経理の引継書テンプレート【コピペ可】年間業務カレンダー・チェックリスト付き
経理の引継書は、担当者が退職・異動・産休で抜けたあとも、同じ期限で同じ処理が回るようにするための書類です。毎月の作業はOJTでも覚えられますが、漏れるのは年末調整・法定調書・償却資産申告のように年に1回しか来ない業務と、口座やシステムのログイン情報の受け渡しです。この記事では、そのままコピーして使える引継書テンプレートを中心に、業務一覧表・年間カレンダー・口座とIDの一覧・引継ぎチェックリストを記入例つきでまとめます。
結論から言うと、経理の引継書は「業務一覧(月次・年次・随時)」「年間カレンダー」「口座・ID・取引先一覧」「未完了案件リスト」の4枚で足ります。手順の細かい説明は既存のマニュアルやメールに任せ、引継書には何を・いつまでに・どこを見ればできるかだけを書くのが、早く作れて後任も迷わない書き方です。
この記事で分かること
- 引継書と業務マニュアルの違い、経理の引継ぎで漏れやすい箇所
- コピペで使える経理の引継書テンプレート(全体版)
- 月次・年次・随時に分けた業務一覧表の書き方と記入例
- 年末年始に集中する法定期限を入れた年間業務カレンダー
- 口座・ID・取引先一覧の書き方と、パスワードを書かないための運用
- 退職・異動・産休に使える引継ぎチェックリストと進め方
- 既存マニュアルやメールから引継書をAIで下書きするプロンプト3本
経理の引継書とは|マニュアルとの違いと漏れやすい場所
引継書は「目次」、マニュアルは「手順」
経理の業務引継書は、担当している業務を一覧にし、それぞれの期限・頻度・参照先・関係者を示す書類です。一方の業務マニュアルは、1つの業務を「どの画面で何を押すか」まで書いた手順書です。両方を1冊にまとめようとすると、退職日までに書き終わらず、結局は口頭の説明で済ませることになります。
実務で回りやすいのは、引継書をマニュアルやフォルダへの目次として作る方法です。手順がすでにあるなら「共有ドライブの〇〇フォルダ参照」と書けば足り、手順が無い業務だけに印を付けて、引継ぎ期間中に後任と一緒に作ります。
項目 | 引継書 | 業務マニュアル |
|---|---|---|
目的 | 担当業務の全体と期限を漏れなく渡す | 1つの業務を誰でも再現できるようにする |
粒度 | 業務名・頻度・期限・参照先 | 操作手順・判断基準・画面 |
作るタイミング | 退職・異動・産休が決まったとき | 平常時から少しずつ |
分量の目安 | 表で数枚 | 業務ごとに1〜数ページ |
更新 | 引継ぎ完了で役目を終える(産休は復帰時に逆引継ぎ) | 業務が変わるたびに更新 |
経理の引継ぎで漏れるのは「年1回の業務」と「ログイン情報」
毎月の記帳・支払・給与計算は、後任が1か月一緒にやれば覚えられます。漏れるのは、引継ぎ期間中に一度も来ない業務です。たとえば10月に退職する担当者の引継ぎでは、12月の年末調整、翌年1月末が期限の法定調書・給与支払報告書・償却資産申告、6〜7月の労働保険の年度更新や算定基礎届は、実際の作業を見せられないまま引き継ぐことになります。
もう1つ多いのが、ネットバンキングや電子申告、会計ソフトのログインに関する漏れです。担当者個人のメールアドレスで登録したサービスや、本人の端末にしか届かない認証コードがあると、退職後にログインできなくなります。引継書では、ここを独立した一覧にして確認します。
経理の引継書テンプレート【コピペ可・全体版】
まず全体のひな形です。【 】の部分を自社の内容に書き換えて使います。Word・Googleドキュメント・Excelのどれに貼っても崩れないよう、プレーンテキストにしています。
経理業務 引継書
作成日:【 年 月 日】
引継ぎ元:【氏名】(最終出社日:【 / 】/退職・異動・産休の別:【 】)
