年末調整の書き方【令和8年分】申告書の記入手順とAI下書き術
年末調整の書き方でまず確認すべきなのは「どの年分の話か」です。2026年12月に行うのは令和8年分の年末調整で、ここには令和8年度税制改正(令和8年12月1日施行)が乗ります。ところが検索で出てくる記入例の多くは、令和7年度税制改正までを前提に2025年秋に書かれたものです。数値をそのまま写すと、記入段階から誤ります。
この記事では、国税庁の一次情報だけを根拠に、令和8年分の各申告書をどう記入するかを整理します。さらに、AIに下書きさせて人が検算するという実務フローを、投げてよい情報と投げてはいけない情報の線引きまで含めて示します。
この記事で分かること
- 令和8年分の年末調整で従業員に書いてもらう申告書の正式名称と提出期限
- 令和8年12月1日施行の改正が「記入欄」にどう効くか
- 書類別の記入手順と、年分の取り違えを防ぐ確認方法
- AIに下書きさせ、人が検算する年末調整フローとチェックポイント
- 誤りやすい論点(前職分の合算・2か所給与・乙欄・11月末退職者)
令和8年分の年末調整で書く書類と提出期限
従業員に記入してもらう申告書
年末調整で提出を受ける申告書は、正式名称で押さえておくと様式の取り違えが減ります。令和8年分は次の4種類が中心です。
申告書 | 提出期限 |
|---|---|
給与所得者の扶養控除等(異動)申告書 | その年の最初に給与の支払を受ける日の前日まで(中途就職は就職後最初の給与の支払を受ける日の前日まで)。記載内容に異動があった場合は、異動の日後最初に給与の支払を受ける日の前日まで |
給与所得者の基礎控除申告書 兼 給与所得者の配偶者控除等申告書 兼 給与所得者の特定親族特別控除申告書 兼 所得金額調整控除申告書 | その年最後に給与等の支払を受ける日の前日まで |
給与所得者の保険料控除申告書 | 同上 |
給与所得者の住宅借入金等特別控除申告書 | 同上 |
提出期限はA2-1 給与所得者の扶養控除等の(異動)申告(国税庁)およびA2-4 給与所得者の基礎控除、配偶者(特別)控除、特定親族特別控除及び所得金額調整控除の申告(国税庁)のとおりです。回収の依頼文そのものは年末調整の案内文テンプレートにまとめてあります。
年分の取り違えが最大の事故
年末の現場では「令和8年分」と「令和9年分」の扶養控除等申告書を同時に配ります。令和8年分は今回の年末調整で使うもの、令和9年分は翌年1月からの毎月の源泉徴収で使うものです。回収時に年分を分けて仕分けるだけで、差し戻しの大半は防げます。
国税庁は「令和8年分の扶養控除等申告書の様式裏面の注意事項等が改正前の内容となっている場合がある」と注意喚起しています。裏面の説明文を根拠に判断させない運用にしてください。
令和8年12月1日施行の改正が「記入」にどう効くか
扶養親族等の所得要件が広がり、対象者が増える
令和8年度税制改正で、基礎控除の法定額が58万円から62万円に、給与所得控除の最低保障額が65万円から74万円に引き上げられました。これに伴い扶養親族等の所得要件も次のとおり改正されています(カッコ内は令和8・9年分で収入が給与だけの場合の収入金額)。
区分 | 改正後 | 改正前 |
|---|---|---|
扶養親族・同一生計配偶者・ひとり親の生計を一にする子 | 62万円以下(136万円以下) | 58万円以下(123万円以下) |
特定親族 | 62万円超123万円以下(136万円超197万円以下) | 58万円超123万円以下(123万円超188万円以下) |
配偶者特別控除の対象となる配偶者 | 62万円超133万円以下(136万円超207万円以下) | 58万円超133万円以下(123万円超201万5,999円以下) |
勤労学生 | 89万円以下(163万円以下) | 85万円以下(150万円以下) |
出典は令和8年4月 源泉所得税の改正のあらまし(国税庁)です。記入実務での意味は明確で、去年は対象外だった親族が、今年は対象になるケースが出ます。特定親族とは、生計を一にする年齢19歳以上23歳未満の親族(配偶者・青色事業専従者等を除く)で、特定親族特別控除は合計所得金額に応じて1人につき最高63万円です。
扶養控除等申告書は「異動月日及び事由」に理由を書く
令和8年分の扶養控除等申告書そのものの記載事項に変更はありません。ただし改正により新たに扶養控除等の対象となる扶養親族等を追記する場合、国税庁は「異動月日及び事由」欄に「令和8年12月1日 改正」などと記載するよう案内しています。ここが令和8年分に固有の書き方です。
