法務×AI

雇用契約書のひな形|労働条件通知書との違いと記載事項【2026年】

雇用契約書のひな形は、ネットで拾ってそのまま使うと危険です。2024年4月に労働条件の明示ルールが変わり、古い様式のままだと「就業場所・業務の変更の範囲」の欄が丸ごと抜けているためです。この記事では、雇用契約書と労働条件通知書の違いを条文レベルで整理したうえで、いま必要な記載事項を満たすひな形の骨格、雇用形態別の書き分け、電子交付の要件、そしてAIで下書きするときの具体的な手順までをまとめます。

先に結論だけ言うと、押さえるべきは次の4点です。

  • 雇用契約書そのものに法律上の作成義務はない(労働契約は合意で成立する)。義務があるのは労働基準法15条1項の「労働条件の明示」=労働条件通知書のほう
  • 労働条件通知書は使用者からの一方的な明示、雇用契約書は双方の合意。根拠条文も義務の性質もまったく別物
  • だから実務では、明示義務を満たす通知書と、双方が署名する契約書を1枚にした「労働条件通知書 兼 雇用契約書」が主流
  • ひな形の良し悪しは2024年4月改正の欄があるかどうかで9割決まる

この記事で分かること:

  • 雇用契約書と労働条件通知書の違い(根拠条文・義務・交付方法・署名の4軸)
  • 「労働条件通知書 兼 雇用契約書」の作り方と、兼用にしてよい場面・分けるべき場面
  • いま必要な記載事項の一覧(絶対的明示事項/相対的明示事項/2024年改正の追加分の改正前後対照表)
  • 正社員・有期・パート/アルバイト・派遣で変わる記載の差分
  • メール・電子契約で交付してよい条件(労基則5条4項)
  • そのまま流用できる条文サンプルと、AIに下書き・点検させるプロンプト

雇用契約書と労働条件通知書の違い|根拠条文・義務・署名で比べる

顧問先から「うちは契約書だけでいいですか」「通知書も要るんですか」と聞かれたときに、いちばん短く答えられる整理がこれです。

労働条件通知書

雇用契約書

法的な位置づけ

労働基準法15条1項・労働基準法施行規則5条にもとづく使用者の明示義務

民法623条の雇用契約/労働契約法6条の労働契約を書面化したもの。作成義務の規定はない

性質

会社から労働者への一方的な通知(相手の同意は要件ではない)

会社と労働者の双方の合意(申込みと承諾で成立)

作らないと

労基法120条1号により30万円以下の罰金の対象

罰則はない。ただし条件の食い違いを立証できず紛争化しやすい

署名・押印

不要(交付すれば足りる)

双方が記名押印・署名するのが通例

交付方法

書面交付が原則。労働者が希望した場合のみFAX・電子メール等も可(労基則5条4項)

法令上の取り決めなし(電子契約も可)

タイミング

労働契約の締結に際し(=雇入れ時、有期は更新のつど)

合意の時点。実務上は入社日までに取り交わす

労働条件通知書は労基法15条1項の「一方的な明示義務」

労働基準法15条1項は次のように定めています。

使用者は、労働契約の締結に際し、労働者に対して賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならない。この場合において、賃金及び労働時間に関する事項その他の厚生労働省令で定める事項については、厚生労働省令で定める方法により明示しなければならない。(労働基準法15条1項・e-Gov法令検索

ここで重要なのは「明示しなければならない」であって「合意しなければならない」ではない点です。労働条件通知書は使用者が一方的に果たす義務であり、労働者の署名も同意も、義務の履行それ自体には要りません。逆に、明示を怠れば労基法120条1号により30万円以下の罰金の対象になります。「本人が要らないと言ったから渡していない」は通用しません。

そして「厚生労働省令で定める方法」=労働基準法施行規則5条3項・4項が、書面の交付を原則の方法として定めています。つまり労働条件通知書とは、条文上の呼び名ではなく「労基則5条の書面交付義務を果たすための書面」の通称です。通知書そのものの作成手順と項目別の記載例は労働条件通知書をAIで作成する手順と2024年改正の明示事項・記載例で詳しく扱っています。本記事は雇用契約書との関係整理と、1枚にまとめる兼用様式の作り方に軸足を置きます。

雇用契約書は民法623条・労働契約法6条の「双方の合意」

一方、雇用契約書の背骨にあるのは民法623条です。

雇用は、当事者の一方が相手方に対して労働に従事することを約し、相手方がこれに対してその報酬を与えることを約することによって、その効力を生ずる。(民法623条・e-Gov法令検索