引継ぎ先:【氏名】(主担当) 副担当:【氏名】
承認者:【上長氏名】
引継ぎ期間:【 / 】〜【 / 】
1. 担当業務の一覧
→ 別表1「業務一覧(月次・年次・随時)」を参照
2. 年間カレンダー(期限のある業務)
→ 別表2「年間業務カレンダー」を参照
→ 引継ぎ後3か月以内に期限が来る業務:【業務名・期限を列挙】
3. 口座・システム・取引先
→ 別表3「口座・ID・取引先一覧」を参照
※パスワード・暗証番号は本書に書かない。管理方法は別表3の「認証の管理者」欄のとおり
4. 進行中・未完了の案件
【案件名】 状況:【 】 次の作業:【 】 期限:【 / 】 関係者:【 】
【案件名】 状況:【 】 次の作業:【 】 期限:【 / 】 関係者:【 】
5. 例外処理・判断に迷うもの
【例:〇〇社は月末締め翌々月払い。請求書が遅れるので月初に催促メールを送る】
【例:役員の立替精算は社長決裁、上限なし。証憑は必ず原本を回収】
6. 資料・データの保管場所
会計データ:【ソフト名・事業所名】
証憑(紙):【キャビネット・棚の位置】
証憑(電子):【共有ドライブのフォルダパス】
過去の申告書・届出書控え:【保管場所】
7. 社外の連絡先
顧問税理士事務所:【事務所名・担当者】 連絡手段:【メール・チャット等】
社会保険労務士:【事務所名・担当者】
取引銀行:【銀行名・支店・担当者】
8. 引継ぎ完了の確認
□ 別表1の全業務に「参照先」と「後任の実施日」が入っている
□ 別表3の全サービスで、後任のログインを確認した
□ 社外の連絡先に担当変更を連絡した
承認者確認日:【 / 】 承認者:【 】「6. 資料・データの保管場所」は、今年度分だけでなく過去分まで書きます。法人は帳簿と証憑を、原則として確定申告書の提出期限の翌日から7年間(青色申告で欠損金が生じた年度は10年間)保存する必要があるためです(国税庁 タックスアンサーNo.5930)。
ポイントは、本文を短くして中身を別表に逃がしていることです。本文1枚で全体が見え、細部は表で確認できるので、後任が「どこに何が書いてあるか」で迷いません。
業務一覧表の書き方|月次・年次・随時に分ける
別表1の業務一覧は、頻度で3つに分けて書きます。頻度ごとに分けると、後任が「今月やること」を拾いやすくなり、年次業務の漏れにも気づきやすくなります。1行に入れる情報は「業務名・期限(社内締切)・作業量・参照先・関係者・手順の有無」の6つです。
月次業務の一覧(記入例)
業務名 | 期限・社内締切 | 作業量 | 参照先 | 関係者 | 手順 |
|---|---|---|---|---|---|
預金・現金の記帳と残高照合 | 翌月3営業日 | 半日 | 共有>経理>月次>01 | なし | 有 |
売掛金の入金消込・督促 | 毎月10日 | 2時間 | 販売管理ソフト・入金一覧 | 営業部 | 有 |
買掛金・経費の支払(振込) | 毎月25日・月末 | 2時間 | 支払予定表 | 承認者 | 有 |
給与計算・振込データ作成 | 支給日の3営業日前 | 1日 | 給与ソフト・勤怠データ | 社労士 | 有 |
源泉所得税・住民税の納付 | 翌月10日(納期の特例は別表2) | 30分 | 納付書フォルダ | なし | 無 |
月次試算表の作成・税理士への送付 | 翌月10営業日 | 1日 | 月次チェックリスト | 顧問税理士 | 有 |
源泉所得税は原則として給与などを支払った月の翌月10日までに納めます。従業員が常時10人未満で納期の特例の承認を受けている会社は、1〜6月分を7月10日、7〜12月分を翌年1月20日にまとめて納めます(国税庁 タックスアンサーNo.2505)。自社が特例を受けているかどうかは引継書に必ず書いておきます。特例の有無で納付のタイミングがまったく変わるためです。申請の手順は納期の特例の承認に関する申請書の書き方で解説しています。
