労働基準法改正2026は提出見送り|確定した法改正と企業の対応チェックリスト
結論:2026年に施行される「労働基準法」の改正はない
「労働基準法 改正 2026」で調べる方の多くは、2026年に労基法そのものが変わると考えています。しかし現時点では、労働基準法本体の「40年ぶりの大改正」は2026年に施行されません。2025年12月26日、上野賢一郎厚生労働大臣が、2026年の通常国会への改正法案の提出は現在のところ考えていないと述べ、提出が見送られたからです。高市早苗政権の日本成長戦略会議で労働時間規制の緩和を検討することになり、仕切り直しになったためです。
一方で、2026年に施行が確定している「労働関係の法改正」は別にあります。混同したまま社内に案内すると、顧問先や現場を無用に混乱させます。この記事では、確定していることとしていないことを切り分けます。
この記事で分かること:
- 労働基準法の大改正がいま議論のどの段階にあるのか
- 2026年に本当に施行される労働関係の法改正は何か(女性活躍推進法・カスハラ対策・労働安全衛生法)
- 「検討中」の論点を就業規則にどう扱うべきか(先取りしてはいけない理由)
- そのまま社内に配れる対応チェックリスト
- 法改正の追跡と社内展開をAIで安全に効率化する手順
労働基準法の大改正はいま、どこまで進んでいるのか
「大改正」という言葉だけが独り歩きしていますが、経緯をたどれば、いまどこで止まっているのかがはっきりします。
2025年1月の研究会報告書で示された方向性
起点は、厚生労働省の「労働基準関係法制研究会」(座長・荒木尚志 東京大学大学院教授)が2025年1月8日に公表した報告書です。労働時間のあり方や労働者性の判断など、幅広い論点が並びました。ただし報告書は論点整理であり、条文でも法案でもありません。示された内容がそのまま制度になると読むのが、実務上いちばん危険な誤解です。
労働政策審議会での議論の現在地
報告書を受けて、労働政策審議会の労働条件分科会(2025年1月21日 第193回〜)で制度設計の議論が始まりました。しかし2026年に入ってからの直近の分科会を見ると、2026年5月13日の第209回、2026年7月14日の第210回とも、議題は「資金移動業者の口座への賃金支払制度について」「労働市場改革分科会等について(報告事項)」です。公開されている議題を見るかぎり、労基法本体の改正案が分科会の議題に上がっている様子はありません。議題は厚生労働省のサイトで公開されているので、追いかけるならこの一次情報を定点観測するのが確実です。
2026年通常国会への法案提出が見送られた経緯
そして2025年12月26日の大臣の表明により、2026年通常国会への法案提出は見送られました。労働時間規制のあり方が成長戦略の側から改めて検討されることになったためです。今後いつ法案が出るのか、内容がどこまで維持されるのかは、現時点では確定していません。「近く施行される」前提で準備するのではなく、「動きがあれば拾える体制を作る」のが正しい構えです。
2026年に施行が確定している労働関係の法改正
労基法本体は動きませんが、2026年に確実に対応が必要な改正はあります。いずれも労働基準法ではない点を、社内案内でも明記してください。
2026年4月1日:女性活躍推進法の情報公表義務が拡大
改正女性活躍推進法により、常時雇用する労働者が101人以上の事業主に、男女間賃金差異(従来は301人以上が対象でした)と女性管理職比率(新規)の情報公表が義務づけられます。令和7年6月11日公布、省令・指針は令和7年12月23日に公布・告示。女性管理職比率は、令和8年4月1日以後に最初に終了する事業年度の実績を、次の事業年度の開始後おおむね3か月以内に公表する扱いです。まずは自社が「常時雇用する労働者101人以上」に当たるかどうかを、厚生労働省のリーフレットで数え方の定義を確認したうえで判定するところから着手してください。
2026年10月1日:カスタマーハラスメント対策の義務化