あわせて、令和8年11月30日以前に支払う給与については、源泉徴収税額表を使う際の「扶養親族等の数」に、この改正で新たに対象となった親族を含めてはいけません。11月までの源泉徴収事務は従来どおりで、変わるのは12月です。
基礎控除申告書などは「改正後の額」で書く
基礎控除申告書には、合計所得金額に応じた改正後の基礎控除額を記載します。配偶者控除等申告書と特定親族特別控除申告書は、配偶者や特定親族に給与所得がある場合、給与所得控除の最低保障額74万円で計算し直した合計所得金額をもとに控除額を書きます。家内労働者等の事業所得等の特例も、必要経費に算入する最低保障額が65万円から69万円に引き上げられています。
基礎控除額そのものは合計所得金額の区分ごとに細かく定められているため、金額は必ず令和8年分の申告書に印刷された「控除額の計算」の表で確認してください。改正全体の背景は年末調整の変更点とAI活用で扱っています。
書類別・記入の手順
給与所得者の扶養控除等(異動)申告書
上から順に、本人の氏名・住所・個人番号、源泉控除対象配偶者、控除対象扶養親族(源泉控除対象親族)、障害者・寡婦・ひとり親・勤労学生、他の所得者が控除を受ける扶養親族等、住民税に関する事項の順で埋めます。実務で戻りが多いのは次の3点です。
- 16歳未満の扶養親族を「住民税に関する事項」欄に書き漏らす(所得税の扶養控除の対象外でも、住民税の判定に使うため記入が必要)
- 親族の「本年中の所得の見積額」が空欄、または前年の数字のまま
- 改正で新たに対象となった親族を追記したのに、異動月日及び事由が空欄
なお、扶養控除等申告書に源泉控除対象親族として記載していた特定親族が、改正により控除対象扶養親族(特定扶養親族)に該当することとなった場合は、その親族は扶養控除の対象になります。この場合は異動があった旨を記載した扶養控除等申告書の提出が必要です。
基礎控除申告書 兼 配偶者控除等申告書 兼 特定親族特別控除申告書 兼 所得金額調整控除申告書
1枚に4つの申告書が同居しているため、本人・配偶者・特定親族の3者について、それぞれ「収入金額 → 所得金額 → 区分 → 控除額」の順に降りると読み違えが減ります。給与収入から給与所得を求める段階で、令和8・9年分は収入金額が69万1,000円以上220万円未満のとき特別な計算方法が定められている点に注意してください。
令和8年分の様式は国税庁サイトで公開済みですが、記載例は掲載時期が様式より遅れます。判断に迷う欄が出たら、記載例の公開を待つより令和8年度税制改正による所得税の基礎控除の引上げ等について(国税庁)のQ&Aを当たるほうが早い場面が多くあります。
保険料控除申告書・住宅借入金等特別控除申告書
令和8年分の保険料控除申告書には、生命保険料控除について23歳未満の扶養親族を有する場合の特例に対応した記載欄が追加されました。昨年の様式を流用した社内フォーマットを使っていると、この欄ごと落ちます。住宅借入金等特別控除は、税務署から本人に交付された申告書に印字された借入限度額や控除率に基づいて計算するため、事務所側で率を推測してはいけません。
AIに下書きさせて人が検算する年末調整フロー
AIに投げてよい情報・投げてはいけない情報
年末調整でAIが効くのは「説明文の作成」と「制度の整理」であって、個人データの処理ではありません。線引きは次のとおりです。
投げてよい | 投げてはいけない |
|---|---|
制度・様式・欄名についての質問、記入案内文のたたき台、社内チェックリストの骨子、匿名化した数値例(給与収入◯万円のモデルケース) | マイナンバー、氏名・住所・生年月日、扶養親族の個人情報、源泉徴収票や申告書の画像・PDFそのもの、顧問先を特定できる情報 |
マイナンバーは特に扱いが厳格です。判断基準は顧問先データはAIに貼ってよい?税理士法38条・守秘義務の判断基準とChatGPTの情報漏洩対策で詳しく整理しています。
下書きプロンプトの型
個人情報を外したうえで、次のように「制度の当てはめ」だけを依頼します。
あなたは給与計算の実務担当者です。以下の条件で、令和8年分の年末調整において
どの申告書のどの欄に記入が必要になるかを、欄名を挙げて箇条書きにしてください。
【条件】
・従業員本人:給与収入のみ、年収【◯◯◯万円】
・同居の子:年齢【20】歳、アルバイト給与収入【◯◯◯万円】、他に所得なし
・配偶者:給与収入【◯◯◯万円】
必ず「確認が必要な前提」と「国税庁で原文確認すべき数値」を末尾に列挙してください。
