税務×AI

顧問先ヒアリングシートのテンプレート|新規契約の質問項目と使い方

顧問先ヒアリングシートは、新規の顧問契約を結ぶ前に、相手の事業・税務の状況と「何を頼みたいか」を漏れなく聞き取るための質問票です。結論から言うと、法人・個人事業主・設立直後の3種類に分けて質問を用意し、面談前に送って当日は確認に徹すると、見積りのぶれと契約後の「聞いていない」が大きく減ります。

この記事では、契約前の聞き取りに範囲を絞り、そのまま使える質問項目表とコピペ用シート、面談メモをAIで整理するプロンプトをまとめました。

この記事で分かること

  • ヒアリングシートと提案書・顧問契約書の役割の違い
  • 法人/個人事業主/設立直後で分けた質問項目表
  • コピペで使えるヒアリングシート3種(プレースホルダ付き)
  • 面談メモをAIで整理するプロンプト4つと、うまくいかない例の直し方
  • 顧客情報をAIで扱うときの守秘義務・個人情報・マイナンバーの注意点

ヒアリングシートとは|提案書・顧問契約書との違い

新規の顧問契約は「聞き取る → 提案する → 契約する → 資料を集める」の順に進みます。ヒアリングシートはこの最初の段階の道具で、後ろの3つはすべてここで集めた情報を材料にします。最初の聞き取りが浅いと、提案書の金額も契約書の業務範囲も推測で書くことになります。

段階

使う書類

目的

詳しい記事

1. 聞き取り

ヒアリングシート

状況と依頼内容を把握する

本記事

2. 提案

提案書・見積書

サービスと金額を示す

顧問契約の提案書・見積をAIで作る方法

3. 契約

顧問契約書

業務範囲・報酬・免責を決める

顧問契約書のひな形と必須条項

4. 資料回収

資料依頼メール

過去の申告書などを集める

顧問先への資料依頼メール例文

現場で多い失敗は、面談を雑談のまま終え、見積りの段階で「従業員は何人でしたか」「記帳はどなたが」と聞き直すパターンです。質問を紙に起こしておけば、担当者が変わっても聞き漏れが起きません。

新規契約ヒアリングの質問項目表

質問は「全員に聞く共通項目」と「顧客の種類ごとの項目」に分けます。全部を1枚に並べると、個人事業主に法人向けの質問が届いて読み飛ばされるからです。

共通項目(全員に聞く)

分類

質問

聞く理由

依頼の背景

税理士を探し始めたきっかけ/前任の有無と変更理由

期待と不満の把握。前任の処理の引継ぎ範囲も決まる

依頼範囲

申告だけか、記帳・給与計算・年末調整も含むか

見積りと契約書の業務範囲に直結

記帳体制

誰が・どの会計ソフトで・どの頻度で入力しているか

月次の工数を読む

連絡手段

メール・チャット・電話・訪問の希望と頻度

面談回数と報酬の前提

電子データ

請求書・領収書をメールやWebで受け取っているか

電子取引データの保存状況の確認

インボイス

登録の有無、売上先が事業者中心か

消費税の計算方法と特例の検討

相談したいこと

今いちばん困っていること(自由記述)

提案書の「課題」欄の素材

電子取引データの保存要件は国税庁の電子帳簿等保存制度特設サイト、インボイスは特集 インボイス制度が一次情報です。社内向けの整理は電子帳簿保存法の対応チェックリストとインボイス制度の2026年最新対応にまとめています。

法人向けの追加項目

質問

確認したい資料

決算月・資本金・株主構成

定款、登記事項、株主名簿

年商の規模・従業員数(役員を除く)

直近の決算書

役員報酬の決め方と金額

株主総会・取締役会の議事録

借入の有無と金融機関

返済予定表

過去の税務調査の有無と指摘内容

調査時の資料・修正申告書

グループ会社・関連当事者との取引

契約書、取引明細

個人事業主向けの追加項目

質問

確認したい資料

事業の内容と開業時期

開業届の控え

青色申告か白色申告か、控除額

青色申告承認申請書の控え、前年の申告書

家族への給与の有無

青色事業専従者給与の届出書の控え

給与・年金・不動産など事業以外の所得

源泉徴収票など

事業用とプライベートの口座・カードの分け方

通帳、カード明細

法人化の検討状況

なし(希望を聞く)

