新リース会計基準2027の実務対応|使用権資産の計上・簡便法・経過措置
新リース会計基準(企業会計基準第34号「リースに関する会計基準」)は、2027年4月1日以後開始する事業年度の期首から強制適用されます。借手はオペレーティング・リースも含めて原則すべてのリースで使用権資産とリース負債を計上するため、3月決算なら2028年3月期が初年度です。本記事では、上場会社・その子会社の経理と監査対応の会計士向けに、影響判定の順番、作業工程、仕訳例、AIに任せてよい工程の線引きを整理します。
この記事でわかること
- 新リース会計基準の公表日・適用時期・早期適用の条件
- 中小企業(会社法監査の対象外)に適用されるかの整理
- 「リースを含むか→短期・少額の簡便法→計上額」の影響判定フロー
- 使用権資産の計上と適用初年度の経過措置の仕訳例(仮例)
- 契約書の洗い出しをAIで速くする工程と、人が判断すべき工程
新リース会計基準とは|2027年4月から何が変わるか
公表日と適用時期
企業会計基準委員会(ASBJ)は2024年9月13日に、企業会計基準第34号「リースに関する会計基準」と企業会計基準適用指針第33号「リースに関する会計基準の適用指針」を公表しました。会計基準第58項は、2027年4月1日以後開始する連結会計年度・事業年度の期首から適用し、2025年4月1日以後開始する年度の期首からの早期適用も認めています。
決算期 | 強制適用の初年度 |
|---|---|
3月決算 | 2027年4月1日開始の事業年度(2028年3月期) |
12月決算 | 2028年1月1日開始の事業年度(2028年12月期) |
9月決算 | 2027年10月1日開始の事業年度(2028年9月期) |
なお基準本体は2025年4月23日、適用指針は2025年10月16日までの修正を反映した版がASBJのサイトに掲載されています。社内資料に引用する際は、版の日付まで確認してください。
借手の会計処理はオンバランスの単一モデルに
従来の企業会計基準第13号は、借手もファイナンス・リースとオペレーティング・リースを区分し、オペレーティング・リースは賃貸借処理でした。新基準では借手の区分をなくし、使用権資産(原資産を借手のリース期間にわたり使う権利を表す資産)とリース負債を計上します。貸手は引き続き2区分です。
項目 | 旧基準(第13号) | 新基準(第34号) |
|---|---|---|
借手の区分 | ファイナンス/オペレーティング | 区分なし(単一モデル) |
オフィス賃貸借など | 賃借料として費用処理 | 使用権資産・リース負債を計上 |
損益の出方 | 毎期の賃借料 | 減価償却費+支払利息(初期ほど費用が多い) |
リースの判定 | リース取引の定義(主にリース契約) | 実質(特定資産の使用を支配する権利の移転) |
実務への影響が大きいのは、「リース契約」と名の付かない不動産賃貸借、倉庫・物流の業務委託、データセンター契約などにもリースが含まれ得る点です。会計基準第4項により無形固定資産のリースには適用しないことも選べます。
中小企業にも適用されるのか
結論は会社法監査の有無で分かれます。金融商品取引法の適用会社、会計監査人設置会社とそれらの子会社は会計基準どおりの処理が必要です。「中小企業の会計に関する指針」は、金商法適用会社とその子会社・関連会社、会計監査人設置会社とその子会社を適用対象外と定めています。
それ以外の中小企業について、国税庁の「令和7年度 法人税関係法令の改正の概要」は、監査対象法人以外は引き続き中小会計指針や中小会計要領による処理も可能としています。2025年9月修正の中小会計指針も、所有権移転外ファイナンス・リースの賃貸借処理(未経過リース料の注記)を認める記載のままです。ただし中小会計指針は継続的に見直されるため、顧問先への説明前に日本税理士会連合会等の最新版を確認してください。
影響判定フロー|リースを含むか→簡便法→計上額
判定は次の順で進めると手戻りが減ります。1契約ずつ、どこで止まったかを記録に残すのがコツです。
順番 | 判定 | 根拠 | 該当しない場合 |
