業務効率化

士業事務所の生成AI利用規程テンプレート|守秘義務を守る条文例【コピペ可】

士業事務所の生成AI利用規程は、「どのAIを使ってよいか」「何を入力してはいけないか」「出力を誰が確認するか」「事故が起きたら誰に報告するか」の4点を、所員全員が同じ基準で判断できるように文書にしたものです。口頭の注意だけでは、新しく入った職員や個人のスマートフォンでAIを使う職員まで届きません。

この記事では、税理士・社労士・司法書士・弁護士などの事務所でそのまま使える「生成AI利用規程」の条文例を第1条から附則まで示し、各条に「なぜこの条文が要るのか」を業務の言葉で添えました。守秘義務の根拠条文は、e-Gov法令検索と各士業会の公表資料で文言を確認できたものだけを載せています。

  • コピーしてそのまま使える生成AI利用規程の全文(全14条+附則)
  • 条文ごとの「この条文が要る理由」と、よくある書き方の失敗→直し方
  • 税理士・社労士・司法書士・弁護士・行政書士で差し替える守秘義務の根拠条文
  • 承認ツール一覧・入力区分表・事故報告の項目など、規程に付ける別表のひな形
  • 規程を作ってから30日で運用に乗せる手順と、よくある質問

AIツールの選び方そのものは会計事務所のAIセキュリティ対策と、守秘義務と両立するツールの選び方で、顧問先データを貼ってよいかの判断基準は顧問先データはAIに貼ってよいか(税理士法38条の判断基準)で詳しく扱っています。この記事は、規程の条文そのものと運用の始め方に絞ります。

生成AI利用規程とは|事務所に必要な理由

生成AI利用規程は、事務所の業務で生成AIサービスを使うときの決まりを、就業規則や情報管理規程と同じく文書で定めたものです。名称は「生成AI利用ガイドライン」「AI利用ルール」でも構いません。

守秘義務は「資格者本人」と「使用人」の両方にかかる

税理士法は、税理士本人の秘密を守る義務(第38条)とは別に、税理士の使用人その他の従業者にも、税理士業務に関して知り得た秘密を漏らしてはならない義務を定めています(第54条)。さらに、税理士には使用人を監督する義務があります(第41条の2)。職員がAIに顧問先情報を入力して問題が起きれば、職員本人の問題であると同時に、事務所の監督の問題にもなります。

社労士法(第21条・第27条の2)や行政書士法(第12条・第19条の3)にも、資格者本人と使用人それぞれの秘密を守る義務があります。

個人情報保護委員会も「入力前の確認」を求めている

個人情報保護委員会は令和5年6月2日に「生成AIサービスの利用に関する注意喚起等」を公表しました。事業者向けには、個人情報を含むプロンプトを入力するときは利用目的の範囲内かを十分に確認すること、個人データを含むプロンプトを入力する場合はサービス提供事業者が機械学習に使わないこと等を十分に確認することを求めています(個人情報保護委員会「生成AIサービスの利用に関する注意喚起等について」)。

この「確認」を職員一人ひとりに任せると、判断がばらつきます。事務所で一度確認して承認したサービスだけを使う、という形に変えるのが規程の役割です。

規程を作る前に決める4つのこと

条文を埋める前に、次の4点を所長と事務長で決めておくと、テンプレートの【 】をすぐ埋められます。

決めること

決め方の目安

反映する条文

使ってよいサービスとプラン

入力が学習に使われない法人向けプラン・業務特化型AIなどから1〜2つに絞る

第4条・別表1

AI管理責任者

小規模なら所長自身、10名以上なら事務長やIT担当の職員

第2条・第4条・第13条

顧客情報の扱いの線

「仮名化すれば可」か「顧客情報は一切不可」か

第5条〜第7条・別表2

最終確認者

外部に出す文書は資格者が確認する、が基本

第8条

サービスごとの学習利用の設定や、無料版と有料版の違いはChatGPT有料版と無料版の違い(士業の業務利用で選ぶ基準)で整理しています。事務所の規模や職種ごとの導入の進め方は、税理士事務所なら税理士向けの士業AI、社労士事務所や事務所スタッフ向けには事務所スタッフ向けの士業AIのページも参考にしてください。

生成AI利用規程テンプレート(全文・コピペ用)

