算定基礎届の書き方|定時決定の記入例・提出期限とAI検算【2026年】
算定基礎届(正式名称「健康保険・厚生年金保険 被保険者報酬月額算定基礎届/厚生年金保険 70歳以上被用者算定基礎届」)は、4月・5月・6月に実際に支払った給与をもとに、その年の9月から翌年8月までの社会保険料の基礎となる標準報酬月額を決め直すための届出です。提出期間は毎年7月1日から7月10日まで。様式の欄は①から⑱までしかなく、書き方そのものは難しくありません。つまずきやすいのは「⑩給与計算の基礎日数」と「⑱備考」で、日本年金機構も「⑭総計」欄の記入もれが多い点を注意喚起しています。
この記事では、日本年金機構が公開している様式と記入方法、健康保険法・厚生年金保険法の条文にあたりながら、欄ごとの書き方を順番に解説します。社会保険の実務に慣れていないスタッフの方や、顧問先の給与担当者の方が、手元の用紙を見ながらそのまま埋められることを目指しています。
この記事で分かること
- 算定基礎届を「誰が・いつ・何のために」出すのか(定時決定のしくみ)
- ①被保険者整理番号から⑱備考まで、欄ごとの書き方と記入例
- 支払基礎日数「17日・15日・11日」の使い分けと、どれにも当てはまらないときの扱い
- 報酬に入れるもの・入れないものの判定(通勤手当・現物給与・賞与)
- 年間平均・途中入社・休職など、例外パターンの書き方
- 2027年9月から始まる標準報酬月額の上限引上げが、定時決定に与える影響
算定基礎届とは|定時決定のしくみを3分で
4・5・6月の給与で、9月からの保険料を決め直す手続き
健康保険料・厚生年金保険料は、毎月の給与そのものではなく「標準報酬月額」という区切りのよい金額をもとに計算します。この標準報酬月額を年に1回まとめて見直すのが定時決定であり、そのために事業主が出す届出が算定基礎届です。
根拠は健康保険法第41条と厚生年金保険法第21条です。条文は「毎年七月一日現に使用される事業所において同日前三月間(中略)に受けた報酬の総額をその期間の月数で除して得た額を報酬月額として、標準報酬月額を決定する」と定めています。「同日前三月間」が4月・5月・6月にあたります。同条第2項により、こうして決まった標準報酬月額はその年の9月から翌年8月までの各月に適用されます(e-Gov法令検索・健康保険法/同・厚生年金保険法)。
実務では「9月分の保険料から」という点を取り違えやすいところです。日本年金機構の記入方法にも「この届書により決定された標準報酬月額はその年の9月分保険料(10月納付分)から適用となります」と明記されています。当月分を翌月給与から控除している会社であれば、切り替わるのは10月支給の給与からになります。ここを1か月ずらすと、顧問先の全従業員分の控除額が狂います。
提出期限は毎年7月1日〜7月10日
提出期間は毎年7月1日から7月10日までです(健康保険法施行規則第25条、厚生年金保険法施行規則第18条とも「同月十日までに」と規定)。10日が土曜・日曜・祝日にあたる場合は翌営業日が期限になります。
年度 | 7月10日の曜日 | 提出期限 |
|---|---|---|
令和8年度(2026年) | 金曜 | 2026年7月10日(金) |
令和9年度(2027年) | 土曜 | 翌営業日(=2027年7月12日(月)の見込み) |
令和10年度(2028年) | 月曜 | 2028年7月10日(月) |
2027年分については、7月10日が土曜日にあたるため翌営業日が期限になる見込みですが、確定した期日は毎年5〜6月に日本年金機構が公表する案内で必ず確認してください。令和8年度の案内では「令和8年7月1日(水曜)から令和8年7月10日(金曜)」と明示されていました(日本年金機構・令和8年度の算定基礎届のご提出について)。様式(ターンアラウンド届出用紙)は6月中旬から順次送られてきます。
様式は年金機構から送られてくる「5222」のコード付き用紙