改正労働施策総合推進法により、カスタマーハラスメント対策と、求職者等に対するセクシュアルハラスメント対策が事業主の義務になります。指針は令和8年2月26日に告示されました(令和8年厚生労働省告示第51号・第52号)。
カスハラの定義は、①顧客等の言動であって、②その雇用する労働者が従事する業務の性質その他の事情に照らして社会通念上許容される範囲を超えたものにより、③労働者の就業環境が害されるもの、という3要素をすべて満たすものです。電話やSNSなどインターネット上の言動も含まれます。逆に言えば苦情のすべてがカスハラに当たるわけではなく、ここを取り違えると正当なクレームまで門前払いする運用になりかねません。
講ずべき措置は、方針の明確化と周知啓発、相談体制の整備(相談窓口を定めて周知し、担当者が適切に対応できるようにする)、事後の迅速かつ適切な対応(事実関係の迅速・正確な確認など)です。就業規則や社内規程への反映が必要になるため、就業規則・社内規程のドラフトとチェックをAIで行う手順もあわせて整理しておくと早く動けます。
2026年から段階施行される労働安全衛生法
労働安全衛生法および作業環境測定法の一部を改正する法律(令和7年法律第33号、2025年5月14日公布)が、2026年1月1日から段階的に施行されています。柱の一つが、個人事業者等(フリーランス・一人親方)の安全衛生対策です。2026年4月1日、10月1日、2027年にも施行分があるため、自社に関係する施行日を厚生労働省のページで必ず確認してください。
「検討中」の論点を、どう扱えばいいか
研究会報告書の論点は関心を集めますが、条文も施行日も決まっていません。扱い方を誤ると手戻りになります。
連続勤務の上限と勤務間インターバル
14日を超える連続勤務の禁止や勤務間インターバル制度の位置づけは、報告書で議論された代表的な論点です。ただし決まっているのは「論点として挙がった」ところまでで、日数や時間、適用範囲は確定していません。顧問先から質問が来たら「議論はされているが内容も時期も未定」と正確に返すのが誠実です。
つながらない権利・副業の労働時間通算
いわゆる「つながらない権利」、副業・兼業時の労働時間通算や割増賃金のルール見直し、労働者性の判断の予見可能性向上、部分的なフレックスタイム制なども同様です。いずれも検討段階です。法制化を待たず自社の運用として整えること自体は有効ですが、それは「自社の方針」であって「法対応」ではないという区別を社内で共有してください。
確定していないものを就業規則に先取りで入れない
いちばんの落とし穴は、報道や解説記事を根拠に未確定の規制を就業規則へ書き込むことです。法律がどうなるかにかかわらず、規程に書いた内容は原則としてその事業場の労働条件になります。運用として試すなら、就業規則本体ではなく社内ガイドラインの形で始め、法律が固まってから規程に落とすのが安全です。時間管理の土台である36協定届の書き方と提出前チェックのような、すでに確定した義務の精度を上げるほうが確実に報われます。
企業の対応チェックリスト
そのまま社内に配れる粒度でまとめました。「確定」と「検討中」は必ず分けて配ってください。
いますぐ着手する“確定した対応”
期限 | やること | 確認ポイント |
|---|---|---|
2026年4月1日 | 常時雇用する労働者数を確定させる | 101人以上かどうか。「常時雇用する労働者」の定義を原文で確認する |
2026年4月1日 | 男女間賃金差異の算出と公表方法の決定 | 算出対象の賃金の範囲、公表先(自社サイト等) |
2026年4月1日以後 | 女性管理職比率の集計体制を作る | 「管理職」の定義を社内で先に確定させる |
2026年10月1日 | カスハラ対策の方針を明文化し周知 | 3要素に照らした判断基準を文章で持つ |
2026年10月1日 | 相談窓口の設置・周知、担当者の対応手順整備 | 電話・SNS上の言動も対象に含める |
2026年10月1日 | 求職者等へのセクハラ対策を採用フローに組み込む | 面接・インターン対応者への周知 |
2026年1月1日〜 | 労働安全衛生法の段階施行の自社該当分を確認 | 個人事業者等と協働する現場があるか |
