源泉徴収簿の書き方|年末調整欄の記入例と過不足精算【令和8年分】
源泉徴収簿は、従業員一人ひとりの毎月の給与・賞与と源泉徴収した税額を記録し、年末にその1年分の税額を精算(年末調整)するための帳簿です。国税庁の様式は法令で決まったものではありませんが、毎月の源泉徴収の記録が分かり年末調整に使える帳簿は、どの事業者にも欠かせません。
令和8年分(2026年分)は、基礎控除の引上げと給与所得控除の最低保障額の引上げが2026年12月1日に施行され、12月の年末調整から計算が変わります。この記事では、源泉徴収簿の毎月の欄と年末調整欄(⑦〜㉞)の書き方を、検算済みの数値例でたどります。
- 源泉徴収簿とは何か(源泉徴収票・賃金台帳との違い、保存期間の考え方)
- 令和8年分の源泉徴収簿で変わる欄と金額(基礎控除104万円、給与所得控除74万円など)
- 毎月の欄・賞与の欄の記入例
- 年末調整欄の記入手順(給与所得控除後の金額→所得控除→年調年税額→過不足額)
- 過不足額の精算(還付・徴収)と翌月以降の処理、よくあるミス
- AIで検算・転記チェックをするときのプロンプト例
源泉徴収簿とは?作成が必要な理由・保存期間・入手方法
源泉徴収簿は、給与の支払者(源泉徴収義務者)が従業員ごとに作る「税金の記録帳」です。扶養控除等申告書で申告された扶養親族の状況、毎月の給与額、社会保険料、源泉徴収した税額を1年分まとめておき、12月にその記録を使って年末調整を行います。
法令で決まった様式ではないが、同じ内容の記録は必要
国税庁は、源泉徴収簿について「源泉徴収事務の便宜を考慮して作成したものであり、法令で定められたものではない」と明記しています。そのうえで、給与台帳などであっても、毎月の源泉徴収の記録が分かり、年末調整にも使えるものであれば、それを使って差し支えないとしています(国税庁「A2-2 給与所得・退職所得に対する源泉徴収簿の作成」)。
つまり「国税庁の様式どおりに作る義務」はありませんが、「各人ごとの給与と税額の記録」は年末調整を正しく行うために必要です。実務では、給与計算ソフトが出力する源泉徴収簿や、源泉徴収簿兼賃金台帳を使っている事業所が多数派です。
源泉徴収票・賃金台帳との違い
名前が似ている書類と混同しやすいので、役割を整理しておきます。
書類 | 役割 | 根拠・保存の考え方 |
|---|---|---|
源泉徴収簿 | 事業者の内部記録。毎月の源泉徴収と年末調整の計算に使う | 法定様式なし。様式は任意だが記録は必要 |
源泉徴収票 | 年末調整の結果を従業員に交付する書類 | 所得税法で交付が義務付けられた法定調書 |
賃金台帳 | 労働日数・労働時間・賃金額などを記録する労務の帳簿 | 労働基準法第108条で調製が義務。保存は第109条 |
源泉徴収簿の年末調整欄で計算した結果は、そのまま源泉徴収票に転記します。欄ごとの転記先は源泉徴収票の書き方と欄別の記入例で確認できます。
保存期間の考え方と「源泉徴収簿兼賃金台帳」の注意点
源泉徴収簿そのものの保存期間を直接定めた規定は、国税庁の資料では確認できませんでした。一方で、年末調整の基礎になる扶養控除等申告書・基礎控除申告書・保険料控除申告書などは、提出期限の属する年の翌年1月10日の翌日から7年間の保存が必要とされています(国税庁 タックスアンサー No.2503)。源泉徴収簿は、これらの申告書と突き合わせて計算の根拠を示す帳簿なので、実務では申告書と同じく7年間を目安に保管しておくのが安全です。
源泉徴収簿を賃金台帳と兼用する場合は、労働基準法の保存期間も満たす必要があります。賃金台帳は労働基準法第109条で5年間の保存とされ、同法附則第143条により当分の間は3年間とされています。兼用する場合は、労働時間・時間外労働時間数など賃金台帳に必要な記載事項が欠けていないかも確認します。項目の揃え方は賃金台帳テンプレートと必要な記載事項が参考になります。
エクセルで作るなら国税庁の「年末調整計算シート」も選択肢
国税庁は、令和8年分の「給与所得に対する源泉徴収簿」をPDF(手書用・入力用)で公開しています。あわせて、給与の総額や扶養親族の人数などを入力すると年末調整の税額計算の一部が自動計算される「年末調整計算シート」(Excel)も提供されています。少人数の事業所で給与ソフトを使っていない場合は、毎月の記録はPDFの源泉徴収簿か自作のExcel、年末の計算は計算シートで検算する、という組み合わせが現実的です。