設立直後の法人・開業したばかりの個人

設立直後は、届出の期限が面談時点ですでに迫っていることがあります。最初の面談で「どの届出を出したか」を必ず確認してください。期限は国税庁の公開情報で確認できた範囲だけ載せています。

届出

期限(国税庁の案内)

出典

法人設立届出書

設立の日(設立登記の日)以後2か月以内

No.5100

青色申告の承認申請書(法人・第1期から)

設立の日以後3か月を経過した日と第1期の事業年度終了の日のいずれか早い日の前日まで

No.5100

事前確定届出給与に関する届出書

設立の日以後2か月を経過する日まで

No.5100

給与支払事務所等の開設届出書

給与支払事務所等を開設してから1か月以内

No.2502

個人事業の開業届出書

事業の開始等の事実があった日の属する年分の確定申告期限まで

A1-5

所得税の青色申告承認申請書

青色申告をしようとする年の3月15日まで(1月16日以後に開業した場合は開業日から2月以内)

A1-8

あわせて、給与の支給人員が常時10人未満なら源泉所得税の納期の特例を使えるか(No.2505)、資本金1,000万円以上で消費税の新設法人に当たるか(D1-10)も聞いておきます。開業届の期限は古い資料に「開業から1か月以内」と書かれていることがあるため、顧客に案内する前に国税庁の手続案内で最新の記載を確かめてください。書き方は開業届の書き方と記入例、青色申告承認申請書の書き方で解説しています。

そのまま使えるヒアリングシート(コピペ用)

面談の3日前までにメールで送り、分かる範囲で埋めてもらう前提の文面です。【 】の部分を自事務所の内容に置き換えてください。

シート1:共通+法人用

【事務所名】顧問契約前のヒアリングシート(法人用)
ご記入日:【日付】 ご記入者:【お名前・役職】

※ご記入いただいた内容は、顧問契約のご提案・お見積りの作成と、
 契約後の業務のためにだけ使用します。
※マイナンバー(個人番号)は、このシートには記入しないでください。

■1. 会社の基本情報
・会社名/所在地:
・決算月:  月  ・資本金:   円
・役員を除く従業員数:  名(うちパート・アルバイト  名)
・おおよその年商:□1,000万円未満 □1,000万〜5,000万円 □5,000万円〜1億円 □1億円超

■2. ご依頼の内容(当てはまるものすべてに○)
□決算・法人税等の申告 □月次の帳簿チェック □記帳代行
□給与計算 □年末調整 □税務相談 □その他(    )

■3. 現在の経理体制
・帳簿の入力者:□社内(  さん) □前任の事務所 □未入力
・会計ソフト:
・請求書や領収書をメール・Webで受け取ることはありますか:□ある □ない

■4. これまでの経緯
・前任の税理士:□いる(変更理由:   ) □いない
・過去の税務調査:□あり(  年頃)□なし □分からない
・インボイス登録:□登録済み □未登録 □検討中

■5. いちばんご相談したいこと(自由記述)


■6. ご連絡方法のご希望
□メール □チャット(ツール名:  ) □電話 □訪問(月 回程度)

シート2:個人事業主用(差し替え部分)

■1. 事業の基本情報
・屋号/事業の内容:
・開業した年月:  年  月
・申告の種類:□青色(控除額:  万円) □白色 □分からない
・ご家族への給与:□あり(続柄:  ) □なし

■2. 事業以外の収入(当てはまるものに○)
□給与 □年金 □不動産の賃料 □株式等の売却 □なし

■3. お金の管理
・事業用の口座:□分けている □分けていない
・事業用のカード:□分けている □分けていない

■4. 今後のご予定
・法人化の検討:□考えている(時期:  ) □考えていない

シート3:設立直後・開業直後用(追加部分)

