収について
- e-Gov法令検索 所得税法(昭和四十年法律第三十三号)
- e-Gov法令検索 所得税法施行令(昭和四十年政令第九十六号)
- e-Gov法令検索 地方税法(昭和二十五年法律第二百二十六号)