労働契約法6条も「労働契約は、労働者が使用者に使用されて労働し、使用者がこれに対して賃金を支払うことについて、労働者及び使用者が合意することによって成立する」としています(労働契約法・e-Gov法令検索)。「約する」「合意する」で成立する=口約束でも契約は有効ということです。書面がなくても契約自体は生きています。

それでも契約書を作るのは、同じ労働契約法4条2項が「労働者及び使用者は、労働契約の内容(期間の定めのある労働契約に関する事項を含む。)について、できる限り書面により確認するものとする」としているからであり、より実務的には「言った・言わない」を後から潰すためです。実際に労務トラブルの相談で最初に確認されるのは、ほぼ例外なく契約書の記載です。試用期間の長さ、固定残業代の内訳、転勤の可能性──この3つは、書面がないと会社側がまず不利になります。個別の紛争対応でどこまでAIに下書きさせてよいかは労務相談の回答をAIで下書きする手順(残業代・ハラスメント・解雇対応)で整理しています。

「どちらが優先するか」を聞かれたときの答え方

まず押さえるべきは、労基則5条2項が「明示しなければならない労働条件を事実と異なるものとしてはならない」と定めている点です。通知書に実態と違う条件を書くこと自体が禁止されているので、「通知書は形式で、契約書が実態」という運用はそもそも取れません。さらに労基法15条2項は、明示された労働条件が事実と相違する場合に労働者が即時に労働契約を解除できるとしています。つまり食い違いは会社側のリスクにしかならず、そもそも食い違わせないことが実務上の答えです。それを構造的に実現するのが次章の兼用様式になります。

労働条件通知書 兼 雇用契約書|1枚にまとめるときの実務

検索で「労働条件通知書兼雇用契約書 雛形」「労働条件通知書兼雇用契約書 テンプレート」と探されるのは、多くの会社がこの形に落ち着いているからです。ここでは兼用様式の中身を分解します。

兼用様式が実務の主流になった理由

通知書と契約書を別々に作ると、記載内容がほぼ重複するのに管理は2倍になります。そこで、通知書の明示事項をすべて盛り込んだうえで末尾に双方の署名欄を付け、1枚で「明示義務の履行」と「合意の証拠」を兼ねさせるのが兼用様式です。中小企業の顧問先ではこの形をおすすめすることが多く、実務上の利点は次の3つです。

  • 明示事項の抜けが起きにくい(通知書の様式をベースにするため)
  • 入社手続きで本人に渡す書類が1枚減る
  • 改正があったとき、直す様式が1つで済む

兼用様式に必ず入れる要素と、署名欄の扱い

兼用にすると「契約書だから合意すればよい」と考えてしまい、明示義務の側が緩む事故が起きます。次の要素が揃っているかを様式のチェックリストにしてください。

要素

由来

抜けたときの影響

労基則5条1項1号〜4号の事項(昇給を除く)

明示義務(書面交付が必要)

労基法15条1項違反。30万円以下の罰金の対象

就業場所・業務の「変更の範囲」

2024年4月改正(労基則5条1項1号の3)

同上。旧様式流用でいちばん多い漏れ

短時間・有期の特定事項4項目

パート・有期雇用労働法6条1項

同法違反。パート・アルバイトで必須

合意条項(「次のとおり労働契約を締結する」)

民法623条・労働契約法6条

契約書としての性質が弱まり、合意の証拠にならない

双方の記名押印・署名欄と作成通数

実務上の証拠力

本人が内容を認識した証拠が残らない

交付日・契約締結日

「締結に際し」明示したことの証拠

入社後に渡したのか事前かが立証できない

署名欄については、2通作成して各1通を保有する形が基本です。1通しか作らず会社が保管して本人に控えを渡さない運用は、通知書としての「交付」があったと言えなくなるため避けてください。兼用様式では「交付」と「署名回収」が同じ紙の上で起きるので、本人控えを渡した時点を明示の履行日として記録に残しておくと安全です。

兼用にしてよい場面・分けるべき場面

場面

推奨

理由

正社員・パートの通常の雇入れ

兼用でよい

条件が固まっており、1枚で完結する

有期契約の毎回の更新

兼用でよい(更新のつど作り直す)

更新時も「締結に際し」の明示が必要。合意も取れて一石二鳥

内定通知の段階

分ける

条件が未確定のまま署名を取ると、後の変更が困難になる

秘密保持・競業避止など特約が多い

分ける(通知書+別途の雇用契約書)