令和8年分の源泉徴収簿で変わる点(基礎控除・給与所得控除・特定親族)
令和8年度税制改正により、所得税の基礎控除の引上げなどが行われました。改正は原則として2026年12月1日に施行され、令和8年分以後の所得税に適用されます。そのため、2026年11月までの毎月の源泉徴収事務は変わらず、12月の年末調整で改正後の金額により1年分を計算し直して精算します(国税庁「令和8年度税制改正による所得税の基礎控除の引上げ等について」)。変更点の全体像は令和8年分の年末調整の変更点にまとめています。
基礎控除(⑳欄)と給与所得控除(⑨欄)の金額
源泉徴収簿の「基礎控除額⑳」欄に入る金額は、本人の合計所得金額に応じて次のとおりです。昨年分とは金額が異なるので、前年の源泉徴収簿をなぞって記入しないよう注意します。
本人の合計所得金額 | 令和8年分の基礎控除額 |
|---|---|
489万円以下 | 104万円 |
489万円超655万円以下 | 67万円 |
655万円超2,350万円以下 | 62万円 |
2,350万円超 | 48万円 |
2,400万円超 | 32万円 |
2,450万円超 | 16万円 |
給与所得控除は、最低保障額が65万円から74万円に引き上げられました。給与の総額が741,000円未満なら給与所得控除後の金額は0円、それ以上は令和8年分の「年末調整等のための給与所得控除後の給与等の金額の表」で求めます。令和8年分の表は令和7年分から改正されているので、必ず令和8年分を使います(国税庁「令和8年分 年末調整のしかた」35〜36ページ)。
特定親族特別控除(⑱欄)と扶養親族の所得要件
令和7年分から設けられた特定親族特別控除は、令和8年分の源泉徴収簿でも「特定親族特別控除額⑱」として独立した欄があります。19歳以上23歳未満の親族(令和8年分は2004年1月2日〜2008年1月1日生まれ)で、合計所得金額が62万円超123万円以下の人が対象です。控除額は親族の合計所得金額に応じて63万円から3万円まで段階的に減ります。
扶養親族・同一生計配偶者の所得要件も、合計所得金額58万円以下から62万円以下に引き上げられました。給与収入だけなら136万円以下が目安です。改正で新たに扶養控除の対象になる親族がいる場合は、扶養控除等(異動)申告書の提出を受けてから源泉徴収簿の「扶養控除等の申告」欄を直します。従業員側の申告書の書き方は年末調整の書き方(申告書の記入手順)で解説しています。
定額減税の欄は令和8年分にはない
令和6年分の源泉徴収簿には定額減税の記入欄がありましたが、定額減税は令和6年分所得税についての措置です(国税庁 定額減税特設サイト)。国税庁の令和8年分の源泉徴収簿の年末調整欄にも定額減税の行はなく、「年調所得税額㉕×102.1%=年調年税額㉖」とそのまま計算します。2024年分の源泉徴収簿をひな形にした自作Excelを使い回している場合は、定額減税の計算式が残っていないか確認しておきましょう。
書き始める前に:扶養控除等申告書から上部欄へ転記する
源泉徴収簿は、毎月の給与を記入する前に、扶養控除等(異動)申告書の内容を上部に写すところから始めます。ここを誤ると、毎月の税額も年末調整もすべてずれます。
甲欄・乙欄の区分と「扶養控除等の申告」欄
扶養控除等申告書を提出している人は源泉徴収簿の左肩の「甲欄」を○で囲み、提出していない人やほかの勤務先に提出している人は「乙欄」を○で囲みます。乙欄の人は年末調整の対象になりません。
甲欄の人は、右上の「扶養控除等の申告」欄に、源泉控除対象配偶者・控除対象扶養親族(一般・特定・老人)・障害者・寡婦・ひとり親・勤労学生などの区分と人数を記入します。年の途中で扶養親族が増減した場合は、異動月と異動後の人数を追記し、翌月以降の「扶養親族等の数」に反映させます。
前年の過不足税額の繰越欄も確認する
上部には「前年の年末調整に基づき繰り越した過不足税額」の欄があります。前年分の年末調整で還付しきれなかった過納額や、翌年に繰り延べた不足額がある人は、ここに金額と精算した月を記録します。ここに書いた金額は、本年分の徴収税額の集計には含めません。