|---|---|---|---|
1 | 契約にリースが含まれるか | 会計基準第25・26項、適用指針第5〜8項 | サービス契約として従来どおり |
2 | リースとそれ以外の部分の区分 | 会計基準第28・29項 | 原則は区分。借手は科目等ごとに保守料等と一体処理も選択可 |
3 | 短期リースの簡便法を使うか | 適用指針第4項(2)・第20項 | 4へ |
4 | 少額リースの簡便法を使うか | 適用指針第22・23項 | 5へ |
5 | 借手のリース期間・割引率を決め計上額を算定 | 会計基準第31・33・34項、適用指針第37項 | - |
リースの識別|「特定された資産」と「使用を支配する権利」
適用指針第5項によれば、使用期間全体を通じて顧客が①特定された資産の使用から生じる経済的利益のほとんどすべてを享受する権利と、②使用を指図する権利の両方を持てば、契約はリースを含みます。ただし、サプライヤーが資産を入れ替える実質的な能力と経済的なメリットを持つ場合は特定された資産に当たりません(第6項)。倉庫の一区画を指定して借りる契約や、専用車両付きの配送委託が典型的な論点です。
短期リース・少額リースの簡便法
簡便法を使うと、使用権資産とリース負債を計上せず、リース料を原則として定額法で費用処理できます。金額基準の書き方に注意が要ります。
簡便法 | 要件(適用指針) | 実務上の注意 |
|---|---|---|
短期リース | リース開始日に借手のリース期間が12か月以内で、購入オプションを含まない(第4項(2)、第20項) | 契約期間でなく延長オプション込みの「借手のリース期間」で判定。科目・資産グループごとに選択 |
少額リース(1) | 減価償却資産の購入時費用処理の基準額以下(第22項(1)) | 基準額は利息相当額だけ高めに設定可 |
少額リース(2)① | 事業内容に照らし重要性が乏しく、1件当たりの金額に重要性が乏しい(第22項(2)①) | 結論の背景BC43は、旧指針の「1件当たりリース料総額300万円以下」の判定を踏襲する趣旨と説明 |
少額リース(2)② | 新品時の原資産の価値が少額(第22項(2)②) | BC41はIFRS第16号の「新品時5千米ドル以下程度」の考え方に言及。リース1件ごとに選択可 |
(2)の①と②はどちらかを選び、首尾一貫して適用します(第22項)。300万円や5千米ドルは本文の要件ではなく、結論の背景で趣旨として示されている数字です。社内規程に落とすときは、この区別を監査人とすり合わせてください。
このほか、未経過リース料の期末残高が「未経過リース料+有形・無形固定資産」の期末残高合計の10%未満なら、利息相当額を控除しない方法などの簡便法もあります(適用指針第40・41項)。
借手のリース期間と割引率
借手のリース期間は、解約不能期間に「行使が合理的に確実な延長オプションの期間」と「行使しないことが合理的に確実な解約オプションの期間」を加えて決めます(会計基準第31項)。自動更新の不動産賃貸借では、内装投資の残存期間や移転計画が判断材料になります。割引率は、貸手の計算利子率を知り得ればそれを使い、知り得なければ借手の追加借入利子率を使います(適用指針第37項)。
仕訳例|使用権資産の計上と経過措置(数値は仮例)
仕訳例1:事務所の賃貸借を使用権資産として計上する
前提(仮例):借手のリース期間5年、年額リース料1,200,000円を毎年末に後払い、追加借入利子率2%、付随費用・敷金・資産除去債務はなしとします。リース負債は5年分の現在価値で5,656,151円です。
時点 | 借方 | 貸方 |
|---|---|---|
リース開始日 | 使用権資産 5,656,151 | リース負債 5,656,151 |
1年目末の支払 | リース負債 1,086,877/支払利息 113,123 | 現金預金 1,200,000 |
1年目末の償却 | 減価償却費 1,131,230 | 使用権資産 1,131,230 |