1枚が長大になり、明示事項が特約に埋もれて確認しづらい

役員・業務委託との兼務がある

分ける

労働契約の範囲を明確に切り出す必要がある

労働条件の一部を後日変更する予定

分ける

変更のたびに合意書を作る前提のほうが履歴を残しやすい

雇用契約書の記載事項一覧|労基則5条の絶対的・相対的明示事項

兼用様式にする以上、雇用契約書の記載事項は労働基準法施行規則5条1項の明示事項がそのまま土台になります(労働基準法施行規則・e-Gov法令検索)。

必ず書面で明示する項目(絶対的明示事項)

労基則5条3項は、書面交付が必要な事項を「1項1号から4号までに掲げる事項(昇給に関する事項を除く)」と定めています。具体的には次のとおりです。ひな形にこの欄がなければ、その時点で不合格と考えて構いません。

  1. 労働契約の期間に関する事項(1号)
  2. 有期労働契約を更新する場合の基準に関する事項(1号の2)。通算契約期間または更新回数の上限の定めがある場合はその上限を含む
  3. 就業の場所および従事すべき業務に関する事項(1号の3)。就業の場所および従事すべき業務の変更の範囲を含む
  4. 始業・終業の時刻、所定労働時間を超える労働の有無、休憩時間、休日、休暇、2組以上に分けて就業させる場合の就業時転換(2号)
  5. 賃金の決定・計算・支払の方法、賃金の締切りと支払の時期(3号。昇給を除く)
  6. 退職に関する事項(4号)。解雇の事由を含む

なお、昇給に関する事項は3号に含まれるため明示義務はありますが、5条3項の括弧書きで書面交付の対象から外れています。とはいえ契約書に書かない理由もないので、ひな形には欄を残しておくのが無難です。

定めがあるときだけ書く項目(相対的明示事項)

労基則5条1項の4号の2から11号までは、会社にその制度がある場合のみ明示が必要です(同項ただし書)。制度がなければ欄ごと削ってよいのですが、「制度がないこと」を明記しておくと後の質問が減ります

  • 退職手当が適用される労働者の範囲、決定・計算・支払方法、支払時期(4号の2)
  • 臨時に支払われる賃金、賞与、最低賃金額(5号)
  • 労働者に負担させるべき食費・作業用品など(6号)
  • 安全および衛生(7号)
  • 職業訓練(8号)
  • 災害補償および業務外の傷病扶助(9号)
  • 表彰および制裁(10号)
  • 休職(11号)

書面交付が要る項目・要らない項目の一覧表

「明示義務がある」と「書面で渡す義務がある」は別物です。ここを取り違えると、口頭で足りるものまで様式に詰め込んで読みにくくなったり、逆に書面必須の項目を口頭で済ませて違反になったりします。

項目

明示義務

書面交付

根拠

契約期間/更新基準・更新上限

あり

必要

労基則5条1項1号・1号の2、3項

就業場所・業務(変更の範囲を含む)

あり

必要

労基則5条1項1号の3、3項

労働時間・休憩・休日・休暇

あり

必要

労基則5条1項2号、3項

賃金の決定・計算・支払方法、締切・支払時期

あり

必要

労基則5条1項3号、3項

退職(解雇の事由を含む)

あり

必要

労基則5条1項4号、3項

昇給に関する事項

あり

不要(口頭可)

労基則5条3項の括弧書きで除外

退職手当・賞与・安全衛生・表彰制裁・休職など

定めがある場合のみあり

不要(口頭可)

労基則5条1項4号の2〜11号

短時間・有期の特定事項4項目

あり

必要(文書の交付等)

パート・有期雇用労働法6条1項、同則2条1項

2024年4月改正の追加事項|改正前後の対照表

2024年4月1日施行の改正で明示事項が追加されました(厚生労働省「2024年4月から労働条件明示のルールが変わります」)。改正前後を並べると、直すべき箇所がはっきりします。

項目

2024年3月まで

2024年4月以降

対象

就業の場所・従事すべき業務

雇入れ直後の場所・業務のみ

雇入れ直後に加えて変更の範囲も明示

すべての労働者(更新時も)

更新の基準

更新の有無・判断基準のみ

加えて通算契約期間または更新回数の上限(定めがある場合)

