雇用契約書のひな形|労働条件通知書との違いと記載事項【2026年】
雇用契約書のひな形は、ネットで拾ってそのまま使うと危険です。2024年4月に労働条件の明示ルールが変わり、古い様式のままだと「就業場所・業務の変更の範囲」の欄が丸ごと抜けているためです。この記事では、雇用契約書と労働条件通知書の違いを整理したうえで、いま必要な記載事項を満たすひな形の骨格と、AIで下書きするときの具体的な手順をまとめます。
先に結論だけ言うと、押さえるべきは次の3点です。
- 雇用契約書そのものに法律上の作成義務はない(労働契約は合意で成立する)。義務があるのは労働基準法15条の「労働条件の明示」のほう
- だから実務では、明示義務を満たす通知書と、双方が署名する契約書を1枚にした「労働条件通知書 兼 雇用契約書」が主流
- ひな形の良し悪しは2024年4月改正の欄があるかどうかで9割決まる
この記事で分かること:
- 雇用契約書と労働条件通知書の違い(義務・交付方法・署名の3軸)
- いま必要な記載事項の一覧(正社員/パート・有期/2024年改正の追加分)
- そのまま流用できる条文サンプルと、有期契約での差し替え方
- AIにひな形を下書きさせるプロンプトと、任せてはいけない範囲
雇用契約書と労働条件通知書の違い|義務・交付方法・署名で比べる
顧問先から「うちは契約書だけでいいですか」「通知書も要るんですか」と聞かれたときに、いちばん短く答えられる整理がこれです。
労働条件通知書 | 雇用契約書 | |
|---|---|---|
法的な位置づけ | 労働基準法15条1項・労働基準法施行規則5条にもとづく明示義務 | 民法623条・労働契約法6条の労働契約を書面化したもの。作成義務の規定はない |
作らないと | 労基法120条1号により30万円以下の罰金の対象 | 罰則はない。ただし条件の食い違いを立証できず紛争化しやすい |
方向 | 会社から労働者への一方向の通知 | 会社と労働者の双方向の合意 |
署名・押印 | 不要(交付すれば足りる) | 双方が記名押印・署名するのが通例 |
交付方法 | 書面交付が原則。労働者が希望した場合のみFAX・電子メール等も可 | 取り決めなし(電子契約も可) |
雇用契約書に作成義務はない。それでも作る理由
労働契約法6条は「労働契約は、労働者が使用者に使用されて労働し、使用者がこれに対して賃金を支払うことについて、労働者及び使用者が合意することによって成立する」と定めています(e-Gov法令検索・労働契約法)。つまり口約束でも契約は成立し、書面がなくても契約自体は有効です。
それでも契約書を作るのは、同じ労働契約法の4条2項が「労働者及び使用者は、労働契約の内容について、できる限り書面により確認するものとする」としているからであり、より実務的には「言った・言わない」を後から潰すためです。実際に労務トラブルの相談で最初に確認されるのは、ほぼ例外なく契約書の記載です。試用期間の長さ、固定残業代の内訳、転勤の可能性──この3つは、書面がないと会社側がまず不利になります。
「労働条件通知書 兼 雇用契約書」が実務の主流になった理由
通知書と契約書を別々に作ると、記載内容がほぼ重複するのに管理は2倍になります。そこで、通知書の明示事項をすべて盛り込んだうえで末尾に双方の署名欄を付け、1枚で「明示義務の履行」と「合意の証拠」を兼ねさせるのが兼用様式です。中小企業の顧問先ではこの形をおすすめすることが多く、実務上の利点は次の3つです。
- 明示事項の抜けが起きにくい(通知書の様式をベースにするため)
- 入社手続きで本人に渡す書類が1枚減る
- 改正があったとき、直す様式が1つで済む
書面そのものの作り方(明示事項の順番や記載例)は労働条件通知書をAIで作成する手順と2024年改正の記載例で詳しく扱っています。本記事は「契約書として何をどう書くか」に絞ります。
雇用契約書の記載事項一覧|労基則5条の絶対的・相対的明示事項
兼用様式にする以上、雇用契約書の記載事項は労働基準法施行規則5条1項の明示事項がそのまま土台になります(e-Gov法令検索・労働基準法施行規則)。
必ず書面で明示する項目(絶対的明示事項)
労基則5条3項・4項により、次の項目は書面の交付が必要です(昇給に関する事項を除く)。ひな形にこの欄がなければ、その時点で不合格と考えて構いません。
- 労働契約の期間に関する事項
- 有期契約を更新する場合の基準(通算契約期間または更新回数の上限がある場合はその上限を含む)
- 就業の場所および従事すべき業務(変更の範囲を含む)
- 始業・終業の時刻、所定労働時間を超える労働の有無、休憩時間、休日、休暇、交替制の就業時転換
