計算事項等記載書面の記載例|書面作成に係る税理士欄の違い
結論:AIに書かせるのは「棚卸しと構造化」まで。内容を確定して署名するのは税理士本人
税理士法第33条の2の添付書面(書面添付制度)は、税理士に与えられた権利であると同時に、記載内容がそのまま税理士自身の責任範囲になる書面です。虚偽の記載は税理士法第46条の懲戒事由であり、AIが生成した文章をそのまま提出する運用は成り立ちません。
一方で、書面添付が広がらない最大の理由は制度への反対ではなく「書く時間がない」「毎年同じ文章になる」という作業負荷です。ここはAIが強く、やった作業の棚卸し・記載漏れの洗い出し・箇条書きから所定様式の文体への構造化までを任せれば、税理士は「事実かどうかの判断」と「確定・署名」に集中できます。
- 書面添付制度(税理士法33条の2・35条)の全体像と、令和4年度改正後の様式2種類
- 添付割合の最新実績(令和6事務年度:法人税10.2%・相続税24.6%・所得税1.5%)と、伸びない理由
- 国税庁が「良くない添付書面」と判定する具体的な3つのケース
- 記載の型「事項×根拠書類×確認方法」の三点セットと、税目別の骨子
- 工程別に整理した「AIに任せてよい範囲/絶対に任せてはいけない範囲」
- そのまま使える実務プロンプト3本と、AI利用で事故る5パターン
- 令和6年4月から変わった2つの取扱い(単独提出・参考資料の添付)
先に結論|3つの欄は「誰を書くのか」で一目で分かる
検索してこのページに来た方の多くは、様式を前にして「上の欄と下の欄に何を書き分けるのか」で止まっています。先に答えだけ置きます。計算事項等記載書面(33の2①)の税理士欄は、「添付する主体」を書く欄と「作成して署名する人」を書く欄の2段構成で、所属税理士が作った場合は下段に付記が増える、という3パターンで整理できます。
欄 | 誰を書くのか | 氏名/名称 | 根拠 |
|---|---|---|---|
「税理士又は税理士法人」欄(上段) | その申告について納税者から委嘱を受け、書面を申告書に添付する主体。個人事務所ならその税理士、税理士法人が受任しているなら法人そのもの | 氏名又は名称(法人名を書ける) | 法33条の2第1項「税理士又は税理士法人は…添付することができる」 |
「書面作成に係る税理士」欄(下段) | その書面を実際に作成し、署名する税理士本人(自然人)。法人が受任していても、ここは担当した個人の名前 | 氏名のみ(法人名は書けない) | 法33条の2第3項「当該書面の作成に係る税理士は…付記して署名しなければならない」 |
所属税理士が作成した場合 | 上段は使用者である開業税理士の氏名/税理士法人の名称(委嘱契約の相手方)。下段は作成した所属税理士本人の氏名 | 下段の署名には「所属税理士である旨」と勤務先の事務所名・法人名を付記 | 法2条3項・法33条3項、規1条の2・16条、基通33-1、国税庁Q&A問3-2/問3-3 |
言い換えると、上段と下段がずれるのは「受任者と作業者が別人になるとき」だけです。1人事務所で自分が受けて自分が書いたなら、上段も下段も同じ氏名で構いません(東京国税局の記載例でも両欄に同一の氏名が入っています)。税理士法人・複数税理士の事務所・所属税理士がいる事務所で初めて、上下が食い違います。
- 例1:1人事務所の田中税理士が自分で作成 → 上段「田中一郎」/下段「田中一郎」。同じで正しい。
- 例2:税理士法人〇〇が受任し、社員税理士の佐藤が作成 → 上段「税理士法人〇〇」(名称)/下段「佐藤花子」(氏名)。上段に佐藤個人の名前を書くと、添付の主体と実態がずれます。
- 例3:開業税理士の田中が受任し、所属税理士の鈴木が作成 → 上段「田中一郎」/下段「鈴木次郎(所属税理士・田中一郎税理士事務所)」。所属税理士は原則として税務代理権限証書を提出できないため、上段に来ることはありません。
以下では、この結論の根拠になっている条文と国税庁の記載要領、周辺の欄(事務所の所在地・所属税理士会等・税務代理権限証書の提出)、そして書面の中身をAIでどこまで下ごしらえできるかを順に整理します。作成の負担そのものを軽くしたい方は、税理士向けの士業AIもあわせてご覧ください。
