カスハラ基本方針のひな形と就業規則の規定例|周知文・記録票つき【コピペ可】
カスハラ(カスタマーハラスメント)の基本方針とは、「顧客等からの社会通念上許容される範囲を超えた言動には会社として毅然と対応し、従業員を守る」という会社の姿勢を文章にしたものです。改正労働施策総合推進法により、2026年(令和8年)10月1日から、方針の明確化・周知を含むカスハラ対策がすべての事業主の義務になりました。
この記事では、厚生労働省の指針とマニュアルに沿って、そのまま写して使える基本方針のひな形・就業規則とカスハラ対応規程の規定例・従業員向け周知文・顧客向け掲示文・相談窓口と対応フロー・記録票の項目をまとめました。社労士が顧問先へ提案する場面と、総務・人事担当者が自社で整備する場面の両方を想定しています。
この記事で分かること
- 2026年10月1日から何が義務になったのか(法律・指針・講ずべき措置10項目)
- カスハラ基本方針のひな形(社内外共通)と、顧客向けの掲示文
- 就業規則の委任規定と、カスハラ対応規程の条文例
- 従業員への周知文例と、周知で失敗しやすい点
- カスハラ相談窓口の決め方・対応フロー・記録票の項目
- AI(士業AI・ChatGPT)で自社版に直すプロンプト例と、入力してはいけない情報
結論:2026年10月からカスハラ対策は全事業主の義務|講ずべき措置は10項目
最初に、ひな形を使う前提となる法令の骨格を押さえます。ここを外すと、文面がどれだけ整っていても「指針が求める項目が抜けている」状態になります。
何が義務になったのか(法律・指針・施行日)
根拠は「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律等の一部を改正する法律」(令和7年法律第63号)です。施行期日は政令(令和8年政令第17号)で令和8年10月1日と定められました。改正後の労働施策総合推進法第33条で、事業主にカスハラ防止のための雇用管理上の措置が義務づけられています。
具体的な中身は、令和8年2月26日に告示された「事業主が職場における顧客等の言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」(令和8年厚生労働省告示第51号、以下「カスハラ指針」)に書かれています。企業規模による猶予はなく、厚生労働省のハラスメント対策のページでも「全ての事業主の義務」と案内されています。
同じ日に、求職者等に対するセクシュアルハラスメント対策も義務化されています(改正男女雇用機会均等法)。就業規則を改定するなら、両方をまとめて手当てするのが効率的です。2026年に施行された労働関係の改正全体の整理は、労働基準法改正2026の現状と、確定した法改正の対応チェックリストにまとめています。
カスハラの定義は3要素|正当なクレームとの線引き
カスハラ指針は、次の①〜③をすべて満たすものをカスハラとしています。
- 顧客等(顧客・取引の相手方・施設の利用者など。今後利用する可能性がある人も含む)の言動であって
- その労働者が従事する業務の性質その他の事情に照らして、社会通念上許容される範囲を超えたものにより
- 労働者の就業環境が害されるもの
電話やSNSなどインターネット上の言動も含まれます。一方で、苦情のすべてがカスハラに当たるわけではありません。社会通念上許容される範囲の申入れは「正当な申入れ」であり、障害者が不当な差別的取扱いをしないよう求めることや、社会的障壁の除去を求める意思表明もカスハラには当たらないと明記されています。
厚生労働省のリーフレット(詳細版)は、「言動の内容」と「手段・態様」の2つの軸で典型例を整理しています。どちらか一方だけが範囲を超える場合でも該当し得る点に注意してください。
言動の内容が範囲を超えるもの | 手段・態様が範囲を超えるもの |
|---|---|
