相続税申告書の書き方|第1表から書かない記入順序と記入例【令和8年分】
この記事で分かること
相続税申告書は、第1表から順に書く書類ではありません。国税庁「相続税の申告のしかた(令和8年分用)」32ページは、第9表から書き始めて第1表を9番目に書く、(1)〜(17)の記入順序を図で示しています。転記の向きが一方向に決まっているため、この順序を外すと後から全表を書き直すことになります。
- 国税庁が示す(1)〜(17)の記入順序と、その順序になる理由
- 令和8年分用の様式で変わったこと(控用の廃止・月区分の様式・公式記載例の正誤表)
- 第11表と付表1〜4の役割分担、代償財産・コード欄など迷いやすい欄の書き方
- あん分割合の端数調整という、第1表で最もつまずく論点
- AIに任せてよい検算の範囲と、税理士が必ず自分で確定すべき範囲
相続税がかかるかどうかの入口(基礎控除と申告要否)は相続税はいくらからかかるかの判断手順、申告書に添える書類は相続税申告チェックシートと必要書類のチェックリストで別に整理しています。この記事は申告書そのものの記入手順に絞ります。
相続税申告書は第1表から書かない|国税庁が示す(1)〜(17)の記入順序
相続税の申告書は第1表から第15表まであり、付表を含めると60を超える帳票が用意されています。しかし一般の相続(相続時精算課税適用者も納税猶予の適用者もいない場合)で使う表は限られており、書く順番も公式に決まっています。
順序の全体像|第9表から始めて第8の8表で終える
国税庁は記入順序を次の3段階で説明しています。①課税財産と債務等について第9表から第15表を作成し、②課税価格の合計額と相続税の総額を計算するため第1表・第2表を作成し、③税額控除を計算するため第4表から第8表を作成して第1表と第8の8表に転記する、という流れです。同32ページの図に付された(1)〜(17)の番号を表にすると次のようになります。
順序 | 表 | 内容 |
|---|---|---|
(1) | 第9表 | 生命保険金などの明細書 |
(2) | 第10表 | 退職手当金などの明細書 |
(3) | 第11・11の2表の付表1〜4 | 小規模宅地等の特例・特定計画山林の特例など |
(4) | 第11表の付表1〜4 | 課税財産の明細 |
(5) | 第13表 | 債務及び葬式費用の明細書 |
(6) | 第14表 | 相続開始前3年以内の贈与財産等 |
(7) | 第15表 | 相続財産の種類別価額表 |
(8) | 第11表 | 相続税がかかる財産の合計表 |
(9) | 第1表 | 課税価格・相続税額 |
(10) | 第2表 | 相続税の総額の計算書 |
(11) | 第4表 | 相続税額の加算金額(2割加算)の計算書 |
(12) | 第4表の2 | 暦年課税分の贈与税額控除額の計算書 |
(13) | 第5表 | 配偶者の税額軽減額の計算書 |
(14) | 第6表 | 未成年者控除額・障害者控除額の計算書 |
(15) | 第7表 | 相次相続控除額の計算書 |
(16) | 第8表 | 外国税額控除額・農地等納税猶予税額の計算書 |
(17) | 第8の8表 | 税額控除額及び納税猶予税額の内訳書 |
この表で目を引くのが、第11表が(4)ではなく(8)である点と、第15表が第11表より先の(7)である点です。番号の小さい表ほど後ろに来る構造になっており、「表番号順に埋める」という直感がそのまま裏切られます。
なぜ第1表が9番目なのか|転記の向きが一方向だから
理由は単純で、各表のあいだの転記が明細 → 集計 → 税額の一方向にしか流れないからです。第1表の課税価格欄は、第11表(取得財産の価額)・第13表(債務及び葬式費用)・第14表(純資産価額に加算される贈与財産)の数字を受け取って初めて埋まります。その第11表は付表1〜4の合計を受け取りますし、付表1〜4に書く土地の価額は小規模宅地等の特例の減額後の数字なので、第11・11の2表の付表1が先に片付いていなければ確定しません。
実務で起きる事故はほぼ例外なくこの向きの取り違えです。先に第1表へ概算を入れてしまうと、評価の見直しが1件入るたびに第11表の付表 → 第11表 → 第15表 → 第1表 → 第2表 → 各税額控除表と、下流の全部を書き直す羽目になります。順序は作法ではなく、手戻りを防ぐための設計だと考えてください。