月次の締め作業そのものの確認項目は、月次決算チェックリストをそのまま別表の参照先にすると、引継書側に書く量を減らせます。
随時業務の一覧(記入例)
業務名 | 発生のきっかけ | やること | 参照先 |
|---|---|---|---|
入社手続き | 入社日の決定 | 扶養控除等申告書の回収、給与マスタ登録 | 入社チェックリスト |
退職手続き | 退職届の受理 | 最終給与・住民税の異動届、源泉徴収票の交付 | 退職チェックリスト |
固定資産の取得 | 10万円以上の購入 | 固定資産台帳への登録、償却資産申告の対象確認 | 固定資産台帳 |
税務署・市区町村からの郵便 | 到着時 | 中身を確認し顧問税理士へ共有 | 郵便管理表 |
新規取引先の登録 | 取引開始 | インボイス登録番号の確認、振込先登録 | 取引先マスタ |
随時業務は「きっかけ」の列が大事です。きっかけを書いておけば、後任は郵便や社内連絡を受けたときに「これは自分の仕事だ」と判断できます。退職時の手続きの流れは退職届テンプレートと会社側の手続き、社会保険の届出は社会保険の資格喪失届の書き方にまとめています。
年間業務カレンダー|年末年始に期限が集中する
別表2は、年1回の業務を月ごとに並べたカレンダーです。下の表は3月決算・従業員10人未満(源泉所得税と住民税の納期の特例あり)の会社の例です。決算月や特例の有無によって行が変わるので、自社に合わせて書き換えてください。
時期 | 業務 | 期限・根拠 | 関係者 |
|---|---|---|---|
1月20日 | 源泉所得税の納付(7〜12月分・納期の特例) | 翌年1月20日(国税庁No.2505) | なし |
1月31日 | 法定調書・法定調書合計表の提出、源泉徴収票の交付 | 令和8年分は令和9年2月1日(月)(国税庁 法定調書の手引) | 顧問税理士 |
1月31日 | 給与支払報告書の提出(従業員の住所地の市区町村) | 令和8年分は令和9年2月1日(月)(同上) | なし |
1月31日 | 償却資産申告(1月1日現在の資産) | 令和9年度分は令和9年2月1日(月)(東京都主税局) | 顧問税理士 |
3月末 | 期末の棚卸・決算整理の準備 | 決算日 | 各部署 |
5月末 | 法人税・消費税等の確定申告と納付 | 事業年度終了の日の翌日から2か月以内(国税庁 C1-1) | 顧問税理士 |
5〜6月 | 住民税の特別徴収税額の決定通知を受け、6月分から給与ソフトの税額を切り替え | 市区町村からの通知 | なし |
6月10日 | 住民税の納入(12〜5月分・納期の特例) | 翌年6月10日(横浜市の案内) | なし |
6月1日〜7月10日 | 労働保険の年度更新 | (東京労働局) | 社労士 |
7月1日〜7月10日 | 社会保険の算定基礎届 | 毎年7月10日まで(日本年金機構) | 社労士 |
7月10日 | 源泉所得税の納付(1〜6月分・納期の特例) | 7月10日(国税庁No.2505) | なし |
協定の有効期間の始期より前 | 36協定の締結・労働基準監督署への届出(更新) | 有効期間は1年が望ましいとされる(厚生労働省リーフレット) | 総務・社労士 |
11月 | 年末調整の案内・申告書の回収 | 社内締切 | 全従業員 |
12月 | 年末調整(その年最後の給与で精算) | 最後の給与支給日(国税庁 年末調整のしかた) | 全従業員 |
12月10日 | 住民税の納入(6〜11月分・納期の特例) | 12月10日(横浜市の案内) | なし |
