退職所得の源泉徴収票の書き方|記入例と税務署・市区町村への提出要否
退職所得の源泉徴収票(正式には「退職所得の源泉徴収票・特別徴収票」)は、退職金を払った会社が退職後1か月以内に本人へ交付する書類です。令和8年1月1日以後に支払う退職金からは、役員だけでなく受け取った人全員分を税務署へ提出する形に変わりました。一方、市区町村へ出す特別徴収票は当分の間、省略できます。
この記事は、様式の欄ごとの書き方と、提出が要る・要らないの線引きに絞って整理します。退職金の税額そのものの計算は退職金の税金の計算方法|控除額・源泉徴収・住民税の早見表で扱っています。
この記事で分かること
- 税務署・市区町村・本人の3者に対して、何を・いつまでに出すか(令和7年以前の支払分との違い)
- 無効区分・区分(上段/中段/下段)・番号・摘要など欄ごとの書き方
- 「退職所得の受給に関する申告書」の提出があるか・ないかで変わる記載
- 数字入りの記入例と、作成後のチェックリスト・AI点検プロンプト
提出は必要?不要?|令和8年分からの線引き
最初に整理したいのは、交付と提出は別物だという点です。本人への交付は、役員か従業員かを問わず昔から全員に必要です(所得税法226条2項)。変わったのは税務署への提出範囲です。
相手 | 令和7年12月31日以前に支払うべき退職金 | 令和8年1月1日以後に支払うべき退職金 |
|---|---|---|
本人(交付) | 全員に退職後1か月以内 | 全員に退職後1か月以内 |
税務署(提出) | 法人の役員(相談役・顧問等を含む)の分だけ | 全員分 |
市区町村(特別徴収票) | 法人の役員の分だけ | 当分の間、提出を省略できる |
出典は国税庁タックスアンサーNo.7421と令和8年分 法定調書の作成と提出の手引 第3章です。手引では、市区町村提出用は「eLTAXによる提出方法が整備されるまでの間」作成・提出を省略できると書かれています。「役員以外は提出不要」という説明は令和7年以前の支払分の話なので、今年の退職者には当てはまりません。
提出不要になるケース
- 死亡退職で遺族に払う退職金:相続税法の「退職手当金等受給者別支払調書」を出すので、この源泉徴収票は不要(No.7421)
- 非居住者への退職金:「非居住者等に支払われる給与、報酬、年金及び賞金の支払調書」で出す(年間50万円以下は提出不要)
提出期限と、まとめて出す方法
税務署への提出期限は原則として退職後1か月以内です。ただし、その年の退職者分をまとめて翌年1月31日までに出しても差し支えないとされており、令和8年分は令和9年2月1日(月)が期限になります(1月31日が日曜のため。手引 第3章)。実務では、法定調書合計表と一緒に1月に出す運用が多いでしょう。
なお、e-Tax等での提出義務は法定調書の種類ごとに判定します。令和9年1月以後に出す分は、前々年に出すべきだった枚数が30枚以上なら義務になります(No.7455)。
様式の全体像|1枚で3役を兼ねる
様式は「税務署提出用」「市区町村提出用(特別徴収票)」「受給者交付用」の3枚で同じ内容を作ります。令和8年8月には税務署提出用の書面様式が改訂されているので、手書きで出すなら国税庁F1-2 退職所得の源泉徴収票に載っている最新の様式を使ってください。
用紙 | マイナンバー | 無効区分 |
|---|---|---|
税務署提出用 | 受給者・支払者とも記載 | あり |
市区町村提出用 | 記載 | 省略可の扱い(上記) |
受給者交付用 | 記載しない(法人番号も書かない) | 欄なし |
欄別の書き方
以下は手引 第3章と記載要領に沿った整理です。
① 無効区分とは
税務署に出した調書を取り消すときに使う欄です。新規・追加・訂正として出すときは「0」、無効分として出すときは「1」を書きます。金額を間違えて出した場合は、誤った内容を「1(無効)」で出し直し、正しい内容を「0」で出す、という2枚1組で直すのが基本です(手引 第9章)。受給者交付用にはこの欄がありません。
② 支払を受ける者(住所・1月1日の住所・役職名・個人番号)
- 住所又は居所:源泉徴収票を作る日時点の住所
- 1月1日の住所:令和8年1月1日現在の住所。退職金の住民税はこの住所の市区町村が課税する
- 役職名:退職時の役職名。役員かどうかの判断材料になるので空欄にしない
- 個人番号:税務署提出用だけに書く
③ 区分(上段・中段・下段)|申告書の有無で使う段が変わる
段 | 使う場面 | 源泉徴収税額の出し方 |
|---|---|---|
上段 | 申告書に「今年ほかの退職金なし」と書かれている | 退職所得控除後の速算表 |
中段 | 申告書に「今年ほかの退職金あり」と書かれている | 前の退職金と合算して計算 |
下段 | 申告書の提出がない | 支払金額×20.42% |
申告書の受け取り方と各欄の確認は退職所得の受給に関する申告書の書き方|A〜E欄記入例にまとめています。源泉徴収票は申告書の内容を写す側なので、申告書の確認が済んでから作るのが安全です。
④ 番号
普通の退職金なら空欄です。確定拠出年金(DC)の一時金は「2」、所得税法31条でみなされる一時金は「1」、譲渡制限付株式(RS)やストックオプションの経済的利益は「3」〜「7」を書きます。「5」〜「7」に当たるときは、経済的利益の額を摘要欄に書きます。
⑤〜⑨ 金額・勤続年数・年月日