紙で提出する場合、様式コード「2225」の用紙が事業所に届きます。氏名・被保険者整理番号・従前の標準報酬月額などがあらかじめ印字されたものがターンアラウンド届出用紙です。白紙の様式と記入例は日本年金機構のサイトからダウンロードでき、法令上は厚生年金保険が様式第八号、健康保険が様式第四号にあたります。健康保険(協会けんぽ)と厚生年金は1枚の用紙に併記して提出します。
算定基礎届の対象になる人・ならない人
対象は「7月1日現在の被保険者」と70歳以上被用者
対象は、7月1日時点でその事業所に在籍している全被保険者と、70歳以上被用者です。4〜6月のあいだに休職していた人、育児休業中の人も対象に含まれます(書き方は後述します)。
提出しなくてよい4パターン
次のいずれかに当てはまる人については、算定基礎届を提出しません。健康保険法第41条第3項・厚生年金保険法第21条第3項が定める除外規定と、日本年金機構の案内を整理すると以下のとおりです。
ケース | 提出 | 理由 |
|---|---|---|
6月1日以降に資格取得した人 | 不要 | 資格取得時決定の標準報酬月額が翌年8月まで有効 |
6月30日以前に退職した人 | 不要 | 7月1日時点で被保険者でない |
7月改定の月額変更届を出す人 | 不要 | 随時改定が定時決定に優先する |
8月・9月に随時改定が予定されている人 | 不要(申出時) | 近く改定されるため。備考「3.月額変更予定」を使う |
紛らわしいのは4つ目です。8月・9月に随時改定が見込まれる人は、あらかじめ申し出ることで算定基礎届の提出を省略できます。紙で提出する場合は、その人の報酬月額欄を空欄にしたうえで⑱備考の「3.月額変更予定」に○をつけることが申出になります。電子媒体・電子申請の場合は、随時改定予定者を除いた算定基礎届を出せば申出があったものとして扱われます。ただし見込みが外れて随時改定の要件に該当しないことが判明した場合は、速やかに算定基礎届を提出しなければなりません(日本年金機構・8月、9月の随時改定予定者にかかる算定基礎届の提出について)。「出さない」と決めた人の一覧は必ず手元に残してください。
7月1日より後に退職した人は「出す」
6月30日以前の退職者は対象外ですが、7月1日以降に退職した人は7月1日時点で被保険者であるため対象です。なお日本年金機構の記入方法では、7月1日時点ですでに退職している場合は⑱備考欄の「9.その他」を○で囲み、括弧内に「6/30退職」のように記入するよう示されています。ターンアラウンド用紙には退職者の氏名も印字されてくるため、この一言があるかどうかで照会の有無が変わります。
【欄ごと】算定基礎届の書き方と記入例
ここからが本題です。様式の欄は①から⑱まで。以下、日本年金機構が様式の2ページ目に載せている記入方法に沿って、実務で迷う点を補いながら順に見ていきます。
①②③ 被保険者整理番号・氏名・生年月日
①被保険者整理番号は、資格取得時に払い出された番号をそのまま書きます。ターンアラウンド用紙なら印字済みです。③生年月日は元号を数字で表します(1.明治/3.大正/5.昭和/7.平成/9.令和)。昭和63年5月3日なら「5-630503」という書き方です。
④⑤⑥ 適用年月・従前の標準報酬月額・従前改定月
④適用年月は定時決定の適用が始まる年月、つまり「その年の9月」です。⑤従前の標準報酬月額は、今の等級の金額を千円単位で健康保険・厚生年金それぞれに記入します(例:健28万円なら「280」)。⑥従前改定月は、その標準報酬月額がいつから適用されているかです。前年の定時決定のままなら「前年9月」になります。
⑦⑧ 昇(降)給・遡及支払額
4月〜6月の支払期に昇給または降給があった場合、その支払月を記入し、「1.昇給」「2.降給」のいずれかを○で囲みます。ここで書くのは「昇給を決めた月」ではなく「昇給後の金額を実際に支払った月」です。
⑧遡及支払額は、昇給がさかのぼったために差額をまとめて支払った場合に、その支払月と差額を記入します。差額そのものは⑪通貨の額にも含めたうえで、⑧に切り出して書く、という二重構造になっている点に注意してください。差額を含めたままにすると平均額が実態より高く出るため、後述の⑯修正平均額で調整します。
⑨⑩ 給与支給月と給与計算の基礎日数(最大の事故ポイント)