書面添付制度とは|法33条の2と法35条はセットで理解する
日本税理士会連合会(日税連)の説明によれば、書面添付制度とは税理士法第33条の2に規定する書面添付制度と、第35条に規定する意見聴取制度を総称したものです。現行制度は平成13年の税理士法改正で事前通知前の意見聴取制度が創設され、平成14年4月1日から実施されています(日本税理士会連合会「書面添付制度」)。
様式は関与形態で2種類に分かれる
様式 | 根拠 | 使う場面 | 欄の構成 |
|---|---|---|---|
申告書の作成に関する計算事項等記載書面 | 法33条の2第1項 | 税理士自らが申告書を作成した場合 | 1 提示を受けた帳簿書類に関する事項 〜 5 総合所見 |
申告書に関する審査事項等記載書面 | 法33条の2第2項 | 他人が作成した申告書を相談を受けて審査した場合 | 1 相談を受けた事項 〜 5 総合所見 |
国税庁の税理士制度Q&Aは、この1から5までの欄に全く記載がない書面は「計算事項等記載書面等」とはいえないと明言しています。さらに、法33条の2第1項の場合は「3 計算し、整理した主な事項」欄に、第2項の場合は「3 審査した主な事項」欄に、行った業務の内容を具体的かつ正確に記載すべきとしています(国税庁「4 書面添付・意見聴取制度」)。「白紙に近い添付書面」は、制度上そもそも書面として成立しません。
なお、令和4年度税制改正で書面の名称変更と記載事項の一部改正が行われ、資産税に対応した様式が新設されています。手元の様式が古いままになっていないか、まず確認してください。
記入欄の書き方|「税理士又は税理士法人」欄と「書面作成に係る税理士」欄は何が違うのか
計算事項等記載書面(33の2①)の1枚目には、上下に並んだ2つの税理士欄があります。上が「税理士又は税理士法人」欄(氏名又は名称/事務所の所在地/電話)、下が「書面作成に係る税理士」欄(氏名/事務所の所在地/電話)です。ここで手が止まる方は少なくありませんが、結論はシンプルで、上段は「この書面を申告書に添付する主体」、下段は「その書面を実際に作成し、署名する税理士本人」です。
根拠は税理士法の条文構造にあります。第33条の2第1項は「税理士又は税理士法人は、…(中略)…記載した書面を当該申告書に添付することができる」と、添付する主体として税理士法人を並べています。一方、同条第3項は「税理士又は税理士法人が前二項の書面を作成したときは、当該書面の作成に係る税理士は、当該書面に税理士である旨その他財務省令で定める事項を付記して署名しなければならない」と、署名する者を自然人である税理士に限定しています(e-Gov法令検索「税理士法」)。様式で上段だけが「氏名又は名称」、下段が「氏名」のみになっているのは、この条文構造をそのまま写したものです。書面の本文が「私(当法人)が申告書の作成に関し、計算し、整理し、又は相談に応じた事項は…」と個人・法人を併記した書き出しになっているのも同じ理由です。
なお、この様式自体は税理士法施行規則第17条により別紙第九号様式(第1項の書面)・第十号様式(第2項の書面)と定められ、実際の用紙と記載要領は国税庁が公表しています(国税庁「H2-3 計算事項等を記載した書面の添付」/国税庁「税理士法関係様式の制定について(法令解釈通達)」令和6年3月13日改正)。以下は、令和6年4月1日以降に使う様式と、それに付いている記載要領(PDF)で確認できる範囲の整理です。
ケース別|誰の氏名をどちらの欄に書くか
関与形態 | 「税理士又は税理士法人」欄 | 「書面作成に係る税理士」欄 | 根拠・補足 |
|---|---|---|---|
個人事務所の税理士が自ら申告書と書面を作成 | その税理士の氏名・事務所の所在地 | 同じ税理士の氏名・事務所の所在地(上段と同一) | 東京国税局の記載例でも、両欄に同一の氏名(「税理士 国税太郎」)が記入されている |