毎月の欄(給料・手当等)の書き方と記入例
毎月の給与を支払うたびに、「給料・手当等」欄の1行を埋めていきます。各列の意味と、記入例は次のとおりです。
各列に書く内容
列 | 記入する内容 |
|---|---|
月区分・支給月日 | 何月分の給与か、実際に支給した日 |
総支給金額 | 通勤手当などの非課税分を除いた課税対象の支給額 |
社会保険料等の控除額 | 健康保険・厚生年金・雇用保険などの本人負担分の合計 |
社会保険料等控除後の | 総支給金額から社会保険料等を引いた額(税額表を引く基準) |
扶養親族等の数 | 源泉控除対象配偶者と控除対象扶養親族などの合計人数 |
算出税額 | 令和8年分の源泉徴収税額表(月額表の甲欄)で求めた税額 |
年末調整による過不足税額 | 年末調整をした月だけ、精算した過不足額を記入 |
差引徴収税額 | 実際に給与から差し引いた税額 |
「総支給金額」に非課税の通勤手当を含めてしまうミスは、現場で最も多いものの一つです。月額表の引き方は源泉徴収税額表の見方(月額表・甲欄乙欄の使い分け)で詳しく解説しています。
記入例:月給30万円・配偶者1人の場合
次の前提で記入例を作ります。社会保険料は説明用の仮の金額です。
- 毎月の総支給金額(課税分)300,000円、社会保険料等45,000円
- 源泉控除対象配偶者あり(パート収入100万円)、扶養親族等の数1人
- 賞与は6月と12月に各450,000円(社会保険料等は各67,500円)
社会保険料等控除後の給与等の金額は255,000円です。令和8年分の月額表の「254,000円以上257,000円未満」の行、甲欄・扶養親族等1人の列を見ると、税額は4,710円です。
月 | 総支給金額 | 社会保険料等 | 控除後の金額 | 扶養等の数 | 算出税額 | 差引徴収税額 |
|---|---|---|---|---|---|---|
1月〜11月(毎月) | 300,000 | 45,000 | 255,000 | 1 | 4,710 | 4,710 |
12月 | 300,000 | 45,000 | 255,000 | 1 | 4,710 | ▲30,752 |
計 | ①3,600,000 | ②540,000 | 3,060,000 | - | ③56,520 | - |
12月の「差引徴収税額」がマイナス(▲)になっているのは、12月の給与で年末調整をして還付したためです。この数字の出どころは、後の「過不足額の精算」で説明します。
賞与等の欄の記入例
賞与は「賞与等」欄に記入し、税額は「賞与に対する源泉徴収税額の算出率の表」で求めます。率は前月の社会保険料等控除後の給与等の金額(この例では255,000円)と扶養親族等の数で決まり、この例では4.084%です。
支給月日 | 総支給金額 | 社会保険料等 | 控除後の金額 | 算出率 | 算出税額 |
|---|---|---|---|---|---|
6月30日 | 450,000 | 67,500 | 382,500 | 4.084% | 15,621 |
12月10日 | 450,000 | 67,500 | 382,500 | 4.084% | 15,621 |
計 | ④900,000 | ⑤135,000 | 765,000 | - | ⑥31,242 |
算出税額は382,500円×4.084%=15,621.3円で、1円未満を切り捨てて15,621円です。月額表の行や算出率の列を1つずれて読むと、1年分ずれ続けるので、ここは後でAIや計算シートで検算する価値があります。
年末調整欄の書き方①:集計から所得控除の合計まで(⑦〜㉑)
ここからが源泉徴収簿の右下にある「年末調整」欄です。国税庁の「令和8年分 年末調整のしかた」の手順に沿って、上の数値例を埋めていきます。
ステップ1:給与と徴収税額を集計する(⑦・⑧)
給料・手当等の計(①・③)と賞与等の計(④・⑥)を年末調整欄の上段に移し、合計します。
- ⑦ 給与の総額=①3,600,000円+④900,000円=4,500,000円
- ⑧ 徴収税額の合計=③56,520円+⑥31,242円=87,762円