そのままWordやGoogleドキュメントに貼り付けて使える全文です。【 】の部分を自事務所の内容に置き換えてください。第1条の守秘義務の根拠は、後の「職種別に差し替える条文」で職種ごとの例を示しています。

【事務所名】生成AI利用規程

第1条(目的)
この規程は、当事務所の業務において生成AIサービスを利用する際の基本的な事項を定め、【守秘義務の根拠条文】に基づく秘密を守る義務及び個人情報の保護に関する法律を遵守しながら、業務の質と効率を高めることを目的とする。

第2条(定義)
この規程において、次の用語の意味は以下のとおりとする。
一 生成AIサービス:質問や作業指示(以下「プロンプト」という。)の入力に応じて文章・画像・表などを生成するサービスをいい、他のソフトウェアに組み込まれた生成機能を含む。
二 所員:所長、【資格者の名称】、職員、パート・アルバイト、派遣社員その他当事務所の業務に従事する者をいう。
三 顧客情報:顧問先、依頼者及びその関係者から業務に関して取得した情報(個人情報を含む。)をいう。
四 AI管理責任者:第4条の承認及びこの規程の運用を担当する者として、所長が指名した者をいう。

第3条(適用範囲)
1 この規程は、全ての所員に適用する。
2 この規程は、事務所が貸与した端末及びアカウントのほか、所員が個人で契約した端末及びアカウントを業務に用いる場合にも適用する。
3 業務の一部を外部に委託する場合で、委託先が生成AIサービスを利用するときは、この規程と同等の取扱いを契約で求める。

第4条(利用できるサービスの承認)
1 所員が業務に利用できる生成AIサービスは、AI管理責任者が承認し、別表1「承認済み生成AIサービス一覧」に記載したもの(プラン及び設定を含む。)に限る。
2 AI管理責任者は、承認にあたり、少なくとも次の事項を利用規約・プライバシーポリシー等で確認し、確認日とともに記録する。
 一 入力した内容がAIの学習に利用されないこと、又は利用されない設定にできること
 二 入力した内容及び出力の保存期間と削除の方法
 三 利用者アカウントの追加・停止を事務所で管理できること
3 承認したサービスの利用規約や設定が変更されたときは、AI管理責任者は速やかに再確認する。
4 所員は、別表1に記載のないサービスを業務に利用してはならない。

第5条(入力する情報の区分)
所員は、別表2「入力区分表」に従い、プロンプトに入力する情報を次の三つに区分して判断する。
一 入力禁止:第6条に定める情報
二 条件付きで入力可:顧客情報のうち、氏名・名称その他特定の顧客を識別できる記述を仮名に置き換えたもの
三 入力可:法令・通達などの公開情報、顧客情報を含まない事務所内の文書

第6条(入力禁止情報)
1 所員は、承認済みのサービスであっても、次の情報を入力してはならない。
 一 個人番号(マイナンバー)、預金口座番号、クレジットカード番号、各種ID及びパスワード
 二 病歴、犯罪の経歴その他の要配慮個人情報
 三 顧客の氏名・名称・住所等と、金額・財産・紛争の内容等が結びついた情報(第7条第2項による場合を除く。)
 四 顧客から外部への提供を禁止された情報、契約で秘密とされた情報
 五 その他、AI管理責任者が入力禁止と定めた情報
2 前項の情報を含む書類の画像・PDF・音声を読み込ませることも、入力とみなす。

第7条(顧客情報の取扱い)
1 所員は、顧客情報を入力するときは、業務に必要な最小限の範囲とし、氏名・名称・所在地等を「A社」「甲」などの仮名に置き換える。
2 仮名に置き換えると業務が行えない場合は、別表1で「顧客情報の入力可」と指定したサービスに限り、AI管理責任者の事前の承認を得て入力することができる。
3 顧客から生成AIの利用について問合せや利用制限の申出があったときは、所員は所長に報告し、その申出に従う。

第8条(出力の確認責任)
1 生成AIサービスの出力は下書きとして扱い、所員は、顧客・官公署その他の外部に出す前に、内容が正確であることを自ら確認する。
2 法令・通達・判例の引用、期限、金額、計算結果、様式名は、e-Gov法令検索や所管官庁の公表資料などの原典で確認する。
3 外部に出す文書の最終確認は【資格者の名称】が行う。出力を用いた成果物の責任は、確認した者及び当事務所が負う。