⑨支給月について、様式には「給与の対象となった計算月ではなく実際に給与の支払いを行った月」と赤字で注記されています。末締め翌月払いの会社であれば、4月に支払った給与は3月分の労働に対するものですが、算定基礎届では「4月」として扱います。締日・支払日の異なる顧問先を複数抱えていると、ここが最も間違いやすい箇所です。
⑩給与計算の基礎日数は、報酬の支払対象となった日数です。給与形態によって数え方が変わります。
給与形態 | 数え方 |
|---|---|
月給・週給 | 暦日数(その月の日数) |
月給・週給で欠勤控除がある | 就業規則等で定められた所定労働日数から欠勤日数を差し引いた日数 |
日給・時給 | 出勤日数等、報酬の支払基礎となった日数 |
基礎日数は給与支払日ではありません。また、月給者で欠勤控除がない会社なら、有給休暇で休んだ日も暦日数に含まれるため通常は30日または31日になります。「出勤日数を書いてしまった」というのが、初めて担当する人にいちばん多い誤りです。
⑪⑫⑬ 通貨・現物・合計
⑪通貨によるものの額は、名称を問わず労働の対償として金銭で支払われたすべての合計です。基本給、残業手当、通勤手当、役付手当、家族手当、住宅手当などが入ります。⑫現物によるものの額は、食事・住宅・被服・定期券など金銭以外で支払われたものを金額に換算して記入します。⑬はその合計です。
現物給与の金額は自社で適当に決めてよいものではなく、食事・住宅については都道府県ごとに厚生労働大臣が定めた価額を使います(日本年金機構・全国現物給与価額一覧表)。それ以外は時価で算定します。健康保険組合の場合は規約で別の定めがあることがあるため、組合健保の顧問先では規約の確認が要ります。
⑭⑮⑯ 総計・平均額・修正平均額
ここが算定基礎届の計算の中核です。
- ⑭総計:⑩給与計算の基礎日数が一定日数以上の月だけ、⑬合計を足した金額。基準に満たない月は足しません。
- ⑮平均額:⑭総計を「基準を満たした月数」で割った金額。1円未満は切り捨てます。
- ⑯修正平均額:遅配分の支払いや遡及昇給の差額が含まれている場合に、その差額を除いて計算し直した平均額。低額の休職給があるときは、休職給の支払いがあった月を除いた月数・総計で計算します。
⑯修正平均額が入っている行は、最終的な標準報酬月額の判定に⑮ではなく⑯が使われます。⑯を書くべき行で空欄にすると、実際より高い等級が決定されてしまいます。
⑰⑱ 個人番号と備考欄の9項目
⑰個人番号(基礎年金番号)は70歳以上被用者の場合のみ記入します。通常の被保険者については記入不要です。基礎年金番号を書く場合は10桁を左詰めで記入します。
⑱備考欄には9つの選択肢があり、該当するものを○で囲みます。実務ではこの欄が「年金事務所への申し送り」として機能します。
番号 | 項目 | ○をつける場面 |
|---|---|---|
1 | 70歳以上被用者算定 | 70歳以上被用者について提出するとき |
2 | 二以上勤務 | 2か所以上の適用事業所で勤務しているとき |
3 | 月額変更予定 | 7月・8月・9月改定の月額変更に該当するとき |
4 | 途中入社 | 給与計算期間の途中で資格取得し1か月分の給与が出ていないとき |
5 | 病休・育休・休職等 | 4〜6月に病気休職・育児休業などがあったとき |
6 | 短時間労働者(特定適用事業所等) | 週20時間以上で4分の3未満の短時間労働者のとき |
7 | パート | 所定労働時間・日数が正社員の4分の3以上の短時間就労者のとき |
8 | 年間平均 | 年間報酬の平均で算定することを申し立てるとき |
9 | その他 | 上記以外。括弧内に内容を記入(例:6/30退職、5月 短時間) |
「6.短時間労働者」と「7.パート」は名前が似ていますがまったく別の区分で、後述するとおり支払基礎日数の基準が違います。ここを取り違えると等級そのものが変わります。
支払基礎日数17日・15日・11日の使い分け
算定基礎届でいちばん質問が多いのがこの論点です。3つの数字は、対象者の区分によって使い分けます。