この「表と表の整合を一方向に検算する」考え方は法人税でも同じで、法人税申告書 別表四と別表五(一)の整合を検証する手順と発想は共通しています。
相続時精算課税や納税猶予がある場合に足す表
上記(1)〜(17)は一般の場合です。国税庁は例外を次のように整理しています。
- 納付すべき税額のある相続時精算課税適用者がいる:第11の2表を追加
- 還付される税額のある相続時精算課税適用者がいる:さらに第1表の付表2(還付される税額の受取場所)を追加
- 農地等の納税猶予:第3表・第8表・第12表を追加
- 非上場株式等の納税猶予(一般措置):第8の2表と付表1〜4を追加
- 非上場株式等の納税猶予(特例措置):第8の2の2表と付表1〜3を追加
- 個人の事業用資産の納税猶予:第8の6表と付表1〜5などを追加
なお、医療法人の持分について税額控除の適用を受ける場合は第8の8表の作成が不要になる、といった細かい分岐もあります。特例を使う案件では、まず「どの表が増えるか」を確定してから記入に入るのが安全です。
令和8年分の様式で変わったこと|控用の廃止と月区分の様式
相続税の申告書は相続開始日の属する年分の様式を使います。令和8年1月1日から令和8年12月31日までに亡くなった人の申告には令和8年分用、令和7年中に亡くなった人には令和7年分用です。ここを間違えると様式IDが違う紙で出すことになります。
「令和8年分用から様式を変更しています」と公式に明記されている
国税庁の相続税の申告書等の様式一覧(令和8年分用)には、「令和8年分用から様式を変更していますので、令和8年分の相続税の申告では、このページに掲載している様式を使用してください」と明記されています。前年分の様式を流用してよいという記述はありません。事務所で様式PDFをストックしている場合は、令和8年分用で差し替えが必要です。
「控用」様式がなくなった
令和7年分用の様式一覧には第8の8表控用・第15表控用・第15表(続)控用といった控用の帳票が掲載されていましたが、令和8年分用の一覧には控用の帳票が1つもありません。控えを手元に残す運用をしていた事務所は、印刷・保管のフローを見直す必要があります。
第1表の付表3・付表4は「1〜3月分」と「4月分以降」で別様式
令和8年分用では、第1表の付表3(受益者等が存しない信託等に係る相続税額の計算明細書)と第1表の付表4(人格のない社団等又は持分の定めのない法人に課される相続税額の計算明細書)が、令和8年1〜3月分用と令和8年4月分以降用に分かれています。同じ令和8年分の相続でも、相続開始月によって使う紙が違うという珍しい形です。この2つの付表を使う案件では、相続開始日を先に確認してからダウンロードしてください。
公式の記載例にも正誤表が出ている(第14表・70ページ)
見落としやすいのが正誤情報です。国税庁は「税務署等で配布する『相続税の申告のしかた(令和8年分用)』について、70ページに掲載している相続税の申告書第14表の記載例に誤りがありました」として正誤表を公表しています。訂正箇所は第14表の左上部、「1 純資産価額に加算される暦年課税分の贈与財産価額及び特定贈与財産価額の明細」欄です。
ホームページに掲載されているPDFは訂正後のものですが、税務署の窓口で配布された紙の冊子には誤りが残っています。手元の冊子を見ながら記入している場合は要注意です。同じページには「記載例に掲載している申告書様式の様式IDは開発段階のものであり、一部変更があります」という注記もあります。公式の記載例ですら年度当初は動くという前提で扱ってください。
第9表・第10表の書き方|みなし相続財産から入る
記入は第9表から始まります。ここに来るのは、民法上は相続財産ではないが相続税法上は相続で取得したものとみなされるみなし相続財産です。遺産分割協議の対象外なので、分割協議の結論を待たずに確定できます。最初に書く表として合理的な位置づけです。
第9表(生命保険金などの明細書)
保険会社ごとに、受取年月日・受取金額・受取人を書き、非課税限度額(500万円×法定相続人の数)を按分して課税される金額を出します。相続を放棄した人が受け取った保険金には非課税の適用がない、という点が最も間違えやすい箇所です。ここで確定した課税金額が、第11表の付表4を経由して第11表へ流れます。
第10表(退職手当金などの明細書)
構造は第9表と同じで、非課税限度額も500万円×法定相続人の数です。被相続人の死亡後3年以内に支給が確定したものが対象になるため、支給日ではなく支給が確定した日で判定する点に注意します。弔慰金の扱いも第9表・第10表の周辺で整理しておくと、後から課税価格が動きません。