税理士法人が受任し、社員税理士が書面を作成 | 税理士法人の名称と事務所の所在地 | 実際に書面を作成した社員税理士の氏名 | 添付の主体は法33条の2第1項の「税理士法人」、署名義務者は同条第3項の「当該書面の作成に係る税理士」(自然人) |
税理士法人の従たる事務所に所属する税理士が作成 | 税理士法人の名称 | 作成した税理士の氏名。事務所の所在地はその従たる事務所の所在地 | 記載要領2に明記(後掲) |
所属税理士(勤務税理士)が作成 | 委嘱契約をしている使用者の開業税理士の氏名、または税理士法人の名称 | 作成した所属税理士本人の氏名。署名に「所属税理士である旨」と勤務先事務所名・法人名を付記 | 法33条3項・規16条・基通33-1、国税庁Q&A問3-2(次のH3で詳述) |
所属税理士(勤務税理士)が書面を作成したときの書き方
「所属税理士は自分の名前を書いてよいのか」は、単独で検索される頻度が高い論点です。国税庁の税理士制度Q&Aに、答えの材料が3つ揃っています。
- 所属税理士は、自らの名において税務書類を作成し、作成税理士として自ら署名できる。Q&A問3-2は「所属税理士が税理士証票を提示して単独で税務調査の立会いを行ったり、税務書類を作成し、当該書類を作成した者として自ら署名すること」と明示しています(国税庁「3 税理士の業務」)。
- 署名するときは「所属税理士である旨」と勤務先の名称を付記する。同じ問3-2が、法33条3項・規16条・基通33-1に基づき「所属する税理士法人又は税理士事務所の名称を付記するとともに、所属税理士である旨を表示する必要があります」としています。
- 税務代理権限証書は、原則として所属税理士は提出できない。Q&A問3-3は「納税者等と委嘱契約をした開業税理士又は税理士法人が提出するもの」としています(規1条の2第2項の直接受任の承諾を得た場合が例外)。
この3点を計算事項等記載書面に当てはめると、記入はこうなります。
「税理士又は税理士法人」欄=使用者である開業税理士の氏名/税理士法人の名称(委嘱を受け、税務代理権限証書を出している側)
「書面作成に係る税理士」欄=作成した所属税理士本人の氏名。署名に「所属税理士」の表示と勤務先事務所名・法人名を付記
「事務所の所在地」欄=所属税理士が税理士名簿に登録を受けている事務所(従たる事務所勤務ならその従たる事務所)の所在地
記入例にすると次のようになります。上段と下段が別人になるのが、このケースの見分け方です。
税理士又は税理士法人 氏名又は名称:税理士法人〇〇会計
事務所の所在地:東京都〇〇区〇〇1-2-3
電話:03-0000-0000
書面作成に係る税理士 氏名:鈴木 次郎(所属税理士・税理士法人〇〇会計 〇〇支店)
事務所の所在地:東京都〇〇市〇〇4-5-6 ← 勤務する従たる事務所
電話:042-000-0000
所属税理士会等 〇〇税理士会 〇〇支部 登録番号 第〇〇〇〇〇号 ← 所属税理士本人の登録番号
税務代理権限証書の提出 有(法人税・消費税)・無 ← 使用者側が提出済みなら「有」
なお、規1条の2第2項の直接受任(使用者の書面による承諾を得て、所属税理士が自ら委嘱を受ける形)の場合は、税務書類への付記に「所属税理士である旨」「勤務先の事務所名・法人名」に加えて「直接受任である旨」も必要です(Q&A問3-3)。このときは委嘱契約の相手方が所属税理士自身になるため、上段の書き方も変わります。事務所内でこの形を取っているなら、提出前に所属税理士会へ一度確認しておくのが安全です。
意見聴取の場面でも所属税理士は当事者になれます。Q&A問4-9は、所属税理士は使用者の開業税理士等の指示の下で意見を述べることができるとしています。ただし、調査通知前の意見聴取の連絡先は税務代理権限証書を提出している税理士(=上段の側)です。書いた人と連絡を受ける人が分かれる前提で、事務所内の引き継ぎ手順を決めておいてください。
周辺3欄(事務所の所在地・所属税理士会等・税務代理権限証書の提出)
「書面作成に係る税理士」の事務所の所在地については、記載要領がピンポイントで定めています。