区分 | 基準日数 | 根拠 |
|---|---|---|
一般の被保険者 | 17日以上 | 健保法41条1項・厚年法21条1項 |
パート(短時間就労者・正社員の4分の3以上) | 原則17日以上。4〜6月に17日以上の月が1つもない場合は15日以上 | 日本年金機構の記入方法 |
短時間労働者(特定適用事業所等) | 11日以上 | 健保法41条1項括弧書き「厚生労働省令で定める者にあっては、十一日」 |
「パート」と「短時間労働者」の線引き
日本年金機構の定義はこうです。パート(短時間就労者)とは、1週間の所定労働時間および1か月の所定労働日数が正社員の4分の3以上の人。短時間労働者とは、1週間の所定労働時間または1か月の所定労働日数が正社員の4分の3未満の人のうち、週20時間以上勤務し、国・地方公共団体等の事業所または特定適用事業所に使用されるなど一定の条件を満たした人です。
つまり「4分の3以上か未満か」で分岐し、4分の3未満で社会保険に入っている人が短時間労働者にあたります。⑱備考の6か7のどちらに○をつけるかは、この判定の結果です。
パートの15日ルールの使いどころ
パートの15日ルールは、4月・5月・6月のいずれにも17日以上の月がない場合にだけ登場します。たとえば4月16日・5月15日・6月16日であれば、17日以上の月がないため15日以上の3か月すべてを対象に平均します。一方、4月18日・5月15日・6月16日であれば、17日以上の月(4月)があるので4月だけで算定します。5月・6月は足しません。
日本年金機構の記入例にも、支払基礎日数が15日以上17日未満のパートタイマーの例が掲載されています(日本年金機構・算定基礎届の様式と記入例)。
どの月も基準を満たさないとき
17日(または15日・11日)以上の月が1か月もない場合は、従前の標準報酬月額がそのまま引き継がれます。この場合も届出自体は必要で、⑭総計・⑮平均額は空欄のまま、⑱備考の該当項目に○をつけて提出します。短時間労働者について、3か月とも11日未満であれば同じく従前の標準報酬月額で決定されます。
報酬に入れるもの・入れないもの
⑪⑫に何を入れるかは、そもそも「報酬とは何か」の問題です。日本年金機構が示している区分は次のとおりです。
報酬に含まれる | 報酬に含まれない |
|---|---|
基本給、早出残業手当、通勤手当、役付手当・職階手当、家族手当・住宅手当、勤務地手当・物価手当、日直手当・宿直手当、特別勤務手当、継続して支給する見舞金、宿舎費や食事代などの現物給与、年4回以上支給される賞与 | 年3回以下の賞与(標準賞与額として別計算)、退職金、出張旅費、大入袋 |
特に注意したいのが2点です。通勤手当は所得税では非課税限度額がありますが、社会保険では全額が報酬に含まれます。6か月定期のようにまとめて支給しているときは、月数で割った1か月分を各月に算入します。給与明細の非課税通勤費を除いて集計してしまう誤りが後を絶ちません。給与明細の欄の意味を整理し直したい場合は、給与明細の支給欄・控除欄の書き方をまとめた記事もあわせて確認してください。
もう1点は賞与です。年4回以上支給される賞与は報酬に含めて月割りし、年3回以下なら標準賞与額として別計算になります。回数は規程の文言ではなく支給の実態で判断され、実務では7月1日前の1年間の支給実績を見ます。規程上は年2回でも決算賞与を毎年出していれば見直しが必要になることがあります。
残業手当をどこまで算定基礎に入れるかは、割増賃金の計算とは別の判断軸です。割増賃金側の「算定基礎に入る手当・入らない手当」を整理したい場合は、残業代の計算方法と割増賃金の算定基礎を解説した記事を参照してください。名前は似ていますが、社会保険の報酬とは範囲が異なります。
例外パターンの書き方
業務の性質上4〜6月が繁忙なら「年間平均」
4月〜6月にたまたま繁忙期が重なり、残業代が例年より多く出る業種があります。この場合、通常の方法で算定すると実態より高い等級が1年間続いてしまいます。そこで、業務の性質上、例年4〜6月の報酬が他の月と比べて著しく変動することが見込まれる場合には、年間報酬の平均で算定することができます(保険者算定)。