第9条(記録)
1 所員は、顧客情報(仮名に置き換えたものを含む。)を入力して作成した成果物について、利用したサービス名・日付・用途を【案件管理表】に記録する。
2 AI管理責任者は、承認済みサービスのアカウント一覧と利用状況を【年1回】以上点検し、退職者等のアカウントを停止する。

第10条(事故時の報告)
1 所員は、次のいずれかに当たるときは、直ちにAI管理責任者及び所長に報告する。
 一 入力禁止情報を入力したとき、又は入力したおそれがあるとき
 二 承認されていないサービスを業務に利用したとき
 三 アカウントの不正利用、端末の紛失・盗難があったとき
 四 誤った出力を含む文書を外部に出したことが分かったとき
2 報告を受けた所長は、入力履歴の削除など被害の拡大を防ぐ措置、顧客への説明、個人情報保護委員会への報告及び本人への通知の要否の判断を行う。
3 速やかに報告したことは、第12条の措置を判断する際に考慮する。

第11条(教育)
1 所長は、所員に対し、採用時及び【年1回】以上、この規程と生成AIの安全な使い方についての研修を行う。
2 所員は、研修を受けた後、この規程を理解し守る旨の確認書を提出する。

第12条(違反時の措置)
この規程に違反した所員については、就業規則の定めるところにより処分を行うことがある。

第13条(見直し)
AI管理責任者は、【毎年◯月】及び法令・関係団体の指針・承認済みサービスの利用規約が変わったときに、この規程と別表を見直し、所長に報告する。

第14条(改廃)
この規程の改廃は、所長が行う。

附則
この規程は、【令和◯年◯月◯日】から施行する。

条数を減らしたい場合も、第4条(承認)・第6条(入力禁止)・第8条(出力の確認)・第10条(事故時の報告)の4つは残してください。この4つが欠けると、規程があっても事故を防げず、起きたときに説明もできません。

条文の解説①|総則・ツールの承認・入力禁止情報(第1条〜第6条)

第1条:守秘義務の根拠を目的に書き込む

目的に自分の職種の守秘義務の条文番号を入れておくと、所員が「なぜこの規程を守るのか」を自分の資格の問題として理解できます。顧問先や依頼者に規程を見せるときも、法律上の義務に基づいて作った規程だと一目で伝わります。

よくある失敗→直し方:「業務効率化のため」だけを目的に書くと、規程が「AIを使うためのルール」としか読まれず、秘密を守る理由が抜け落ちます。効率化と守秘義務の両方を目的に並べます。

第2条:「他のソフトに組み込まれたAI」も定義に入れる

生成AIはChatGPTのような単体のサービスだけでなく、PDF閲覧ソフト・表計算ソフト・メールソフトなどにも生成機能として組み込まれ始めています。定義を「ChatGPT等」と書くと、組み込み型のAIが規程の外になってしまいます。組み込み型AIの使い方の注意点はAcrobat AIアシスタントは士業で使えるか(精度と守秘義務の線引き)でも取り上げています。

「所員」には、繁忙期だけ来てもらうパート・アルバイト・派遣社員も明記します。

第3条:個人の端末・個人アカウントも対象にする

事務所のパソコンに制限をかけても、職員が個人のスマートフォンで無料のAIに文面を貼り付ければ、規程の目的は果たせません。第3条第2項で、個人の端末やアカウントを業務に使う場合も規程の対象と明記します。記帳代行や給与計算を外部に委託している事務所は、第3項のとおり委託契約でも同じ扱いを求めます。

第4条:承認は「サービス名」ではなく「プランと設定」で行う

同じサービスでも、個人向けの無料プランと法人向けプランとでは、入力内容が学習に使われるかどうかの扱いが違うことがあります。そのため別表1には「サービス名」だけでなく、プラン名と、学習に使わない設定をどこで確認したかまで書きます。承認したときの確認日を残しておけば、規約が変わったときに見直すべきかどうかも判断できます。

確認すべき項目(データの保管場所、第三者提供、ログ、認証など)を詳しく知りたい場合は会計事務所のAIツール選定チェックポイントを参照してください。規程本文には、第4条第2項の最低限の3項目だけを書き、細かい確認項目は別表やチェックシートに回すと、規程を改正せずに運用を更新できます。