本年中に支給日が来て支払が確定した給与は、未払でも集計に含めます。逆に、前年分の未払給与を本年に支払ったものは含めません。年の途中で入社した人は、前職の源泉徴収票で前職分の給与と税額を確認し、合算します。前職の源泉徴収票が届くまでは、その人の年末調整は見合わせます。
ステップ2:給与所得控除後の給与等の金額を求める(⑨〜⑪)
⑦の4,500,000円を令和8年分の「給与所得控除後の給与等の金額の表」に当てはめると、「4,500,000円以上4,504,000円未満」の行で3,160,000円です。これが⑨です。
給与の総額が850万円を超え、本人が特別障害者であるなど一定の要件に当てはまる人は、所得金額調整控除額((給与の総額−850万円)×10%、最高15万円)を⑩に記入します。この例では対象外なので⑩は0円、⑪(調整控除後)は⑨と同じ3,160,000円です。
ステップ3:所得控除を各欄に記入する(⑫〜⑳)
欄 | この例での金額 | 根拠 |
|---|---|---|
⑫ 社会保険料等 | 675,000円 | ②540,000円+⑤135,000円 |
⑬⑭ 申告による | 0円 | 保険料控除申告書で申告なし |
⑮ 生命保険料の控除額 | 40,000円 | 新生命保険料を年10万円支払い(上限4万円) |
⑯ 地震保険料の控除額 | 0円 | 申告なし |
⑰ 配偶者(特別)控除額 | 380,000円 | 配偶者の合計所得金額26万円(100万円−74万円) |
⑱ 特定親族特別控除額 | 0円 | 該当者なし |
⑲ 扶養控除額及び | 0円 | 控除対象扶養親族なし |
⑳ 基礎控除額 | 1,040,000円 | 本人の合計所得金額316万円(489万円以下) |
⑲には基礎控除・配偶者(特別)控除・特定親族特別控除を含めない点に注意します。この3つは基礎控除申告書兼配偶者控除等申告書兼特定親族特別控除申告書兼所得金額調整控除申告書(いわゆる「基・配・特・所」の申告書)の内容から、⑰⑱⑳にそれぞれ記入します。
配偶者の合計所得金額を計算するときは、配偶者の給与収入にも改正後の給与所得控除(最低74万円)を当てはめます。この例ではパート収入100万円から74万円を引いた26万円で、62万円以下なので配偶者控除38万円です。
ステップ4:所得控除額の合計額を出す(㉑)
⑫から⑳までを合計します。
㉑=675,000円+0円+0円+40,000円+0円+380,000円+0円+0円+1,040,000円=2,135,000円
年末調整欄の書き方②:年調年税額と過不足額の計算(㉒〜㉗)
ステップ5:課税給与所得金額と算出所得税額(㉒・㉓)
⑪から㉑を引いた金額が「差引課税給与所得金額㉒」です。1,000円未満の端数は切り捨てます。
㉒=3,160,000円−2,135,000円=1,025,000円
次に、令和8年分の「年末調整のための算出所得税額の速算表」に当てはめます。195万円以下は税率5%なので、㉓=1,025,000円×5%=51,250円です。
課税給与所得金額 | 算式 |
|---|---|
1,950,000円以下 | ×5% |
1,950,000円超 | ×10%−97,500円 |
3,300,000円超 | ×20%−427,500円 |
6,950,000円超 | ×23%−636,000円 |
9,000,000円超 | ×33%−1,536,000円 |
18,000,000円超 | ×40%−2,796,000円 |
課税給与所得金額が18,050,000円を超える場合は、年末調整の対象になりません。
ステップ6:住宅借入金等特別控除と年調年税額(㉔〜㉖)
住宅ローン控除を受ける人は、住宅借入金等特別控除申告書の控除額を㉔に記入し、㉓から引いて「年調所得税額㉕」を求めます。控除しきれない場合は㉕を0とし、控除しきれなかった金額は源泉徴収票の「住宅借入金等特別控除可能額」欄に記載します。この例では住宅ローン控除がないので、㉕は51,250円です。
最後に復興特別所得税を含めるため、㉕に102.1%を掛け、100円未満を切り捨てます。
㉖=51,250円×102.1%=52,326.25円→100円未満切捨て=52,300円