要求に理由がない、または商品・サービスと全く関係のない要求 | 身体的な攻撃(暴行、傷害等) |
契約等で想定しているサービスを著しく超える要求 | 精神的な攻撃(脅迫、中傷、名誉毀損、侮辱、暴言、土下座の強要等) |
対応が著しく困難な、または対応が不可能な要求 | 威圧的な言動/継続的・執拗な言動 |
不当な損害賠償要求 | 拘束的な言動(不退去、居座り、監禁) |
講ずべき措置10項目と、この記事のひな形の対応表
リーフレットは、事業主が必ず講じる措置を10項目に整理しています。下の表の右列が、この記事で用意したひな形です。顧問先の現状チェックにもそのまま使えます。
区分 | 講ずべき措置(義務) | この記事のひな形 |
|---|---|---|
方針の明確化と周知・啓発 | ①毅然と対応し労働者を保護する旨の方針を明確化し、周知・啓発する | 基本方針ひな形/社内周知文 |
②カスハラの内容と、あらかじめ定めた対処の内容を周知する | 対応規程 第3条・第5条/対応フロー | |
相談体制の整備 | ③相談窓口をあらかじめ定め、周知する | 対応規程 第6条/相談窓口の周知文 |
④窓口担当者が適切に対応できるようにする | 対応フロー/記録票 | |
事後の迅速かつ適切な対応 | ⑤事実関係を迅速かつ正確に確認する | 記録票 |
⑥被害者に対する配慮のための措置を適正に行う | 対応規程 第7条 | |
⑦再発防止に向けた措置を講ずる | 対応規程 第8条 | |
抑止のための措置 | ⑧特に悪質なものへの対処方針を定め、周知し、体制を整備する | 対応規程 第5条第2項/悪質事案の対処方針 |
併せて講ずべき措置 | ⑨相談者等のプライバシー保護の措置と、その周知 | 対応規程 第9条 |
⑩相談等を理由に不利益な取扱いをされない旨を定め、周知する | 就業規則の規定例/対応規程 第10条 |
⑧の「特に悪質なものへの対処方針」は、パワハラ・セクハラの措置にはないカスハラ固有の項目です。既存のハラスメント規程を流用するときに抜けやすいので、重点的に確認してください。
カスハラ基本方針のひな形(全文コピペ可)
基本方針は、社内(従業員)向けの周知が義務で、顧客等への周知は「被害の防止に効果的」とされる位置づけです。実務では、同じ方針を社内にも社外にも出す形が管理しやすく、ブレも生じません。以下は厚生労働省のカスタマーハラスメント対策企業マニュアル(令和8年度改訂版)の方針例の要素(従業員を守る・放置しない・組織で対応する・トップメッセージとする)を、中小企業向けに組み直したものです。
基本方針ひな形(社内外共通・トップメッセージ型)
カスタマーハラスメントに対する基本方針
【会社名】は、お客様・お取引先様の声に真摯に耳を傾け、
商品・サービスの改善に生かすことを大切にしています。
一方で、お客様等からの要求や言動の中には、
従業員の人格を否定する言動、暴力、威圧的な言動、
長時間の拘束や執拗な要求など、従業員の尊厳を傷つけ、
就業環境を害するものもあります。
当社は、このような社会通念上許容される範囲を超えた言動を
「カスタマーハラスメント」と位置づけ、
従業員を守るため、組織として毅然とした態度で対応します。
1.カスタマーハラスメントの定義
お客様・お取引先様・施設の利用者その他当社の事業に関係を有する方
(以下「お客様等」)の言動のうち、要求の内容または手段・態様が
社会通念上許容される範囲を超え、従業員の就業環境を害するものをいいます。
対面のほか、電話・メール・SNS等によるものを含みます。
2.対象となる行為の例
・身体的な攻撃(暴行、傷害)
・精神的な攻撃(脅迫、中傷、名誉毀損、侮辱、暴言、土下座の強要)
・威圧的な言動、継続的・執拗な言動
・拘束的な言動(不退去、居座り、長時間の電話)
・契約等で想定しているサービスを著しく超える要求、不当な損害賠償要求