「書面作成に係る税理士」の「事務所の所在地」欄には、この書面を作成した税理士が税理士名簿に登録を受けている事務所の所在地(税理士法人の従たる事務所に所属している場合は当該従たる事務所の所在地)を記載してください。(国税庁「申告書の作成に関する計算事項等記載書面の記載要領」2)
見落としやすいのが「税務代理権限証書の提出 有( )・無」欄です。これは任意の参考情報ではなく、法33条の2第3項の署名に付記すべき法定事項です。税理士法施行規則第16条第2項が、同項の「財務省令で定める事項」を「書面を作成した税理士又は税理士法人の税務代理権限証書の提出の有無」と定めています(e-Gov法令検索「税理士法施行規則」)。「有」の場合は、法2条1項1号の税務代理の委任を受けた税目を( )内に記載します(記載要領3)。
一方、「所属税理士会等 税理士会 支部 登録番号 第 号」欄については、記載要領に説明がありません。東京国税局の記載例では個人の税理士登録番号が記入されていますが、税理士法人が添付主体となる場合の書き方までは公表資料で確認できませんでした。
よくある誤記入と、そのまま出すとどうなるか
- 「書面作成に係る税理士」欄を空欄のまま提出する:法33条の2第3項が求める署名・付記を欠くことになり、誰が作成責任を負う税理士なのかが書面上に表れません。
- 税理士法人なのに、上段へ担当税理士個人の氏名だけを書く:上段の欄名は「氏名又は名称」で、添付の主体を示す欄です。法人が受任している事案で個人名しか出ていないと、書面の主体と実態がずれます。
- 従たる事務所所属なのに、事務所の所在地に本店(主たる事務所)だけを書く:記載要領2の指示と食い違います。
- 税務代理権限証書の提出欄の○囲み漏れ・税目の未記入:法定の付記事項(規16②)の欠落にあたります。
- 「書面を書いた税理士に意見聴取の連絡が来る」と思い込む:国税庁のQ&A問4-8は、税務代理権限証書の税理士と計算事項等記載書面の税理士が異なる場合、調査通知前の意見聴取は「税務代理権限証書を提出している税理士」に対して行われるとしています(国税庁「4 書面添付・意見聴取制度」)。事務所内で担当を分けている場合は、連絡の受け手と書面の書き手が一致しない前提で段取りを組んでおく必要があります。
ここで挙げた「確認できなかったこと」は、そのままAI活用の教訓でもあります。様式の欄の埋め方のように、一次資料に当たらなければ確定できない事項こそ、AIの出力をそのまま採用してはいけない領域です。次章以降で、AIに任せてよい範囲と、税理士本人が確定すべき範囲を工程単位で切り分けます。
数字で見る現在地|税理士が関与していても、添付されるのは10件に1件
財務省が公表している「令和6事務年度 国税庁実績評価書」に、税理士法第33条の2に規定する書面の添付割合が参考指標として掲載されています。この割合は税理士が関与した申告書の件数のうち、書面添付があったものの割合です。
年度 | 所得税 | 相続税 | 法人税 |
|---|---|---|---|
令和4年度 | 1.5% | 23.4% | 10.0% |
令和5年度 | 1.5% | 24.3% | 10.0% |
令和6年度 | 1.5% | 24.6% | 10.2% |
同じ資料の税理士関与割合は、令和6年度で法人税89.8%・相続税86.5%・所得税20.4%です。法人税は9割近くに税理士が関与しているのに、添付書面が付くのは10.2%。5年間ほぼ横ばいで、制度の認知不足というより「作成コストが割に合わないと判断されている」状態が続いていると読めます。
逆に言えば、作成コストが下がれば動く余地が最も大きいのが法人税分野です。日常の巡回監査をAIで効率化する取り組みで残した確認記録は、そのまま添付書面の「3 計算し、整理した主な事項」欄の素材になります。書面添付を単発の作業として捉えると重いですが、月次の記録を年1回まとめ直す工程と考えれば負荷は大きく変わります。
国税庁が「良くない添付書面」と判定する3つのケース