第5条:「禁止」「条件付きで可」「可」の三区分にする

入力してよいかを二択にすると、職員は迷ったときに「禁止」に倒すか、自己判断で使うかのどちらかになります。三区分にして、真ん中の「仮名にすれば可」を明示すると、AIを使える場面がはっきりし、隠れて使う動機も減ります。

第6条:入力禁止は具体的な情報名で列挙する

マイナンバー、口座番号、パスワード、要配慮個人情報(病歴・犯罪の経歴など)は、仮名化しても業務上の利点がほとんどなく、漏れたときの影響が大きい情報です。条文では「機密情報」とまとめず、情報の名前で列挙します。第2項で「書類の画像やPDFを読み込ませるのも入力」と書いておくのは、源泉徴収票や通帳のコピーを撮影してAIに読ませる使い方が、文字の入力より気づかれにくいからです。

よくある失敗→直し方:「個人情報は入力禁止」と書くと、氏名を含まない売上の推移や、仮名の相談事例まで禁止に見えてしまいます。禁止する情報を具体名で挙げ、仮名化した顧客情報は第5条第二号の「条件付きで可」に振り分けます。

条文の解説②|顧客情報の扱いと出力の確認責任(第7条・第8条)

第7条:仮名化を原則にし、例外は事前承認にする

顧問先への説明文や契約書の下書きなど、多くの業務は「A社」「甲」と置き換えても十分に進められます。一方、登記申請書のように固有名詞そのものが成果物になる業務では、仮名化すると作業が成り立ちません。そうした場合に限り、顧客情報の入力を認めたサービスで、AI管理責任者の事前承認を経て入力する、という例外の道を第2項で用意します。

仮名化の具体的なやり方や、どこからが守秘義務違反のリスクになるかは顧問先データをAIに貼ってよいかの判断基準で、情報漏洩を防ぐ設定の手順はChatGPTの情報漏洩対策(士業事務所が顧問先情報を守る7手順)で解説しています。

第8条:「確認した人」が責任を持つと明記する

生成AIは、存在しない条文番号や古い制度の数字を、もっともらしい文章で書くことがあります。個人情報保護委員会の注意喚起も、生成AIの応答結果には不正確な内容が含まれることがあると指摘しています。第8条第2項で、法令・期限・金額・様式名は原典で確認すると定め、第3項で外部に出す文書の最終確認者を資格者と決めます。

弁護士事務所の場合、法務省が令和5年8月に示した考え方では、弁護士がサービスの結果も踏まえて契約書等を「自ら精査し、必要に応じて自ら修正を行う」利用の形が示されています。この点を事務所ルールにどう落とし込むかは弁護士の生成AIガイドラインと事務所内ルールへの落とし込み方で詳しく扱っています。

条文の解説③|記録・事故時の報告・教育・見直し(第9条〜第14条)

第9条:記録は「後から説明できる」最小限でよい

全てのプロンプトを保存する必要はありません。顧客情報を使った成果物について、どのサービスを、いつ、何の用途で使ったかが分かれば、顧客から問合せを受けたときに説明できます。既存の案件管理表に「AI利用」の列を1つ足すのが、続けやすい方法です。あわせて、退職者のアカウントを止める点検を年1回以上行います。

第10条:報告した人を守る一文を入れる

入力の誤りは、気づいてすぐに報告されれば、入力履歴の削除や顧客への説明など打てる手が残ります。報告すると叱られる雰囲気があると、職員は黙ってしまいます。第3項で「速やかに報告したことは処分の判断で考慮する」と書くのは、そのためです。

個人情報保護法では、要配慮個人情報が含まれる個人データの漏えい等や、本人の数が千人を超える漏えい等が発生し、又は発生したおそれがある場合などに、個人情報保護委員会への報告が義務づけられています。報告は事態を知った後「速やかに」行い、原則として知った日から30日以内に詳しい報告を行うことになっています(個人情報保護法第26条、同法施行規則第7条・第8条)。AIへの入力がこれに当たるかは事案ごとの判断になるため、規程では「要否を所長が判断する」と書き、判断の材料として個人情報保護委員会「漏えい等の対応とお役立ち資料」を事務所で共有しておきます。