・SNS等への従業員の個人情報・画像の無断掲載
※上記は例示であり、これに限りません。
3.正当なご意見・ご要望について
商品・サービスへのご不満やご意見は、当社にとって大切なものです。
社会通念上相当な範囲のお申し出は、カスタマーハラスメントには当たらず、
誠実に対応いたします。
4.当社の対応
・従業員を一人で対応させず、上長・組織で対応します。
・やり取りを記録し、必要に応じて録音・録画を行います。
・十分にご説明してもなお繰り返しの要求が続く場合は、
対応を終了させていただくことがあります。
・悪質と判断した場合は、以後の商品の販売・サービスの提供を
お断りすることがあります。
・犯罪に該当し得る行為については、警察・弁護士等に相談のうえ、
厳正に対処します。
5.従業員への取組み
・本方針と対応ルールを周知し、研修を行います。
・相談窓口を設け、相談した従業員を守ります。
・相談したことを理由とする不利益な取扱いは行いません。
【制定日】年 月 日
【会社名】 代表取締役 【氏名】顧客向けの掲示文(店頭・Webサイト・電話ガイダンス)
顧客向けには、全文を掲示するより短い告知+全文へのリンクのほうが読まれます。電話ガイダンスは録音の告知を兼ねると効果的です。
【店頭・受付の掲示(A4 1枚)】
カスタマーハラスメントに対する当社の考え方
当社は、お客様のご意見を大切にし、誠実な対応に努めています。
一方で、暴言・威圧的な言動・長時間の拘束・
社会通念を超える要求など、従業員の尊厳を傷つける行為には、
組織として毅然と対応し、対応をお断りする場合があります。
従業員が安心して働ける環境が、よりよいサービスにつながると考えています。
ご理解とご協力をお願いいたします。
(基本方針の全文は当社Webサイトに掲載しています)
【会社名】
【電話ガイダンス】
お電話ありがとうございます。【会社名】です。
サービス向上と正確なご対応のため、この通話は録音させていただきます。ひな形を自社版に直すときの注意|うまくいかない例と直し方
- うまくいかない例:「お客様の理不尽な要求には一切応じません」と書く。
直し方:指針は正当な申入れまで拒むことを想定していません。「正当なご意見には誠実に対応する」を必ずセットで書きます(ひな形の3.)。 - うまくいかない例:「出入り禁止にします」「サービスを停止します」と無条件に書く。
直し方:指針は、業法等でサービス提供義務がある場合や、サービスが途絶すると生命・健康に重大な影響が及ぶ場合への留意を求めています。医療・介護・インフラなどは「法令の範囲内で」「個別に判断して」と限定を付けます。 - うまくいかない例:自社に起きないカスハラの例ばかり並べる。
直し方:実態把握(従業員アンケートや過去の対応記録)をしてから、自社で起きやすい類型を2〜3個、具体的に書き足します。
就業規則・カスハラ対応規程の規定例
就業規則には委任規定と不利益取扱いの禁止だけを置き、具体的な対処は別規程(カスハラ対応規程、またはハラスメント防止規程の一部)に定める形が、改定しやすく実務的です。厚生労働省の「事業主が講ずべきハラスメント対策パンフレット」の対応例も、就業規則に委任規定を設けて詳細を別規定に定める構成です。
常時10人以上の労働者を使用する事業場で就業規則を変更した場合は、過半数組合(ない場合は過半数代表者)の意見を聴いたうえで、労働基準監督署へ届け出ます。規程づくりにAIを使う一般的な手順は就業規則・社内規程のドラフトとチェックをAIで行う実務手順も参考にしてください。
就業規則に置く規定例(委任規定・不利益取扱いの禁止)
第【●】条(ハラスメントの防止)
1 パワーハラスメント、カスタマーハラスメント、セクシュアルハラスメント、
求職者等に対するセクシュアルハラスメント、妊娠・出産等に関するハラスメント
及び育児・介護休業等に関するハラスメントについては、