日本年金機構が示す要件は、「4〜6月で算定した標準報酬月額」と「前年7月〜当年6月の年間平均で算定した標準報酬月額」に2等級以上の差があり、その状況が例年発生すると見込まれることです。申し立てる場合は⑱備考の「8.年間平均」を○で囲み、申立書・被保険者の同意書等を添付したうえで、⑯修正平均額に年間平均額を記入します。
「たまたま今年だけ忙しかった」は理由になりません。あくまで業務の性質上、例年そうなることが条件です。
低額な休職給・遅配・遡及差額は⑯修正平均額で調整
次のようなケースは、日本年金機構が保険者算定の対象として挙げています。
- 病気欠勤などで4〜6月に報酬をまったく受けなかった
- 支払基礎日数が3か月とも基準未満だった
- 給与の遅配があった
- さかのぼった昇給の差額を受けた
- 低額な休職給を受けた
- ストライキによる賃金カットがあった
- 給与計算期間の途中で資格取得した
いずれも、そのまま平均すると実態とかけ離れた等級になるものです。低額な休職給であれば、休職給の支払いがあった月を除いた月数と総計で平均を出し、⑯修正平均額に記入します。
途中入社・一時帰休・二以上勤務
途中入社は、給与計算期間の途中で資格取得したために1か月分の給与が支給されない場合です。⑱備考の「4.途中入社」を○で囲み、「9.その他」に入社(資格取得)年月日と給与の締日・支払日を記入します。1か月分の給与が支給されない月は算定の対象から除きます。
一時帰休は、7月1日時点で解消しているかどうかで分かれます。解消済みなら通常の報酬を受けた月の平均額で決定し(4〜6月がすべて休業手当等であれば従前の標準報酬月額で決定)、未解消なら休業手当等を含む4〜6月の平均で決定します。
二以上勤務は、2か所以上の適用事業所で働いている場合です。⑱備考の「2.二以上勤務」を○で囲み、各事業所がそれぞれ算定基礎届を提出します。報酬は合算して標準報酬月額が決まり、保険料は報酬額に応じて按分されます。
提出方法と提出後の流れ
資本金1億円超の「特定法人」は電子申請が義務
健康保険法施行規則第25条第3項および厚生年金保険法施行規則第18条第3項により、特定法人の事業所の事業主は、算定基礎届を電子情報処理組織(電子申請)で提出しなければなりません。特定法人とは、事業年度開始時の資本金・出資金の額が1億円を超える法人、相互会社、投資法人、特定目的会社などです。
義務対象でない事業所でも、電子申請・電子媒体(CD等)・窓口持参・郵送から選べます。日本年金機構は電子申請を推奨しており、算定基礎届の対象者データを事前に電子で受け取るしくみも用意されています。顧問先の件数が多い事務所ほど、紙の転記作業が減る効果は大きくなります。届出事務全体の進め方は、社会保険の届出事務をAIで効率化する手順をまとめた記事でも扱っています。
決定通知書が届いたら9月分から切り替える
提出後、年金事務所から標準報酬月額の決定通知書(健康保険・厚生年金保険 被保険者標準報酬決定通知書)が送られてきます。ここに記載された等級が、その年の9月分保険料(10月納付分)から適用される標準報酬月額です。通知書が届いたら、賃金台帳や給与システムのマスタを更新し、9月分保険料が控除される給与から新しい等級で計算されるようにします。賃金台帳の記載事項と様式を確認できる記事もあわせて、控除欄の履歴が追える状態にしておくと年末調整や調査時に困りません。
2027年9月から標準報酬月額の上限が段階的に上がる
ここが、来年以降の算定基礎届に効いてくる改正です。厚生年金保険の標準報酬月額の上限は、現在第32級・65万円です。法律の等級表そのものは第31級・62万円までですが、厚生年金保険法第20条第2項に基づく政令により、令和2年9月から第32級が追加されています。健康保険は第1級5.8万円から第50級139万円までの50等級です(健康保険法第40条)。
この上限が、2025年に成立した「社会経済の変化を踏まえた年金制度の機能強化のための国民年金法等の一部を改正する等の法律」(令和7年法律第74号)によって段階的に引き上げられます。