期限が土日祝にあたるときは翌日(翌開庁日)に延びます。令和9年1月31日は日曜日なので、令和8年分の法定調書・給与支払報告書、令和9年度分の償却資産申告はいずれも令和9年2月1日(月)が期限です。住民税の納期の特例の期限や扱いは市区町村ごとに案内が出ているので、従業員の住所地の市区町村の案内で確認します。
年末年始(11月〜2月)は「社内締切」を書き足す
表を見ると、11月から翌年2月初めまでに年末調整、源泉所得税、法定調書、給与支払報告書、償却資産申告が重なります。年末年始の休みを挟むので、法定の期限だけを書いた引継書では間に合いません。法定期限の2週間前を社内締切として別の列に書くと、後任が逆算しやすくなります。
それぞれの書類の作り方は個別記事で詳しく扱っています。引継書の参照先欄にリンクを貼っておくと、後任が初めての作業でも迷いにくくなります。
- 年末調整の申告書の記入手順:年末調整の書き方【令和8年分】
- 税務署に出す合計表:法定調書合計表の書き方と記載ミス
- 市区町村に出す報告書:給与支払報告書の書き方(総括表・個人別明細書)
- 1月1日現在の資産の申告:償却資産申告書の書き方と対象資産の判定
- 従業員に交付する書類:源泉徴収票の書き方と交付期限
決算月・労務手続きに連動する業務
法人税の確定申告は、原則として事業年度終了の日の翌日から2か月以内です。決算月が3月以外の会社は、表の「3月末」「5月末」の行を自社の決算月に合わせてずらします。決算前の準備は決算対策チェックリストを参照先にしておくと便利です。
労働保険の年度更新、算定基礎届、36協定の更新は、社会保険労務士に依頼している会社も多い業務です。その場合でも、「社労士に必要なデータ(賃金台帳など)をいつまでに渡すか」は経理側の仕事として残ります。36協定の書き方と届出は36協定届の書き方と提出前チェックで解説しています。
口座・ID・取引先一覧の書き方|パスワードは書かない
別表3は、経理担当者が使っている口座・システム・取引先の一覧です。ここで一番大事なのは、パスワード・暗証番号・認証コードを引継書に書かないことです。引継書は印刷されたり共有フォルダに置かれたりするため、パスワードを書くと誰でも見られる状態になります。
銀行口座・ネットバンキング
銀行・支店 | 口座の用途 | ネットバンキングの利用者 | 認証の管理者 | 承認の流れ |
|---|---|---|---|---|
【〇〇銀行 本店】普通 | 売上入金・経費支払 | 経理担当(作成)/社長(承認) | 管理者ユーザー:社長 | 担当が作成→社長が承認 |
【△△信金 駅前支店】当座 | 手形・小切手 | なし(窓口のみ) | 届出印:社長管理 | 窓口 |
【□□銀行】普通 | 給与振込専用 | 経理担当 | 管理者ユーザー:社長 | 担当が作成→社長が承認 |
「認証の管理者」の欄には、パスワードではなく誰がそのアカウントを管理していて、後任のIDを誰が発行するかを書きます。ネットバンキングは管理者ユーザーが後任用の利用者IDを新しく発行し、前任者のIDは最終出社日に停止するのが基本です。前任者のIDとパスワードを後任がそのまま使う運用は、誰が操作したか分からなくなるので避けます。
システム・電子申告・行政サービス
別表3-2 システム・サービス一覧
サービス名:【会計ソフト名】
用途:記帳・試算表 契約者:会社
前任者のアカウント:【メールアドレス】→ 停止日:【 / 】
後任のアカウント発行:【発行者】 発行日:【 / 】
二段階認証の届け先:□前任者の個人端末 □会社の端末 □共有アドレス
ログイン確認(後任):□済
サービス名:【給与ソフト名】
(同じ項目で記入)
サービス名:e-Tax(国税の電子申告)
利用者識別番号:書かない(保管場所のみ記載:【 】)
電子証明書の保管:【 】 顧問税理士が代理送信:□はい □いいえ
サービス名:eLTAX(地方税の電子申告)
(同じ項目で記入)