第11条〜第14条:教育・違反時の措置・見直し

研修は採用時と年1回が目安です。研修の後に確認書を出してもらうと、規程を周知した記録になります。所内研修の組み立て方や教材は士業事務所の生成AI研修カリキュラムと教材テンプレにまとめています。

第12条で違反時の処分に触れる場合は、就業規則とのつながりに注意が要ります。労働基準法第89条は、常時10人以上の労働者を使用する使用者に就業規則の作成・届出を義務づけ、表彰及び制裁の定めをする場合はその種類及び程度を記載事項としています。処分の中身は利用規程に書き込まず、就業規則の懲戒規定に委ねる形にしておくと整理しやすくなります。就業規則や社内規程の文案をAIで点検する手順は就業規則・社内規程のドラフトとチェックをAIで行う手順を参照してください。

見直しは、法令や業界団体の指針の変更に加え、承認済みサービスの規約が変わったときも対象にします。

職種別に差し替える条文|守秘義務の根拠一覧

第1条の【守秘義務の根拠条文】には、自事務所の職種の条文を入れます。下の表は、e-Gov法令検索に掲載されている条文と、日本弁護士連合会が公表している弁護士職務基本規程で、文言を確認できたものです。

職種

資格者本人の義務

使用人・事務職員に関する定め

税理士

税理士法第38条(秘密を守る義務)

同法第54条(使用人等の秘密を守る義務)、第41条の2(使用人等に対する監督義務)

社会保険労務士

社会保険労務士法第21条(開業社労士・社労士法人の社員)

同法第27条の2(使用人等の秘密を守る義務)

司法書士

司法書士法第24条(秘密保持の義務)

法律上は資格者本人(司法書士であった者を含む)の義務として定められている

弁護士

弁護士法第23条(秘密保持の権利及び義務)、弁護士職務基本規程第23条(秘密の保持)

弁護士職務基本規程第19条(事務職員等の指導監督)、第18条(事件記録の保管等)

行政書士

行政書士法第12条(秘密を守る義務)

同法第19条の3(使用人等の秘密を守る義務)

公認会計士

公認会計士法第27条(秘密を守る義務)

(監査法人・事務所の規程で別途手当てする)

第1条の差し替え例

税理士事務所なら「税理士法第38条及び第54条に定める秘密を守る義務」と書きます。根拠が複数にまたがる弁護士事務所の例は次のとおりです。

(弁護士事務所の例)
第1条(目的)
この規程は、当事務所の業務において生成AIサービスを利用する際の基本的な事項を定め、弁護士法第23条及び弁護士職務基本規程第18条・第19条・第23条に定める秘密の保持等の義務並びに個人情報の保護に関する法律を遵守しながら、業務の質と効率を高めることを目的とする。

司法書士・弁護士事務所は職員向けの手当てを規程で補う

司法書士法第24条と弁護士法第23条は、資格者本人(資格者であった者を含む)の義務として書かれています。補助者や事務職員については、弁護士の場合は職務基本規程第19条で弁護士に指導監督が求められています。どちらの事務所でも、利用規程の第3条で所員全員を対象にし、第11条の確認書で職員本人にも約束してもらう形にしておくと、法律の条文が直接届かない部分を補えます。

規程に付ける別表・様式のひな形

変わりやすい中身は別表に回し、規程本文は短く保ちます。

別表1:承認済み生成AIサービス一覧

別表1 承認済み生成AIサービス一覧(【令和◯年◯月◯日】現在)

| サービス名 | プラン | 学習に使わない設定の確認先 | 顧客情報の入力 | 利用できる人 | 確認日 |
| 【サービス名】 | 【法人向けプラン名】 | 【規約・設定画面の名称】 | 仮名化した情報のみ可 | 全所員 | 【日付】 |
| 【サービス名】 | 【プラン名】 | 【確認先】 | 第7条第2項の承認で可 | 【資格者のみ】 | 【日付】 |

別表2:入力区分表

区分

情報の例

扱い

入力禁止

マイナンバー、口座番号、パスワード、病歴、実名と結びついた金額・紛争内容

承認済みサービスでも入力しない(画像・PDFの読み込みも不可)