時期 | 厚生年金の標準報酬月額の上限 |
|---|---|
現在 | 65万円(第32級) |
2027年9月 | 68万円 |
2028年9月 | 71万円 |
2029年9月 | 75万円 |
引上げはいずれも9月です。定時決定で決まった標準報酬月額の適用開始も9月ですから、2027年7月に提出する算定基礎届で決まる等級から、新しい上限が使われることになります。上位等級に張り付いている役員や高給の被保険者がいる顧問先では、保険料の本人負担・会社負担の両方が変わるため、6月ごろまでに影響額の試算と案内を済ませておくと慌てずに済みます(厚生労働省・厚生年金等の標準報酬月額の上限の段階的引上げについて)。
なお、厚生年金保険料率は平成29年9月1日から18.300%で固定されており、子ども・子育て拠出金率は令和8年度も令和7年度と同じ1,000分の3.6(0.36%)です。健康保険料率は協会けんぽの都道府県ごと、あるいは加入する健康保険組合ごとに異なるため、料率は必ず毎年その年の公表値で確認してください。
算定基礎届の作成でAIに任せてよいこと・任せてはいけないこと
算定基礎届は「判断」と「転記・確認」が混ざった仕事です。AIを使うなら、この2つを分けるのが前提になります。
任せてはいけない3つ
- 等級と保険料額の断定:等級表・料率は年度で変わります。AIの学習データが古ければ平然と旧年度の数字を返します。等級と金額は必ず日本年金機構の保険料額表で突き合わせてください。
- 提出期限の断定:7月10日が土日祝にあたる年の翌営業日は、AIに計算させず公式の案内で確認します。
- 最終判断:短時間労働者かパートかの区分判定、年間平均の可否などは、最終的に有資格者が判断すべき領域です。
任せてよい4つ
逆に、次の作業はAIの下書きが十分に役立ちます。いずれも正解が手元にあり、人が検算できる仕事です。
- ⑭総計・⑮平均額の計算過程を言語化させ、自分の計算と突き合わせる
- 対象者・対象外の切り分けリストを、自社のルールに沿って整理させる
- 顧問先の給与担当者向けの依頼文・説明文を下書きさせる
- 備考欄の記載漏れをチェックする観点リストを作らせる
たとえば、次のようなプロンプトから始めると扱いやすくなります。氏名や個人番号は入れず、日数と金額だけを渡すのが原則です。
あなたは社会保険事務に詳しいアシスタントです。
以下は算定基礎届の1人分のデータです。氏名は伏せています。
区分:【一般/パート/短時間労働者】
4月:支払基礎日数【 】日、通貨【 】円、現物【 】円
5月:支払基礎日数【 】日、通貨【 】円、現物【 】円
6月:支払基礎日数【 】日、通貨【 】円、現物【 】円
次の3点を、計算過程を省略せずに出してください。
1) ⑭総計に算入すべき月はどれか。その理由(基準日数との比較)。
2) ⑭総計と⑮平均額(1円未満切捨て)。
3) ⑯修正平均額を書くべきケースに当てはまるか。当てはまるなら理由。
等級と保険料額は答えないでください。こちらで年金機構の保険料額表と照合します。最後の1行が重要です。「等級は答えるな」と明示的に禁じることで、もっともらしい旧年度の等級が混じるのを防げます。うまくいかない例として多いのが「4〜6月の平均を出して」とだけ頼むケースです。基準日数に満たない月まで含めた単純平均が返ってきて、しかもそれらしく見えるため気づきにくくなります。算入する月を先に判定させ、その理由を言わせる——この順番にするだけで検算しやすくなります。給与計算まわりのチェックを広くAIに任せたい場合は、給与計算の検算に使えるAIプロンプト集に用途別の型をまとめています。
士業AI は、社労士事務所や顧問先のバックオフィスで使うことを前提にした業務特化型のAIチャットサービスです。e-Gov法令データなどの公的情報を参照する設計のため、条文や制度の根拠を示しながら下書きを作れます。社会保険・労務まわりの実務でどう使えるかは、バックオフィス向けの紹介ページでまとめています。無料で登録でき、クレジットカードの登録も不要です。
よくある質問
算定基礎届の提出期限を過ぎてしまったらどうなりますか?