第【○】条(服務規律)及び第【△】条(懲戒)のほか、
詳細は「ハラスメント防止規程」及び「カスタマーハラスメント対応規程」
により別に定める。
2 会社は、従業員がハラスメントに関する相談をしたこと、
事実関係の確認に協力したこと、都道府県労働局に対して相談、
紛争解決の援助の求め若しくは調停の申請を行ったこと、
又は調停の出頭の求めに応じたことを理由として、
解雇その他不利益な取扱いをしない。第2項は、カスハラ指針が「就業規則その他の服務規律等を定めた文書」に規定する例として挙げている内容です。既存のパワハラ規定に同趣旨の条文がある場合は、対象に「カスタマーハラスメント」を加える改定で足ります。
カスハラ対応規程(別規程)の条文例
カスタマーハラスメント対応規程
(目的)
第1条 この規程は、就業規則第【●】条に基づき、顧客等からの
カスタマーハラスメントから従業員を保護し、安心して働ける
職場環境を確保するために必要な事項を定める。
(適用範囲)
第2条 この規程は、正社員、契約社員、パートタイマー、アルバイト
その他会社が雇用するすべての従業員に適用する。
会社の指揮命令の下で就業する派遣労働者についても、これに準じて扱う。
(定義)
第3条 この規程においてカスタマーハラスメントとは、職場において
行われる顧客等(顧客、取引の相手方、施設の利用者その他会社の事業に
関係を有する者をいう。)の言動であって、従業員が従事する業務の性質
その他の事情に照らして社会通念上許容される範囲を超えたものにより、
従業員の就業環境が害されるものをいう。
2 顧客等からの苦情の全てがカスタマーハラスメントに該当するものではなく、
社会通念上相当な範囲で行われる申入れには誠実に対応する。
3 職場とは、会社の事業所のほか、取引先、顧客の自宅その他従業員が
業務を遂行するすべての場所をいい、電話、メール、SNS等による
言動も対象とする。
(会社の責務)
第4条 会社は、カスタマーハラスメントに対して毅然とした態度で対応し、
従業員を保護する旨の基本方針を定め、従業員に周知する。
2 会社は、従業員が他社の従業員等に対してカスタマーハラスメントに
該当する言動を行わないよう、必要な注意喚起を行う。
(現場での対処)
第5条 カスタマーハラスメントに該当し、又はそのおそれがある言動を
受けた従業員は、別に定める対応手順に従い、次のとおり対処する。
一 直ちに上長に報告し、その場の対応について指示を受ける。
二 可能な限り一人で対応せず、必要に応じて上長が対応を交代する。
三 やり取りを記録し、必要に応じて録音・録画を行う。
四 十分な説明を行ってもなお要求が繰り返される場合は、
上長の判断により、対応を終了し、退去を求め、又は電話を切る。
五 暴行、傷害、脅迫その他犯罪に該当し得る言動については、
警察へ通報する。
2 会社は、特に悪質と認められるカスタマーハラスメントについては、
【総務部長】を責任者とし、関係部門及び弁護士等と連携して、
警告文の送付、法令の範囲内での取引・サービス提供の停止、
施設への立入りの禁止、法的措置等の対処を行う。
(相談窓口)
第6条 会社は、カスタマーハラスメントに関する相談窓口を次のとおり置く。
一 社内窓口:【総務部 担当者名・内線・メールアドレス】
二 社外窓口:【委託先名・連絡先】
2 相談窓口は、カスタマーハラスメントが現に生じている場合のほか、
そのおそれがある場合や、該当するか判断に迷う場合も広く相談に応じる。
(事実確認と被害者への配慮)
第7条 会社は、相談を受けたときは、相談者、上長、周囲の従業員から
事実関係を聴取し、記録・録音等を確認して、迅速かつ正確に事実を確認する。
2 カスタマーハラスメントの事実が確認された場合は、対応担当者の交代、
複数人での対応、被害を受けた従業員と行為者を引き離すための措置、
メンタルヘルス不調への相談対応その他必要な配慮を速やかに行う。