第11表の書き方|合計表と付表1〜4の役割分担
「相続税 申告書 第11表 書き方」で調べた人が最初に戸惑うのがここです。現在の第11表は明細書ではなく「合計表」です。様式名は「相続税がかかる財産の合計表(相続時精算課税適用財産を除きます。)」で、1件ごとの財産を書く欄はありません。
明細は付表1〜4に書く
財産1件ずつの明細は、第11表の付表1〜4に財産の種類別に分けて記入します。
帳票 | 書く財産 |
|---|---|
第11表の付表1 | 土地・家屋等 |
第11表の付表2 | 有価証券 |
第11表の付表3 | 現金・預貯金等 |
第11表の付表4 | 事業(農業)用財産・家庭用財産・その他の財産 |
第9表・第10表で計算した生命保険金・退職手当金の課税金額も、この付表4を経由します。そして付表1〜4の合計が第11表(合計表)に集まり、そこから第1表へ渡ります。したがって第11表そのものを書くのは、付表を全部書き終えた後の(8)番目になるわけです。「第11表の書き方」を探して明細欄が見つからない場合、探すべきは付表です。
財産の洗い出しが終わっていない段階では付表も書けません。先に一覧化しておく手順は相続財産目録の作り方と記載例にまとめています。
コード欄は記載要領の表から拾う|自由記述ではない
付表には手書きの文章ではなくコードを入れる欄が複数あります。国税庁は使用する表とその掲載ページを次のように整理しています。
- 細目コード:付表1・付表2・付表4で使用(例:土地のうち田は11、畑は12)
- 特例番号:付表1〜付表4で使用。適用する特例に応じた番号を「特例」欄へ
- 金融商品取引業者等コード・支店等コード:付表2で使用
- 金融機関等コード・口座種別等コード:付表3で使用
- 元号コード:1=明治、2=大正、3=昭和、4=平成、5=令和
- 続柄コード:01=配偶者、11=長男、21=長女、30=孫、41=父、42=母、90=養子、99=その他など
付表2の「国外」欄も見落としやすい欄です。取得した有価証券の所在場所が国外なら「1」を記入しますが、国内の金融商品取引業者等の営業所等に設けられた口座で管理されていたものは記入不要とされています。海外株式を国内証券口座で持っていた、という典型ケースで判断が分かれます。
代償財産は付表4に「価額0」で書く
実務で問い合わせが多いのが代償分割です。国税庁は記載例のQ&Aで、代償財産は第11表の付表4に記入すると明示しています。書き方は独特です。
- 「細目」欄に「代償財産」と記入する
- 「財産の名称等」欄にその財産の名称等を記入する
- 「価額」欄には「0」と記入する
- 「取得財産の価額」欄には、代償財産を支払う人は支払う金額を負数で、受け取る人は受け取る金額を正数で記入する
価額欄が0で取得財産の価額欄だけが動く、という構造を知らないと、相続財産の総額が代償金の分だけ二重計上されます。相続人間の課税価格の付け替えであって遺産総額は増減しない、という理屈が様式に落ちている箇所です。
小規模宅地等の特例を使うなら付表1より先に第11・11の2表の付表1
記入順序で第11・11の2表の付表1〜4が(3)、第11表の付表1〜4が(4)と、前者が先に置かれているのはこのためです。小規模宅地等の特例による減額後の価額でなければ、第11表の付表1の土地の価額が確定しません。特例の対象となり得る宅地等を取得した全員の同意が必要で、特例の適用を受けない人の氏名も記入する点も忘れやすいところです。
第13表・第14表・第15表の書き方|控除と加算、そして集計
第13表(債務及び葬式費用の明細書)
「種類」欄と「細目」欄の書き方が決まっています。公租公課なら細目に「所得税及び復興特別所得税」「市町村民税」「固定資産税」などの税目とその年度を、銀行借入金なら「当座借越」「証書借入れ」「手形借入れ」の別を、未払金なら発生原因を書きます。買掛金は細目の記入が不要です。
公租公課については、税務署名や市町村名を「氏名又は名称」欄に書けば「住所又は所在地」欄の記入は省略して差し支えないとされています。また第13表が2枚以上になる場合、合計欄は1枚目だけに記入し、2枚目以降の合計欄と「3 債務及び葬式費用の合計額」は記入しません。合計を各枚に書いてしまうと第1表へ二重に流れます。
第14表|令和8年の相続は「相続開始前3年以内」