ここが本記事で最も重要なパートです。意見聴取の結果、調査の必要がないと認められた場合、税理士には「現時点では調査に移行しない」旨の連絡が原則として「意見聴取結果についてのお知らせ」という文書で行われます。ところが国税庁Q&Aは、次に掲げる場合は口頭(電話)で行うとしています。
1 意見聴取を行ったことに基因して自主的に修正申告書が提出された場合又はじ後の申告や帳簿書類の備付け、記録及び保存に関して指導した事項がある場合
2 『申告書の作成に関する計算事項等記載書面』の第2面「3 計算し、整理した主な事項」欄及び第3面「5 総合所見」欄又は『申告書に関する審査事項等記載書面』の第2面「3 審査した主な事項」欄及び第3面「4 審査結果」欄に記載がない場合
3 2に掲げる各欄の記載はあるが、明らかに記載に不備がある又は内容が具体性に欠けるなど、2に準ずると認められる場合
つまり「記載がない」「明らかに不備がある」「内容が具体性に欠ける」書面は、文書が送られてこないという形で事実上の品質判定を受けるということです。ここが実務者にとっての最重要ラインで、AIを使う目的も「文章を早く作ること」ではなく「この3号に引っかからない具体性を担保すること」に置くべきです。
そして具体性の欠如は、AIに書かせたときに最も起きやすい失敗です。「適正に処理されていることを確認した」といった、どの顧問先にも当てはまる無難な文章はAIが得意とする出力であり、同時に3号に最も近い記載でもあります。
記載の型|「事項×根拠書類×確認方法」の三点セット
東京国税局が公表している添付書面の記載例(資産課税関係・令和6年3月)を読むと、「3 計算し、整理した主な事項」欄の書き方には一貫した構造があります。左に区分、中央にどう確認して何をどう判断したか、右の備考欄にその根拠となった書類名を置く形です。
実際の記載例では、土地について「土地の利用状況等について現地確認を行い、公図及び測量図を基に土地の形状や建物の利用状況等を確認し、評価を行った」とあり、備考欄には「公図、測量図、登記事項証明書、固定資産評価証明書」が並びます。国税庁も、記載すべきは具体的にどのような書類や帳簿に基づきどのように確認したのか、前年(度)と比較して顕著な増減事項について具体的にどのような理由から増減したのか、会計処理方法の変更について具体的にどのような理由からどのように変更したのかといった観点だとしています。
骨子(そのまま提出するものではなく、自事務所の事実に置き換える前提)
以下は文例ではなく穴埋めの枠です。【 】部分に自分が実際に行った作業と実在する書類名を入れられないなら、その項目は書いてはいけません。
【区分:売上高】
事項:期中の売上について【売上計上基準】に基づき計上されていることを、
【確認した資料名】と【対比した帳簿名】を突合して確認した。
前期比【増減率】の増加は、【具体的な理由:新規取引先○○社との取引開始等】
によるものであることを【確認方法】により確かめた。
備考:【根拠書類名を列挙】
【区分:役員給与】
事項:定期同額給与について【株主総会議事録の日付】の決議内容と
毎月の支給額の一致を確認した。改定は【時期・理由】により行われている。
備考:株主総会議事録、取締役会議事録、賃金台帳、総勘定元帳
【区分:相談に応じた事項】
事項:【顧問先名】から【相談日】に【相談内容】について相談を受け、
【適用条文・通達】を確認のうえ【回答内容】を指導した。
備考:【回答の根拠資料】
相続税であれば、区分は土地・建物・有価証券・現預金・債務葬式費用などに分け、名義財産の帰属をどう検討したか、小規模宅地等の特例をどの要件で適用したか、といった判断が分かれる論点ほど厚く書くのが実務の定石です。適用条文や通達の当たり直しに時間がかかる場合は、税法改正の調査をAIで補助する手順を先に整えておくと記載の裏取りが速くなります。
やってはいけない記載
- 結論だけ書く:「適正に処理されていることを確認した」→ 何をどう確認したかがなく、具体性に欠ける典型
- 前年のコピペ:金額も理由も変わっているのに文章が同一。増減理由が書かれていない書面になりやすい