1年目の費用は1,244,353円で、賃借料1,200,000円より約4万円多くなります。利息は残高に比例して減るため、費用は前半に厚く後半に薄く出ます。予算・KPI(重要業績評価指標)を賃借料ベースで組んでいる会社は、営業利益とEBITDA(利払い・税金・償却前利益)の見え方が変わる点を経営陣に事前説明しておきます。
仕訳例2:適用初年度の期首に経過措置で計上する
原則は過去の期間すべてへの遡及適用ですが、累積的影響額を適用初年度の期首利益剰余金に加減する方法も選べます(適用指針第118項)。この方法では、旧基準でオペレーティング・リースだった契約は、期首の残りリース料を期首の追加借入利子率で割り引いてリース負債とし、使用権資産はリース負債と同額(前払・未払リース料で修正)とすることができます(第123項)。
前提(仮例):期首時点で残り3年、年額1,200,000円を毎年末に後払い、期首の追加借入利子率1.5%、前払・未払リース料はなし。
時点 | 借方 | 貸方 |
|---|---|---|
適用初年度の期首 | 使用権資産 3,494,641 | リース負債 3,494,641 |
この方法では利益剰余金への影響は出ません。使用権資産を「最初から新基準だったら」の帳簿価額で計上する方法(第123項(2)①)を選ぶと差額が期首利益剰余金に入ります。どちらを使うかはリース1件ごとに選べます。
経過措置で使える主な実務上の便法
- 旧基準でリース取引として処理していた契約は、リースを含むかの判定をやり直さなくてよい(第119項(1))
- 旧基準でファイナンス・リースだった契約は、前期末のリース資産・リース債務の帳簿価額を引き継げる(第120項)
- 特性が似た複数のリースに単一の割引率を使える(第124項(1))
- 期首から12か月以内に終わるリースは短期リースとして扱える(第124項(2))
- 延長・解約オプションの判断に、リース開始日より後に入手した情報を使える(第124項(4))
第118項ただし書きを選んだ場合は、期首リース負債に適用した追加借入利子率の加重平均や、前期末に開示したオペレーティング・リースの未経過リース料と期首リース負債の差額の説明を注記します(第125項)。注記用の集計表は、洗い出しの段階から列を用意しておくと二度手間を防げます。
実務の作業工程表|AIで速くなる工程と人が判断する工程
準備の山場は、全社の契約からリースを含むものを漏れなく拾うことです。生成AI(文章で指示すると要約・抽出・下書きをしてくれるAI)は、大量の契約書から条件を読み取る作業に向いています。一方、「合理的に確実か」「重要性が乏しいか」の判断は会計上の見積りそのもので、AIには任せられません。
工程 | 主な作業 | AIで速くなる部分 | 人が判断すべき部分 |
|---|---|---|---|
1 契約の洗い出し | 賃貸借・業務委託・利用契約の収集 | 契約書PDFの一括読み取り、契約一覧の下書き | 収集範囲(部署・子会社)の決定 |
2 リースの識別 | 特定された資産・使用の支配の検討 | 資産の特定、入替権、指図権に関する条文の抜き出し | リースを含むかの結論 |
3 条件の抽出 | 期間・更新・解約・リース料・改定条項 | 条件の表形式への整理、金額の転記 | 原本との突合・抽出漏れの確認 |
4 期間・割引率 | 借手のリース期間、追加借入利子率 | 更新・解約条項の一覧化 | オプション行使の「合理的に確実」の判断、利率の決定 |
5 簡便法の判定 | 短期・少額・重要性の判定 | 判定表の作成、集計 | 方針の選択と監査人との合意 |
6 計算・仕訳 | 現在価値、償却、利息配分 | 計算表の雛形作成、検算 | 最終数値の確定(計算はExcel等で再現可能に) |
7 開示・統制 | 注記、業務記述書の改訂 | 注記文案・規程改訂案の下書き | 開示内容と統制の設計 |
新しい契約が入るたびに識別と計上が必要になるため、内部統制の文書も更新が要ります。業務記述書やRCM(リスク・コントロール・マトリクス)の直し方は内部統制3点セットの作り方と記載例が参考になります。使用権資産の明細を固定資産台帳と並べて管理するなら、固定資産台帳テンプレートの作り方の列構成に「借手のリース期間」「割引率」を足すと運用しやすくなります。