(再発防止)
第8条 会社は、事案の内容と対応経緯を記録し、個人情報の取扱いに
留意して関係部門と共有し、再発防止に活用する。
2 会社は、カスタマーハラスメントの原因・背景となった商品、サービス、
接客等の問題が把握されたときは、その改善を図る。
3 前2項の措置は、カスタマーハラスメントの事実が確認できなかった
場合にも、必要に応じて講ずる。
(プライバシーの保護)
第9条 相談及び事実確認に関与した者は、相談者、行為者、協力者の
プライバシーを保護し、知り得た情報を正当な理由なく漏らしてはならない。
(不利益取扱いの禁止)
第10条 会社は、従業員が相談をしたこと又は事実確認に協力したこと等を
理由として、解雇その他不利益な取扱いをしない。
(教育・研修)
第11条 会社は、本規程の内容、カスタマーハラスメントの判断基準及び
対処の手順について、管理監督者を含む全従業員に対し、
入社時及び定期に研修を行う。
附則 この規程は、【令和8年●月●日】から施行する。懲戒規定は「自社の従業員が加害側になる場合」に効く
カスハラの行為者は社外の顧客等なので、自社の就業規則の懲戒規定は直接は及びません。懲戒規定が意味を持つのは、自社の従業員が取引先の従業員に対してカスハラをした場合です。カスハラ指針は、他社の従業員に対してカスハラを行ってはならない旨の方針を併せて示すことを「望ましい取組」としており、上の規程例では第4条第2項で手当てしています。
懲戒事由に追加する場合は、既存の「ハラスメント行為」の懲戒事由に「取引先その他社外の者に対するカスタマーハラスメントに該当する言動」を加える程度で足ります。懲戒の種類・程度は、既存の規定との釣り合いを見て決めてください。
従業員へのカスハラ社内周知文例
方針の「周知」は、作っただけでは満たせません。厚生労働省のパンフレットも、社内ネットワークに掲載しただけで従業員が知らなければ周知しているとは言えず、掲載・更新のたびにメール等で全員に知らせる必要があるとしています。
社内周知文(全従業員向けメール・掲示)
件名:【重要】カスタマーハラスメント対策の基本方針と相談窓口について
従業員各位
【会社名】【総務部】です。
2026年10月1日から、カスタマーハラスメント(カスハラ)対策が
すべての事業主の義務となりました。当社は以下のとおり
基本方針と対応ルールを定めましたので、必ずご一読ください。
1.基本方針
お客様等からの社会通念上許容される範囲を超えた言動に対しては、
会社として毅然と対応し、従業員の皆さんを守ります。
(全文:【社内ポータルのURL・掲示場所】)
2.カスハラを受けたら(現場での対応)
・一人で抱え込まず、すぐに上長に報告してください。
・判断に迷う段階でも構いません。「おかしい」と感じたら報告を。
・上長の判断で、対応の交代・終了、警察への通報を行います。
・対応後は「カスハラ記録票」に記入してください。
3.相談窓口
社内:【総務部 担当者名/内線/メール】
社外:【委託先名/電話】
相談内容は秘密として扱い、相談したことや調査に協力したことを
理由に不利益な取扱いを受けることはありません。
4.研修
【●月●日】に全従業員向けの研修を実施します(パート・アルバイトを含む)。
ご不明点は【総務部】までお問い合わせください。周知文で失敗しやすい3点
- パート・アルバイトに届いていない:接客の最前線にいる人ほどメールアドレスがないことがあります。紙の配布や朝礼での読み合わせ、確認署名を組み合わせます。
- 「我慢しなさい」と読める表現:「お客様第一」を強調しすぎると、報告をためらわせます。「判断に迷う段階でも報告を」と明記するのがポイントです(指針も、該当するか微妙な場合を含めて広く相談に対応するよう求めています)。
- 相談窓口の連絡先が曖昧:「総務部まで」だけでは相談されません。担当者名と連絡手段まで書きます。