有期契約の締結・更新のつど

無期転換申込機会

明示義務なし

無期転換を申し込めることを、無期転換申込権が発生する更新のつど明示

通算5年超となる有期契約

無期転換後の労働条件

明示義務なし

転換後の就業場所・業務・労働時間・賃金などを明示

同上

3つ目・4つ目の根拠は労基則5条5項・6項で、無期転換申込権(労働契約法18条1項により通算契約期間が5年を超えると発生)が生じる有期労働契約を結ぶときに、通常の明示事項に上乗せして明示することが求められます。

2023年以前に作られたひな形には、少なくとも1つ目の「変更の範囲」の欄がありません。手元の様式に「変更の範囲」という文字列があるかどうかを検索するだけで、改正対応済みかどうかは一瞬で判定できます。

雇用形態別の記載差分|正社員・有期・パート/アルバイト・派遣

ひな形を1つに統一しようとして失敗するのがここです。ベースは共通でよいのですが、雇用形態ごとに「増える欄」と「意味が変わる欄」があるため、差分だけを別紙で管理するのが実務的です。

正社員(無期・フルタイム)の雇用契約書で書くこと

期間の定めがないため、更新基準・更新上限・無期転換の欄は不要です。そのぶん論点が集まるのは次の3つ。

  • 試用期間:長さ・その間の労働条件・本採用しない場合の基準。就業規則と食い違わせないこと
  • 就業場所と業務の変更の範囲:転勤・職種転換の可能性をどこまで書くか(後述)
  • 固定残業代:基本給と分けて、何時間分か・超過分は別途支払う旨まで書く

正社員版は「変更の範囲」を広めに書きがちですが、実態と離れた範囲を書くと後で使えません。転勤がない前提の採用なら、素直に限定して書くほうが結果的に強い契約書になります。

パート・アルバイトの雇用契約書|4項目が上乗せされる

「アルバイト 雇用契約書 ひな形」で探している方がいちばん落としやすいのがここです。短時間・有期雇用労働者を雇い入れたときは、パートタイム・有期雇用労働法6条1項により、労基法の明示事項に加えて次の4項目(特定事項)を文書の交付等で明示しなければなりません(短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律・e-Gov法令検索/同法施行規則2条1項)。

  • 昇給の有無
  • 退職手当の有無
  • 賞与の有無
  • 雇用管理の改善等に関する事項に係る相談窓口

「有無」を書けばよいので、制度がなければ「昇給:無」「賞与:無」と書けば足ります。相談窓口だけは部署名または担当者名と連絡先まで書く必要があるので、ひな形に空欄を作っておき、事業所ごとに埋める運用にしてください。

パート・アルバイトの様式でもう一つ実務的に効くのが、所定労働時間・所定労働日数の欄をシフト制の表現に耐える形にしておくことです。「シフトによる」だけで済ませると始業・終業時刻の明示になりません。「原則として週3日、1日5時間(始業10:00・終業16:00、休憩60分)。詳細は毎月○日までに翌月分のシフト表で通知する」のように、原則と決定方法をセットで書きます。所定労働時間の設計は社会保険の加入判定にも直結するため、年収の壁と社会保険の適用拡大(106万円の壁)への顧問先案内とあわせて確認しておくと、契約と保険の説明が食い違いません。

有期契約(契約社員)|更新基準・更新上限・無期転換

有期契約は、上の4項目に加えて次の欄が要ります。

  • 契約期間(始期と終期)
  • 更新の有無と更新の判断基準(労基則5条1項1号の2)
  • 更新上限の有無と内容(通算契約期間または更新回数)
  • 通算5年を超える更新時は無期転換申込みに関する事項無期転換後の労働条件(労基則5条5項)

見落とされがちなのは、これらの明示が「更新のつど」必要だという点です。労基法15条1項は「労働契約の締結に際し」明示を求めており、有期契約の更新は新たな労働契約の締結にあたるため、初回だけ渡して以後は口頭、という運用は取れません。更新上限を後から新設したり短縮したりする場合には、厚生労働省の示すルールにより、あらかじめその理由を労働者に説明することが求められます。

派遣労働者|雇用契約は派遣元、就業条件明示は派遣法34条

派遣の場合、労働契約を結ぶのは派遣元です。したがって雇用契約書・労働条件通知書を交付するのも派遣元であり、派遣先が作るものではありません。そのうえで、労働者派遣法34条により派遣元事業主は、労働者派遣をしようとするときにあらかじめ、派遣する旨・就業条件(同法26条1項各号の事項など)・抵触日などを本人に明示する義務を負います(労働者派遣法34条・e-Gov法令検索)。