- やっていない確認を書く:現地確認していないのに「現地確認を行い」と書けば、それは事実と異なる記載です
- 顧問先の説明をそのまま転記:税理士が確かめた事実として書くなら、確かめた方法まで書く
チェックシートで記載漏れを潰す(国税庁・東京国税局の公表様式)
「33条の2 チェックシート」で探している方向けに、公表されている一次資料をまとめておきます。東京国税局は、書面添付に係るチェックシートと記載例を税目別に公開しています(東京国税局「税理士又は税理士法人の皆様へ」)。
- 税理士法第33条の2の書面添付に係るチェックシート〔相続税〕(令和7年10月以降提出用・PDF):土地・家屋・有価証券・現預金・債務葬式費用など、区分ごとに「何を確認したか」を潰していける構成。相続の書面はまずこれに沿って埋めるのが早い。
- 税理士法第33条の2の書面添付に係るチェックシート〔不動産所得用〕(PDF):収入計上時期・必要経費・減価償却など、所得税で論点になりやすい項目が並ぶ。
- 東京国税局「税理士法第33条の2の書面添付に係るチェックシート〔相続税〕(令和7年10月以降提出用)」
- 東京国税局「税理士法第33条の2の書面添付に係るチェックシート〔不動産所得用〕」
- 添付書面の記載例 資産税関係(相続税・贈与税・譲渡所得)令和6年3月(PDF):実際に記入済みの書面がそのまま載っている、最も具体度の高い一次資料。
- 国税庁「申告書の作成に関する計算事項等記載書面」様式・記載要領(PDF):様式そのものと、上で引用した記載要領2・3の原文。
使い方は「チェックシートで確認項目を洗い出す → 実際に確認した事実だけを記載例の型に流し込む」の順です。逆順にすると、確認していない項目まで文章に入ってしまいます。相続の添付資料そのものの抜け漏れは相続税申告の添付書類チェックリスト、相続案件全体の進め方は相続税申告のAI活用ガイドでも整理しています。法人であれば、期中の巡回監査の記録がそのまま「何をどう確認したか」の材料になります。
AIに任せてよい範囲・任せてはいけない範囲
工程を分解すると、AIを使ってよい線引きははっきりします。
工程 | AI | 理由・条件 |
|---|---|---|
1年分の監査調書・メール・議事録から「確認した事項」を洗い出す | 任せてよい | 事実の抽出。出力は必ず原資料と突合する |
前期比の増減が大きい科目をリストアップする | 任せてよい | 数値の比較。理由の断定はさせない |
記載欄ごとに「書けていない観点」を指摘させる | 任せてよい | 抜け漏れチェック。最も費用対効果が高い使い方 |
箇条書きのメモを様式の文体に整形する | 任せてよい | 入力した事実の範囲内で整形させる |
増減の「理由」を推測させる | 不可 | もっともらしい理由を創作する。事実は顧問先に確認する |
確認していない項目の記載文を生成させる | 不可 | 事実と異なる記載につながる |
適用条文・通達番号をAIの記憶から書かせる | 不可 | 条番号の誤りが起きる。必ず一次資料で確認する |
内容の最終確定と署名 | 不可 | 税理士本人の判断と責任。ここは代替できない |
この表の下半分がなぜ致命的かというと、添付書面への虚偽記載は税理士法第46条(一般の懲戒)の対象だからです。財務省告示第104号は、法33条の2第1項又は第2項の規定により添付する書面に虚偽の記載をしたときの量定を、虚偽の記載をした書面の件数、記載された虚偽の程度に応じて「戒告又は1年以内の税理士業務の停止」と定めています(国税庁「税理士等・税理士法人に対する懲戒処分等の考え方」)。
実績評価書によれば、税理士等に対する懲戒処分等の件数は令和2年度22件から令和6年度64件へと増加しています(令和6年度の内訳は禁止(解散)10件・停止52件・戒告2件)。書面添付だけが原因ではありませんが、「AIが書いたので」は一切の抗弁にならないという前提で運用を設計してください。