カスハラ相談窓口と対応フロー
中小企業で悩みが多いのが「誰を窓口にするか」です。カスハラ指針では、相談窓口は他のハラスメントの窓口と一体的に設けてよく、外部機関への委託も認められています。マニュアルでも、規模の小さい企業では経営者等が窓口を担う形が示されています。
相談窓口の決め方|規模別の現実的な形
規模の目安 | 窓口の形 | 注意点 |
|---|---|---|
〜10人程度 | 代表者または総務担当者が窓口。外部窓口(顧問社労士・弁護士など)を併記 | 代表者自身が顧客対応の当事者になるときに備え、外部窓口を必ず置く |
10〜50人程度 | 既存のハラスメント相談窓口に一本化し、現場の店長・所属長を一次窓口に指定 | 一次窓口の担当者に、対応マニュアルと研修を用意する |
50人以上・複数拠点 | 本社の窓口+拠点ごとの一次窓口。法務・人事との連携ルートを規程に明記 | 拠点で判断が割れないよう、判断基準と事例を共有する |
顧問社労士が外部窓口を引き受ける場合は、受付時間・連絡手段・会社への報告範囲(相談者の同意の取り方)を、顧問契約とは別に書面で決めておくとトラブルを防げます。
現場の対応フロー(初動からエスカレーションまで)
- 受ける:まず事実と要望を聞き取る。正当な申入れかどうかはこの段階で決めつけない
- 報告する:範囲を超えると感じた時点で、上長へ報告し指示を受ける
- 交代・複数対応:上長が対応を交代するか、二人以上で対応する。やり取りを記録・録音する
- 終了の判断:十分に説明しても要求が繰り返される場合、上長の判断で時間を区切って対応を終える(退店依頼・電話を切る)
- 通報・連携:暴行・脅迫など犯罪に該当し得る言動は警察へ。法的手続が必要なら弁護士へ相談
- 記録と事後対応:記録票を作成し、窓口・責任者へ共有。被害を受けた従業員のケアと再発防止を検討
カスハラ指針は、現場で報告を受けた管理監督者等が直ちに適切な対応を行う必要がある場合もあることを踏まえて対処の内容を定めるよう求めています。「店長不在時は誰が判断するか」まで決めておくのが実務のポイントです。
特に悪質なケースへの対処方針(抑止のための措置)
指針が例として挙げる対処は、次の5つです。自社の業種で取れない対処(サービス提供義務がある業種での取引停止など)は除き、取れるものを方針に明記し、誰が判断するかを決めておきます。
- 暴行、傷害、脅迫など犯罪に該当し得る言動は警察へ通報する
- 行為者に警告文を発出する
- 法令の制限内で、商品の販売・サービスの提供等をしない
- 店舗・施設等への出入りを禁止する
- 民事保全法に基づく仮処分命令を申し立てる
警告文の発出や仮処分は法的判断を伴うため、規程では「責任者が弁護士と協議のうえ判断する」とし、現場の判断に任せない設計にします。
カスハラ記録票の項目(そのまま表にして使える)
記録は、事実確認(措置⑤)と再発防止(措置⑦)の両方の土台になります。マニュアルが本社・本部へ共有すべき内容として挙げる項目(対応日時・場所、対応従業員、要望の内容、顧客等の情報、現場監督者の指示、対応結果)をベースに、事後対応の欄を加えました。
項目 | 記入のポイント |
|---|---|
発生日時・場所・手段 | 開始と終了の時刻。対面/電話/メール/SNSの別 |
対応した従業員・同席者 | 交代した場合は交代時刻も |
顧客等の情報 | 分かる範囲で。推測で書かない |
申入れ・要求の内容 | 相手の発言は「 」で原文に近く。要約と区別する |
言動の態様 | 大声・暴言・居座り時間・回数など、客観的に |
上長の指示と対応経過 | 時系列で。誰がいつ何をしたか |
証拠の有無 | 録音・録画・メール・SNS画面の保存先 |
対応結果 | 解決/継続/対応終了/通報 |
従業員への影響とケア | 体調・休養の要否、面談の予定 |