ステップ7:差引超過額又は不足額(㉗)
年調年税額㉖と、毎月徴収した税額の合計⑧を比べます。
㉗=⑧87,762円−㉖52,300円=35,462円(超過額)
⑧の方が大きければ「超過額」(従業員に還付)、㉖の方が大きければ「不足額」(従業員から徴収)です。㉗欄には「超過額」か「不足額」かを○で表示したうえで金額を記入します。この例は、2026年11月までの源泉徴収が改正前の税額表で行われ、12月に改正後の基礎控除104万円で計算し直したため、還付になりやすいパターンです。
ここまでの年末調整欄をまとめると次のとおりです。
欄 | 金額 |
|---|---|
⑦ 給与の総額 | 4,500,000円 |
⑧ 徴収税額の合計 | 87,762円 |
⑨⑪ 給与所得控除後の | 3,160,000円 |
㉑ 所得控除額の合計額 | 2,135,000円 |
㉒ 差引課税給与所得金額 | 1,025,000円 |
㉓㉕ 算出所得税額・ | 51,250円 |
㉖ 年調年税額 | 52,300円 |
㉗ 差引超過額 | 35,462円 |
手順が分かっていても、従業員が数十人になると、欄の転記や表の引き間違いを目で追いきれなくなります。国税庁の公表資料を根拠に、改正点や控除の要件をその場で確認できる税務特化のAIがあると、こうした確認の手間を減らせます。税理士事務所向けの使い方は士業AIの税理士向けページで紹介しています。
過不足額の精算(還付・徴収)と翌月以降の処理
年末調整の精算方法には、本年最後に支払う給与の税額計算を省略して精算する方法と、最後の給与も通常どおり税額計算したうえで精算する方法があります。上の例は後者で、12月の給与の算出税額4,710円を⑧に含めています。
超過額の場合:㉘〜㉜に記入して還付する
最後の給与も税額計算した場合、その給与から差し引くはずだった税額はまだ納付されていません。そこで、超過額からその税額を差し引いた残りを還付します。
- ㉘ 本年最後の給与から徴収する税額に充当する金額:4,710円
- ㉙ 未払給与に係る未徴収の税額に充当する金額:0円
- ㉚ 差引還付する金額(㉗−㉘−㉙):30,752円
- ㉛ 同上のうち本年中に還付する金額:30,752円
12月の給与明細では、所得税の欄に▲30,752円(還付)と表示されます。毎月の欄の12月の行は「年末調整による過不足税額」に▲35,462円、「差引徴収税額」に▲30,752円を記入します。
事業者は、還付した金額を12月分(納期の特例を受けている場合は7月〜12月分)として納付する源泉所得税から差し引いて納付します。12月分の納付税額だけで還付しきれないときは、翌月以降に納付する税額から順次差し引き、㉜(翌年において還付する金額)に記入して翌年の源泉徴収簿の繰越欄に引き継ぎます。それでも還付しきれない見込みのときは、税務署に「年末調整過納額還付請求書」を提出し、源泉徴収簿の写しを添付します。
不足額の場合:㉝㉞に記入して徴収する
不足額は、年末調整をする月の給与から徴収し(㉝)、残りはその後に支払う給与から順次徴収します(㉞)。不足額を徴収すると12月の税引手取額が1月から11月までの税引手取額の平均月額の70%未満になる人は、「年末調整による不足額徴収繰延承認申請書」を税務署に提出して承認を受ければ、翌年1月と2月に繰り延べて徴収できます。この繰延べを使う場合は、12月の給与の税額計算を省略せずに年末調整を行う必要があります。
納付と翌年の源泉徴収簿への引き継ぎ
年末調整で精算した税額は、12月分の所得税徴収高計算書(納付書)の「年末調整による不足税額」「年末調整による超過税額」欄に記入して納付します。令和8年分の年末調整に係る納期限は2027年1月12日(火)、納期の特例の承認を受けている場合は2027年1月20日(水)です。納付する税額が0円になっても納付書の提出は必要です。書き方は源泉所得税の納付書の書き方を参照してください。
2027年1月からは令和9年分の源泉徴収簿に切り替えます。令和9年分の源泉徴収税額表は令和8年分から改正されているので、1月の給与から新しい税額表を使います。年末調整の結果は源泉徴収票と給与支払報告書に転記し、2027年2月1日(月)までに交付・提出します。市区町村への提出は給与支払報告書の書き方と提出先で確認できます。