期限を過ぎても提出は受け付けられます。ただし決定通知書の到着が遅れ、9月分保険料の控除額が確定しないまま給与計算をすることになります。実務上は、9月分の控除に間に合わないと10月・11月にまとめて差額調整が発生し、従業員への説明も必要になります。遅れることが分かった時点で年金事務所に連絡し、見込みを伝えておくのが安全です。
4月・5月・6月に給与がまったくなかった人はどう書きますか?
病気欠勤や休職で報酬をまったく受けていない場合は、保険者算定の対象です。⑭総計・⑮平均額は空欄とし、⑱備考の「5.病休・育休・休職等」を○で囲み、「9.その他」にその期間を記入して提出します。結果として従前の標準報酬月額が引き継がれます。
通勤手当は算定基礎届に含めますか?
含めます。社会保険の報酬には通勤手当が含まれ、所得税の非課税限度額の考え方は適用されません。6か月定期などを複数月分まとめて支給している場合は、支給した月に全額を計上するのではなく、月数で割った1か月分を各月の報酬月額に算入します(日本年金機構・複数月単位で従業員に支給した通勤手当は、報酬月額に含めますか。)。支給方法を確認したうえで集計してください。
支払基礎日数の「17日」は出勤日数のことですか?
違います。月給者の場合は暦日数(その月の日数)です。欠勤控除の制度がある会社では、就業規則等で定められた所定労働日数から欠勤日数を差し引いた日数になります。出勤日数を使うのは日給者・時給者の場合です。
7月に月額変更届を出す人も算定基礎届が必要ですか?
不要です。随時改定が定時決定に優先します。7月・8月・9月改定の月額変更に該当する場合は月額変更届を提出し、算定基礎届では⑱備考の「3.月額変更予定」を○で囲みます。ただし、見込みで省略したものの結局随時改定に該当しなかった場合は、改めて算定基礎届の提出が必要です。
算定基礎届の内容をAIに計算させても大丈夫ですか?
計算過程の検算や記載漏れのチェックには使えます。ただし等級・保険料額・提出期限を断定させるのは避けてください。これらは年度や法改正で変わる数値で、AIは古い情報のままもっともらしく答えることがあります。数値は必ず日本年金機構の保険料額表と最新の案内で確認してください。
まとめ
算定基礎届は、欄の数こそ少ないものの、判断が要る箇所が備考欄に集中している届出です。最後に、提出前に見るべき点を整理します。
- ⑨支給月は「支払った月」で書いたか(計算月になっていないか)
- ⑩基礎日数は給与形態に合った数え方か(月給者で出勤日数を書いていないか)
- ⑭総計に、基準日数を満たさない月を混ぜていないか
- ⑮平均額の1円未満を切り捨てたか
- 遡及差額・低額休職給がある行に⑯修正平均額を書いたか
- ⑱備考の6(短時間労働者)と7(パート)を取り違えていないか
- 通勤手当を全額入れたか、年4回以上の賞与を報酬に含めたか
そして毎年変わるのは等級表と料率、そして提出期限の曜日です。この3つだけは、記憶でもAIでもなく、その年の公表資料で確認する——これを事務所のルールにしておくと、算定の時期の事故はほぼなくなります。
参考文献
- 日本年金機構「定時決定(算定基礎届)」
- 日本年金機構「【事業主の皆さまへ】令和8年度の算定基礎届のご提出について」
- 日本年金機構「算定基礎届(定時決定のため、4月〜6月の報酬月額の届出を行うとき)」様式・記入例
- 日本年金機構「保険者決定」
- 日本年金機構「全国現物給与価額一覧表」
- 日本年金機構「保険料額表(令和2年9月分〜)」
- e-Gov法令検索「健康保険法」(第40条・第41条・第43条)
- e-Gov法令検索「厚生年金保険法」(第20条・第21条)
- e-Gov法令検索「健康保険法施行規則」(第25条)
- e-Gov法令検索「厚生年金保険法施行規則」(第18条)
- 日本年金機構「標準報酬月額の定時決定及び随時改定の事務取扱いに関する事例集」(PDF)
- 厚生労働省「厚生年金等の標準報酬月額の上限の段階的引上げについて」