第14表には生前贈与加算などを書きます。ここで年分の確認が要ります。暦年課税の加算対象期間は改正により7年へ延長されましたが、国税庁タックスアンサーNo.4161の表によれば、被相続人の相続開始日が令和8年12月31日までの相続については加算対象期間は「相続開始前3年以内」です。令和9年1月1日から令和12年12月31日の相続で「令和6年1月1日から死亡の日まで」、令和13年1月1日以後の相続で「相続開始前7年以内」になります。国税庁の記入順序の図で第14表が「相続開始前3年以内の贈与財産等」と説明されているのは、この年分の当てはめによるものです。
贈与税の配偶者控除を使った財産を書く欄では、この欄に記入した財産は第11表の付表1〜4には記入しないという指示があります。二重計上を防ぐための整理です。加算対象期間の年別の当てはめは暦年贈与の7年ルールと年別の早見表で確認してください。
第15表は転記専用の集計表
第15表(相続財産の種類別価額表)は、自分で新しい数字を作る表ではありません。①〜⑦・⑩〜㉚の各欄は第11表の付表1〜4の価額、㉛欄は第11の2表の⑧欄、㊲欄は第14表の④欄、債務及び葬式費用は第13表の金額を、それぞれ転記します。種類別の内訳が合わないときは、第15表ではなく上流の付表を直すのが鉄則です。
第1表・第2表の書き方|あん分割合でつまずかないために
機械で読み取られる前提で書く
国税庁は記載例のなかで、申告書は機械で読み取るため次の点を求めています。記載内容は記載欄の枠内に記入すること、訂正の際も可能な限り枠内に収めること、そして同じ記載内容が続く場合でも「同上」や「〃」とは記入しないことです。手書きで作成する場合、この3点だけで返戻リスクがかなり下がります。
第1表そのものは、氏名・住所・生年月日・職業といった基本情報のほか、相続開始の日における年齢と、相続開始の日における職業・役職を記入します。マイナンバー(個人番号)欄もここです。修正申告書として提出する場合は、指定欄に「1」を記入し、異動の内容等を記載します。
あん分割合は小数点以下10位まで。端数調整は全員が選択した方法で
第1表で最も相談が多いのが⑧欄のあん分割合です。相続税の総額を各人の課税価格の割合で按分する欄ですが、割り切れないことがほとんどです。国税庁は次のように定めています。
あん分割合の記入は、小数点以下10位までを限度として記入してください。また、小数点以下2位未満の端数については、財産を取得した人全員が選択した方法により、全員の割合の合計が1.00になるように小数点以下2位未満の端数を調整して記入しても差し支えありません。
公式の調整例では、課税価格が甲254,286,000円・乙122,456,000円・丙113,500,000円のとき、調整前の割合0.5186949…/0.2497868…/0.2315183…を、合計が1.00になるように0.52/0.25/0.23へ調整しています。ここで重要なのは、切上げ・切捨てをどう配分するかは「全員が選択した方法」で決めるという点です。端数の寄せ方によって各人の税額が動くため、事務所側が勝手に丸めてよい数字ではありません。相続人間の合意事項として扱ってください。
配偶者の税額軽減を使う案件では、あん分割合の寄せ方が二次相続まで含めた有利不利に影響することがあります。判断の枠組みは相続税の配偶者控除を二次相続まで含めて判断する手順で整理しています。
第2表は「実際の分割に関係なく」法定相続分で仮計算する
第2表(相続税の総額の計算書)は、誰がどう分けたかに関係なく、法定相続人が課税遺産総額を法定相続分どおりに取得したと仮定して各人の取得金額を出し、それぞれに税率を掛けた金額を合計します。この合計が相続税の総額です。実際の取得割合を入れてしまう誤りが定番なので、第1表(実際の割合)と第2表(法定相続分)で入れる数字の性格が違うことを意識してください。
共同提出と別提出
同一の被相続人から財産を取得した人が2人以上いて、提出先の税務署長が同じであれば、申告書を共同して提出できます(相続税法27条5項)。共同提出しない人がいる場合は、第1表(続)の該当欄に「1」を記入し、その人は別に申告書と第1表の付表1を提出します。第1表の付表1(納税義務等の承継に係る明細書)は、共同提出の有無にかかわらず、相続を放棄した人を除く全ての相続人・包括受遺者について記入します。
第4表〜第8表・第8の8表の書き方|税額控除には順序がある
加算が先、控除は決められた順に