原因・背景と再発防止 | 商品・サービス・説明不足など、自社側の要因も記録 |
録音・録画や顧客情報の扱いには個人情報保護法の遵守が必要だと、指針も明記しています。記録票の保管場所と閲覧できる人を、規程で限定してください。経緯の時系列を事実・推測・意見に分けて書く技術は、顛末書の書き方(事実と推測を分ける時系列の整理)がそのまま応用できます。
AI(士業AI・ChatGPT)でカスハラ方針を自社版に直すプロンプト例
ひな形は「どの会社にも当てはまる」ぶん、業種の実態が抜け落ちます。AIは、業種に合わせた言い換えと、判断基準の具体例出しに向いています。ここでは、社労士事務所や総務担当者がそのまま使えるプロンプトを3つ紹介します。業務での使い方全般は社労士のChatGPTプロンプト集(労務・社会保険の実例10選)もあわせてどうぞ。
プロンプト1:基本方針を業種に合わせて書き換える
あなたは中小企業の労務管理に詳しい社会保険労務士です。
以下の「カスタマーハラスメントに対する基本方針」のひな形を、
【業種:例 地域密着型の調剤薬局(従業員15名)】向けに書き換えてください。
条件:
・厚生労働省のカスハラ指針(令和8年厚生労働省告示第51号)の
「毅然と対応し、労働者を保護する旨の方針」を必ず含める
・正当なご意見には誠実に対応する旨を残す
・この業種で起きやすいカスハラの例を3つ、具体的に加える
・この業種でサービス提供を断れない場面がある場合は、
断定的な表現を避け「法令の範囲内で」と限定する
・会社名・人名は【 】のプレースホルダのまま残す
【ひな形本文を貼り付け】うまくいかない例と直し方:条件を付けずに「カスハラ方針を作って」とだけ頼むと、「理不尽な要求には一切応じない」など、正当な申入れまで切り捨てる強い文面になりがちです。上のように残すべき要素と避けるべき表現を条件に書くと、指針に沿った出力に近づきます。
プロンプト2:「カスハラか、正当なクレームか」の判断例を作る
【業種】の窓口担当者向けに、
「正当なクレーム」と「カスタマーハラスメント」の境目が分かる事例を
6つ作成してください。
各事例は次の形式で:
・場面(1〜2文)
・判断:正当な申入れ/カスハラの可能性が高い/判断が分かれる
・理由:「要求の内容」と「手段・態様」のどちらが、
なぜ社会通念上許容される範囲を超える(超えない)のか
・現場での初動(上長への報告・複数対応・記録など)
注意:実在の顧客名・店舗名は使わないこと。
法的な結論は断定せず、最終判断は会社が行う前提で書くこと。出てきた事例は、そのまま研修資料やマニュアルの「判断例」になります。ただし、障害特性や認知症の症状に起因する言動の扱いなど、指針が特に配慮を求めている論点は、AIの出力を鵜呑みにせず指針の本文と照らしてください。
プロンプト3:走り書きの対応メモを記録票に整える
以下は、顧客対応の直後に書いたメモです。
「カスハラ記録票」の項目
(発生日時・場所・手段/対応者/申入れの内容/言動の態様/
上長の指示と経過/証拠の有無/対応結果/従業員への影響/原因・背景)
に沿って整理してください。
ルール:
・メモにない事実を補わない。不明な項目は「未確認」と書く
・相手の発言は「 」で引用し、要約と区別する
・評価や感想は「原因・背景」欄にだけ書く
【メモ(顧客名・電話番号・住所は伏せ字にしてから貼る)】うまくいかない例と直し方:「分かりやすくまとめて」と頼むと、AIが文章を整える過程で「激しく怒鳴った」のような評価語を足したり、時刻を推測で埋めたりします。「メモにない事実を補わない」「不明は未確認と書く」を必ず入れてください。
AIに入力してはいけない情報と、確認すべき点
- 顧客の氏名・電話番号・住所・SNSアカウント:記録票の整理でも、伏せ字(A様、【顧客】)にしてから入力します。
- 相談した従業員の氏名や健康状態:指針は相談者等のプライバシー保護を求めています。AIに入れる必要はありません。