- 賃金の決定・計算・支払の方法、賃金の締切りと支払の時期
- 退職に関する事項(解雇の事由を含む)
なお、昇給に関する事項は明示義務はありますが書面交付までは求められません。とはいえ契約書に書かない理由もないので、ひな形には欄を残しておくのが無難です。
定めがあるときだけ書く項目(相対的明示事項)
次の項目は、会社にその制度がある場合のみ明示が必要です。制度がなければ欄ごと削ってよいのですが、「制度がないこと」を明記しておくと後の質問が減ります。
- 退職手当(対象者の範囲・決定と計算・支払方法・支払時期)
- 臨時に支払われる賃金、賞与、最低賃金額
- 労働者に負担させる食費・作業用品など
- 安全衛生/職業訓練/災害補償・業務外の傷病扶助
- 表彰および制裁/休職
パート・アルバイト・有期には4項目が上乗せされる
ここを落としているひな形が本当に多いところです。短時間・有期雇用労働者を雇い入れたときは、パートタイム・有期雇用労働法6条1項により、労基法の明示事項に加えて次の4項目(特定事項)を文書で明示しなければなりません(e-Gov法令検索・短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律)。
- 昇給の有無
- 退職手当の有無
- 賞与の有無
- 雇用管理の改善等に関する事項に係る相談窓口
「有無」を書けばよいので、制度がなければ「昇給:無」「賞与:無」と書けば足ります。相談窓口だけは部署名または担当者名と連絡先まで書く必要があるので、ひな形に空欄を作っておき、事業所ごとに埋める運用にしてください。
2024年4月改正でひな形に追加された欄
2024年4月1日施行の改正で、次の欄が新設または拡張されました(厚生労働省「令和6年4月から労働条件明示のルールが改正されます」)。
追加された欄 | 対象 | ひな形での書き方 |
|---|---|---|
就業場所・業務の変更の範囲 | 全ての労働者 | 雇入れ直後と、将来の変更可能性がある範囲を分けて記載 |
更新上限の有無と内容 | 有期契約 | 「通算契約期間○年を上限とする」「更新回数○回を上限とする」 |
無期転換申込みに関する事項 | 無期転換申込権が発生する有期契約 | 申込みができる旨を更新のつど明示 |
無期転換後の労働条件 | 同上 | 転換後の就業場所・業務・賃金などを記載 |
2023年以前に作られたひな形には、少なくとも1つ目の「変更の範囲」の欄がありません。手元の様式に「変更の範囲」という文字列があるかどうかを検索するだけで、改正対応済みかどうかは一瞬で判定できます。
雇用契約書のひな形|そのまま流用できる条文サンプル
厚生労働省は労働条件通知書のモデル様式を主要様式ダウンロードコーナーで公開しています。兼用様式にする場合は、この様式をベースに末尾へ合意条項と署名欄を足すのが最短です。以下は、その骨格を条文形式にしたサンプルです。
労働条件通知書 兼 雇用契約書
株式会社○○(以下「甲」という。)と △△ △△(以下「乙」という。)は、
次のとおり労働契約を締結する。
第1条(契約期間)
期間の定めなし / 期間の定めあり( 年 月 日 〜 年 月 日)
※期間の定めがある場合
・契約の更新の有無: 更新する場合があり得る / 更新しない
・更新の判断基準:契約期間満了時の業務量、乙の勤務成績・態度・能力、
会社の経営状況、従事している業務の進捗状況
・更新上限:通算契約期間 年 / 更新回数 回 / 上限なし
第2条(就業の場所)
雇入れ直後:本社(東京都○○区○○1-1-1)
変更の範囲:会社の定める全ての事業所
第3条(従事すべき業務の内容)
雇入れ直後:経理業務
変更の範囲:会社の定める全ての業務
第4条(就業時間・休憩・休日)
始業 9:00 終業 18:00 休憩 60分
所定時間外労働の有無:有 / 無
休日:土曜、日曜、国民の祝日、年末年始(12月29日〜1月3日)
第5条(賃金)
基本給 月額 円
諸手当 役職手当 円/通勤手当 円
時間外労働に対する割増賃金率:法定超 25%、法定休日 35%、深夜 25%
賃金締切日 毎月末日 支払日 翌月 日
昇給:有(毎年4月)/ 無 賞与:有(年2回)/ 無 退職手当:有 / 無
第6条(退職・解雇)
定年:満 歳 自己都合退職の手続:退職する30日以上前に届け出ること
解雇の事由および手続:就業規則第○条に定めるところによる
第7条(その他)
本契約に定めのない事項は、就業規則および関係法令の定めるところによる。
社会保険の加入状況:厚生年金・健康保険・雇用保険・労災保険