金額の断定は避け、判定の考え方を示してください。うまくいかない例は「令和8年分の扶養控除の所得要件はいくら?」とだけ聞くパターンです。AIの学習データは令和7年度改正までの解説記事に偏っているため、58万円・123万円という1年古い数値が返ってきます。年分を明示し、数値は自分で原文に当てる前提で使ってください。改正情報の追い方は税法改正の調べ方をAIで最新化する手順に詳しくまとめています。
人が検算するチェックポイント
AIの出力は下書きであって結論ではありません。確定させる前に、人が次を見ます。
- 年分:回答が令和8年分か。令和7年分の数値・様式で答えていないか
- 数値の出所:金額に国税庁の一次情報の裏付けがあるか。なければ採用しない
- 欄名の実在:AIが挙げた記入欄が、手元の令和8年分の様式に実在するか
- 要件の充足:生計を一にするか、年齢要件を満たすか等、事実認定は人が行う
- 他制度との整合:社会保険の扶養判定とは基準が別。混同していないか
この「AIは下書き、確定は人」の型は、給与計算の検算や申告書チェックでも同じです。給与計算のチェックをAIで行う方法や申告書チェックのプロンプト集も同じ設計思想で書いています。
記入・処理で誤りやすい論点
前職分の合算・2か所給与・乙欄
年の途中で入社した従業員は、前職の給与を含めて年末調整を行います。前職の源泉徴収票が回収できないまま年末調整を進めると、税額そのものが誤ります。回収できない場合は年末調整の対象外とし、本人に確定申告してもらう扱いになります。
2か所以上から給与を受けている人は、扶養控除等申告書を提出した1か所(主たる給与)でのみ年末調整を行います。扶養控除等申告書の提出がない人は乙欄適用となり、年末調整は行いません。この振り分けを回収時点で確定させておくと、12月の作業が軽くなります。基本的な源泉徴収事務は令和8年版 源泉徴収のしかた(国税庁)で確認できます。
令和8年11月30日以前に最後の給与を支払った人
年の中途で死亡退職した人や、海外転勤で非居住者となった人など、居住者として最後に給与の支払を受けた日が令和8年11月30日以前である人の年末調整には、令和8年度税制改正後の控除等は適用されません。改正後の控除を受けるには本人が確定申告等をする必要があります。これは今年だけの論点で、既存の解説記事にはほぼ載っていません。
ひとり親控除の引上げは令和8年分に影響しない
令和8年度税制改正でひとり親控除の控除額が35万円から38万円に引き上げられましたが、この改正は令和9年分以後の所得税に適用されます。令和8年分の年末調整には影響しません。「今年の改正だから今年の年末調整に反映する」と早合点しやすい典型です。
一方で、施行日前の書類提出は認められています。従業員から11月に書類を集める運用でも、12月1日以後に適用される改正を反映した年末調整関係書類を同日前から提出させて差し支えない、と国税庁が明示しています。
年末調整の後に提出するものと、令和9年1月からの変更
年末調整が終わったら、源泉徴収票の交付と法定調書の提出が待っています。給与所得の源泉徴収票の税務署への提出時期は翌年1月31日です。
給与所得の記録や年末調整関係書類は、電子データとして保存・管理する場合が多くなっています。電子ファイルでの保存には電子帳簿保存法2026年の保存要件チェックに適合する必要があります。特にマイナンバーを含む申告書類の電子保存には、法令遵守が重要です。
ここで令和8年分から効いてくるのが源泉徴収票のみなし提出の特例です。令和9年1月1日以後、市区町村に給与支払報告書を提出した場合には税務署長に源泉徴収票を提出したものとみなされ、税務署提出用の源泉徴収票を作成・提出する必要がなくなります。ただし受給者へ交付する源泉徴収票は、引き続き全員分の作成・交付が必要です。詳細は源泉徴収票のみなし提出の特例 特設ページ(国税庁)で確認してください。
あわせて、国税システムの更改に伴い令和8年8月以降、源泉徴収票を含むすべての法定調書の様式が変わります。過納額が生じた場合は年末調整を行った月分の徴収税額から差し引いて還付し、還付しきれない見込みのときは「源泉所得税及び復興特別所得税の年末調整過納額還付請求書兼残存過納額明細書」を所轄税務署に提出する手順です。
年末調整は12月に集中しますが、実際の負担は回収・照合・問い合わせ対応に分散しています。繁忙期の組み立て方は税理士の繁忙期をAIで効率化するタスク再配分術、顧問先への連絡文面は顧問先メールをAIで時短作成する方法が参考になります。所得要件の改正と社会保険の扶養の関係を顧問先に説明する場面では年収の壁・社会保険の適用拡大もあわせてご覧ください。
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