- 録音データそのもの:社外のAIサービスに音声を上げる前に、社内の利用ルールで可否を確認します。
- 法令・日付・告示番号:AIは施行日や条番号を誤ることがあります。最終版は厚生労働省の指針・リーフレットと照合してください。
入力してよい情報の線引きを社内ルールにしていない場合は、生成AI利用規程テンプレート(入力禁止情報の区分つき)が参考になります。汎用AIでもひな形の書き換えまではできますが、法令・指針の参照元を確かめながら規程の文案を詰める作業は、事務所スタッフ・総務担当者向けの士業AIのような業務特化型のほうが進めやすくなります。弁護士と連携して警告文の文案まで準備するケースは弁護士向けの法務AIも選択肢です。
カスハラ基本方針のよくある質問
Q. 従業員が数名の会社でも、基本方針や規程は必要ですか?
はい。カスハラ対策の措置義務に企業規模の除外はなく、すべての事業主が対象です。ただし、指針が求めているのは方針の明確化・周知、相談体制、事後対応などの措置を講じることで、別規程の形式までは決まっていません。小規模なら、基本方針1枚と、就業規則の条文、相談窓口の周知文の3点から整えるのが現実的です。
Q. 基本方針はWebサイトで公表しないといけませんか?
指針上の義務は、管理監督者を含む労働者への周知です。顧客等への周知は「被害の防止に当たって効果的」とされる位置づけです。ただ、店頭や電話で顧客と接する業種では、公表しておくことで現場が「方針に基づいて対応を終了します」と言いやすくなります。
Q. パワハラ・セクハラの既存規程に追記するだけでもよいですか?
構いません。指針も相談窓口を他のハラスメントと一体的に設けることを認めています。ただし、カスハラには現場での対処の内容(措置②)と特に悪質なものへの対処方針(措置⑧)という固有の項目があるため、定義を追記するだけでは足りません。上の規程例の第5条にあたる内容を加えてください。
Q. 顧問先への提案は、どこから始めればよいですか?
上の「措置10項目の対応表」を顧問先ごとのチェックシートにして、既存の就業規則・相談窓口・顧客対応マニュアルの有無を確認するのが早道です。労務相談の回答文の下書きにAIを使う手順は、労務相談の回答をAIで下書きする社労士の実務で解説しています。
まとめ|方針・規程・窓口・記録の4点を一度にそろえる
2026年10月1日から、カスハラ対策はすべての事業主の義務です。整えるべきものは、基本方針(社内外共通)・就業規則と対応規程・相談窓口と対応フロー・記録票の4点に集約できます。この記事のひな形をたたき台に、自社で起きやすい事例と「誰が判断するか」を書き足せば、指針の10項目を一通り満たす形になります。
ひな形の業種別の書き換えや研修用の判断事例づくりはAIが得意な領域ですが、法令・日付・個人情報の扱いは必ず人が一次情報で確認してください。
参考文献
- 厚生労働省「職場におけるハラスメントの防止のために」
- 厚生労働省「事業主が職場における顧客等の言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」(令和8年厚生労働省告示第51号)(PDF)
- 厚生労働省 リーフレット(詳細版)「令和8年10月1日から、カスタマーハラスメント対策、求職者等に対するセクシュアルハラスメント対策が義務化されます!」(PDF)
- 厚生労働省「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル(令和8年度改訂版)」(PDF)
- 厚生労働省「事業主が講ずべきハラスメント対策パンフレット」(PDF)
- 厚生労働省「令和7年労働施策総合推進法等の一部改正について」
- e-Gov法令検索「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律」