プロンプト例1:契約書からリース条件を抽出する
あなたは日本の会計基準に詳しい経理担当者のアシスタントです。
添付の契約書から、新リース会計基準の検討に必要な条件を抜き出してください。
契約名: 【契約名】
当社の立場: 【借手/貸手】
出力形式(表):
| 項目 | 契約書の記載内容 | 条番号・ページ |
項目: 契約の相手方 / 対象となる資産(所在地・号機・区画など特定の記載)/
サプライヤーが資産を入れ替えられる条項 / 当社が使い方を決められる範囲 /
契約開始日・使用開始日 / 契約期間 / 自動更新・延長の条件 / 中途解約の条件と違約金 /
リース料(固定・変動・改定条項)/ 保守・サービス料など他の対価 / 購入オプション / 残価保証 / 敷金・保証金
出力条件:
1. 契約書に書かれていない項目は「記載なし」とし、推測で埋めない
2. 金額・日付は原文の表記のまま転記する
3. リースに該当するか、短期・少額に当たるかの結論は書かない
うまくいかない例と直し方:「この契約はリースですか」と聞くと、AIは条文を読み飛ばして結論だけを返しがちです。上の例のように抽出と結論を分け、条番号を必ず添えさせると、原本との突合が速くなります。契約書の画像が粗いと金額を読み違えるため、金額欄は必ず人が原本で確認します。
プロンプト例2:識別の論点メモを下書きする
以下は契約から抜き出した条件です。
企業会計基準適用指針第33号の第5項〜第8項(リースの識別)の観点で、
検討すべき論点を整理してください。
【プロンプト例1の出力表を貼り付け】
出力条件:
1. 「特定された資産」「経済的利益のほとんどすべて」「使用を指図する権利」の3観点で、
契約のどの条項が判断材料になるかを示す
2. 各観点で、追加で現場に確認すべき事実を質問形式で列挙する
3. リースを含むかどうかの結論は出さない
4. 基準の項番号を挙げる場合は、確認できない番号を推測で書かない
このメモは監査人への説明資料の叩き台にもなります。監査人からの質問への回答案づくりは監査の質問への回答をAIで下書きする方法で詳しく扱っています。
適用時期・金額基準はAIに答えさせない
適用時期や少額の金額基準は、AIに聞いて済ませてはいけない論点です。上で見たとおり、300万円や5千米ドルは適用指針の本文ではなく結論の背景に出てくる数字で、要約の過程で「本文の要件」として語られやすくなります。適用指針は公表後も他の基準の公表に合わせて修正されており、学習時点の古い版で答えるおそれもあります。数字と項番号は、ASBJの最新版の原文で確認する工程を作業手順に組み込んでください。
税務との関係|法人税は賃貸借のまま
国税庁の令和7年度改正の概要によれば、オペレーティング・リース取引による賃借は、会計処理にかかわらず引き続き賃貸借として、支払うこととされている金額のうち債務の確定した部分を損金算入します(法人税法第53条、令和7年4月1日以後開始事業年度から適用)。会計では減価償却費と支払利息、税務では賃借料となるため、新基準の適用会社では会計と税務の差異が生じ、申告調整と税効果の検討が必要になります。決算期末の税務面の段取りは決算対策チェックリストも併せて確認してください。
まとめ|契約の洗い出しは2026年度中に始める
3月決算の会社なら、2027年4月1日の期首残高を固めるために、2026年度中に契約の洗い出しと識別を終えておくのが現実的です。判定は「リースを含むか→短期・少額の簡便法→期間と割引率」の順で進め、各契約がどこで止まったかを記録に残すと、監査対応と翌期以降の運用が楽になります。
AIが役立つのは契約書の読み取りと条件の整理です。リース該当性、オプション行使の見込み、重要性の判断は経理と会計士が担います。士業AIの会計士向けAIはASBJの公表物などの公的情報を参照して回答するため、基準の項番号を確かめながら論点整理を進められます。契約一覧の作成やメール・文書の下書きを経理部門で回すなら経理スタッフ向けAIも選べます。会計業務全般での使い方は公認会計士・会計事務所のためのAI活用入門にまとめています。
参考文献