通年 | 既存の労基法ルールの遵守状況を点検 | 時間外の上限規制、年5日の年休取得、月60時間超の割増50%、2024年4月からの労働条件明示ルール |
最後の行は2026年に新しく変わるものではなく、すでに施行済みで2026年も引き続き守るべき内容です。あわせて、毎年動く最低賃金の改定対応と給与見直しの実務や、育児・介護休業法改正への顧問先案内と規程見直しと同じ年間サイクルに組み込むと、対応漏れが減ります。
情報収集だけしておく“検討中の対応”
- 労働条件分科会の議題を四半期に一度チェックする(労基法本体が主議題に戻るかを見る)
- 連続勤務の上限・勤務間インターバルは、自社の実態値(最長連続勤務日数、退勤から出勤までの最短時間)を先に測っておく
- 副業・兼業の労働時間の把握方法を、現行ルールの範囲で整理しておく
- 時間外連絡の社内ルールは、ガイドライン止まりにして就業規則には入れない
- 報道ベースの情報は「未確定」とラベルを付けて共有し、規程作業に流用しない
法改正の追跡と社内展開をAIで効率化する
法改正対応で時間を食うのは、条文を読むことより「差分を拾い、社内向けの言葉に直し、配ること」です。ここはAIが得意ですが、前提を一つだけ守ってください。
施行日・条文・数値をAIに答えさせてはいけません。 法改正情報は更新が速く、今回のように「提出見送り」で前提ごと覆ることがあります。AIには一次情報(厚生労働省の資料そのもの)を貼ったうえで、要約・差分整理・言い換えだけをさせるのが原則です。この使い分けで事務所の信頼が分かれます。なお以下で「プロンプト」と呼んでいるのは、AIに渡す指示文のことです。そのままコピーして使えます。
一次情報の差分をAIに整理させる手順とプロンプト
手順は単純です。①厚生労働省のページやリーフレットPDFから本文をコピーする、②AIに貼って整理させる、③出てきた施行日と数値を原文と目視で突き合わせる。③を省かないことが唯一のルールです。
以下は厚生労働省の【資料名】の原文です。
この原文だけを根拠に、次の形式で整理してください。
原文に書かれていないことは「記載なし」と書き、推測で補わないでください。
1. 対象となる事業主の範囲
2. 施行日(複数ある場合は日付ごとに分ける)
3. 事業主が講じるべき措置(箇条書き)
4. 原文で「検討中」「予定」と書かれている箇所
---原文ここから---
【本文を貼り付け】
---原文ここまで---【資料名A(旧)】と【資料名B(新)】の原文を貼ります。
変更点だけを表で出してください。列は「項目/旧/新/実務への影響」。
変わっていない項目は出力しないでください。
どちらの原文にも根拠が無い行は作らないでください。
---A---
【旧の本文】
---B---
【新の本文】顧問先・従業員向け案内文の下書き
整理した内容を相手に合わせた文章にするまでがセットです。顧問先の労務担当者向けと自社の従業員向けでは、必要な情報量も語彙も違います。
次の整理結果をもとに、【顧問先名】の労務担当者向けの案内文を作ってください。
条件:
- 600字程度、専門用語は使わず業務の言葉で
- 冒頭で「労働基準法そのものの改正ではない」ことを明記
- 「いつまでに」「誰が」「何をするか」を箇条書きで
- 確定していない事項は書かない
- 最後に厚生労働省の該当ページURLを案内する一文を入れる
---整理結果---
【前のプロンプトの出力を貼り付け】士業AIのようなAIチャットなら、この流れを一つの会話で回せます。原文を貼る、整理させる、案内文に直す、顧問先ごとに書き分ける、という往復がそのまま実務の型になり、担当者による品質のばらつきも減ります。運用イメージは社労士・事務所スタッフ向けの活用ページにまとめています。
まとめると、2026年に労働基準法本体の改正はありません。確定しているのは女性活躍推進法、カスハラ対策、労働安全衛生法の3つです。確定したものは期限から逆算して着手し、検討中のものは追跡だけする。この切り分けと、一次情報を必ず自分で確認する姿勢さえ守れば、法改正対応は落ち着いて回せます。