つまり派遣では「雇用契約書兼労働条件通知書(派遣元と本人)」+「就業条件明示書(派遣ごと)」の2階建てになります。ひな形を兼用1枚にまとめるとしても、就業条件明示書まで一体化するのは避けたほうが無難です。派遣先が変わるたびに前者まで作り直すことになるためです。

雇用契約書のひな形|そのまま流用できる条文サンプル

厚生労働省は労働条件通知書のモデル様式を主要様式ダウンロードコーナー(労働基準法等関係主要様式)で公開しています。兼用様式にする場合は、この様式をベースに末尾へ合意条項と署名欄を足すのが最短です。以下は、その骨格を条文形式にしたサンプルです。

労働条件通知書 兼 雇用契約書

株式会社○○(以下「甲」という。)と △△ △△(以下「乙」という。)は、
次のとおり労働契約を締結する。

第1条(契約期間)
  期間の定めなし / 期間の定めあり( 年 月 日 〜  年 月 日)
  ※期間の定めがある場合
   ・契約の更新の有無: 更新する場合があり得る / 更新しない
   ・更新の判断基準:契約期間満了時の業務量、乙の勤務成績・態度・能力、
     会社の経営状況、従事している業務の進捗状況
   ・更新上限:通算契約期間 年 / 更新回数 回 / 上限なし

第2条(就業の場所)
  雇入れ直後:本社(東京都○○区○○1-1-1)
  変更の範囲:会社の定める全ての事業所

第3条(従事すべき業務の内容)
  雇入れ直後:経理業務
  変更の範囲:会社の定める全ての業務

第4条(就業時間・休憩・休日)
  始業 9:00 終業 18:00 休憩 60分
  所定時間外労働の有無:有 / 無
  休日:土曜、日曜、国民の祝日、年末年始(12月29日〜1月3日)

第5条(賃金)
  基本給 月額   円
  諸手当 役職手当  円/通勤手当  円
  時間外労働に対する割増賃金率:法定超 25%、法定休日 35%、深夜 25%
  賃金締切日 毎月末日  支払日 翌月 日
  昇給:有(毎年4月)/ 無  賞与:有(年2回)/ 無  退職手当:有 / 無

第6条(退職・解雇)
  定年:満 歳  自己都合退職の手続:退職する30日以上前に届け出ること
  解雇の事由および手続:就業規則第○条に定めるところによる

第7条(その他)
  本契約に定めのない事項は、就業規則および関係法令の定めるところによる。
  社会保険の加入状況:厚生年金・健康保険・雇用保険・労災保険
  雇用管理の改善等に関する相談窓口:総務部(担当:○○、内線  )

本契約の成立を証するため本書2通を作成し、甲乙記名押印のうえ各1通を保有する。

   年  月  日
  甲 所在地           商号         代表者       印
  乙 住所            氏名                   印

正社員(無期)で使う場合は第1条の有期部分を削り、パート・アルバイトで使う場合は第5条に「昇給の有無」「賞与の有無」「退職手当の有無」を明記したうえで第7条の相談窓口を必ず埋めます。有期契約で使う場合は第1条をそのまま残し、無期転換申込権が発生する更新のタイミングで「無期転換申込みに関する事項」と「転換後の労働条件」の条項を追加してください。

労働条件通知書・雇用契約書の電子交付|労基則5条4項の要件

「労働条件通知書は電子契約でもよいのか」は毎年必ず聞かれる論点です。結論は条件付きで可ですが、その条件が細かいので分けて説明します。

電子交付が認められる3つの条件

労基則5条4項は、明示すべき事項について書面の交付を原則としつつ、次の方法を認めています。

  1. 労働者本人が希望した場合であること(会社の判断で一律に電子化はできない)
  2. 方法がファクシミリを利用してする送信、または電子メールその他の受信をする者を特定して情報を伝達するために用いられる電気通信であること
  3. 電子メール等の場合、労働者がその記録を出力することにより書面を作成することができるものに限られること

2つ目の「受信をする者を特定して」がポイントで、社内掲示板や誰でも見られるWebページへの掲載は該当しません。3つ目は「PDFを添付する」「本文に記載してテキストで保存できる」形なら満たします。パート・アルバイトの特定事項4項目についても、同法施行規則2条3項がほぼ同じ条件を置いています。

電子契約サービスで締結するときの注意点

電子契約サービスで「労働条件通知書 兼 雇用契約書」を締結する場合、契約書としての電子署名は民事上とくに制限がありません。問題になるのは通知書側の要件です。実務上の詰めどころは次の3点です。