条件付きで可

「A社・小売業・年商約1億円」「甲(60代)・子2名」など仮名にした事例

承認済みサービスで、必要最小限に絞って入力

入力可

法令・通達の文言、事務所の一般的な案内文、研修資料

承認済みサービスで自由に利用(出力の確認は第8条どおり)

事故報告で書き留める項目

生成AI 事故報告(第10条)
・報告者/報告日時
・起きたこと(入力した情報の種類、利用したサービス名とアカウント)
・起きた日時と、気づいた日時
・関係する顧客(顧問先・依頼者)の名称と、関係する本人の人数の見込み
・すでに行った措置(入力履歴の削除、パスワード変更など)
・所長の判断(顧客への説明、個人情報保護委員会への報告・本人通知の要否)
・再発防止策

個人情報保護委員会への報告が必要な場合に求められる項目(概要、個人データの項目、本人の数、原因、二次被害の有無、本人への対応、公表、再発防止策など)と並びをそろえておくと、報告が必要になったときに書き直しの手間が減ります。

規程を形だけにしない|30日で運用を始める手順

規程は配っただけでは定着しません。1か月で区切って進めると現場で回りやすくなります。

時期

やること

担当

1週目

今使われているAIを職員に聞き取る(個人アカウントも含めて、責めずに聞く)

AI管理責任者

2週目

承認するサービスを決め、別表1を作る。法人向けプランへの切替とアカウント発行

所長・AI管理責任者

3週目

テンプレートの【 】を埋めて規程を確定し、施行日を決める。就業規則との関係を確認

所長

4週目

30分の所内研修で、別表2を使った「入れてよい・ダメ」の練習をし、確認書を回収

AI管理責任者

最初の聞き取りで「隠れ利用」を表に出す

規程を作る前に、職員がすでにどのAIを、どの業務で使っているかを聞き取ります。ここで個人の無料アカウントでの利用が見つかっても、まずは責めずに承認済みサービスへの切替を案内します。

研修は「入力してよいか」の判定練習が効く

研修で条文を読み上げても、実際の場面で迷う点は解消しません。「顧問先から届いたメールを要約したい」「相続人の関係図を整理したい」など、事務所でよくある場面を5つほど用意し、別表2の三区分のどれに当たるかを職員に答えてもらうと、規程の使い方が身につきます。

よくある質問

Q. 職員が数名の小さな事務所でも規程は必要ですか?

必要です。人数が少ないほど、所長が全員の使い方を見ているつもりで、実際には確認できていないことが多いからです。小規模なら、第4条・第6条・第8条・第10条の4条と別表1・2だけの短い版から始めても構いません。

Q. 顧問先や依頼者に、AIを使うことを伝える必要はありますか?

伝える方法や範囲は、契約内容や業務によって異なります。少なくとも、問合せや利用制限の申出があったときに従えるよう、第7条第3項の手順を決めておくと安心です。契約書やエンゲージメントレターにAI利用の方針を書く例は会計事務所のAIセキュリティ対策(クライアント承諾とエンゲージメントレターの記載例)で紹介しています。

Q. 業務特化型のAIを使えば、規程はいらないのでは?

いいえ。入力した内容が学習に使われない設計のサービスを選ぶことは、第4条の承認で確認する事項の一つにすぎません。入力禁止情報の線引き、出力の確認責任、事故時の報告は、どのサービスを使っても事務所が決めておく必要があります。

士業AIは、税務・会計・法務の質問に国税庁やe-Gov法令検索などの公的な資料を根拠として示しながら答える、士業向けのAIです。根拠のリンクが付くので、第8条の「原典で確認する」作業を短くできます。事務所単位での導入や、規程づくりと合わせた使い方の相談は、お問い合わせからご連絡ください。

まとめ|利用規程は「使ってよい条件」を書くことから

士業事務所の生成AI利用規程は、AIを禁止するための文書ではなく、所員全員が同じ基準で安全に使うための文書です。この記事のテンプレートを土台に、まず承認するサービス(第4条・別表1)と入力区分(第5条〜第7条・別表2)を決め、出力の確認責任(第8条)と事故時の報告(第10条)を加えれば、最低限の形は整います。

第1条には自事務所の職種の守秘義務の根拠条文を入れ、施行後は年1回と規約の変更時に見直してください。規程と研修と承認済みサービスがそろって、はじめてAIは事務所の安心できる道具になります。

参考文献

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