なお、顧問先の帳簿や議事録をAIに読ませること自体の可否は、書面添付とは別の論点です。税理士法第38条の守秘義務との関係は顧問先データをAIに入力してよいかの整理で扱っているので、事務所のルールを先に固めてから運用に乗せてください。
実務プロンプト3本
1. 事実の棚卸し(材料を集める)
あなたは税理士事務所の担当者を補助するアシスタントです。
以下は【顧問先名】の【対象事業年度】に行った巡回監査記録・打合せメモです。
【ここに監査調書・議事録・メモを貼り付け】
この資料の中から、次の観点に該当する「実際に行った確認行為」だけを抽出し、
表形式で整理してください。資料に書かれていないことは推測せず、
「資料に記載なし」と明記してください。
観点:
(1) どのような書類・帳簿に基づき、どのように確認したか
(2) 前期と比較して顕著な増減があった科目と、資料上確認できる理由
(3) 会計処理の方法を変更した事項と、その理由
(4) 顧問先から相談を受け、指導・回答した事項
列:区分 / 確認した事項 / 確認方法 / 根拠書類名 / 出典(資料名と該当箇所)
2. 記載漏れの洗い出し(欄ごとの穴を突く)
以下は税理士法33条の2第1項の添付書面「3 計算し、整理した主な事項」欄の
下書きです。これを読み、次の3点だけを指摘してください。文章の書き直しは不要です。
【下書きを貼り付け】
(1) 「どの書類に基づき」「どのように確認したか」が書かれていない記載
(2) 結論だけで確認方法が欠けている抽象的な記載(例:「適正であることを確認した」)
(3) 記載されていないが、【業種】の申告で論点になりやすく、
書いておくべきだった可能性がある項目
各指摘は「該当箇所の引用 → 何が不足しているか → 何を確認すれば書けるか」の
順で出力してください。事実の補完はしないでください。
3. 文体の構造化(事実を整形するだけ)
以下の箇条書きは、私が実際に行った確認行為の記録です。
これを添付書面の記載に適した文体(体言止めを避け、
「〜を基に〜を確認し、〜と判断した」の形)に整形してください。
制約:
・箇条書きにない事実を一切追加しないこと
・数値・書類名・日付を変更しないこと
・断定できない箇所は【要確認】と付記して残すこと
【箇条書きを貼り付け】
プロンプトの型をもっと広く揃えたい場合は税理士向けプロンプト集も併せて参照してください。なお、申告書そのものの誤りチェックは書面添付とは別工程なので、申告書チェックのAI活用で分けて設計するのが実務的です。
AIを使うときに事故る5パターン
- もっともらしい増減理由の創作:「売上増は新規顧客獲得による」等、資料にない理由をAIが補う。プロンプトで「推測禁止」を明示してください。
- 条文番号・通達番号の誤り:添付書面に条文を書くなら、必ず一次資料で当たり直してください。
- 前年文章の再生産:前年の書面を渡して「今年版に直して」と指示すると、増減理由まで前年のまま残ります。
- 全顧問先が同じ文章になる:テンプレート化しすぎると同一文言の書面が並び、具体性に欠ける記載と判定される温床になります。
- チェックしないまま署名:出力の一行ごとに「これは自分が確かめた事実か」を問い直す工程を残してください。
令和6年4月から変わった2つの取扱いと、提出後の訂正
実務上見落とされがちな、比較的新しい取扱い変更です。いずれも国税庁のQ&Aに明記されています。
- 添付し忘れた場合の単独提出:計算事項等記載書面等は、その添付する申告書の法定申告期限内に限り、単独で提出することができます。令和6年3月以前は「単独提出はできない」と取り扱われていましたが、令和6年4月以降、取扱いが変更されました。
- 参考資料の添付:計算や整理等をした事項に関する書類を参考資料として添付して提出することができます。これも令和6年3月以前は不可とされていたものが、令和6年4月以降に変更されています。
- 提出後に誤りに気付いた場合:記載した事項の誤りに気付いた場合には、その内容に応じて、先に提出した書面を取り下げる、または内容を修正することができるとされています。