  • 本人の希望の記録:入社手続きのフォームに「書面での交付を希望する/電子での交付を希望する」の選択欄を設け、選択の記録を残す
  • ダウンロード可能性:閲覧のみで保存・印刷ができないビューアは、3つ目の条件を満たさない可能性がある。PDFのダウンロードを許可する設定にする
  • 到達の確認:メール等での明示は本人の端末で受信した時点で到達とみなされる建て付けなので、送信ログと本人の受領確認を残す

電子交付でよくある3つの誤解

  • 「電子契約サービスを使えば書面交付は不要」:不要になるのは本人が希望した場合だけです。希望の確認ステップを飛ばすと、電子で渡しても明示義務を果たしたことになりません
  • 「社内システムに掲示すれば足りる」:受信者を特定した送信ではないため足りません
  • 「本人が希望すれば口頭でもよい」:口頭は認められていません。認められるのはFAXと電子メール等だけです

雇用契約書の書き方でつまずく3つの論点

就業場所・業務の「変更の範囲」をどこまで広く書くか

「会社の定める全ての事業所」「会社の定める全ての業務」と書けば形式的には足ります。ただし、実際には転勤がない前提で採用したのに範囲だけ広く書いておくと、後から本人と揉めます。限定するなら限定すると書くのが結局いちばん安全です。「東京都内の事業所に限る」「営業職に限る」といった書き方も当然可能です。

賃金は手当まで分解して書く

「月給25万円」の一行だけで済ませているひな形をよく見かけますが、固定残業代を含む場合は基本給と固定残業代を分け、何時間分かと、超過分は別途支払う旨まで書かないと、固定残業代として認められないリスクがあります。基本給・各種手当・固定残業代(時間数)を別の行に分けるのが原則です。

就業規則との関係を1条だけ入れておく

契約書にすべてを書き切ることはできません。だからこそ「本契約に定めのない事項は就業規則の定めるところによる」の1条が効きます。逆に言えば就業規則が古いままだと契約書だけ直しても穴が残るということです。規程側の点検については就業規則・社内規程のドラフトとチェックをAIで行う手順も併せて確認してください。時間外労働の記載を有にするなら、36協定届(様式第9号)の書き方と提出前チェックの届出が前提になる点も忘れずに。

雇用契約書のひな形をAIで下書き・点検する手順

ここからは、実際に手を動かす部分の話です。雇用契約書の作成は「決まった項目を、会社ごとの条件で埋めていく」作業なので、AIの下書きがよく効きます。一方で、任せてはいけない部分もはっきりしています。

AIに任せてよい作業・任せてはいけない作業

任せてよい

任せてはいけない

ヒアリング内容を条文の形に整える

法令の条番号・施行日・上限日数の断定

既存の様式と明示事項リストの突合(抜け探し)

その会社に固定残業代が適法かの判断

正社員版から有期版・パート版への書き換え

個別の紛争リスクの最終評価

就業規則と契約書の食い違い箇所の洗い出し

どちらに合わせて直すかの最終決定

顧問先向けの説明文・案内メールの作成

就業規則との整合の最終確認

要するに、AIは「型に流し込む」「差分を見つける」作業に使い、「これで合っているか」の判断は人が持つという切り分けです。条文の数字はAIが自信満々に間違えるところなので、必ずe-Gov法令検索や厚生労働省の資料で裏を取ってください。

プロンプト1|ひな形の下書き(コピペ可)

あなたは労務実務に詳しいアシスタントです。
以下の条件で「労働条件通知書 兼 雇用契約書」の条文案を作成してください。

# 会社情報
・会社名:【顧問先名】
・事業所:【本社所在地】、【支店があれば記載】
・就業規則:あり(第○条に解雇事由の定めあり)

# 労働者
・雇用区分:【正社員/契約社員/パート】
・契約期間:【期間の定めなし/YYYY年MM月DD日〜YYYY年MM月DD日】
・就業場所(雇入れ直後):【 】/変更の範囲:【 】
・業務(雇入れ直後):【 】/変更の範囲:【 】
・所定労働時間:【9:00〜18:00、休憩60分】
・休日:【 】
・賃金:基本給【 】円、手当【 】、固定残業代【有/無・時間数】
・昇給【有/無】、賞与【有/無】、退職手当【有/無】
・相談窓口:【部署・担当者・連絡先】

# 出力ルール
1. 第1条から順に条文形式で出力する
2. 情報が不足している項目は勝手に補わず「【要確認】」と明記する
3. 就業場所と業務は「雇入れ直後」と「変更の範囲」を必ず分けて書く
4. 有期契約の場合は更新の判断基準と更新上限の条項を必ず含める
5. 法令の条番号や日付は出力しない(こちらで別途確認する)