- 支払金額:令和8年中に支払が確定した金額。作成時点で未払いの額は内書き
- 源泉徴収税額:所得税と復興特別所得税の合計額
- 特別徴収税額:市町村民税と道府県民税を分けて書く(それぞれ100円未満切捨て)
- 退職所得控除額:計算で使った控除額。様式上は万円単位の欄
- 勤続年数:1年未満の端数は1年に切り上げた年数。就職年月日・退職年月日も記入
⑩ 摘要|書き漏れが一番多い欄
- 勤続年数の計算の基礎(例:平成23年7月1日〜令和8年9月30日 15年3か月)
- 短期退職手当等・特定役員退職手当等に当たる金額と、その勤続年数の計算の基礎
- 中段を使うとき:今年受けたほかの退職金の支払者名・支払金額・勤続年数・源泉徴収税額・特別徴収税額
- 前の勤務先の期間を通算したときや、令和4〜7年に受けた退職金と期間が重なるときの期間と計算の基礎
- 障害者になったことが直接の原因で退職し、100万円加算を使ったときは「(障)」
記入例|同じ退職金で申告書あり・なしを比べる
前提:従業員、平成23年7月1日入社、令和8年9月30日退職(勤続15年3か月→16年)、退職金1,000万円、政令指定都市以外に住む人とします(数字は説明用)。
欄 | 例1:申告書あり(上段) | 例2:申告書なし(下段) |
|---|---|---|
支払金額 | 10,000,000 | 10,000,000 |
退職所得控除額 | 640(万円)=40万円×16年 | (所得税の計算では使わない) |
課税退職所得金額 | (1,000万円−640万円)×1/2=1,800,000 | — |
源泉徴収税額 | 1,800,000×5%×102.1%=91,890 | 10,000,000×20.42%=2,042,000 |
勤続年数 | 16 | 16 |
例1の住民税は、1,800,000円×6%=108,000円(市町村民税)、×4%=72,000円(道府県民税)です。政令指定都市に住む人は市民税と道府県民税の配分が異なるので、住所地の市区町村の案内で確認してください。例2でも住民税の特別徴収は行うので、特別徴収税額の欄は埋めます。申告書がない場合の住民税の計算に迷ったら、1月1日の住所地の市区町村に確認してください。
例2の人は、確定申告をすれば所得税を精算できます(国税庁No.2732)。会社としては下段で作った源泉徴収票を早めに渡し、精算の手順を案内しておくと問い合わせが減ります。速算表は別紙 退職所得の源泉徴収税額の速算表で確認できます。
作成後のチェックリストとAI点検プロンプト
交付・提出前のチェックリスト
- 申告書の有無と、上段・中段・下段の選択が合っている
- 勤続年数を切り上げている。摘要に計算の基礎がある
- 役員なら、役員等としての勤続年数が5年以下かどうか確認した
- 受給者交付用にマイナンバーと法人番号を書いていない
- 源泉徴収税額を翌月10日までに納付した(源泉所得税の納付書の書き方)
- 給与の源泉徴収票の支払金額に退職金を混ぜていない(給与所得の源泉徴収票の書き方)
- 合計表の退職欄の人員・金額と、源泉徴収票の合計が一致している
そのまま使えるプロンプト
あなたは源泉徴収事務の点検担当です。次の「退職所得の源泉徴収票」の内容を点検し、
計算と記載の不一致を表で指摘してください。税額の再計算は式も示してください。
判断できない点は「要確認」とし、推測で埋めないでください。
・受給者区分:【従業員/役員】
・申告書の提出:【あり(今年ほかの退職金なし)/あり(ほかの退職金あり)/なし】
・就職年月日:【 】 退職年月日:【 】
・支払金額:【 】円
・記入した退職所得控除額:【 】万円 勤続年数:【 】年
・記入した源泉徴収税額:【 】円
・記入した特別徴収税額:市町村民税【 】円/道府県民税【 】円
・摘要:【 】うまくいかない例は「この源泉徴収票は合っていますか」とだけ聞くことです。AIは区分や申告書の有無を勝手に仮定して答えてしまいます。直し方は、上のように申告書の有無と役員かどうかを必ず入力させることです。提出要否や期限は年ごとに変わるため、最後は国税庁の手引で確かめる前提で使ってください。
士業AIの税務AIは、国税庁などの公的資料を根拠に回答し、参照した資料へのリンクを返します。今回のように「令和7年以前と令和8年以後で提出範囲が違う」論点を確かめるときに便利です。税理士事務所向けの使い方は税理士向けページ、経理担当者向けは経理・スタッフ向けページで紹介しています。
よくある質問
パートやアルバイトの退職金も税務署に出しますか?
令和8年1月1日以後に支払うべき退職金なら、雇用形態に関係なく提出対象です。死亡退職と非居住者は別の調書になります。
退職金が退職所得控除額以下で税額0円でも作りますか?
作ります。No.7421は「退職手当等を支払ったすべての方」について作成・提出が必要としており、税額の有無で除外する定めはありません。
提出後に間違いに気づいたら?
誤った内容を無効区分「1」で、正しい内容を「0」で出します。合計表も訂正分として出すのが基本です。
まとめ|今年の退職者は全員分を1月に出す準備を
退職所得の源泉徴収票は、本人へは全員に退職後1か月以内、税務署へは令和8年分から全員分、市区町村へは当分省略可、と覚えると整理しやすくなります。欄の書き方は申告書の有無で決まるので、申告書の回収と確認を先に済ませてください。