税額の調整は、まず第4表で2割加算を計算し、その後に控除へ進みます。国税庁は税額控除を次の順序で行うと明示しています。
順 | 控除 | 表 |
|---|---|---|
イ | 暦年課税分の贈与税額控除 | 第4表の2 |
ロ | 配偶者の税額軽減 | 第5表 |
ハ | 未成年者控除 | 第6表・第8の8表 |
ニ | 障害者控除 | 第6表・第8の8表 |
ホ | 相次相続控除 | 第7表・第8の8表 |
ヘ | 外国税額控除 | 第8表・第8の8表 |
ト | 相続時精算課税分の贈与税額控除 | 第11の2表 |
この順序は計算の便宜ではなく結果に影響します。先順位の控除をして控除後の税額が「0」または赤字になった場合、後順位の控除は行いません。相続時精算課税分の贈与税額控除(ト)だけは、控除しきれない額が還付される点で他と性質が違います。
なお、配偶者の税額軽減で納付すべき相続税額が0になる人であっても、相続税の申告書の提出は必要です。「税額0だから申告不要」という誤解が最も高くつく論点です。
第8の8表は控除額の集約表
第8の8表(税額控除額及び納税猶予税額の内訳書)は(17)番目、つまり最後に書きます。各控除表で出した金額をここに集約し、第1表の税額へ反映させます。第1表の⑯欄の税額は、先順位の控除で0または赤字になった時点で「0」となり、それ以降の欄は動きません。赤字になる場合は左端に△を付す、という記入ルールもあります。
AIに任せてよい範囲と、税理士が確定すべき範囲
相続税申告書は「転記の束」です。だからこそAIと相性がよい部分と、絶対に触らせてはいけない部分がはっきり分かれます。
任せてよいのは転記チェックと不整合の洗い出し
付表1〜4の合計と第11表の合計が一致しているか、第11表・第13表・第14表の数字が第1表の該当欄に正しく流れているか、第15表の種類別内訳が付表の合計と合っているか。こうした一方向の転記の検算は、人間が最も見落としやすく、機械が最も得意な領域です。あん分割合の合計が1.00になっているか、端数調整前後で各人の税額がどう動くかの試算も同様です。
絶対に任せてはいけないこと
反対に、次の3つはAIの出力をそのまま使ってはいけません。
- どの年分の様式を使うか:相続開始日で決まる事実であり、学習データの時点によって古い年分を答えます。令和8年分用は様式が変更されており、控用も廃止されています。必ず国税庁の様式一覧で現物を確認してください。
- 期限と加算対象期間:相続税の申告期限は相続の開始があったことを知った日の翌日から10か月以内(相続税法27条1項)。生前贈与の加算対象期間は相続開始日によって3年・経過措置・7年と変わります。年で場合分けが必要な数字はAIが最も間違える類型です。
- 財産評価と特例の適用可否:小規模宅地等の特例の区分判定、非上場株式の評価、名義預金の帰属。これらは事実認定の問題で、税理士の判断そのものです。
公式の記載例ですら第14表で正誤表が出ているという事実は、そのまま「生成された記入例を鵜呑みにしない」という教訓になります。AIの出力は必ず一次資料の欄番号に戻して突き合わせる。これが相続税申告におけるAI利用の最低ラインです。
そのまま使えるプロンプト例
転記の検算に使う例です。数字は伏字にせず、固有名詞と口座番号などの個人情報だけを置き換えて渡します。
あなたは相続税申告書の検算担当です。以下の数字が整合しているか、
不一致がある行だけを指摘してください。推測で補完しないでください。
【第11表の付表1(土地・家屋等)合計】12,345,678円
【第11表の付表2(有価証券)合計】 69,000,000円
【第11表の付表3(現金・預貯金等)合計】 30,000,000円
【第11表の付表4(その他)合計】 6,590,700円
【第11表 合計表 取得財産の価額 合計】117,936,378円
【第13表 債務及び葬式費用の合計額】 27,415,940円
【第14表 ④欄】 3,000,000円
【第1表 課税価格(各人の合計)】 93,520,438円
出力形式:
1. 一致した検算項目
2. 不一致の項目(差額と、どちらの表を疑うべきか)
3. 判断できない項目(不足している情報名)うまくいかない例と直し方:「相続税申告書をチェックして」とだけ指示すると、AIは足りない数字を推測で埋めて「問題ありません」と返します。欄番号と金額を明示し、「推測で補完しない」「判断できない項目は不足情報として挙げる」と指定すると、実務で使える指摘だけが返ってきます。