サービス名:ネットバンキング
→ 別表3-1を参照漏れやすいのは、二段階認証の確認コードが前任者の個人のスマートフォンに届く設定になっているケースです。最終出社日の後に気づくと、サービスの運営会社に会社として本人確認をし直すことになり、手間も時間もかかります。引継ぎ期間中に、認証の届け先を会社の端末か共有のアドレスに切り替えておきます。
取引先・外部専門家の一覧
取引先 | 区分 | 締め・支払条件 | 連絡先・連絡手段 | 注意点 |
|---|---|---|---|---|
【〇〇商事】 | 仕入先 | 月末締め翌月末払い | 経理部 〇〇様・メール | 請求書は郵送のみ |
【△△株式会社】 | 得意先 | 20日締め翌月10日入金 | 購買部 △△様 | 振込手数料は先方負担 |
【□□税理士事務所】 | 顧問税理士 | 月額顧問料・決算料 | 担当 □□様・チャット | 試算表は翌月10営業日までに送付 |
顧問税理士事務所のスタッフにとっても、この一覧は役立ちます。顧問先の経理担当者が交代したときに一覧をもらえば、資料の依頼先と締切をすぐに更新できます。
引継ぎチェックリスト|退職・異動・産休で使える
引継書を書き終えたら、次のチェックリストで漏れを確認します。退職・異動・産休のどれでも使えるように、共通部分と追加項目に分けています。
経理 引継ぎチェックリスト
【書類】
□ 引継書の本文と別表1〜3を作成した
□ 別表1の全業務に「参照先」が入っている(手順が無いものは印を付けた)
□ 引継ぎ後3か月以内に期限が来る業務を本文2に書き出した
□ 進行中の案件と、次に何をするかを書いた
□ 例外処理(特定の取引先・役員精算など)を書いた
【実地】
□ 月次業務を後任が1回以上、自分で実施した
□ 年次業務は前年の控え(申告書・届出書)の保管場所を一緒に確認した
□ 紙の証憑・印鑑・通帳の保管場所を現物で確認した
【口座・システム】
□ 後任のネットバンキング利用者IDを発行し、ログインを確認した
□ 会計・給与ソフトなどに後任のアカウントを作り、ログインを確認した
□ 二段階認証の届け先を会社の端末・共有アドレスに切り替えた
□ 前任者のアカウントの停止日を決めた(最終出社日)
□ 引継書にパスワード・暗証番号が書かれていないことを確認した
【社外】
□ 顧問税理士・社労士に担当変更と後任の連絡先を伝えた
□ 主要な取引先に請求書の送付先・問い合わせ先の変更を伝えた
□ 銀行・行政からの郵便の宛名(担当者名)を変える必要があるか確認した
【退職のとき】
□ 前任者のメールの自動転送・自動返信の設定を決めた
□ 個人のメールアドレス・端末に業務データが残っていないことを確認した
【産休・育休のとき】
□ 休業中に連絡してよい事項と連絡手段を決めた
□ 復帰時に逆引継ぎする項目(休業中の変更点)を記録する欄を用意した
【異動のとき】
□ 異動後も問い合わせに答えられる期間を決めた引継ぎ期間の進め方(3週間の例)
時期 | 前任者 | 後任 |
|---|---|---|
1週目 | 引継書の本文と別表1〜3を作成。既存マニュアルの有無を確認 | 引継書を読み、分からない言葉・業務に印を付ける |
2週目 | 月次業務を横で見せる。年次業務は前年の控えで説明 | 月次業務を前任者の横で実施。アカウントの発行とログイン確認 |
3週目 | 後任の作業を確認するだけにする。社外へ担当変更を連絡 | 月次業務を1人で実施。疑問点を引継書に書き込む |
最終日 | アカウント停止、承認者の確認 | 引継書の「完了の確認」欄を承認者と確認 |
3週目に前任者が手を出さないのがポイントです。後任が1人でやって初めて、引継書に書いていない暗黙の手順が見つかります。見つかった手順は、その場で引継書の参照先かマニュアルに追記します。