雇用管理の改善等に関する相談窓口:総務部(担当:○○、内線 )
本契約の成立を証するため本書2通を作成し、甲乙記名押印のうえ各1通を保有する。
年 月 日
甲 所在地 商号 代表者 印
乙 住所 氏名 印
正社員(無期)で使う場合は第1条の有期部分を削り、逆に有期契約で使う場合は第1条をそのまま残したうえで、無期転換申込権が発生する更新のタイミングで「無期転換申込みに関する事項」と「転換後の労働条件」の条項を追加します。
雇用契約書の書き方でつまずく4つの論点
就業場所・業務の「変更の範囲」をどこまで広く書くか
「会社の定める全ての事業所」「会社の定める全ての業務」と書けば形式的には足ります。ただし、実際には転勤がない前提で採用したのに範囲だけ広く書いておくと、後から本人と揉めます。限定するなら限定すると書くのが結局いちばん安全です。「東京都内の事業所に限る」「営業職に限る」といった書き方も当然可能です。
賃金は手当まで分解して書く
「月給25万円」の一行だけで済ませているひな形をよく見かけますが、固定残業代を含む場合は基本給と固定残業代を分け、何時間分かと、超過分は別途支払う旨まで書かないと、固定残業代として認められないリスクがあります。基本給・各種手当・固定残業代(時間数)を別の行に分けるのが原則です。
就業規則との関係を1条だけ入れておく
契約書にすべてを書き切ることはできません。だからこそ「本契約に定めのない事項は就業規則の定めるところによる」の1条が効きます。逆に言えば就業規則が古いままだと契約書だけ直しても穴が残るということです。規程側の点検については就業規則・社内規程のドラフトとチェックをAIで行う手順も併せて確認してください。時間外労働の記載を有にするなら、36協定届(様式第9号)の書き方と提出前チェックの届出が前提になる点も忘れずに。
メール送付とPDF交付の可否
労基則5条4項は、明示すべき事項について書面の交付を原則としつつ、労働者が希望した場合に限りFAXまたは電子メール等(受信者が出力して書面を作成できるものに限る)での送信を認めています。会社の都合で一律にメール送付へ切り替えることはできません。入社手続きのフローに「本人の希望を確認するステップ」を1つ挟んでおくのが実務上のポイントです。
雇用契約書のひな形をAIで下書きする手順
ここからは、実際に手を動かす部分の話です。雇用契約書の作成は「決まった項目を、会社ごとの条件で埋めていく」作業なので、AIの下書きがよく効きます。一方で、任せてはいけない部分もはっきりしています。
AIに任せてよい作業・任せてはいけない作業
任せてよい | 任せてはいけない |
|---|---|
ヒアリング内容を条文の形に整える | 法令の条番号・施行日・上限日数の断定 |
既存の様式と明示事項リストの突合(抜け探し) | その会社に固定残業代が適法かの判断 |
正社員版から有期版・パート版への書き換え | 個別の紛争リスクの最終評価 |
顧問先向けの説明文・案内メールの作成 | 就業規則との整合の最終確認 |
要するに、AIは「型に流し込む」作業に使い、「これで合っているか」の判断は人が持つという切り分けです。条文の数字はAIが自信満々に間違えるところなので、必ずe-Gov法令検索や厚生労働省の資料で裏を取ってください。
ひな形の下書きプロンプト(コピペ可)
あなたは労務実務に詳しいアシスタントです。
以下の条件で「労働条件通知書 兼 雇用契約書」の条文案を作成してください。
# 会社情報
・会社名:【顧問先名】
・事業所:【本社所在地】、【支店があれば記載】
・就業規則:あり(第○条に解雇事由の定めあり)
# 労働者
・雇用区分:【正社員/契約社員/パート】
・契約期間:【期間の定めなし/YYYY年MM月DD日〜YYYY年MM月DD日】
・就業場所(雇入れ直後):【 】/変更の範囲:【 】
・業務(雇入れ直後):【 】/変更の範囲:【 】
・所定労働時間:【9:00〜18:00、休憩60分】
・休日:【 】
・賃金:基本給【 】円、手当【 】、固定残業代【有/無・時間数】
・昇給【有/無】、賞与【有/無】、退職手当【有/無】
・相談窓口:【部署・担当者・連絡先】
# 出力ルール
1. 第1条から順に条文形式で出力する
2. 情報が不足している項目は勝手に補わず「【要確認】」と明記する
3. 就業場所と業務は「雇入れ直後」と「変更の範囲」を必ず分けて書く
4. 有期契約の場合は更新の判断基準と更新上限の条項を必ず含める
5. 法令の条番号や日付は出力しない(こちらで別途確認する)