源泉徴収簿でよくあるミスのチェックリスト
国税庁の「令和8年分 年末調整チェック表」の項目のうち、源泉徴収簿の記入で特に誤りやすいものを抜き出しました。年末調整の前後に1人ずつ確認すると、差し戻しを減らせます。
- 総支給金額に非課税の通勤手当を含めていないか
- 臨時の給与・現物給与・未払の確定分を集計に含めているか(前年分の未払給与を本年に支払った分は除いているか)
- ⑨は令和8年分の給与所得控除後の金額の表で求めたか(令和7年分の表やExcelの旧式を使っていないか)
- ⑳の基礎控除は本人の合計所得金額に応じた令和8年分の金額か(489万円以下なら104万円)
- 配偶者・特定親族の合計所得金額を、改正後の給与所得控除で計算しているか
- ⑲に基礎控除・配偶者(特別)控除・特定親族特別控除を混ぜていないか
- ⑱の特定親族と、⑲の特定扶養親族(合計所得金額62万円以下)を取り違えていないか
- 生命保険料控除で、23歳未満の扶養親族がいる場合の新しい計算式を当てはめているか
- ㉒は1,000円未満、㉖は100円未満を切り捨てているか。㉖は102.1%を掛けているか
- 住宅ローン控除が㉓を超える場合、控除しきれない額を源泉徴収票の該当欄に書いたか
- 本年中の主たる給与の収入金額が2,000万円を超える人、乙欄の人を年末調整していないか
- 改正で新たに扶養の対象になった親族について、扶養控除等(異動)申告書を受け取ったか
回収から不備チェックまでの段取り全体は、年末調整の効率化(回収・不備チェック・電子化)で整理しています。
AIの使いどころ:源泉徴収簿の検算・転記チェック用プロンプト
生成AIは、源泉徴収簿の「計算をし直して照合する」「転記漏れを探す」作業と相性が良い道具です。ただし、AIの計算結果をそのまま源泉徴収簿に書き写すのではなく、国税庁の表と年末調整計算シートで最終確認する前提で使います。
使う前に:個人情報は必ずマスクする
源泉徴収簿には氏名、住所、マイナンバー、家族構成、給与額が並びます。AIに貼り付けるときは、氏名を「従業員A」、配偶者を「配偶者」などに置き換え、マイナンバー・住所・生年月日は削除します。年齢判定に生年月日が必要な場合は「2026年12月31日時点で20歳」のように加工して渡します。事務所で使うAIの規程(入力してよい情報の範囲)がある場合は、それに従います。
プロンプト1:年末調整欄の検算
あなたは日本の源泉所得税に詳しい税理士事務所のスタッフです。
以下は令和8年分(2026年分)の年末調整の計算結果です。
国税庁「令和8年分 年末調整のしかた」の手順と金額に基づいて検算し、
誤りがあれば「欄番号・誤り・正しい金額・理由」を表で示してください。
令和8年分の改正(基礎控除104万円/67万円/62万円、給与所得控除の最低保障74万円、
扶養親族等の所得要件62万円、特定親族特別控除)を前提にしてください。
分からない点は推測せず「要確認」と書いてください。
【従業員】従業員A(扶養親族等の数:【人数】)
【⑦給与の総額】【金額】円
【⑧徴収税額の合計】【金額】円
【⑨給与所得控除後の給与等の金額】【金額】円
【⑫〜⑳各控除額】
⑫【金額】⑬【金額】⑭【金額】⑮【金額】⑯【金額】
⑰【金額】⑱【金額】⑲【金額】⑳【金額】
【配偶者の給与収入】【金額】円
【特定親族の有無と給与収入】【なし/あり:金額】
【住宅借入金等特別控除額㉔】【金額】円
【記入した㉑〜㉗】
㉑【金額】㉒【金額】㉓【金額】㉕【金額】㉖【金額】㉗【超過/不足:金額】
うまくいかない例:「年末調整の計算が合っているか見て」とだけ書くと、AIが令和7年分の基礎控除(58万円+加算)で計算し直し、「誤り」と指摘してくることがあります。直し方:上のように対象年分と改正後の金額を明記し、「推測せず要確認と書く」と指示します。
プロンプト2:毎月の欄の転記・集計チェック
以下は源泉徴収簿の毎月の欄(給料・手当等、賞与等)をCSVで貼り付けたものです。
次の点をチェックし、問題のある行だけを一覧にしてください。
1. 総支給金額−社会保険料等=社会保険料等控除後の金額 になっているか