AIで既存マニュアル・メールから引継書を下書きするプロンプト3本
引継書を一から書く時間がないときは、既存のマニュアル、過去のメール、業務メモをAIに読ませて下書きを作ると早く進みます。ただしAIは、渡していない情報(自社の期限や特例の有無)を推測で埋めることがあります。下書きはAI、期限と事実の確認は人と役割を分けてください。
プロンプト1:既存マニュアルから業務一覧表を作る
あなたは中小企業の経理担当者の引継ぎを支援するアシスタントです。
以下は当社の経理業務のマニュアルとメモです。これをもとに、引継書の「業務一覧表」を作ってください。
# 条件
- 業務を「月次」「年次」「随時」に分けて表にする
- 列は「業務名/期限・社内締切/作業量の目安/参照先(マニュアルの見出し名)/関係者/手順の有無」
- マニュアルに書かれていない期限や数字は推測で埋めず「要確認」と書く
- マニュアルに無いが、一般的な経理担当者が担うことが多い業務があれば、表の下に「確認したほうがよい業務」として別に列挙する
# 会社情報
決算月:【3月】 従業員数:【8名】
源泉所得税の納期の特例:【あり/なし】
住民税の納期の特例:【あり/なし】
# マニュアル・メモ
【ここに貼り付け】うまくいかない例:会社情報を書かずに「経理の業務一覧を作って」とだけ頼むと、一般論の業務が並び、自社にない業務(手形管理など)が入ったり、納付の時期が自社の特例と合わなかったりします。
直し方:決算月と納期の特例の有無を必ず渡し、「書かれていない期限は要確認と書く」と指示します。「確認したほうがよい業務」を別に出させると、マニュアルから漏れている年次業務に気づけます。
プロンプト2:過去メールから例外処理と未完了案件を拾う
以下は、経理担当者が過去3か月に送受信したメールの本文です(宛先の個人名・口座番号は伏せています)。
引継書に書くべき内容を、次の2つに分けて抜き出してください。
1. 例外処理:通常の流れと違う扱いをしている取引先・社内ルール
(例:支払サイトが特殊、請求書の受け取り方が違う、承認者が違う)
2. 未完了の案件:まだ終わっていないやり取り
(「状況/次の作業/期限/相手」の形で)
# 条件
- メールに書かれている事実だけを使い、推測は「推測」と明記する
- 同じ件のやり取りは1つにまとめる
- 金額・日付はメールの記載どおりに書き、計算し直さない
# メール本文
【ここに貼り付け】うまくいかない例:メールを数十通まとめて貼ると、AIが古いやり取りと新しいやり取りを混ぜ、すでに終わった案件を「未完了」と出すことがあります。
直し方:メールを日付の古い順に並べ、各メールの先頭に日付を残して貼ります。取引先ごとに分けて実行すると精度が上がります。抜き出した結果は、前任者が1件ずつ「完了/未完了」を確認してから引継書に入れます。
プロンプト3:引継書を後任の目線で点検させる
あなたは、来月から経理を担当する後任者です。経理の実務経験は【2年】あります。
以下の引継書を読んで、実際に業務を始めるときに困りそうな点を指摘してください。
# 指摘してほしい観点
- 期限や頻度が書かれていない業務
- 参照先が書かれておらず、手順が分からない業務
- 「いつもの」「例の」など、前任者にしか分からない言葉
- ログインや承認で、誰に頼めばよいか分からないもの
- 年に1回しか来ない業務で、手がかりが少ないもの
# 出力
指摘ごとに「該当箇所/困る理由/前任者への質問文」を表にしてください。
# 引継書
【ここに貼り付け】うまくいかない例:「この引継書をチェックして」とだけ頼むと、文章の言い回しの修正ばかりが返ってきます。
直し方:「後任者として読む」と立場を指定し、観点を列挙します。出力を「前任者への質問文」の形にすると、そのまま引継ぎの打ち合わせの質問リストに使えます。