■設立(開業)後に提出した書類(提出済みに○、分からなければ空欄で結構です)
□法人設立届出書(または個人事業の開業届出書)
□青色申告の承認申請書
□給与支払事務所等の開設届出書
□源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書
□消費税関係の届出書(書類名:    )
□インボイス登録の申請

■設立日(開業日):  年  月  日
■最初の給与の支払予定日:  年  月  日
■役員報酬の予定額(法人のみ):月額    円

うまくいかない例→直し方:「事業の状況を教えてください」のような自由記述ばかりのシートは、空欄のまま返ってきます。選択肢を置いて○を付けてもらい、自由記述は「いちばん相談したいこと」1か所に絞ると記入率が上がります。設立直後の届出欄は「分からなければ空欄で結構です」と添えると、顧客が調べ込んで返信が遅れるのを防げます。

面談の進め方|事前送付・当日・面談後

タイミング

やること

ポイント

面談の3日前まで

シートと、あれば直近の申告書の写しを依頼

マイナンバーは送らないよう明記

面談当日

空欄と「分からない」の項目だけを確認

依頼範囲は顧客の言葉のまま記録

面談当日

設立直後なら届出の期限を一緒に確認

期限が近いものは当日中に方針を決める

面談の翌営業日

メモを整理し、提案書・見積りへ

確認できなかった点は一覧にして送る

「記帳も全部お願いしたい」「月1回は会って話したい」といった希望は、要約せず顧客の言い方のまま残すのがコツです。後で契約書の業務範囲を決めるとき、言葉の食い違いを確かめる根拠になります。

面談メモをAIで整理するプロンプト例

面談メモの整理はAIが得意な作業です。ただし貼り付ける前に、会社名・氏名・口座番号などは【A社】【代表者】のように置き換えてください(理由は次の章で説明します)。

プロンプト1:面談メモを項目別に整理する

あなたは税理士事務所の職員です。以下は新規顧問先【A社】との
初回面談のメモです。次の見出しで整理してください。

# 見出し
1. 基本情報(決算月・従業員数・年商の規模)
2. 依頼したい業務(顧客の発言をそのまま引用)
3. 現在の経理体制
4. 顧客が困っていること
5. 未確認の事項(メモから判断できないもの)

# ルール
- メモにない情報を推測で補わない。分からない項目は「未確認」と書く
- 税額や期限の判断はしない

# 面談メモ
【ここに面談メモを貼り付け】

うまくいかない例→直し方:「いい感じにまとめて」とだけ頼むと、AIがもっともらしい年商や従業員数を補ってしまうことがあります。「推測で補わない」「未確認と書く」を必ず入れると、聞き漏れがそのまま一覧になります。

プロンプト2:追加で聞くことのリストを作る

以下の整理結果をもとに、見積りを出す前に顧客へ確認すべき質問を
重要な順に5つまで挙げてください。各質問には「なぜ必要か」を1行で添え、
顧客に送れる丁寧な質問文にしてください。

【プロンプト1の出力を貼り付け】

うまくいかない例→直し方:質問が10個も20個も出てくると、顧客は答えてくれません。「5つまで」「重要な順に」と上限を決めると、見積りに影響する質問だけが残ります。

プロンプト3:提案書の「現状と課題」欄の下書き

以下の整理結果から、顧問契約の提案書に載せる
「現状の整理」と「課題(2〜4点)」を下書きしてください。
顧客の発言を主語にし、事務所の売り込みの言葉は入れないでください。
金額は書かず【要確認】と置いてください。

【プロンプト1の出力を貼り付け】

うまくいかない例→直し方:課題を「経理の効率化」のような一般論で書かせると、どの顧客にも同じ提案書になります。「顧客の発言を主語に」と指定すると、面談で出た言葉に寄った課題になります。提案書全体の組み立ては提案書テンプレートの記事を参照してください。

プロンプト4:お礼と資料依頼のメール下書き

以下の未確認事項をもとに、面談のお礼と追加確認のメールを作ってください。
件名・本文・署名の順に、【顧問先名】【担当者名】を残したまま書いてください。
マイナンバーはメールに書かないよう、一文添えてください。