5番目のルールが地味に重要です。条番号を書かせないと決めておくと、それらしい嘘の条文番号が混ざるのを構造的に防げます。

うまくいかない例:「雇用契約書のひな形を作って」とだけ指示する。返ってくるのは、どこにでもある一般的な様式です。2024年改正の「変更の範囲」が入っていないことも多く、結局ゼロから直すことになります。
直し方:上のように会社の条件を先に列挙し、不足は「【要確認】」と書かせる。AIに埋めさせず、埋まっていない場所を可視化させるのがコツです。

プロンプト2|ひな形の不足項目を洗い出す(コピペ可)

次の雇用契約書の案文を読み、下のチェックリストの各項目について
「記載あり/記載なし/判断できない」を表で出してください。
条文の引用は不要で、案文に書かれているかどうかだけを判定してください。
「記載なし」の項目は、最後にまとめて箇条書きで再掲してください。

# チェックリスト
1. 契約期間
2. 有期の場合:更新の有無と更新の判断基準
3. 有期の場合:通算契約期間または更新回数の上限
4. 就業の場所(雇入れ直後)
5. 就業の場所(変更の範囲)
6. 従事すべき業務(雇入れ直後)
7. 従事すべき業務(変更の範囲)
8. 始業・終業時刻
9. 所定労働時間を超える労働の有無
10. 休憩時間・休日・休暇
11. 賃金の決定、計算および支払の方法
12. 賃金の締切日および支払日
13. 昇給に関する事項
14. 退職に関する事項(解雇の事由を含む)
15. パート・有期の場合:昇給の有無
16. パート・有期の場合:退職手当の有無
17. パート・有期の場合:賞与の有無
18. パート・有期の場合:雇用管理の改善等に係る相談窓口

# 案文
【ここに契約書案を貼り付け】

うまくいかない例:「法的に問題ないか判定して」と聞いてしまう。判断を丸投げしているので、根拠のない「問題ありません」が返ってきます。
直し方:「書いてあるか/書いていないか」だけを聞く形に落とすと、精度も検証可能性も一気に上がります。

プロンプト3|2024年改正の明示事項が漏れていないか点検(コピペ可)

次の様式が、2024年4月施行の労働条件明示ルールに対応しているかを点検してください。
判定は「該当欄あり/該当欄なし/対象外」の3択で、表にしてください。
法令の解釈や適法性の評価はしないでください。欄の有無だけを見てください。

# 点検項目
A. 就業の場所について「雇入れ直後」と「変更の範囲」が別々に書ける欄があるか
B. 従事すべき業務について「雇入れ直後」と「変更の範囲」が別々に書ける欄があるか
C. 有期契約の更新について「通算契約期間の上限」または「更新回数の上限」を書く欄があるか
D. 無期転換を申し込める旨を記載する欄があるか(通算5年超の更新時に使用)
E. 無期転換後の労働条件(就業場所・業務・労働時間・賃金)を記載する欄があるか

# 出力
1. A〜Eの判定表
2. 「該当欄なし」だったものについて、様式のどの位置に欄を足すべきかの提案
3. 追加する欄の見出し文言案

# 様式
【ここに現行の様式を貼り付け】

うまくいかない例:「2024年の法改正に対応させて」と丸ごと投げる。AIが改正内容を記憶から補おうとして、施行日や項目数を取り違えたまま様式を書き換えてきます。
直し方:上のように点検項目をこちらから与え、AIには「その欄があるか」だけを判定させる。改正内容の正しさは人が担保し、探索作業だけをAIに任せる形にします。

プロンプト4|就業規則と契約書の矛盾を突き合わせる(コピペ可)

下に「就業規則の抜粋」と「雇用契約書の案文」を貼ります。
両者の記載が食い違っている箇所を、次の形式の表で洗い出してください。
どちらが正しいかの判断はしないでください。食い違いの指摘だけをしてください。

| 論点 | 就業規則の記載 | 契約書の記載 | 食い違いの種類 |

# 食い違いの種類の分類
・矛盾(数値や条件が明確に異なる)
・不足(一方にしか記載がない)
・参照切れ(契約書が就業規則の条番号を指しているが、その条が存在しない/内容が違う)

# 重点的に見る論点
所定労働時間、休憩、休日、年次有給休暇、時間外労働の扱い、
割増賃金率、賃金締切日・支払日、試用期間、退職の申出期限、
解雇事由、定年、休職、固定残業代の有無と時間数

# 就業規則の抜粋
【ここに貼り付け】

# 雇用契約書の案文
【ここに貼り付け】

うまくいかない例:就業規則を全文まるごと貼って「矛盾を探して」と頼む。分量が多すぎて重要な条項が読み飛ばされ、「特に矛盾はありません」と返ってきます。
直し方:上の「重点的に見る論点」のように観点を先に絞り、就業規則も該当章だけを貼る。範囲を狭めるほど検出率が上がります。参照切れの検出は人手だと見落としやすいので、AIに任せる価値がいちばん大きい項目です。