AIに入れてはいけない情報
どのプロンプトでも、パスワード・暗証番号・口座番号・マイナンバー・従業員の給与額や住所は入力しないでください。業務の流れや期限の把握に、これらの情報は必要ありません。メールを貼る前に個人名や番号を【取引先A】【口座1】のように置き換えておけば、下書きの質はほとんど変わりません。
汎用のAIでも引継書の下書きや点検はできますが、年末調整・法定調書のように期限や様式が毎年変わる業務は、AIの回答をそのまま信じるのは危険です。経理業務に特化した経理スタッフ向けの士業AIは、国税庁などの公的情報を参照しながら回答する設計で、業務一覧の「要確認」欄を埋める調べものにも使えます。ほかのプロンプト例は経理のChatGPTプロンプト50選、会計分野でのAI活用の全体像は公認会計士のAI活用ガイドにまとめています。
よくある質問
経理の引継ぎには、どのくらいの期間が必要ですか
月次業務を後任が1回自分で回せるところまでを目安にすると、少なくとも1か月分の締めを含む期間が必要です。ただ、年次業務は引継ぎ期間中に来ないことが多いため、期間を延ばすより、前年の控えと手順の参照先を引継書に残すことを優先します。
引継書はWordとExcelのどちらで作るべきですか
本文はWordやGoogleドキュメント、別表(業務一覧・カレンダー・口座とIDの一覧)はExcelやスプレッドシートが扱いやすいです。表は並べ替えや絞り込みができるので、後任が「今月の業務」だけを表示して使えます。
前任者がすでに退職していて、引継書が無い場合はどうすればよいですか
まず前年の申告書・届出書の控え、会計ソフトの仕訳、銀行の入出金明細から、年に1回の支払や届出を洗い出します。そのうえで顧問税理士・社労士に「御社で把握している当社の期限」を聞くと、漏れを早く埋められます。この記事の年間カレンダーを空欄の型として使い、分かったものから埋めていきます。
産休・育休の引継ぎで気をつけることは何ですか
復帰が前提なので、休業中に変わったことを記録する欄を引継書に用意しておきます。復帰時にその欄を見ながら逆引継ぎすれば、制度改正や取引先の変更を取りこぼしません。休業中の連絡は、連絡してよい事項と手段を事前に決めておくと、本人の負担を減らせます。
まとめ|引継書は「年1回の業務」と「ログイン」から書く
経理の引継書は、業務一覧(月次・年次・随時)、年間カレンダー、口座・ID・取引先一覧、未完了案件の4つで構成すると、短い期間でも漏れなく作れます。毎月の作業は後任が実際にやれば覚えられるので、書く時間は年に1回しか来ない業務の期限と、口座やシステムのアカウントの受け渡しに使ってください。
年末年始は年末調整から法定調書・給与支払報告書・償却資産申告まで期限が重なります。令和8年分は令和9年2月1日(月)が期限のものが多いので、引継書には法定期限と社内締切の両方を書いておきましょう。既存のマニュアルやメールがあれば、AIで下書きを作ってから人が期限と事実を確かめる進め方が早く確実です。
参考文献
- 国税庁 タックスアンサーNo.2505「源泉所得税及び復興特別所得税の納付期限と納期の特例」
- 国税庁「令和8年分 給与所得の源泉徴収票等の法定調書の作成と提出の手引」
- 国税庁「令和8年分年末調整のしかた(手順などの説明)」
- 国税庁「C1-1 法人税、地方法人税及び防衛特別法人税の申告」
- 国税庁 タックスアンサーNo.5930「帳簿書類等の保存期間」
- 東京都主税局「固定資産税(償却資産)」
- 横浜市「納期の特例の申請と納入について」
- 厚生労働省 東京労働局「令和8年度労働保険の年度更新について」
- 日本年金機構「定時決定(算定基礎届)」
- 厚生労働省・都道府県労働局・労働基準監督署「時間外労働や休日労働をさせる場合には『36協定』が必要です」