2. 扶養親族等の数が月によって変わっている場合、その月を指摘する
3. 算出税額が前月・翌月と比べて不自然に変動している月を指摘する
4. ①〜⑥の合計が各列の縦計と一致しているか
5. 総支給金額に通勤手当など非課税分が含まれていそうな月があれば指摘する
税額表の数値そのものの正誤は判定せず、「税額表で要確認」と書いてください。
月,支給日,総支給金額,社会保険料等,控除後の金額,扶養親族等の数,算出税額
【1月,1/25,300000,45000,255000,1,4710】
【……12月分まで貼り付け】
賞与,支給日,総支給金額,社会保険料等,控除後の金額,算出率,算出税額
【6月,6/30,450000,67500,382500,4.084%,15621】
うまくいかない例:税額表の該当行までAIに判定させると、存在しない行や古い年分の金額を答えることがあります。直し方:AIには「計算の整合」と「不自然な変動の発見」だけを任せ、税額表の引き当ては人が国税庁の令和8年分の表で行うと役割を分けます。
プロンプト3:過不足額の精算と従業員への説明文
令和8年分の年末調整の結果、従業員Aは【超過額/不足額】が【金額】円になりました。
精算方法は「本年最後の給与(12月【支給日】支給)も通常どおり税額計算して精算する方法」です。
12月給与の算出税額は【金額】円です。
1. 源泉徴収簿の㉘〜㉞のどの欄に、いくら記入するかを示してください。
2. 12月の給与明細の所得税欄に表示される金額を示してください。
3. 従業員向けに「なぜ還付(または徴収)になったか」を、
専門用語を避けて3文以内で説明する文を作ってください。
令和8年分は基礎控除の引上げが12月の年末調整でまとめて反映されることに触れてください。
うまくいかない例:精算方法(最後の給与の税額計算を省略するかどうか)を書かずに聞くと、㉘の充当額が入らない前提で答え、明細の金額がずれます。直し方:精算方法と12月給与の算出税額を必ず渡します。
汎用のAIでもここまでの検算は可能ですが、税制改正の年は「どの年分の金額で答えているか」の確認が欠かせません。国税庁などの公的資料を根拠に回答する税務特化のAIを使うと、改正後の金額や要件を出典付きで確かめやすくなります。
源泉徴収簿のよくある質問
源泉徴収簿は国税庁の様式でないとだめですか?
国税庁の源泉徴収簿は法令で定められた様式ではありません。給与台帳などでも、毎月の源泉徴収の記録が分かり、年末調整に使えるものであれば差し支えないとされています。給与ソフトの出力やExcelでも構いません。
パート・アルバイトの源泉徴収簿も必要ですか?
給与を支払って源泉徴収をする以上、パート・アルバイトについても給与と税額の記録は必要です。扶養控除等申告書を提出している甲欄の人は年末調整の対象になり、提出していない乙欄の人は年末調整をしません。
年末調整の後に扶養親族が変わったらどうしますか?
扶養親族の数が変わった場合などは、異動の申告を受けて年末調整をやり直すことができます。やり直しができるのは、源泉徴収票を交付する翌年1月末日までです。源泉徴収簿の年末調整欄も、やり直し後の金額に書き直します。
年の途中で入社した人の源泉徴収簿はどう書きますか?
入社前に別の勤務先で給与を受けていた人は、前職の源泉徴収票の支払金額と源泉徴収税額を集計に含めて年末調整をします。源泉徴収簿には前職分を別行で記入しておくと、後から確認しやすくなります。
まとめ:源泉徴収簿は「毎月の正確な記録」と「改正後の金額での年末計算」が要
源泉徴収簿は法令で様式が決まった書類ではありませんが、毎月の給与・社会保険料・税額を正しく記録し、12月にその記録から1年分の税額を計算し直すための土台です。令和8年分は、2026年11月までは従来どおり源泉徴収し、12月の年末調整で基礎控除104万円などの改正後の金額を使って精算する、という二段構えになります。
記入の順番は、扶養控除等申告書から上部欄へ転記、毎月の欄を記入、年末調整欄で⑦→⑪→㉑→㉒→㉖→㉗と進め、最後に㉘〜㉞で精算します。転記や表の引き間違いはAIと国税庁の年末調整計算シートでダブルチェックし、最終判断は国税庁の資料で確かめる運用にすると、繁忙期でもミスを抑えられます。