もう1つは記入順序のチェックリスト化です。
【案件の前提】
・相続開始日:令和8年【月】【日】
・相続人:配偶者1名、子2名(うち1名は未成年)
・財産:自宅土地建物、上場株式、預貯金、生命保険金
・小規模宅地等の特例:適用予定(特定居住用宅地等)
・相続時精算課税:なし/納税猶予:なし
上記の案件で作成が必要な相続税申告書の表を、国税庁が示す
(1)〜(17)の記入順序に沿って並べ、各表に「この表を書く前に
確定していなければならない情報」を1行で添えてください。
様式の年分は令和8年分用であることを前提にしてください。うまくいかない例と直し方:前提を書かずに聞くと、納税猶予や農地の表まで含んだ一般論が返ってきます。相続人の構成・財産の種類・使う特例を先に固定すると、その案件で実際に使う表だけが並びます。出てきたリストは必ず様式一覧と突き合わせてください。
士業AIの税務AIは、国税庁などの公的情報を参照しながら申告書チェックや条文の確認を補助します。相続税申告全体でのAIの使いどころは相続税申告のAI活用ガイドに、税理士向けの機能は税理士向けの税務AIのページにまとめています。
よくある質問
相続税申告書は自分で作成できますか
財産が預貯金と上場株式だけで、特例を使わず、相続人間で分割が確定している案件であれば、国税庁の様式と記載例だけでも作成は可能です。難易度が跳ね上がるのは、土地がある・非上場株式がある・小規模宅地等の特例を使う・未分割があるのいずれかに該当する場合です。これらは評価と適用要件の判断が入るため、税理士に依頼する実益が大きくなります。
第11表の書き方を調べても明細を書く欄が見つかりません
第11表は「相続税がかかる財産の合計表」で、明細欄はありません。財産1件ごとの明細は第11表の付表1(土地・家屋等)、付表2(有価証券)、付表3(現金・預貯金等)、付表4(事業(農業)用財産・家庭用財産・その他の財産)に分けて記入します。
使わない表も全部提出するのですか
該当がない表は提出しません。様式一覧で「一般用」に「○」が付いている表が、必ず使うか使用頻度の高い表です。納税猶予や特例の適用がある場合だけ、対応する表を追加します。
記入例(記載例)はどこで見られますか
「相続税の申告のしかた(令和8年分用)」の32〜72ページに相続税の申告書の記載例等として掲載されています(36ページ以降が一般的な記載例)。令和7年分用では75ページ以降に掲載されており、年分によってページが違うので、様式一覧のリンクから該当年分をたどるのが確実です。
相続税の申告期限はいつですか
相続の開始があったことを知った日の翌日から10か月以内に、課税価格・相続税額その他財務省令で定める事項を記載した申告書を、納税地の所轄税務署長に提出します(相続税法27条1項)。納付も原則として同じ日が法定納期限です。期限までに申告書を提出せずに亡くなった人がいる場合の承継申告は同条2項に定めがあります。
遺産分割が終わっていないときはどう書きますか
未分割の財産については、各共同相続人・包括受遺者が民法の規定による相続分(寄与分を除く)または包括遺贈の割合に従って取得したものとして課税価格を計算します(相続税法55条)。その後に分割が行われて課税価格が変わった場合は、修正申告または更正の請求で調整します。更正の請求は、その事由が生じたことを知った日の翌日から4か月以内です(相続税法32条1項)。なお、未分割のままでは配偶者の税額軽減と小規模宅地等の特例は使えないため、「申告期限後3年以内の分割見込書」の提出を忘れないでください。
まとめ
相続税申告書の書き方で最初に押さえるべきは、個々の欄の埋め方よりも(1)〜(17)という記入順序そのものです。第9表・第10表でみなし相続財産を確定し、特例の付表 → 第11表の付表 → 第13表 → 第14表 → 第15表 → 第11表と明細を固め、そこで初めて第1表・第2表へ進み、最後に税額控除を決められた順に当てていく。この一方向の流れを守れば、評価の見直しが入っても手戻りは最小で済みます。
そのうえで令和8年分の実務では、様式が変更されていること、控用が廃止されたこと、第1表の付表3・4が月区分になっていること、公式の記載例に正誤表が出ていることの4点を確認してから着手してください。転記の検算はAIに任せ、年分・期限・評価の判断は人が持つ。この線引きが、相続税申告でAIを安全に使う唯一の形です。