5番目のルールが地味に重要です。条番号を書かせないと決めておくと、それらしい嘘の条文番号が混ざるのを構造的に防げます。
記載漏れチェックのプロンプト(コピペ可)
次の雇用契約書の案文を読み、下のチェックリストの各項目について
「記載あり/記載なし/判断できない」を表で出してください。
条文の引用は不要で、案文に書かれているかどうかだけを判定してください。
# チェックリスト
1. 契約期間
2. 有期の場合:更新の有無と更新の判断基準
3. 有期の場合:通算契約期間または更新回数の上限
4. 就業の場所(雇入れ直後)
5. 就業の場所(変更の範囲)
6. 従事すべき業務(雇入れ直後)
7. 従事すべき業務(変更の範囲)
8. 始業・終業時刻
9. 所定労働時間を超える労働の有無
10. 休憩時間・休日・休暇
11. 賃金の決定、計算および支払の方法
12. 賃金の締切日および支払日
13. 昇給に関する事項
14. 退職に関する事項(解雇の事由を含む)
15. パート・有期の場合:昇給の有無
16. パート・有期の場合:退職手当の有無
17. パート・有期の場合:賞与の有無
18. パート・有期の場合:雇用管理の改善等に係る相談窓口
# 案文
【ここに契約書案を貼り付け】
うまくいかない例と、その直し方
うまくいかない例:「雇用契約書のひな形を作って」とだけ指示する。
返ってくるのは、どこにでもある一般的な様式です。2024年改正の「変更の範囲」が入っていないことも多く、結局ゼロから直すことになります。
直し方:上のプロンプトのように会社の条件を先に列挙し、不足は「【要確認】」と書かせる。AIに埋めさせず、埋まっていない場所を可視化させるのがコツです。
もう一つのつまずき:チェック用プロンプトで「法的に問題ないか判定して」と聞いてしまう。
これは判断を丸投げしているので、根拠のない「問題ありません」が返ってきます。「書いてあるか/書いていないか」だけを聞く形に落とすと、精度も検証可能性も一気に上がります。
汎用のAIでもここまではできますが、明示事項の一覧や様式の前提を毎回プロンプトに書き込むのは手間です。士業AIは法令・公的資料を参照しながら士業の実務文書を下書きすることに特化しており、社労士事務所や事務所スタッフの使い方は事務所スタッフ向けの活用ページにまとめています。労務の問い合わせ対応まで含めた使い方は労務の問い合わせ回答テンプレートとAI活用も参考になります。
よくある質問
雇用契約書と労働条件通知書は両方必要ですか?
法律上必要なのは労働条件通知書(労基法15条の明示)だけです。雇用契約書は義務ではありませんが、合意の証拠として作る意味があります。実務では「労働条件通知書 兼 雇用契約書」の1枚にまとめる運用が最も管理しやすいです。
雇用契約書を作らないと罰則がありますか?
雇用契約書そのものに罰則はありません。ただし労働条件の明示を怠った場合は、労基法120条1号により30万円以下の罰金の対象になります(e-Gov法令検索・労働基準法)。兼用様式にしている会社は、契約書を作らない=明示もしていない状態になりがちなので注意してください。
アルバイトにも雇用契約書は必要ですか?
雇用形態による例外はありません。むしろパート・アルバイト・有期契約の方が、昇給・退職手当・賞与の有無と相談窓口という4項目が上乗せされるぶん、記載事項は多くなります。
2023年以前のひな形をそのまま使い続けても大丈夫ですか?
おすすめしません。2024年4月以降に締結・更新する労働契約では「就業場所・業務の変更の範囲」の明示が必要なため、旧様式のままだと明示義務を満たさない状態になります。まずは手元の様式に「変更の範囲」の欄があるかを確認してください。
電子データで交付してもよいですか?
労働者本人が希望した場合に限り、FAXまたは電子メール等(本人が出力して書面を作成できるもの)での送信が認められています。会社側の判断だけで一律に電子化することはできません。
まとめ|ひな形は「改正対応済みか」で選ぶ
雇用契約書のひな形は世の中にいくらでもありますが、選ぶ基準は結局のところ次の3つに集約されます。
- 「就業場所・業務の変更の範囲」の欄があるか(2024年4月改正対応)
- 有期契約なら更新の判断基準と更新上限の欄があるか
- パート・有期なら昇給・退職手当・賞与の有無と相談窓口の欄があるか
この3点さえ通れば、あとは会社ごとの条件を埋めていく作業です。その埋める作業と、埋め忘れを探す作業こそAIが得意な領域なので、ヒアリング内容を渡して条文の形にしてもらい、人は「合っているか」の判断に集中する。この分担にすると、1件あたりの作成時間はかなり短くなります。