汎用なんでもAI/メール返信AIで日常業務を効率化するデモです。

汎用のAIでもここまではできますが、明示事項の一覧や様式の前提を毎回プロンプトに書き込むのは手間です。士業AIは法令・公的資料を参照しながら士業の実務文書を下書きすることに特化しており、社労士事務所や事務所スタッフの使い方は事務所スタッフ向けの活用ページにまとめています。労務の問い合わせ対応まで含めた使い方は労務の問い合わせ回答テンプレート集とAI活用も参考になります。

よくある質問

雇用契約書と労働条件通知書は両方必要ですか?

法律上必要なのは労働条件通知書(労基法15条1項の明示)だけです。雇用契約書は義務ではありませんが、合意の証拠として作る意味があります。実務では「労働条件通知書 兼 雇用契約書」の1枚にまとめる運用が最も管理しやすいです。

労働条件通知書と雇用契約書の内容が違ったらどちらが優先しますか?

そもそも食い違わせてはいけない、というのが法令の建て付けです。労基則5条2項は明示した労働条件を事実と異なるものとしてはならないと定めており、労基法15条2項は明示された条件が事実と相違する場合に労働者が即時に労働契約を解除できるとしています。食い違いが生じている時点で会社側のリスクなので、兼用様式にして食い違いようのない形にするのが根本的な解決です。

雇用契約書を作らないと罰則がありますか?

雇用契約書そのものに罰則はありません。ただし労働条件の明示を怠った場合は、労基法120条1号により30万円以下の罰金の対象になります(労働基準法・e-Gov法令検索)。兼用様式にしている会社は、契約書を作らない=明示もしていない状態になりがちなので注意してください。

アルバイトにも雇用契約書は必要ですか?

雇用形態による例外はありません。むしろパート・アルバイト・有期契約の方が、昇給・退職手当・賞与の有無と相談窓口という4項目が上乗せされるぶん、記載事項は多くなります。

契約を更新するたびに交付し直す必要がありますか?

必要です。労基法15条1項は「労働契約の締結に際し」の明示を求めており、有期契約の更新は新たな労働契約の締結にあたります。とくに更新上限や、通算5年を超える更新での無期転換申込みに関する事項は、更新のタイミングでしか明示できません。

2023年以前のひな形をそのまま使い続けても大丈夫ですか?

おすすめしません。2024年4月以降に締結・更新する労働契約では「就業場所・業務の変更の範囲」の明示が必要なため、旧様式のままだと明示義務を満たさない状態になります。まずは手元の様式に「変更の範囲」の欄があるかを確認してください。

電子データや電子契約サービスで交付してもよいですか?

労働者本人が希望した場合に限り、FAXまたは電子メール等(受信者を特定して情報を伝達する電気通信で、本人が記録を出力して書面を作成できるもの)での送信が認められています(労基則5条4項)。会社側の判断だけで一律に電子化することはできず、社内掲示板への掲載も要件を満たしません。

まとめ|ひな形は「改正対応済みか」で選ぶ

雇用契約書のひな形は世の中にいくらでもありますが、選ぶ基準は結局のところ次の4つに集約されます。

  • 「就業場所・業務の変更の範囲」の欄があるか(2024年4月改正対応)
  • 有期契約なら更新の判断基準と更新上限、無期転換に関する欄があるか
  • パート・有期なら昇給・退職手当・賞与の有無と相談窓口の欄があるか
  • 明示義務(通知書)と合意(契約書)の両方の要素が1枚に揃っているか

この4点さえ通れば、あとは会社ごとの条件を埋めていく作業です。その埋める作業と、埋め忘れを探す作業、そして就業規則との食い違いを見つける作業こそAIが得意な領域なので、ヒアリング内容を渡して条文の形にしてもらい、人は「合っているか」の判断に集中する。この分担にすると、1件あたりの作成時間はかなり短くなります。

参考文献

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