また、東京国税局は「税理士法第33条の2の書面添付に係るチェックシート」を公表しており、活用した場合は添付書面の「5 総合所見」欄に、申告書の作成に当たって別添のチェックシートを活用し各項目の確認を行い検討した旨を記載し、添付書面とともに提出するよう案内しています。相続税用のチェックシートは令和7年10月以降提出用に更新されているため、古い版を使い続けていないか確認してください。
意見聴取まで見据えるなら、書いた内容は説明できる状態にしておく
添付書面を出すことのゴールは、書面を作ることではなく調査通知前の意見聴取の場で自分の書いたことを説明できることです。国税庁によれば、意見聴取を実施する場合、税務署等が納税者に対して調査通知を行う日の1〜2週間前までに、意見聴取の日時・方法を取り決めるための連絡が行われます。
加算税との関係も押さえる価値があります。意見聴取における質疑等のみに基因して修正申告書が提出されたとしても、それは「調査があったことにより更正があるべきことを予知してされたもの」には当たらないため、国税通則法第65条第6項に規定する調査通知前に提出された場合には加算税が賦課されません。ただし平成28年の国税通則法改正により、加算税が賦課されないのは意見聴取から調査通知までの間に修正申告書を提出したときに限られる点に注意が必要です。
想定問答の作り方は税務調査シミュレーションのAI活用を、申告前のセルフチェックの観点は申告前セルフチェックの実務を参照してください。書面添付は「調査対応の入口を前倒しする制度」であり、書いた瞬間から説明責任が始まります。
士業AIの使いどころ
士業AIは、税務AI・会計AI・法務AI・業務効率化AIを日本語の業務文書に特化して提供しているサービスです。添付書面の作成という文脈では、次の3点が実務適合の観点になります。
- 長い日本語の業務文書を丸ごと扱えること:1年分の巡回監査記録や議事録を投入し、確認行為だけを抽出させる用途に耐えること
- 出力に事実の出典を残せること:「どの資料のどこから拾ったか」が追えないと、税理士による確定作業が二度手間になります
- 推測させない指示が効くこと:空欄を埋めようとして創作するモデルは、この用途では逆に危険です
判断軸を整理したい場合は税理士向けAIツールの比較も参考になります。良いパートナーの条件は「速く書けること」ではなく、税理士が最終確認しやすい形で出してくれることです。士業AIはクレジットカード不要・メール登録のみで無料から試せます。
まとめ
書面添付制度は、税理士に与えられた権利であり、添付するかどうか・どう記載するかは税理士自身が判断すると国税庁も明記しています。だからこそ、記載の質はそのまま事務所の業務品質として外部に見えます。
AIは、その品質を上げるための道具としては非常に相性が良い一方で、内容の確定を委ねた瞬間に懲戒リスクを持ち込む道具にもなります。棚卸し・洗い出し・構造化まではAI、判断と確定と署名は税理士。この線を運用ルールとして事務所に明文化したうえで、まずは法人1件、相続1件から試してみてください。
参考文献
- 国税庁「税理士制度のQ&A 4 書面添付・意見聴取制度」
- 国税庁「税理士制度のQ&A 3 税理士の業務(問3-2 所属税理士の署名・付記/問3-3 税務代理権限証書)」
- 国税庁「税理士制度のQ&A 6 税理士法違反行為」
- 国税庁「1 税理士等・税理士法人に対する懲戒処分等の考え方(財務省告示第104号)」
- 国税庁「申告書の作成に関する計算事項等記載書面」様式・記載要領(PDF)
- 国税庁「H2-3 計算事項等を記載した書面の添付」
- 国税庁「税理士法関係様式の制定について(法令解釈通達)」
- e-Gov法令検索「税理士法」
- e-Gov法令検索「税理士法施行規則」
- 東京国税局「税理士又は税理士法人の皆様へ(書面添付に係るチェックシート)」
- 東京国税局資産課税課「書面添付制度に係る添付書面の記載例 資産課税関係(相続税・贈与税・譲渡所得)」令和6年3月
- 日本税理士会連合会「書面添付制度」
- 日本税理士会連合会「書面添付制度の手引(実践編)」
- 財務省「令和6事務年度 国税庁実績評価書」