【未確認事項を貼り付け】

うまくいかない例→直し方:お礼と依頼を長い段落に混ぜると、依頼事項が読み落とされます。「依頼事項は箇条書きで」と加えると、返信で1項目ずつ答えてもらいやすくなります。

ここまでは汎用のAIチャットでもできます。税務の専門用語や国税庁の公開情報に沿った言い回しまで整えたい場合は、税理士向けの士業AIのように業務に特化したAIを使うと、手直しが少なく済みます。

顧客情報をAIで扱うときの注意|守秘義務・個人情報・マイナンバー

税理士と職員の守秘義務

税理士法第38条は、税理士が正当な理由なく業務上知り得た秘密を漏らすことを禁じ、第54条は使用人その他の従業者にも同じ義務を課しています。契約前の面談で聞いた内容も、税理士業務に関して知り得た情報として扱うのが安全です。AIに貼る前の判断基準は顧問先データはAIに貼ってよいかの判断基準で詳しく整理しています。

シートで集める情報は「利用目的」を書いておく

個人情報保護委員会の個人情報保護法ガイドライン(通則編)では、申込書やアンケートのように事業者が用意した書式で本人から直接個人情報を取得する場合、あらかじめ利用目的を明示しなければならないとされています(法第21条第2項)。シート1の冒頭に使い道を書いているのはこのためです。病歴などの要配慮個人情報は、原則として本人の同意なく取得できない(法第20条第2項)ため、シートでは聞かないのが無難です。

マイナンバーはシートにも面談メモにも書かない

個人情報保護委員会の特定個人情報の適正な取扱いに関するガイドライン(事業者編)は、番号法第20条の収集制限について「人から聞き取った個人番号をメモすること」も収集に当たると説明しています。面談で口頭で教えてもらった番号を手元のメモに書き留めるのも避けるべきです。番号が必要になるのは申告書の作成など契約後の手続なので、受け取り方は契約後に別の方法で案内します。

税理士が顧客の番号を記載した申告書を提出する場合の本人確認は、国税庁の本人確認に関するFAQに整理されています。書面提出では顧客のマイナンバーカードの写しなどで番号を確認し、e-Taxの代理送信では税務署のシステムで確認する扱いです。

AIに貼る前の置き換え早見表

情報

AIに貼るとき

会社名・氏名

【A社】【代表者】に置き換える

住所・電話・メール

削除する

口座番号・借入先の個別名

削除するか【金融機関A】にする

マイナンバー

そもそもメモに残さない

年商・従業員数などの規模

区分(「1億円未満」など)で書く

どのAIサービスを事務所で使ってよいかは、日税連の考え方を整理した日税連のAI・クラウド活用ガイドラインの記事も参考にしてください。

よくある質問

ヒアリングシートは面談の前に送るべきですか

送ったほうが面談は短くなります。ただし全部を埋めてもらう必要はなく、「分かる範囲で」と伝えて空欄を当日の確認項目にすると、顧客の負担も軽く済みます。

顧問契約書の内容まで面談で決めてよいですか

依頼範囲の希望は聞き取りますが、契約書の条項は提案と見積りへの合意を経てから固めます。聞き取りで顧客の言葉を残しておくと、契約書の業務範囲を書くときの根拠になります。

面談を録音してAIで文字起こししてもよいですか

録音する場合は、事前に顧客の了承を取り、使い道を伝えてください。文字起こしの道具選びと注意点は議事録AIを無料で作る手順にまとめています。

まとめ|聞き取りの質が、提案と契約の質を決める

新規の顧問契約では、最初のヒアリングで集めた情報が提案書・見積り・契約書のすべての材料になります。質問を法人・個人事業主・設立直後に分け、選択式のシートを事前に送り、面談メモはAIで整理する。この流れにすると、担当者が誰でも同じ質で聞き取れます。

一方で、届出の期限や税額の判断はAIに任せず、国税庁の公開情報で確かめるのが前提です。マイナンバーはシートにもメモにも書かない、AIに貼る前に名前を置き換える、の2点を事務所のルールにしておきましょう。

参考文献

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